28話
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「これより、神銀の剣より
戦技の御披露目と相成ります
かの悪名高き、魔の来たる深淵を
踏破せしめた絶技を今一度…」
「悪趣味だ」
ゴードンはアビーク公爵の隣でとりを務める執事だという黒服の男を睨みつけていた。1日前の惨状を前にしたゴードンであればそう思うのも無理はない、しかし、それはお門違いというものだった
朗々と口上は述べられていく
〈闘技場〉───探索者の中でも【調教】を司る【スキル】を持つものが考案した催し物の場。現在では儀式的な意味合いを持つモノだが歯に衣着せぬ言い方をするならば魔物を迷宮や野から誘致し、それを痛ぶるもしくは討伐することを然とする場である
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「どうしたゴードン、緊張してんのか?」
「いや、はは、どうだろうな」
アルトラの現状を鑑みれば理想は
〈大物が一体〉が理想である───現状アルトラの【スキル】は制御不可能の相打ち上等の代物に成り上がってしまっている
しかし、一体だけであれば確実に倒しきれた上で気絶に持ち込める。アルトラの保護が容易に間に合うのである
「アルトラ、なるべく…」
「は?【スキル】は使うだろ」
「お前…使うなって!」
【不可能】───剣聖の時ですら『出力調整』による発動の抑制があり、発声により起動していたスキルを現在常時展開中のため、最早使う使わないの領域にアルトラは居ないのだ
「頼む、大物を」
果たして、御披露目会の舞台にはゴードンが考え至る最悪が希望通りの真逆で用意されていた。硬い甲殻を持ち、頭を斬り落とされても秒は動く『地表の狂戦士』───軍隊蟻。檻の中でひしめいていた
「嘘だろ、何で」
「俺達の晴れ舞台だぞゴードン
ここは盛大にいかないとだろ」
「それがダメだって言ってるだろ!」
アルトラの【剣聖】は高機動を活かした高速かつ精密な連続攻撃が売りということになっている。それを存分に見せつけるならば、群れをなした魔物をひと呼吸の合間に鏖殺するのが魅力だろう
しかし、1匹の体格は牛をやや下回る程度で人の腰ほどはゆうに上回る体格をしている。1匹を仕留められるのにどれだけアルトラが剣を振り続けるのか、ゴードンは考えただけでも吐き気を催していた
「何だぁ?乗り物酔いか?」
「うるせぇ」
悠然と構える領主夫妻と血走った目の探索者たち、今か今かと興奮前のめりの貴族達───どこか異様な雰囲気の中でアルトラは挨拶を述べ始めた
「本日は大変お日柄もよく
これよりお目にかけまする私の妙技
あの魔物どもを粉砕する様をご覧に入れます
血を血で塗りつぶすが如き様は
武勇にて名を知られるアビーク公爵殿下の
お気に召すことは請け合いでございます」
今代のアビーク公爵家は
武力によって他所の土地を奪い
支配する領主だ
アルトラが【先読み】で紡ぐ言の葉に公爵は小さく頷いた。隣の夫人はあまり乗り気ではない様子で口元を押さえているのが目に入ったがアルトラは気にする様子はなかった
「では参ります」
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アルトラの挨拶が終わるとゴードンが盾を携え、前に出た
「なんで急にお前までやるなんて言い出した
嫉妬か?」
「黙ってろ!
いいか、なるべく魔物を集める
お前は頃合いを見て【剣聖】で一掃しろ」
「命令か?偉く強気に出たな」
ゴードンが急いで前に出て、剣を抜き放つ
さる名工が鍛えた神銀の逸品は陽光を浴びて白銀に煌めき、探索者から感嘆の声を引き出した
パーティの名である〈神銀の剣〉これを名乗るならこれは買わねばと報奨金の一部をこれに充て、作らせたアルトラは非常に満足げだった
「戦技披露、はじめ!」
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執事の声に応え、檻が開かれ、大地を揺らす程の突進がアルトラ達に一斉に向かう
「うぉぉぉお」
ゴードンが前に出て軍隊蟻の突進を真正面から押し返してみせた。歓声の上がる中、当の本人であるゴードンは受けた衝撃の大きさと押し込まれた距離に違和感を受けた。それでも魔物の大群を一手に引き受け、どうにか魔物の塊を作ろうと躍起になっていた
〈ガインッ〉と鉄塊を石で殴ったような音とともに、ゴードンの身体が悲鳴をあげるも本人はその音を【いつも通り】と勘違いしていた
「もういいだろう」
「やめろ!まだ!」
「あ?もう待てるかよ
お前ばっかいい格好しやがって!
だったら使わなきゃいいんだ…」
アルトラにとっての好機に神銀の剣を構え、踏み込んだ瞬間、いつも通りの加速などではない、いつも通りの剣筋などではない、いつも通りの制御が効く代物ではないそれが、ゴードンの周りに群がる軍隊蟻をゴードンを無傷のままに粉微塵にしてみせた
「…ろ?」
「やめろ」
観客の大歓声の中、ゴードンが呟く
「やめろ!」
観客の大歓声の中、ゴードンが言う
「やめてくれ!」
観客の大歓声の中でゴードンの叫びは掻き消された
「やめろ!アルトラ!」
「ハハハ!ちょっと調子が悪いみたいだ
ハハハハハ!だ、大丈夫
まだやれる!」
縦横無尽に敵を切り刻むアルトラは自分が気付かぬ内に身体を死へと押しやっていた。しかし、そんな情報が脳みその中に止まることはなく素通りしていくのだ【先読み】が情報を圧迫し、生きている限り剣を振り続けること強いている状態だ
「アルトラ!!」
◆
「ほほぉあれが神童、アルトラですか」
「聞くに幼少から剣聖を使いこなしていたと」
「あの様子を見るに納得しかないですね」
アルトラの様子に貴族が関心を寄せる
「あのゴードンもまた、恐れることなく
前に出ましたね」
「素晴らしい盾だ。許されるなら
うちにもらいたいくらいだ」
「アルトラに見せ場を奪われて
憤慨している様は頂けないな」
前衛2人の評価は高く、逆に後衛の2人は未知なモノ故に誰も彼もが不満を漏らしていた
「この場合、味方を巻き込む故に
魔法は使えないですね」
「先程から何故食事を?」
「詠唱破棄でしょうか?
古の魔法に有効とは…」
「祈祷師も酷く疲れている様子
評価できないのが残念だ」
「しかし、常に何かを呟いているぞ?」
「支援の類か、いやはや神銀の剣は
天秤の釣り合いが取れているな」
◆
「…止まない、歓声の中でも
ハッキリと聞こえる
あの声が」
「〈不平不満を述べた上で
何故四人で出なければいけないかを
理解しながらも否定する言葉
規則が前時代的でお粗末極まりない様を
憂いた言葉を永遠と続けている〉」
「お前ら!アルトラが死んじまう!
助けてくれ!」
「死?そうだ、死ねばこの声から
逃れられるかも…」
「〈空腹〉」




