1話
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・ありがとうございます
◆◇◆◇◆
世界には【スキル】という【形ある才能】が存在する。それは皆が一様に備えているものであり、何かしらに意味を持っている故に甲乙つけ難い代物である
更には【スキル】を使い熟すまでに至ることで【派生スキル】と呼ばれる物を手に入れることができる。それがこの世界の理である
【剣術】による一番槍の武功と称賛の果てに
神速の剣技へと派生する【剣聖】
発動することで目にも止まらぬ無数の攻撃を
放つことができる代物だ
【魔法】に精通し古代より脈々と語り継がれる
封印されし知識のもとで派生する【古の叡智】
古代の魔術を読み解き、人類ならざる
強力無比な一撃を放つことができる
【硬質化】を戦闘に利用し、数多の攻撃を受け
その果てに【金剛】に派生する
固きことまさに金剛
剣を生身で受け止める程の高度を誇る
【祈祷】を欠かすことなく天へと注ぎ
自らが神の使徒として見そめられれば
晴れて【天使の白翼】へと派生する
その祈り、癒しをもたらし
死に瀕した命を救う
それぞれが強力な【派生スキル】である
◆
「みんな、喜んでくれるかな」
此処に齢10を刻むか刻まないか、8を過ぎてはいる少年がいる。名をマージと言い、日夜スキルの勉強をしている勤勉な少年だ
彼が勉強をする理由はひとつ、仲間に褒めて貰うためだ。その為に今日も朝早くから夜遅くまで本を眺めて読み耽っている
彼が持つスキルは【貸技仲介】という【技巧反影】の【派生】だ。正確を記すならば【スキル】とは少し毛色の違う『形ある努力』を数多に有しているが現在は【貸技仲介】によりそれも有してはいない
以下は彼の仲間の4人とそれぞれ貸し出している『アーツ』の羅列である
アルトラの【剣聖】には
『加速制限』『軌道予測』『集中補助』
『虎徹剣術』『状況解析』『身体補助』
『心身健康』を貸し出し神速を人の手に
収まる様にしている
エリアの【古の叡智】には
『精神防壁』『詠唱加速』『詠唱圧縮』
『思考整理』『感情安定』『出力調整』
『魔力抑制』『反動吸収』『魔力効率』
『魔力生成』『魔力貯蔵』『魔力循環』
『直感検索』『テンプレート』その他
古より積み重ねてきた数多の知識
それらは日を追うごとに増していく
それに関する補助、補正は
幼い人の子では有り余る
魔力の運用に関する数多の
『アーツ』を幾重にも重ねて彼女を守っている
ゴードンの【金剛】には
『剛体化』『結晶庇護』『衝撃吸収』
『屈折率調整』『自己補修』『移動術』
を貸し出し彼の持つ金剛の脆さを
補って余りある強化を施している
ティーナの【天使の白翼】には
『霊体拡張』『祈祷術』『半柱化』
『持続時間拡張』『効果持続』
『霊体共鳴』『護身結界』『器』
『気配隠匿』『効果範囲拡大』
『気配察知』『予感』『予兆』
を貸し出し本来自己治癒の効果を
弄り広域化し、その背信に近い行為を
神を下ろすことで正当化し
その上で身に迫る脅威を
跳ね除けるだけの力を貸している
◆◇◆◇◆
そして、今、マージはとある書物を読み終えた
【『麻痺耐性』を更新
『分解耐性』を獲得
『錯乱耐性』を更新
『毒物検知』を獲得
『溶血毒耐性』を獲得
『狂毒耐性』を獲得
『解毒』を更新】
「ありがとうギコウさん」
返事はなくともマージは【スキル】に感謝を伝えた。今はなき【技巧反影】───それは『アーツ』の取得を目指すものには【素晴らしいスキル】だ
【『アーツ』の取得を告げる声】は本来手に入れたか不明瞭な『アーツ』の取得を明確化してくれる代物だ。無茶な努力、過剰な努力を抑制できる
「みんなに、渡さ、なきゃ」
徹夜に早起きとマージの身体は悲鳴をあげているが褒めて欲しい一心でマージは扉に向かって歩き出した。今度は褒めてくれると信じて
◆◇◆◇◆
「マージはどうだ?」
「まだグズグズやってるよ
ったく、スキルひとつ
覚えるのにどれだけかかってんだ」
マージの勉強部屋の向こうではゴードンとアルトラがマージの『アーツ』取得に時間を割き過ぎていることへの不満を溢していた
「どうかしたんですか?」
「廊下は寒い。立ち話するメリットが不明」
そんな2人の元にティーナとエリアがやってきた。外は寒さと銀世界が広がる時期に差し掛かっているのが見える。廊下も屋内とはいえ寒さに身を震わせること間違いなしと言った寒さをしていた
「マージの奴のせいだよ
次の迷宮攻略で使うスキルを
覚えるとか言って」
「なあ、そろそろいいんじゃないだろうか?
マージ程度が覚えられるスキルを借りても
もう仕方ないだろう」
「同意。エリアたちは十分に強い
これ以上、自分の身も守れない人員を
連れ回してもデメリットが過大」
「そうですね…。
彼も一生懸命なのは分かりますが
やはり才能の差は何ともし難いかと」
そんな会話をしている最中、扉が開きマージがくしゃみをひとつして出てきた。しかし、その顔には笑顔を我慢している節が見受けられる
「終わったよ!」
「遅えよ」
「ご、ごめんなさい
でも5個も覚えたんだよ」
「だから何だよ」
マージの顔から笑顔が消えた
「早くしろ
飯を食ったら迷宮に行くんだからな」
「うん、分かった」
【タイギ】さん
ティーナさんに『アーツ』を」
【仲介処理を開始
『麻痺耐性』を貸与
『分解耐性』を貸与
『錯乱耐性』を貸与
『毒物検知』を貸与
『溶血毒耐性』を貸与
『狂毒耐性』を貸与
『解毒』を貸与】
「また私ですか」
「うん、広域の…」
「出発は10分後だぞ
グズグズすんな」
ティーナが不満そうな顔をしたのを見てマージはその理由を伝えようとしたもののアルトラがそれを遮った
◆
よろめく足取りで階段を降り、がらんとした食堂で厨房の方まで歩き「すみません」と声を掛けた
「何だ?」
「まだやってますか?」
「あぁっても残り物くらいしか」
「それをください!お金ならあります」
「金はいらねぇよ、少し待ってろ」
「?はい」
厨房は朝の食事時を終え、片付けの最中だった。広い食堂の中で足を浮かせながらマージは食事が出てくるのを待った
「火傷、すんなよ」
「ありがとうございます」
「…」
差し出された器の中身は今朝の残り物を詰め込んだ"ごった煮"だったが厨房の計らいにより暖かった。それに嬉しそうにするマージは器を持ち上げ食事を胃に流し込むようにして咀嚼した
「ちゃんと噛めよ。喉に詰まるぞ」
「ご、ごめんなさい。でも…」
「おい!マージ!おせぇぞ!!」
「あ、行かなくちゃ、おじさん
ありがとう!」
「…」
少し離れた席でマージは厨房から顔を出していた料理人の男に挨拶をして、アルトラの元まで走っていった
◆
「いらねぇってのに」
空いた器を下げにきた料理人はそこに添えられた幾つかの硬貨をため息混じりに集めて厨房へと戻っていった
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