たくさんの家族をあなたと
買ったひよこは、ラヴィーヌが責任を持って王宮に持ち帰ると言って預かってくれた。
ラヴィーヌもレイニスも「アンネリア様は鳥が好きなのですね」「鳥は美味しいですからね」と優しく言ってくれた。
やっぱり食べるって思われてるのねと思ったけれど、とりあえず否定はしないでおいた。
鳥も可愛がるために飼うのだということも、そのうちきっと理解してもらえるはずよね。
カブトムシを飼うことも、理解してくれたのだもの。
「アンネ、他に欲しいものはないか? 例えば、装飾品や服などは」
「装飾品もお洋服も、たくさんありますので……」
「俺は、お前に贈り物をあまりしていない。できれば何か……」
ゆっくり街を歩きながら、ジゼルハイド様は悩ましげに言う。
「ひよこを買ってもらいました」
「ひよこ。いや、もう少し……何か、ないだろうか」
ひよこだけで十分なのだけれど、ジゼルハイド様のお気持ちは大切にしたい。
装飾品やお洋服は、本当にたくさんあるけれど、せっかくなら買ってもらったほうがいいのかもしれない。
「あっ、じゃあ、あそこに売っている卵型の置物がいいです。ランプでしょうか、キラキラしていてとても可愛いです」
私はジゼルハイド様の手を引っ張って、出店の前まで連れて行った。
宝石や硝子で作られた置物や小物入れ、ランプに交じって、卵型の置物がある。
光沢のある側面は青や赤、金色など、さまざまな色で塗られていて、中央が開く形になっている。
繊細な柄が描かれているものもあれば、宝石が嵌め込まれているものもある。
「これが欲しいのか、アンネ」
「はい! 卵の形をしていて、とっても可愛いですね。小物入れでしょうか?」
「これは──中に竜の涙から作られた、竜の珠と呼ばれる宝石が入っている」
「じゃあ、宝石入れですね?」
「いや。竜の珠は、お守りのようなものだ。祈祷師が、それぞれの竜の珠に願いを込める。この竜の卵は、中の竜の珠も含めて、子宝成就のお守りとされていて──」
「あ、あ……っ」
私は慌てた。そんな意味があるなんて知らなかった。
でも──。
「ジゼ様、私、欲しいです。竜の卵、とても可愛らしいので」
「そうか」
「赤がいいです。赤に、黒い竜と花が描かれているこれがいいです」
「さすがはアンネリア様! これは陛下とアンネリア様の結婚記念に作ったもので、竜は炎帝陛下を、花はアンネリア様を表しているのですよ」
私が竜の卵を選ぶと、お店のお姉さんが嬉しそうに説明をしてくれた。
「ありがとうございます、とても素敵なものをつくっていただいて。ね、ジゼ様?」
「あぁ、そうだな」
お店の方にお礼を言って、竜の卵を購入した。
ラヴィーヌとレイニスの分も買おうとしたけれど、二人にはまだ決まった相手もいないので、と言って断られてしまった。
「ジゼ様、ありがとうございます。今日はたくさん、色々と買ってもらってしまって」
「お前は普段からあまり、何かを欲しがることがないからな。本当は、もっと色々と言われたい。俺は察するのは得意ではないから、お前が何を欲しがっているのか、わからない」
「……ジゼ様、私」
王宮までの帰路の途中。
竜人の方々は、遠巻きに私たちを見守ってくれている。
私はジゼルハイド様の腕にぎゅっと抱きついた。
「家族が欲しいです。ジゼ様と、私の。竜の卵も買いましたから、きっと可愛い子供が生まれますよ」
「……そうだな。アンネ。そろそろ抱きしめたい。限界だ。駄目か」
「お部屋まで我慢、してください。せっかく綺麗にしてもらったのですから」
「我慢できたら、褒美があるか?」
「はい。たくさん褒めてさしあげます。それから、たくさん抱きしめてくださいね?」
「あぁ」
「子供は、卵で生まれるでしょうか、それとも赤子の姿をしているのでしょうか。女の子が三人、男の子が三人いたら楽しいですね、ジゼ様」
「何故、三人と三人なんだ?」
「なんとなくです」
「なんとなく、か」
「でも、子供がたくさん欲しいのは、本当です。ジゼ様との赤ちゃんですから、きっとすごく可愛いですよ」
ジゼルハイド様の腕に抱きついたまま、私はくすくす笑う。
世界がふわふわしていて、とても楽しい気持ちだ。
いつもなら恥ずかしくて言えないことも、口にできてしまう。
「少し、酔っているな、アンネ」
「少し酔っているみたいです。ごめんなさい」
「いや、構わない。帰ろうか、アンネ。もう、日も落ちてきた」
そんなに長い間、お祭りを楽しんでいただろうか。
時間が経つのはあっという間ね。街まで来たのは昼過ぎだったけれど、いつの間にか空には星が輝き始めている。
私たちを、王宮に戻るために二人の竜人の兵士さんたちが、竜の姿で待っていてくれている。
竜に乗る前に、ジゼルハイド様は「せっかくだからな」と言って、片手を空へと掲げた。
夜空に炎の花が咲く。
炎が形となって花となり、咲いては消えて、咲いては消えていく。
炎の花畑を、炎の竜が悠々と飛んでいる。大きな街を包み込むぐらいに夜空に広がる美しくも幻想的な炎の舞は、私たちが王宮に戻るまでずっと続いていた。
人々の歓声が、拍手が響く。
私たちの名前を呼ぶ声を聞きながら、私は竜の背の上で、ジゼルハイド様の腕に包まれていた。
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