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再生Place  作者: 天猫紅楼
1/6

壊されたイベント

【白黒のタータンチェック柄ジャケットワンピースを着た、茶色の髪の毛をした小柄な女】


 木村誠キムラ マコト結城忍ユウキ シノブが監視を依頼された対象の特徴だった。

 駅前のイベント会場には、今まさに何千という人が集まりつつあった。 みるみるうちに、三階まであるバルコニーが人で埋め尽くされていく。 皆、これから始まるイベントが始まるのを今か今かと待っているのだ。

「この中から一人の女を探し出すのは、簡単じゃねーぞ」

 誠が口を尖らせる。 その横で、忍が細縁眼鏡を細い指で押し上げながら、人波を見つめつつ冷たく言った。

「お前には簡単だろ? 女を見る目は宇宙一だと、言っていたじゃないか」

 それを聞いた途端、誠はニンマリと頬を緩ませて頭を掻いた。

「褒めてねーし」

 忍は誠が何か言う前にそう制して、人波を見つめていた。

 白い肌に銀縁がよく映える。 眼鏡の奥に光る瞳は一重まぶたの切れ長で、長いまつげが妙に色っぽい。 髭は綺麗に剃られ、形の良い唇は少し赤みを帯びている。 それをキュッと結んで、もう誠のことは視線には入らないようだった。

 誠はそんな忍に信頼を込めた笑みを向け、同じように人波を見つめた。

 健康的な焼けた肌に、二重まぶたの黒目がちな瞳が情熱的に光る。 ビンと立った短い黒髪が、ヤンチャな印象を与える。

 誠はペロリと舌を出して、小さくパチンと指を鳴らした。

「早いな」

 忍の抑揚のない声に、誠はすっと手を上げた。 指をさしたその先に、二階のバルコニーの人ごみに紛れるように、白黒のタータンチェック柄が見えた。 肩口しか見えないが、茶髪といい、小柄な体格といい、対象と判断できそうだったが、

「もう少し検索してみてくれ」

 忍は至って冷静だった。 その指示通り、しばらく周りを眺めていた誠だったが、

「いや、特徴が一致するのは彼女だけのようだぜ」

と、なおも瞳を輝かせた。

「そうか、わかった。 しくじるなよ」

「お前もな」

 二人はそっと、銃を仕込んである懐に手を忍ばせ、来たるべきタイミングを待つことにした。 誠と忍は静かに場所を移動し、三階バルコニーの隅っこから直線上に、対象となる女をロックオンした。

 対象の女は薄暗くなっていく野外ステージをひたすらに見つめ、微動だにしていなかった。 連れはいなさそうだった。 前から二列目あたりに立ち、時折待ちきれないように腕の時計に視線を落とす。 人ごみは、適度なざわめきと共にますます濃密になっていく。 誠は女をジッと監視し、忍は少し離れたところから、辺りを見回していた。 心なしか、焦ったような目尻の引きつりがうまれている。

「まだか……」

 堪えきれない呻きにも似た言葉を漏らした時、事態は急変した。


 パーーーーン


という乾いた音とともに、黒だかりの人の群れが一気にばらけ散った。 まるで森に放たれた猟銃に驚いた鳥群のように、悲鳴をあげながら我先にと逃げ惑う。

「あそこか!」

 忍が会場最上階の屋根にキラリと光る反射光を見つけたと同時に、懐から取り出した短銃を素早く構え、一発撃ちはなった。


 パーーーーン


 再び響いた乾いた発砲音に、人々が怯え慌て、ドミノのように倒れる。 阿鼻叫喚に取り込まれる会場は、もはや地獄と化していた。

「最悪なシナリオだな……」

 忍はわずかに顔をしかめ、再び銃を構えた。

 今のは警告だった。 わざと外し、相手に自分たちの存在を知らせる。 それでもまだ襲ってくるようなら、改めて迎え撃つ。 忍は極めて冷静に、相手の次のアクションを待った。 その間、数秒だった。


「気配を消したな」

 忍はそうつぶやいて銃を懐に戻すと、階下に視線を移した。 散り散りになる人々。 それらを縫うようにして、武装した警官たちが救護と守りを固めている。 イベントを待っていた熱と希望と和やかさに包まれていた会場は、ものの数分で荒廃した空間になっていた。 忍はその騒然とした様子を見下ろしながらひとつため息をつき、自分もその雑踏に身を投じた。

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