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甲殻類体操



 昨日は、結構夜遅くまで盛り上がった。

 何で盛り上がったのかといえば、武官府で飼育されていたカブトムシについてである。

 婚姻の儀式が終わり、イルバトス様とグロスキエフ様をお酒でおもてなししようということになった。

 そこで武官府で飼育しているカブトムシと、カブトムシ相撲の話題があがった。

 やや酔いが回っていて愉快な気持ちになっていたのか、グロスキエフ様が見たいというので、皆で見にいくことになった。

 そこにいたのは、私の倍ぐらいの大きさのカブトムシだったのである。

 レイニスの話では「何かが違うと思いながらも、できるだけ元気になるようにと思い、魔力を与えていたのです。そうしたら、とても立派に育ちました」とのことだった。

 カブトムシとは大きく育つものなのですねと言って喜ぶレイニスに、それは違うとも言えない私。

 大きなカブトムシもそれはそれで可愛いので、まぁいいかと撫でようとしたら、どういうわけか服をパクリと口に咥えられて攫われそうになるなどした。

 それはともかく、大きなカブトムシを見てグロスキエフ様はたいそう喜んでいた。

 イルバトス様は「戦わせるのだったら、大きく育てた方が勝ちなのでは?」と真剣にカブトムシ相撲のルールを聞きたがってーー大きなカブトムシさんたちにお相撲をしてもらい、応援するなどして、たいそう盛り上がったというわけである。

 それから、アンネリリィをどのように生み出したかの話になり、ジゼルハイド様が悲しい話を聞いて泣いた件で、グロスキエフ様とイルバトス様がお腹を抱えて笑い転げるので、「それならお前たちもアンネから話を聞くと良い」とジゼルハイド様が言って、私は再びマッチ売りのオコジョをお話しする羽目になった。

 私がお話を披露するという噂を聞きつけて、お城の皆さんも集まってきてしまい、内心物凄く狼狽えながらも、マッチ売りのオコジョをお話しすると、それはもう皆さん見事に号泣してくださった。


「アンネリア様、死んでは駄目です!」


 と、口々に言いながら。

 ラヴィーヌが言うには、お城で使う一年分ぐらいの竜の涙が集まったという話だ。

 私じゃなくて、オコジョの話なのだけれど。


 そんなわけで、遅くまで皆さんと遊んでいた私は、ジゼルハイド様とゆっくり過ごす間もないまま、疲れ果てて眠ってしまった。

 普段よりもたくさんお酒を飲んでいたジゼルハイド様に、触られたり舐められたりしていた気がするのだけれど、見事な寝落ちだった気がする。

 せっかくの、新婚初夜だったのに。

 朝目覚めた私が青ざめながらジゼルハイド様に謝ると、何にも気にしていないと言って、撫でてくれた。


 そうしてやや二日酔いらしいジゼルハイド様と、すっきり目覚めた私は、ラヴィーヌやレイニスと一緒に日課である朝の体操をするために、中庭にやってきた。

 カマキリ体操を終えたところで、グロスキエフ様とイルバトス様が、飲みすぎたせいか怠そうにしながら、中庭に現れた。


「一体それは何なのですか? とても大切な儀式に見えます。私も共に行いましょう」


「人族の文化なのか、その謎の動きは。それなら是非、儂も交ぜてくれ」


 などとお二人が言うので、なんだかよくわからないけれど、もう一度みんなで動物体操をすることになってしまった。

 いつものジゼルハイド様と、ラヴィーヌとレイニス。

 それから、イルバトス様とグロスキエフ様。

 大きな竜人の方々が、私の正面に並んでいる。

 どうしてこんなことになったのかしらと思いながら、私は悩んだ。

 カマキリ体操は、もう一度行ってしまったし。

 何にしましょう。

 私は少し悩んで、それからすうっと息を吸い込んだ。


「さぁ、みんなー! 甲殻類体操の時間だよー!」



 ◆◆◆◆



『甲殻類体操の歌』


 タラバガニは、足が長い、両手を振り上げ、いちにさんし。

 毛蟹は、まんまるもじゃもじゃ、まんまるもじゃもじゃ毛がいっぱい。

 花咲蟹は、赤くてツンツン、トゲトゲ痛いよ気をつけて。

 シオマネキは片腕大きい、ブンブン回せ、片手だけ。

 タカアシガニは体が大きい、大きく伸びて、終わり!



 ◆◆◆◆



 タカアシガニのポーズをバッチリ決めた私は、ぱちぱち手を叩いた。


「みんな、よくできました、良い子ね! 今日も一日がんばりましょう!」


 すごく真面目に動物体操に取り組んでくれたみんなを褒めると、ジゼルハイド様やレイニスやラヴィーヌは、いつも通り嬉しそうににこにこしてくれる。

 グロスキエフ様とイルバトス様は顔を見合わせて「すごく癖になりそうな感じがしますね」「炎帝は、このように毎日褒められているのか。羨ましいことだな」と言った。


「アンネはやらん。さっさと帰れ」


 ジゼルハイド様が私を腕の中に隠して、お二人を威嚇するので、領地に戻るお二人に、ちゃんとご挨拶ができなかった。

 まぁ、良いわね。

 また会うこともあるでしょうし。

 初対面の時のような空気が冷えるような敵対心のようなものが、お二人の間からは消えているように見えたので、私はほっと胸を撫で下ろした。

 だって、争いは嫌だもの。

 できれば、仲良くしていけると良い。

 私の居場所はジゼルハイド様の傍で、私の国はここなのだから。

 平和と安寧を願わずにはいられない。

 竜人の方々は、強い方が偉いのだというのだけれど。

 もし可能なら、直接戦うのではなくてーーカブトムシ相撲などで、勝敗を決めて欲しいものよね。



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