第1話 【攻略対象:青】を見て、前世の記憶を思い出す
目の前の真っ青な髪の美少年を見て、「毛根大丈夫?」という考えが不意に脳裏に浮かんだ。
子供の頃からこんなに真っ青に染めていたら、大人になってから毛根死滅しない?
いくらイケメンでもハゲだと厳しくない??
それによく見たら、この子、目も真っ青だ。凄い。まるで本物の碧眼みたい。
どれだけ青が好きなんだ。
こんなに幼いのにカラコンまで入れて、気合い入ってるなぁ。
いいえ、違うわ。
カラコンではなく、お兄様は元々夏空のような青いお髪と瞳の色なのよ。
うん? お兄様? この明らかにわたしよりも年下の美少年が?
そうよ、確かに彼はわたしの又従兄弟のアスールお兄様だわ。
ところで、カラコンってなあに?
あれ? なんかおかしい。
なぜか頭の中に2人分の思考がある気がする。
そこまで思い至ったところで、突如頭の中に膨大な記憶と知識が流れ込んできた。
それを処理し切れないせいか、頭が割れそうなくらいに痛い。
痛くて痛くてたまらない。
思わず頭を抱えたわたしは、痛みのあまり意識を手放した。
「リディア!」
意識が途切れる寸前、髪も瞳も真っ青な美少年がわたしの名前を呼ぶ声を聞いた気がした。
♢♢♢
それからわたしは3日3晩高熱にうなされた。
目を覚ますと両親と弟はわたしの無事を涙を流して喜んでくれた。
そんな家族を見ていたら、前世の記憶と知識を思い出したことなど、とてもではないけれど言えなかった。
なぜなら前世の記憶を思い出してからは、そちらの人格の方が強くなってしまったからだ。
前世、わたしは日本という国の学生だった。
大学生くらいまでの記憶しかないから、恐らくそのあたりで亡くなったのだろう。
それに対して今世のわたしはまだ10歳。
前世の方が長く生きていたので、前世の人格の方が強く出てしまったらしい。
今世の知識と記憶もきちんと残っているのがせめてもの救いだ。
けれど、家族がそれを知ったら悲しむに違いない。
この秘密は墓場まで持って行こう。
そう、あの時わたしの頭の中に流れてきた膨大な記憶と知識は、前世のものだった。
前世の記憶と知識を思い出したわたしは、この世界が前世の友人から借りて途中までプレイした乙女ゲームの世界であることに気がついた。
そのきっかけはあの真っ青な美少年だ。
わたしの記憶の片隅にあの夏空のように真っ青な髪と瞳、名前が引っかかっていた。
ゲームのタイトルは「colorful world」。
タイトルそのままに、カラフルな外見と名前の攻略対象者達とヒロインが学園で青春を謳歌する学園ものの乙女ゲームだ。
このゲームの登場人物は名前が外国語の色名から取られており、髪と瞳が名前と同じ色をしている。それで気がつけた。
あの真っ青な美少年は、アスール・キュアノエイデス公爵令息。
2つ年上のわたしの母方の又従兄弟で、ゲームでは1番人気(友人談)の攻略対象だ。
そして、わたしはリディア・フルウム子爵令嬢。
名前に色名が入っていないし、髪も瞳も平凡な薄茶色なので、ゲームの登場人物ではない。つまりはモブ。
ということは、ゲームの登場人物達に関わらなければ平穏無事に生きられるのでは?
幸いなことにゲームは学園ものだけあって、大きな波瀾万丈はない。
前世でプレイしていた時は大きな山も谷もない日常系のストーリーに少しもの足りなさを感じていたけれど、ゲームの世界に生まれ変わった今はとてもありがたかった。
これが世界を救うために冒険の旅に出たりだとか、剣と魔法の世界だったら、たとえモブでも、いやモブだからこそ、壮大な世界観に対して大したスペックもなくて、ハードな人生になるところだった。日常系万歳だ。
しかもゲームの期間は入学から1年生の終わりのまでのたったの1年間だ。
1年くらいだったらなんとかなりそうな気がする。
お兄様は又従兄弟なので仕方がないとして、他の登場人物達は避けまくろう。
うっかりヒロインの恋路を邪魔してしまったら、ゲームの強制力に異分子と見なされて排除されてしまうかもしれない。
前世は夭折してしまったので、今世は天寿を全うしたい。
平穏無事に生きて天寿を全うする。
それが今世のわたしの目標だ。
ゲームは学園ものなので、学園入学からスタートする。
学園入学は15歳。現在わたしは10歳。
とりあえず入学するまではお兄様以外の登場人物と会うことはないだろうから、あと5年は安心かな。
……と、この時のわたしは楽観的に考えていた。
けれどもそれからすぐに別の登場人物と遭遇することになってしまった。
本日はあと2回、15時と18時にも更新予定です。




