少しだけ不埒なあなたと
ジゼルハイド様の唇が、私の手のひらに触れる。
唇を触れさせながら、蕩けるような熱を秘めた深紅の瞳が私を見つめた。
「アンネ、お前は甘い。花酒よりも甘いな」
「お花のお酒は、甘いのですか?」
なんとなく落ち着かない気持ちで、私を見つめる瞳から視線を逸らしながら私は尋ねる。
私はもうお酒を飲める年齢だけれど、ジゼルハイド様は「アンネの体に害になるかもしれない」と言って飲ませてくれないから、花酒の味を私は知らない。
「少し、味わってみるか?」
「えっ、いいのですか? はい! 是非!」
嬉しい提案に、私は頷いた。
嬉しかったので、思ったよりも元気な声が出てしまった。
少し恥ずかしくて、私は頬を染めて「ありがとうございます、ジゼ様……」と小さく言って、瞼を伏せる。
「アンネ、口を開けろ」
「えっ」
ジゼルハイド様は杯に口をつけて、花酒を口に含むと、杯をベッドの横にあるテーブルの上に置いた。
何をするのだろうと見ている私の顎に長い指を這わせると、私の顔を上向かせる。
指の腹で唇を撫でられた。
くすぐったさと気恥ずかしさに、頬に熱があつまる。ジゼルハイド様の瞳が何かを促すようにじっと私を見る。
口を、開けろと言われた。
次に起ることが想像できてしまって、心臓がどくどくと鼓動を早めた。
私はおずおずと唇を開いた。
ジゼルハイド様の唇が、私のそれに重なる。深く重なり、口の中にとろりとしている僅かに粘性のある、甘い液体がそそがれる。
「ん……」
花酒の味が口の中に広がる。
ねっとりと甘く、香しい月下美人の芳香が鼻を抜けた。
口にいっぱいになった花酒を喉を動かしてこくんと飲み込むと、熱を持った液体が喉から胃に落ちていくのがわかる。
液体が触れた場所が、体の中が、喉が、唇や口の中、舌が、じんわりと痺れるような妙な感じがする。
「ん……ぅ」
ジゼルハイド様はそのまま私の体を、ベッドにとさりと横たえて、口の中を舐った。
大きくてぶあつくて長い舌を入れられると、すぐに口がいっぱいになって、僅かな息苦しさがある。
竜人の舌とは特別なもので、舌の上には魔力紋が刻まれている。
それは竜人にとってはいわば、心臓のようなもの。
舌の印を見せることは、心臓を差し出しているのと同義で、裸体を見せるよりもずっと恥ずかしいのだそうだ。
だから、舌を触れあわせる口付けは、何よりも特別なもの。
大切で、とても、淫らで、愛しくて、切ない。
「ん、ん……」
少し離れては深く交わる呼吸の狭間に、どうしようもなく甘い声が、小さくこぼれてしまう。
大きなジゼルハイド様に抱かれると、まるで全身を食べられてしまうような感じがする。
それはちっとも怖いことじゃない。
激しく奪って欲しい。もっと深く重なりたいと思う。
「じぜさま……」
絡められた舌から銀糸が伸びる。
ジゼルハイド様はそれを軽く舐めとると、私の濡れた唇を指先で拭った。
「可愛いな、アンネ。美しい銀の髪が、夕方の空のような紫色の瞳が、小さな唇が、薔薇色の頬が、きめ細やかで柔らかい白い肌が、全て好きだ」
「……ぅん」
「小さな手も、頼りなく華奢な体も、生き生きと言葉を紡ぐ、可憐な声も。お前の全てが愛しい」
「……ジゼ様、私」
「好きだ、アンネ」
「ジゼ様……」
私はジゼルハイド様に甘えるように両手をのばした。
もっと、たくさん口づけて欲しい。
体が熱くて、ジゼルハイド様の低い声が鼓膜を震わせる度に、胸がきゅっと軋んで。
私、一口だけの花酒で――酔ってしまったのかしら。
「……アンネ。月下美人の花酒には、強壮の効果と、それから……紅仙桃果の、果汁が含まれていてな」
「ジゼ様……そういうの、先に言ってください」
「駄目だったか?」
「駄目じゃないです……」
あぁ、駄目だ。
くらくらする。
悪戯っぽく笑うジゼルハイド様が愛しくて、世界が柔らかく蕩けていく。
その逞しい背中に手を回して、私は瞳を閉じた。
もう一度、呼吸を奪われるほどに深く唇が重なった。
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一万字ほどの加筆と、本文も改稿しております。どうぞよしなに。
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