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33話

◆◇◆◇◆


 戦争に対する嫌悪は増すばかりだった。それと同時に聡い頭で理解している───それは生存競争であり、弱肉強食の世界がより集まった結果による産物であること、生きるという行為が齎す奪い合いは必然であることを


 その上でマージは改めて争いの生まれる迷宮の存在を疑問視していた。この構造物もしくは建築物は一体なんなのかと───よもや特徴を並べれば生き物と呼べる空間はそれ程までに人の作るそれとは異質な何かを持っていた


「ダメだ思考が暗くなってる」


 必死になって頭の思考を撹拌するマージはふと『アーツ』の同志を思い出していた。元は先人、今は同志、今日まで僅かに残る思い出に僅かな光を見出していた


 僅かな光を飲み込む、迷宮や戦争への嫌悪の思考がマージの武器を持つ手の力みを僅かに強めさせていた



 そんな思考を抱きながら降ること、地下第四階層、不意に感じた違和感に武器の構えを変えて眼前への警戒を強めた


「雰囲気が変わった…」


 先程まで感じていた環境とは全く別種の感覚にマージは眉を顰めた。数をこなした迷宮探索で環境の変化する迷宮は確かにあった


 しかし、それは潜る程により堅牢な作りになる、円錐状に広がる一層の規模などの迷宮がとる〈攻略されないための抵抗〉生物に似たものだった



「何だ…これ」


 圧倒的違和感、石畳敷き詰められていた迷宮の地下第一層から三層までの環境とは全くの別物がそこには広がっていた


 寒さが身体を蝕む、たまに吹く風がより一層の寒さを齎す。足元には大量の砂があり、風により表面をなぞる様に転がり吹き飛ばされている。着込まなければ身体が寒さに屈する程だった


「ガラスじゃないな、これ全部水?」


 夜の下、砂にも勝るとも劣らない───どれ程の量があるか分からない水が揺れ動き、水面に夜空を反射させていた



 迷宮の中とは思えない光景、水のある方を眺めれば彼方に見える視界を遮るものがない時に見える空とそれ以外を分つ、視界を両断する一直線───水平線がそこにはあった


「…あるよな」


 あまりの不自然な〈自然さ〉にマージは振り返り自分が来た道を確認する。空間には不釣り合いな石畳の階段が確かにあった───それだけが迷宮の中であることの証明だった


「下に降りたいけど、これじゃあ」


 マージは焦る。よもやこの大量の水に飛び込む必要があるかも知れない。そうなれば現在の装備では不安が残ること、そもそも水が安心できるものなのかが気掛かり故に焦っていた


「まさか、空に…」


 マージの不安は止まるところを知らない。階層全てが水に覆われ、外同様に天井があるか定かではない高い天井擬き、壁があるか疑わしい程に遠いそんな空間の何処かに下に降りることのできる階段があることは確かだった


 マージは武器で水を叩き、次に手で触れる。毒物の類はないこと、魔物の擬態でないことを確かめると匂いを嗅いだ───無臭。マージは手持ちの水と薬草を取り出し、意を決して水を飲んだ


「無味の毒でもない、痺れ

 渇きもひりつきもなし

 普通の水だ」


 念の為にマージは口内を濯ぎ、水を吐き出し、薬草を齧って噛み潰した


「海みたいだ」


 マージは本だけの知識でそれを知っていた。塩味の強い液体と評されていたため別物であることを念頭に探索を開始した───食料は有限、水源は無限に近いので時間の問題だった



〈迷宮〉───その名の通り内部構造が複雑怪奇、多種多様な存在がある故に〈迷宮〉と呼ばれている規模によりAからF級まで存在する


・"A"bnormal

・"B"ad luck

・"C"haos

・"D"isease

・"E"mergency

・"F"ord


 古代から続く表現であり

・『異常』

・『増長』

・『無視できず』

・『環境汚染』

・『魔物過剰増殖』

・『環境汚染深刻化』

・『魔海嘯(マカイショウ)』あるいは『迷宮災害(ラビリンエンデミック)


 とその深刻さが増していく、早急に対処しなければ多くの犠牲を生むことは必至である



「…何かいるな」


 水面の揺れ、星の光を反射する瞳、マージをじっと見つめるそれは───海中から大口を開けてこちら眺めている様だった


「魔物自体には詳しくないんだけどな」


 専ら『アーツ』や『術式』を学んできた故に魔物に対する知識不足を痛感するマージはこちらを眺めるそれがどういう物かを測りかねていた


 経験則から水の中から上がってくる魔物ではないことを突き止め、マージは改めて徒歩による探索を再開した



「蜂?」


 水の音に耳が慣れた頃、羽音がマージの耳に触れた。低く唸る様なそれを頼りにマージは奥へと進む、入ってから1時間は悠に超えていた


 足はやや疲れ気味ながら、進展というより、新たな発見にマージは嬉しく思い、羽音のする方向へと進んでいった───砂地の続く地下第四階層には驚くほど植物が少ない、なのにも関わらず蜂がいることは不思議なことだった



「あった」


 漸く下層へ降りるための階段を見つけ、マージは降りて行った───この時に違和感に気がつくべきだったのだろうかと後のマージは思う。人の足跡、昆虫型魔物の魔海嘯、迷宮の変質これの原因について、考えるべきだったと思うことになる

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