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再生Place  作者: 天猫紅楼
2/6

ハシミコフを返して!

「ちょっと! 離してってばあっ!」

 金切り声が、会場の一角で響いた。

 腕をつかまれ逃れようと暴れているのは、さっき監視していた女だった。 いち早く駆けつけた誠に捕獲された女は、誠の足を思い切り踏みつけた。

「いぃっっっってぇぇぇぇ!」

 ヒールの踵が誠の足の甲に食い込み、悶絶する声と共に力を緩めた彼の手から腕を抜くと、素早く踵を返した。 が、次の瞬間には、その身体は一気に引き戻された。

「ぐえっ!」

 カエルが潰れたような声を出してくず折れる女の首が、後ろからつかまれたシャツのせいでギュッと締まっていた。

「ごほっ!」

 不意をつかれて尻もちをついた女は、大きく咳き込んだ。

「観念しろ」

 そう冷たい言葉を放ったのは、忍だった。 眼鏡のレンズがキラリと輝き、見下ろす忍は、ロボットのように無表情だった。

「な……なんなのよ、一体?」

 猫のように首根っこをつかまれたまま、力なく座り込む女に、誠が足を抑えながら痛みに顔をしかめながら覗き込んだ。

「あんたがヤクの密売に一役買ってるのは、もう分かってんだよ!」

「はあ? なんの話? あたしは知らないわよ!」

「はああっ? こちらこそ、はあ?だぜ! しらばっくれても無駄だ!」

 誠は引く様子もなく、女を睨みつけていた。 女は少し怯えたように誠を見つめた。 涙が滲んだように、瞳が潤む。

「泣き落としは効かねえよ! そんなの、俺たちは慣れてる。 しっかし、あんたさ、まだ若いんだろ? あまり遊びが過ぎると、あとあと後悔するって、知らなかったか? ま、これで年貢の納め時ってやつだ。 観念しろよ、加藤光代カトウ ミツヨ!」

 そう言う誠に、女は息を飲んで瞳を見開いた。

「あたしはそんな名前じゃないわ! 相沢夏希アイザワ ナツキ!」

「えっ!」

 驚く誠の声に、忍もつかんでいた首根っこを離すと、夏希はぺたりと座り込んだ。 そしてうつむくと、肩を震わせ始めた。

「あーー、泣かせた! 忍、悪いんだーー!」

 そう軽い口調でからかう誠に、忍はピクリと眉を動かした。

「何よ! 一体、なんなのよ? あたしはただ、ハシミコフと握手しにきただけなのに! なんでこんな目にあってんのよ?」

「ハシミコフ?」

 きょとんと見下ろす二人を、夏希は潤んだ瞳で睨むと叫んだ。

「そうよ! ダイバプロレスのエース、ロウハンキン・ハシミコフよ! せっかく間近で観られるチャンスだったのに! これじゃあ、仕事早く終わらせて急いで来た意味無いじゃない! どうしてくれんのよっ? ハシミコフを返してっ!」

「えっ? ……ええっ?」

 誠は、すがるように忍を見た。 彼もまた戸惑った雰囲気で、ハシミコフを連発している夏希を見つめている。

 

≪対象が逃げたぞ!≫

 

 裏で指揮をしていた神田警部補の声が無線機から響いた。

「ええっ!」

 驚きの声をあげる誠に、忍は慌てて辺りを伺った。 会場に駆け込んでいた警官たちが、駅の中へと走っていく。 喧騒に包まれる広場が閑散としてくるのを見て、忍は無線機に鋭い声を突き刺した。

「警官たちを少し残してくれ!」

「えっ? 何を言ってるんだ、忍?」

 驚く誠を無視して、忍は続けた。

「まだ相手は勘違いしている。 証拠に、さっきからスコープの反射光が丸見えだ。 このままヤツを仕留める。 逃げた対象は、そっちに任せる!」

≪はあっ? 何を言っているんだ? お前たちは任務を――≫

「そうだ! その【任務】を遂行する!」

 その言葉に、無線機の向こうが沈黙した。 そして小さく息を吐いたのが聞こえたあと、ため息のような声が届いた。

≪そっちは任せた。 必ず確保しろよ≫

「了解」

 無線を切る忍に、

「お前なぁ。 そういうことはさーー、一番最初に、パートナーであるこの俺に相談しない?」

「お前のことは信じている」

 忍が眼鏡を上げながら見つめると、誠は思わず頬を赤らめた。

「ちょっとちょっと! 何二人でラブ劇場繰り広げてんのよ? あんたたち、あたしの事間違えたんでしょ? どうするつもり?」

 夏希が怒り心頭な口調で二人に噛みついた。 彼らは顔を見合わせ、誠が夏希の肩をポンと叩いて言った。

「すまん、間違えた!」

「それだけぇっ?」

「迷惑ついでに、ちょっと付き合ってくれ」

「はぁっ? 何言ってんのか、全然理解できないんだけどっ!」

 申し訳なさそうに頭を掻く誠と怒る夏希の横で、忍がおもむろに銃を取り出した。

 その時――

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