第13話 パパ、今日は家モード
一週間後。
今日は家族で山へ薬草取りのピクニックだ。
待ちに待った休暇に朝から準備で騒がしい。
「ママ~、こっちのバスケットにサンドイッチいれとくね~!」
「シャロット、ありがとう。そこに置いてあるのもお願い」
「まかせて!」
シャロットがさっそくバスケットにサンドイッチを詰めこんでいく。
その横ではオデットが紅茶を淹れていた。
「ママ、紅茶の準備できました。ポットとカップも用意しておきます」
「ありがとう、よろしくね。いい匂い、上手に淹れてくれたわね」
「うん、サンドイッチにあうようにって」
オデットは照れくさそうにはにかむと陶器のカップを布に包んでいく。
次は俺だ。
「アイリーン、ここにあるバスケットはもう馬車に運んでもいいのか?」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、ここにある全部持ってくぞ」
俺が両手にバスケットをそれぞれ持つと、準備を終えたオデットとシャロットもついてくる。
「パパ、まって。一緒にいこ?」
シャロットがバスケットをもって俺の隣に並ぶ。
「中身サンドイッチだろ。あんまり振るなよ」
「大丈夫だもん」
「ほんとか~?」
「ほんと!」
シャロットが手をあげて元気に答えた。
おいおい、だからバスケット振るなって。せっかくアイリーンが作ってくれたサンドイッチ……。
「パパ、今日は紅茶のほかにハーブティーも作りました。ハーブティーはママに教えてもらって私がブレンドしたの。どっちも飲んでください」
オデットがポットとカップが入ったかばんを持って言った。
朝からアイリーンと一緒に作っていたのだ。
「そうか、それは楽しみだな」
「シャロットも! シャロットもおかわりする!」
こうしておしゃべりしながら玄関まで歩く。
すると玄関には騎士団の補佐官が立っていた。
オデットとシャロットは上官の姿に驚きつつも背筋を正す。
補佐官のほうは俺の姿に背筋を正した。
「団長、おはようございます! 休暇中に訪ねて申し訳ありません。お知らせしたい旨があって参りました」
「おはよう。ご苦労さん」
俺は片手をあげて答えた。
でも補佐官より下位の新人騎士のオデットとシャロットは背筋を正したまま挨拶する。
「上官殿、おはようございます! お疲れさまです!」
「上官殿、おはようございます! お疲れさまです!」
「おはよう。休暇中に申し訳ない。僕は団長に用事があるだけだから、君たちは行っていいよ」
「はっ、失礼します」
「失礼します」
オデットとシャロットが先に玄関に行こうとしたが、その前に俺が持っているバスケットを気にしてくれる。
「パ……、団長、それお持ちします」
パパと言いかけてオデットが慌てて言い直した。
シャロットも小さな声で「団長、団長……」と繰り返している。間違えてしまわないように確認しているようだ。
そうだよな。ここ家だから間違えちゃうよな。
「いいよ、これは俺が運んどく。それよりアイリーンの手伝いをしてきてくれ」
「わかった! ……じゃなかった、承知しました!」
シャロットは言い直して返事をした。
俺は苦笑する。家モードと騎士団モードが混じって大変そうだ。
オデットとシャロットは馬車に荷物を運ぶと、俺の言いつけどおりアイリーンの手伝いに行った。
俺はあらためて補佐官に向き直る。
「で、どうしたんだよ。急ぎの用か?」
「はっ、団長に頼まれていた調査結果が出たのですが、急ぎお耳に入れたほうがいいと判断して参りました」
補佐官はそう言うと俺に報告書を差しだす。
「団長からお預かりしていた毒蜘蛛の調査結果ですが、以前新人演習訓練中に大量召喚された希少種アラクネと同一のものと判明いたしました。しかし、なんらかの人為的改造を受けてアラクネの魔力を取り除かれています」
「なるほど、希少種アラクネをわざわざ普通の毒蜘蛛に。意図を感じるな」
アラクネは召喚獣として優れている。だが蜘蛛にしてはいかんせん魔力が高く、能力の高い人間には気づかれてしまう。
しかし魔力を排除すれば、アラクネの優秀な機動力をそのままに普通の毒蜘蛛として使役できる。まさに暗殺には打ってつけというわけだ。
「他に、最近城勤めを始めた奴もわかったか?」
「はっ、そちらもリストを作ってまいりました。これは似顔絵師に描かせた似顔絵です」
「ん、相変わらず仕事が早いな」
「光栄です」
そう言って補佐官がリストと似顔絵を俺に差しだす。
リストには五名。名前や配属場所のほかに履歴や勤務表も載っていた。
「ありがとう。確認しておく」
「いいえ、休暇中に申し訳ないと思いましたが、なるべく早くお渡ししたほうがいいと思いました」
「ああ、ありがとな」
「それでは休暇をお楽しみください」
補佐官は敬礼すると帰っていった。
俺がリストを確認していると、ふと廊下の曲がり角からオデットとシャロットが顔を覗かせる。
「どうした?」
「……パパ、お仕事行っちゃう?」
シャロットがおずおず聞いてきた。
オデットはそんなシャロットを「こら」とたしなめつつも、心配そうに俺を見る。
「お仕事なら仕方ないです……。私たちだって騎士だし、パパのお仕事のこと知ってますから……」
物分かりのいいオデット。
でも顔は『行かないでほしいです……』と訴えるものだ。
「行かねぇよ。今日は休みだぞ? 今日の俺は団長じゃない」
「パパ~!」
「パパ!」
シャロットとオデットが嬉しそうに駆け寄ってきた。
二人は俺の両腕に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。
「やった~! パパも一緒にピクニック~!」
「シャロット、ピクニックだけど薬草採りも忘れないように」
「わかってるよお〜」
ぶぅーっとシャロットが頬を膨らませる。
そんな娘たちのやりとりに俺が笑うと、二人も笑って抱きつく腕にぎゅ~っと力をこめた。
「おいおい、重いぞ。歩けないだろ」
両手に荷物を持っているのに、その両手に娘たちがしがみついて歩きにくい。
でもいたずら気分の娘たちは無邪気に笑う。仕方ない奴らだ。
「オデット、シャロット、パパと遊んでないでこっちを手伝って。この荷物が最後よ!」
家の奥からアイリーンの声が聞こえてきた。
二人は「最後の荷物!」「最後の運んだら出発ですね!」とパッと表情を変えた。
オデットとシャロットがさっそく最後の荷物を馬車に運んでくれる。
さあ、家族で薬草採りのピクニックに出発だ。




