あなたの好きなところ
ジゼルハイド様の手は、私の手よりも大きい。
その体が私よりも大きいのだから、それは当たり前だと思うのだけれど。
その大きな手で杯を持ってお酒を飲んでいる姿を見ると、なんだか不思議な感じがする。
王国のお酒は葡萄酒が主流だった。
オグニアス皇国には葡萄酒もあるけれど、お酒の種類がとても多い。
花から作られた花酒に、薬草から作られた霊酒、さまざまな果実から作られた果実酒に、お米から作られた米酒。
今日は花から作られた花酒を、ジゼルハイド様はしどけなくベッドに寝そべって飲んでいた。
王国ではベッドで飲み食いをするのはお行儀が悪いこととされているけれど、人前でお食事をしない竜人の方々にとっては、一人きりになることができる寝室で何かを口にするのはそう珍しいことではないらしい。
シーツも交換するしお掃除もするし、少しぐらい汚れても別に気にしないのだそうだ。
そのあたりは──竜の姿になって森の中や草原で眠ったりすることもある竜人の方々の、おおらかな部分なのだろう。
ベッドに寝そべって、煌びやかなお召し物の上衣だけを纏ってお酒を飲んでいる姿は絵になる。
私はジゼルハイド様の隣に、最近私のために作っていただいたジゼルハイド様のいつも着ているお洋服に似た、腰を紐で止める薄衣の寝衣を着て、ちょこんと座っていた。
「ギザギザミミのウサギは、森のみんなに手伝ってもらって、どんぐりをいっぱい拾ってきました。これで今年の冬も安心です。みんなでどんぐりの歌を歌いながら過ごしましょう! どんぐりいっぱい、嬉しいな、どんぐりケーキをみんなで作ろう〜」
「どんぐりをケーキにするのか」
「どんぐりケーキ、美味しそうじゃないですか?」
「硬そうだな」
「胡桃みたいな味がするかもしれません」
「ウサギやリスにとってはご馳走か。お前にとってはどうかな、アンネ」
「私?」
「オコジョとしては」
「オコジョとしては、そうですね……冬の森の家で動物たちと過ごすのは楽しそうですけれど、でも、ジゼ様がいないと寂しいです」
ギザギザ耳のウサギと森の秋のお話をジゼルハイド様にしていた私は、楽しげに私を見る瞳を見返して、少し拗ねたように言った。
ジゼルハイド様は杯を持っていない方の手で私の頬に触れると、目を細める。
「俺も、アンネがいないと寂しい。生きていけないほどに」
「そういうことをいうのは駄目ですよ、ジゼ様。ただの寂しいに留めておいてくださいね」
「寂しい、アンネ」
「よくできました」
私はジゼルハイド様の手を取ると、自分の手とそっと重ねた。
ジゼルハイド様は私のことをとても大切にしてくれる。竜人というのは、証を刻んだ相手と生涯を共にするもので、その執着や愛は永遠に続くものなのだそう。
もちろん私もジゼルハイド様を愛しているし心変わりをするなんてありえないけれど、生きていけないほど寂しいという言葉はあんまりいいものじゃない。
私はジゼルハイド様に、たとえ私が先にいなくなったとしても、健やかに、元気に、生きていて欲しいもの。
そのためには、やっぱり家族が欲しいなって思う。
私がもし先に、いなくなってしまった時に。ジゼルハイド様が寂しくないように。たくさん、家族がいるといい。
家族とは、つながりとは、そういうものなのかもしれないって思う。
お父様とお母様が亡くなってしまって、お兄様と二人きりになってしまった私が、お兄様とお姉様が結婚してエルジエル君が生まれた時に感じた喜びを──きっと、ジゼルハイド様も感じてくださると思うから。
「お前に褒められると気分がいい。もっと俺を褒めてくれ、アンネ」
「ジゼ様は、今日も甘えんぼさんですね」
「駄目か?」
「可愛くて好きですよ」
「そうか」
ジゼルハイド様は重ねた私の手に、指を絡める。
私の手よりもずっと大きい。ジゼルハイド様と手を繋ぐと、私は子供に戻ってしまったように感じることがある。
けれど、子供だと思われるのは嫌。私はジゼルハイド様の妻でいたい。一人の女性として愛される喜びを、知ってしまったから。
「ジゼ様は手が大きいです。私よりもずっと大きい。ごつごつしていて、指が長くて、太くて、骨が太くて、とっても格好いい形をしています」
「手、だけか?」
「体も大きいです、私よりもずっと。大きくて格好いいです。それから、お顔も。誰よりも素敵です。長い髪も、さらさらで好き。赤い瞳も、蟹の甲羅みたいで艶々で綺麗です」
「蟹の甲羅」
「蟹の甲羅」
「ふ、……はは……っ、蟹。蟹か。ふふ」
ジゼルハイド様は、楽しそうに肩を振るわせて笑った。
それから私の手を引き寄せると、そっと手のひらに口付けた。
応援してくださった皆様のおかげで、電子書籍化が決定しました。
5月11日、明日発売になります!
そんなわけで発売記念の番外編です、よろしくお願いしますー!




