20話
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「…?」
宿屋の窓硝子が〈ガタガタ〉と揺れた。突風だろうかと気にも止めていないとその揺れはより大きくなっていき、不意に収まった
「何だったんだろう」
マージはキヌイの聖地について調べ物をしていた。この町に来て早くも1週間が裕に過ぎてしまっている。マージにとってとても好ましくない結果だった───巡礼の最初の地点でのこの体たらく、その先が思いやられる
「キヌイの聖地はソウテンガロウって
狼の伝説なのは分かったのに」
〈ソウテンガロウ伝説〉の歴史書を片手にマージは椅子に座っていた。神の使いと謳われた狼の軌跡を綴った物語。他にも机の上には町の創設時の写真や設計資料などが山と積まれていた
その中でもソウテンガロウ伝説が最も〈古い羊皮紙〉の年代に近く、参考資料として有力なものだった。かの狼の伝説を追えばと歴史をなぞっていた2日前。その最後には天へと昇り、神になったと締めくくられており、マージはその狼が辿った偉業の歴史は夢幻物語だった可能性にいきついていた───完全に手詰まり状態に陥り、半ば自暴自棄となっていた
「どうしたもんかな」
甘い香りが充満する室内でマージは林檎を手に取り、慣れた手つきで林檎の皮を剥いた。そんなマージの部屋の扉が不意「〈こんこん〉となった
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「え?シズクさん」
マージが扉を開けた先にシズクがいた。何かを言いたげに口を〈パクパク〉させたものの、何も言えずに視線を泳がせ始めた
やがて、廊下の冷気に当てられ、シズクがくしゃみをした
「えっと、部屋に上がりますか?
立ち話も何ですし」
◆
「林檎をどうぞ」
「あ、ありがとう」
白い陶器の皿に並べられた林檎を食べつつシズクは話し出す機会を伺っていた。林檎ひとつを16等分された〈それ〉はとても食べやすい形をしていた
食べ終えて、意を決したシズクは話し始めた。マージもそれに合わせて本を片付けていた手を止め、シズクに向き直った
「マージ、聞いてほしいことがある」
「何でしょう」
「ボクたちの里に来て欲しい」
「急ですね」
「今、森は緩やかに死んでいってるんだ
それで、もしかしたらマージならって
思って…」
「僕も事情があってここに滞在してるんだ
急ぐ用事って訳じゃないけど
安請け合いはできない」
「…そっか、そうだよね」
「ごめ…」
「謝るな、ボクの我儘はボクの責任だ
マージは悪くない」
◆
「そうだマージ、これ」
シズクはブックホルダーから〈魔力貯蔵〉の学習書を取り出そうとした。マージはそれを止めるとブックホルダーの留め金を戻した
「え?」
「シズクさんにあげます」
「いいのか、高いんだろ。これ」
「書で手段を知り
成したことで価値を得る」
「何だよそれ」
「【タイギ】さん」
【『魔力貯蔵』の回収実行】
シズクの内からマージの『パス』が消えた。しかし、ここ数日の行使により『アーツ』はその術式をシズクの内で根を張るに至っていた
マージはシズクから立ち昇る魔力に変化がないことを認めると少し複雑そうに微笑んだ
「どういうことだ、おい?」
「…」
「マージ…」
マージは口を開くことなく、シズクを部屋から追い出した。マージのそれは〈追放への忌避反応〉だった。自ら退くことでその恐怖から〈自ら選んだ道〉とし、その結果を持って痛みを最小限に抑える選択をとったのだった
【才能】の差は何ともし難い、マージ自身がよく理解していることだった。シズクの飲み込みの良さから『魔力貯蔵』を自分で身につけていただろうと───自分がしたのは先取りをしただけだと〈自己否定〉を繰り返し、ウチに閉じこもったのだった




