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第12話 ママのプレッシャーはパパに効く


 その日の夜。

 帰宅した俺を出迎えたのはアイリーンとオデットとシャロット。

 娘たちは普段と変わらない様子だった。

 健気けなげにも笑顔で「パパ、おかえりなさい!」「パパ、お疲れさまでした」と俺を出迎えてくれたのだ。


 ……困ってることがあるならパパに相談してほしい。


 パパはなんだって話を聞くし、なぐさめるし、励ますし、必要なら手助けだってしたい。


 でも娘たちは俺の前で一切悩んでいる素振そぶりをみせないのだ。

 いつものように俺を出迎えて、「夕食の時間までシャロットと特訓してきます」「オデット、連携の確認しようよ」なんて言いながら庭に行ってしまった。

 俺はその姿を見送っていたが。


「あなた、誰にも見せられない顔してますよ」

「うっ……」


 口元を手でおおう。

 アイリーンを見ると苦笑していた。


「あの子たちになにか思うことでもありましたか?」

「いや、その、……お前はなにも聞いてないか?」


 逆質問した俺にアイリーンはきょとんとする。


「私はなにも聞いていませんが」

「お前も聞いてないか……」


 自慢ではないが娘たちは年頃になっても俺やアイリーンになんでも話してくれた。

 夕食を囲むときに一日の出来事を話したり、悩みごとを話したり、楽しかったことを話したり、とにかく相談ごとなんてあれば必ず話してくれたのだ。

 それなのにアイリーンにも相談していないという。


「やっぱりなにかあったんですね」


 アイリーンがじーっと俺を見つめる。

 その視線に俺はうっとたじろぐも、観念かんねんして話してしまうことにする。


「昨日話したことだ。あいつらの強さは他の新人騎士と比べて頭一つ抜けている。それを嫉妬されるのは分かるんだが、俺の娘ってこともやっかみを受ける原因になっていてな」

「そうですね、そういうこともあるでしょう……」

「ああ、俺だってそういうこともあると分かっていたし、きっと二人も承知で騎士団に入団したんだろうが」


 頭では分かっていても、いざ現場を見てしまうと……。


 はあっ……。力無くため息をついてしまう。


 騎士団長のため息なんて戦場では絶対しないが、ここは家だ。しかも目の前には妻のアイリーンだけ。弱音だって吐くし、盛大にため息だってつく。


「……俺、暴れちゃったらどうしよう」

「あなた、それだけはダメですよ」

「わかってる。わかってるけど、オデットとシャロットのことを思うと……。いっそ裏から手を回してやろうか。そうだ、誰にもバレないように一人ずつ呼び出して、『娘たちをよろしく頼む』と厳重に頼むっていうのもありか」


 厳重な重圧プレッシャーとともに頼めばあるいは……。

 俺は呼び出しリストを考えようとしたが。


「あなた、無しです。それだけは無しです」


 アイリーンの厳重な重圧プレッシャーに黙らされた。

 ……やめてくれ。妻の重圧プレッシャーは俺にく。


「あなたは公私混同、しないんですよね?」

「……しない。したら騎士団は崩壊だ」

「わかっているなら安心しました。あの子たちも騎士団ではパパじゃなくて団長として見ているんでしょう? それなら、あなたは騎士団団長として振る舞うのが正解なんです」

「ああ、お前の言うとおりだ。理性でがんばる」

「はい、理性でがんばってください」


 妻の応援となぐさめにちょっと元気でてきた。

 しかも俺の最愛の妻はさらに応援してくれる。


「今夜はあなたの好きな料理を作りました。たくさん食べてくださいね」

「ありがとう。だいぶ元気でてきたな。他にも肉料理はあるか? デザートにタルトもほしいな。なければ俺が今から買いに行くけど」

「あら、あの子たちの好きなものまで。もちろん準備してますよ」

「助かった! 少しでも元気づけてやりたいからな」


 好物を食べれば、そのときだけはさを忘れられる。

 解決するわけではないが、家族で囲む夕食は良い時間にしたい。


「そうだ。来週休暇がとれそうだ。薬草採りに行こうぜ」

「ほんとですか? 楽しみです! たくさんお弁当作りますね!」

「ああ、頼む。あいつらピクニックだと思ってるからな」

「ふふふ、それも間違いじゃありませんけどね。さあ、なに作ろうかしら」


 アイリーンが笑顔でお弁当の中身を考えだす。

 アイリーンが笑顔だと俺は嬉しくなる。あっという間にさもいやされていくのだから、俺もなかなか単純だ。


「アイリーンが作ったものならなんでもいいぞ。なんでもおいしいからな」

「あなた、その『なんでも』が一番困るんですよ? わかってますか?」

「ええ……」


 ほんとになんでもいいんだが……。


「こういう大切なことはもっと具体的に伝えてください」

「具体的……。……そうだな、スープがうまい。羊のスープだ」

「なるほど、羊のスープですね。他には?」

「白身魚のオイル漬けもうまい」

「それで他には?」

「燻製肉もいける。ワインのお供にすると最高だ」

「もっともっと♪」

「肉とバターのほら、あれだ。なんかいい感じにこんがり焼けてるやつ」

「ふふふ、なんですかそれ」


 アイリーンが楽しそうに笑った。

 その笑顔に俺も自然と笑ってしまう。


「お前が聞いてきたんだろ」

「そうですけど、あなたったら子どもみたいな言い方して。でもわかりました。お弁当のメニューは任せてください。あなたもあの子たちも元気になるお弁当を作りますから」


 アイリーンはそう言うと、「さあ、お夕食までに汗を流してくださいね」と俺を浴場に促したのだった。





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