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異能力者達の夜明け  作者: ゆーろ
冒険者達の午後
PR
13/28

冒険者達の午後 幕間×1


冒険者達の午後 幕間×1

0:ーーー「何某」ーーー



0:登場人物


ガロ:男。ガロンドール・ウォンバット。冒険家。


カラス:男。カラス。侍。


ヴァン:男。アーヘン高等学院生。


林檎:男。林檎。A級ソロギルド赤い林檎リーダー。本名 アレジ・ロンドン。※ポルジッコを兼役


フェリス:女。フェリス・ローレンス。A級ギルド禄戀会所属。※少年を兼役


ニカク:男。ニカク。侍。A級ギルド禄戀会幹部。通称「任侠」


フクロウ:不問。フクロウ・トクミツ。桜花一刀流師範代。



0:ーーー「何某」ーーー



カラス:(M)ーーーー花弁が、盃に落ちたのを覚えている。


0:回想

0:14年前


少年:(M)産まれた時から、独りだった。親は居ない。京都の隅っこで捨てられた俺は、その日食う物を調達する為なら、平気で盗みをした。暴力も奮った。善悪の区別が付いたのは、もう暫く後の事だった。


0:京都

0:明野宮

0:庭園


フクロウ:「おや。誰か、来ているね」


少年:(M)大層な家だった。二週間、飲まず食わずで逃げ続けた俺に残された選択肢は、言うまでもなくその類だった。


フクロウ:「やあ。初めまして。」


少年:(M)黒い着物に身を包んだそいつは、目が見えないのか、目を瞑ったまま顔を向けた。相当な世間知らずか、相当な馬鹿。ご時世から外れた身なりもそうだが、唐突の来訪者に、一切の疑いを持たなかった。ラッキーだと思った。


フクロウ:「私はフクロウと言う。」


少年:(M)その瞬間。俺は地面に突っ伏していた。手首の関節がジリジリと痛むのを感じる。


フクロウ:「君は誰かな」


少年:「な、なんだお前…っ。離せ…!」


フクロウ:「…。お腹が空いているのかい?」


少年:「…!」


フクロウ:「暫く水分も取れていないようだ。」


0:フクロウは手を離した


フクロウ:「おいで。直ぐに栄養を補給した方が良い。余り豪華なものは用意出来ないけど、我慢しておくれ」


少年:「…は?」


0:フクロウは縁側に立った


少年:「ちょ、ちょっと待てお前…!」


フクロウ:「そう警戒しないでおくれ、大丈夫。米は今朝炊いたばかりなんだ。」


少年:「いや、そういう話じゃあなくてだな…!」


フクロウ:「君はお腹がすいたからここまで来たんだろう。ほら、早くおいで。」


少年:(M)まるで理解が出来なかった。出処も知れないガキになぜ施しを与えるのか。大人の考えることは、分からない。ただ、目の前に出されたお椀一杯の米を見たら、その疑問も消えた。


0:居間

0:ご飯を平らげたカラス


フクロウ:「はは、よく食べたね。美味しかったかい」


少年:「…。」


フクロウ:「んん。まだ警戒している。」


少年:「そりゃそうだ。何が目的だ。」


フクロウ:「米一粒も残さず平らげておいて、今更敵意なんか向けるものじゃない」


少年:「うるせえ。アンタ、一歩間違えれば殺されてたんだぞ」


フクロウ:「そうだろうね。さっきの君は、そういう雰囲気を醸し出していた。でも問題ない、私は君には殺されない。」


少年:「この、舐めやがって…っ。」


フクロウ:「やめておいた方がいい。栄養は取れど、まだ身体は憔悴し切っている。君みたいな若人が、そう死に急ぐものじゃない。」


少年:「ふざけんな、テメェに心配される謂れはねえぞ」


フクロウ:「…。その若さで。随分と、長く、寂しく、苦しい旅をして来たんだね。」


少年:「は…?」


0:フクロウはカラスの傷口に触れる


フクロウ:「未だ善悪の基準も無く、産まれたての雛のような子だ。それでいて、野生獣のような鋭さを持つ。」


少年:「おい、触んな…っ。」


フクロウ:「大変だったろう。寂しかったろう。これは大人の責任だ。君のせいじゃない。君はただ、生きていただけだ。」


少年:「何言ってんだよ、さっきから、分かった風な事ばっか言いやがって」


フクロウ:「ただひたすらに、ひたむきに。今だけを見て、走ってきたんだね。」


少年:(M)何を言っているのかは、終始理解が及ばなかった。けれども、景色の映らないその目は、しっかりと。俺を見ていた。


フクロウ:「きっと君を理解してくれる人は少ない。俗世で悪いとされることを沢山してきたんだろう。けれどこの世の中。「仕方がなかった」という言葉でしか消化しえない物もある。」


カラス:(M)ーーー桜の似合う人だった。


フクロウ:「君の名前は、なんて言うんだい。」


カラス:(M)俺が終わらせたのは。全部だ。全部全部。俺が、終わらせた。


少年:「ーーーカラス。ただの、カラスだ。」


カラス:(M)あの日から。手放す決断に身を投じた。


フクロウ:「いい名前だ。」


0:フクロウはカラスの手を取った


フクロウ:「カラス。君は今から。何を見る。」


0:回想終了

0:場面転換


0:場面転換

0:イタリア ソニア病院


カラス:「ーーお、れ。は…」


0:目が覚める


ヴァン:「お。やっと起きたか」


カラス:「…。」


ヴァン:「おはよう、カラス」


カラス:「…っ…!」


0:カラスは起き上がった


ヴァン:「安心しな、ここはイタリアの地方病院だ。」


カラス:「は…?イタリア…?」


ヴァン:「ああ。グリム写本の一件は既に片付いたみてぇだ。」


カラス:「どういう事だ。リベールじゃねえのか。ここは」


ヴァン:「そうだよ。匿われた、と。」


カラス:「匿われた…?誰にだ」


0:病室の扉が開く


フェリス:「はぁ〜い、ご飯持ってきたよぉ。」


ヴァン:「禄戀会だ。」


カラス:「ふぇ」


フェリス:「…へ」


カラス:「フェリス!?」


フェリス:「カラスーーーーー!」


0:フェリスはカラスに抱き着いた


カラス:「おぶごっ。」


ヴァン:「ひょお。」


フェリス:「よかったーっ。やっと目覚ましたんだっ。まじで、全然目覚まさないから、そのままおっ死ぬかと思ったよ、こんちくしょうっ。」


カラス:「お、おお。悪い。」


フェリス:「でも、目が覚めてよかった…っ。」


カラス:「分かったから離れてくれ、痛ぇ。」


フェリス:「ああ、ごめんごめん。はは、まずは、久しぶり。ギルド試験ぶり」


カラス:「おう、ご無沙汰だ。で、なんでお前がこんな所で俺らの看病やってんだ。」


フェリス:「看病と言うかね。うーん。」


ヴァン:「まずは飯だろ。丸三日寝っぱなしだったんだ。腹になにか入れねえと、点滴だけで肉が塞がる質でもねえだろ」


カラス:「三日…?」


フェリス:「そーだよ、まじで心配したんだからね」


カラス:「ちょっと待て。」


フェリス:「…」


カラス:「ノエルは、どうなった。」


ヴァン:「…。」


カラス:「ガロは、アロハはどうなった」


フェリス:「…順番に、話すよ。」


カラス:「…」


フェリス:「まず。ガロも、ノエルも。生きてる」


カラス:「…!」


ヴァン:「らしいわ。どんな手を使ったかは知らねえが。グリム写本の一件はアイツら自身が終わらせたらしい。」


カラス:「そうか…そうか。」


フェリス:「でも。ジャイロは。分からない」


カラス:「…は?」


フェリス:「あの二日間で、色々な事が起こりすぎた。リベールはもう完全封鎖されたよ。」


カラス:「完全封鎖…!?どういう事だ」


フェリス:「ーーーグランシャリノが、リベールを落とした。」


0:場面転換


ヴァン:(M)遡る事。20時間前。ノエル・ベルメットがグランシャリノの手に落ち、ジャイロ・バニングスが消息不明になった。実に、4時間後。


0:メキシコ シェフロア山脈


林檎:「本当に行くのかい。グランシャリノの根城に」


ガロ:「ああ。」


林檎:「無謀だ。ジャイロ・バニングスの生死すら確認できてないのに」


ガロ:「ジャイロは生きてる。」


林檎:「…」


ガロ:「アイツは。絶対に。生きてる」


林檎:「最後に見た彼の出血量は、確実に致死量だった。仮に生きていたとしても、既にグランシャリノの手中に落ちているのは間違いないよ」


ガロ:「だったら助けりゃいいだけだ。俺が。」


林檎:「…。無理だよ」


ガロ:「…あ?」


林檎:「今の君じゃあ、到底叶わない。」


ガロ:「そんなもん、お前が決めんな」


林檎:「実際にそうだったろ。君も、異能狩りも、手も足も出ない。逃げようにも囲まれて、僕があの場に居なかったら二人ともあの場で死んでいた。」


ガロ:「知ったことかよ…!死んだらそこまでだ。」


林檎:「勇敢と無謀は違う。よく言うだろ」


ガロ:「無理だろうが何だろうが、助けるんだよ…!」


林檎:「ガロンドール・ウォンバット」


ガロ:「なんだ。」


林檎:「今行ったら、後悔することになるぞ」


ガロ:「…」


林檎:「君一人じゃあ不可能だ。敵はグランシャリノ。国家情勢すら揺るがす超大型ギルドだよ。」


ガロ:「はっ。それこそ俺が決めることだ…!俺は今、アイツらを助けねえと、死ぬまで後悔する…!!」


林檎:「…。どうしてもグランシャリノに立ち向かうと言うなら。僕が君を殺すよ。今。ここで」


ガロ:「ああ、分かった。やってみろ、林檎野郎…!」


林檎:「はあ。つくづく、僕とは違う人種だ、君は。」


ガロ:「GRID・BORROW…ッッ」


0:異常性は発動しない


ガロ:「…あ…?」


林檎:「…。」


ガロ:「GRID・BORROWっ。」


0:異常性は発動しない。


ガロ:「なんで、だ…!なんで使えねえんだ…!」


林檎:「グランシャリノとの一戦で酷使し過ぎだ。クールタイムだよ、今の君は。ただの人1人だ。」


ガロ:「…く、そ…ッッ…!!こんなことしてる場合じゃねえのに、こんな所で、こんな事で、足踏みしてる場合じゃねえのに…っっ…!」


林檎:「SCRAMBLEスクランブル


0:林檎はその場から消えた


ガロ:(M)…!消えた…!どこ行きやがった…!


林檎:「はい。一本。」


0:林檎はガロの背後にいる


ガロ:「ーーー…」


林檎:「自慢だけど。僕は強いよ。君の10倍は強い。そんな僕ですら手を焼くのがグランシャリノだ。君なんかな、アイツらにとって、いてもいなくても変わらない様な人間で、巻き込まれるだけの、動かない駒でしかないんだ」


ガロ:「…」


林檎:「でも。君は、自由でいたいんだろう。冒険家って言ったね。この社会で、異常体として生まれた君がそれを目指す意味は、君が理解するよりも遥かに難解だ。責任が伴う。別れが着いて回る。辛さも、悲しさも、その全てが。自由という無秩序に身を投じた君のせいだ。」


ガロ:「…。」


林檎:「自由の代償に。君は何を捨てられる。」


ガロ:「…っ…。」


林檎:「前も言った。僕は君に、力の使い方を教えてやれる。でも、生き方は教えられない。僕にも僕の目的がある。その為に、君を選んだ。だが、君がその程度で折れてしまうのであれば、ここで死んでくれ。」


0:場面転換

0:時間は現在に戻る

0:イタリア ソニア病院


ヴァン:「…。」


フェリス:「以上が、事の経緯だよ。」


ヴァン:「そうか。グランシャリノ、そこまで好き放題しやがるか。」


フェリス:「禄戀会でも超警戒態勢を置いている。アカシさんが嫌にガロを気に入ってて、私も気になってたから、二人をリベールから逃がしたって訳」


ヴァン:「…そうか。」


カラス:「…っ…。」


0:カラスはベッドを殴った


カラス:「…情けねえ…ッ…!!!」


フェリス:「…」


カラス:「ガロとアロハが、死に物狂いで戦って、ノエルは自分の身を呈してグランシャリノに身を売って、アロハはガロを逃がす為に消息不明…っ…。その間、俺はなんだ。何してた…!寝てただけってか…!?冗談じゃねえ…っ。」


ヴァン:「…」


カラス:「ーーー余りにも、情けねえ…っ…!!」


フェリス:「…カラスのせいじゃないよ」


カラス:「そんな話してんじゃねえ、誰のせいだなんて、そんな事ぁどうでもいい…っ。俺が、あの時。あのクソ神父の首をさっさと斬ってりゃあ、こんな事にはならなかった…!俺がついていながら、とてもじゃねえが、侍を名乗る道理もねえ…!!」


ヴァン:「…。まあ、そうさな。俺も同じようなもんだ。完全に油断した。オーウェンが想像以上に場馴れしてたのも、あんな大勝負に、あのタイミングで出るのも、全てが予想外。でも、思いもしなかった、で片付けられるほど、器用な性分じゃねえ」


カラス:「…っ…。」


フェリス:「…二人に、ガロから手紙が来てるんだ。」


0:フェリスは手紙を渡した


フェリス:「つい今朝方届いた。渡しとく」


カラス:「ガロから…。」


0:カラスは手紙を乱暴に開いた


ガロ:(M)「一週間後。リベール、キャリオンマウンテンにて待つ」


カラス:「…」


ヴァン:「…。ぐちゃぐちゃだな。」


フェリス:「それが何を意味するのかは分からないけど…。」


ヴァン:「一週間後…。どういう事だ、アイツなら今すぐにでもって言いそうなもんだと思ったが」


フェリス:「そうだね、ガロならそう言うと思う。何の一週間だろう」


ヴァン:「…まあ。当のコイツは、何かしら察してる様だが」


0:カラスは手紙を握った


カラス:「…。了解だ。リーダー…っ。」


0:場面転換

0:20時間前


ガロ:「…俺は…!」


林檎:「…うん。」


ガロ:「何も捨てねえ!!」


林檎:「…」


ガロ:「全部、全部全部!俺の周りにあるものは!絶対に手放さねえ!」


林檎:「理想論だよ」


ガロ:「それを目指すのだって自由だ!!」


林檎:「…」


0:ガロは地面に頭を擦り付けた


ガロ:「…。悪かった。冷静じゃ無かった。今のままじゃ、また返り討ちに合うだけだ。…分かってる。本当に、今すぐ助けに行きたい、けど…っ。今の俺じゃ、アイツらに勝てない」


0:場面転換

0:20時間後


カラス:「ヴァン。」


ヴァン:「ああ、なんだ。」


カラス:「お前、中央政府職員の卵なんだってな」


ヴァン:「…。ああ、そうだぜ」


カラス:「じゃあ、使えるのか。執行術っての」


フェリス:「…!」


ヴァン:「…。まあ。流石に本職にゃあ敵わねえが。」


カラス:「そうか。充分だ。」


0:カラスはヴァンに頭を下げた


フェリス:「ええっ。ちょちょい、カラス??」


カラス:「やり切ったと思った。だが、まだまだ上がある。ただ一人の剣士として、もっと強くなりたい。それよりも先に。」


ガロ:『自由の代償は、全部。全部全部、俺が払う。俺がケツを拭く。だから』


カラス:「その為の力を」


ガロ:『俺にくれ』



林檎:「…。」


林檎:「そうか…。うん。何れ、その「壁」は君か、若しくは、同じ新しい風が吹き壊してくれるはずだ。その役目は、きっと僕じゃない」


ガロ:「…?」


林檎:「さっき言った通りだ。僕は君に、力の使い方を教える。だけれども、生き方は教えられない。それは君の気付きに懸かっている。」


0:林檎は立ち上がる


林檎:「一週間だ。」


ガロ:「…」


林檎:「グランシャリノが本格的に動き出す前であり、君の仲間の安全が、恐らく保証され、君が力を身に付けるに叶うギリギリの日数。それが一週間。その間、君には寝る間も惜しんで、僕は異常体として。どう力を使うかを君に伝える。いいね」


ガロ:「…。ああ。分かった。」


0:場面転換

0:20時間後


ヴァン:「…本当はダメなんだがなあ。」


カラス:「グランシャリノがどれだけ手練揃いなのかは知らねえが、ガロとアロハがしてやられたんだ。きっと、今の俺でも太刀打ちできねえ様な奴が居ると踏んだ。だから、新しい見聞を取り入れる必要がある…!」


ヴァン:「…はっ。」


カラス:「…」


ヴァン:「いいさ、一週間、ミッチリ叩き込んでやる。ただ、出処は内緒にしといてくれよ。」


カラス:「…恩に着る…!」


0:場面転換

0:20時間前


ガロ:(M)少しだけ、寄り道してくる。ノエル、ジャイロ。絶対に。お前らを助ける。だから


0:林檎は手を差し出した


林檎:「改めて。アレジ・ロンドンだ。よろしく」


ガロ:(M)少しだけ待っててくれ。


0:ガロは林檎の手を強く握った


ガロ:「ガロンドール・ウォンバットだ…っ。よろしく頼む…!」


0:場面転換

0:イタリア ソニア病院


フェリス:「…あーね!この一週間って、そういう…」


ヴァン:「バカ同士にしか分からねえ最高の暗号らしいな」


フェリス:「はは、いやはや感服。そういう事か。ここでもう一つっ。私からカラスへ言伝があります!」


カラス:「なんだ?」


フェリス:「カラスと初め会った時から、面白いと思ってたんだよ。禄戀会にもね、居るんだ。刀を扱う武人が。その人から。直々に稽古をつけて貰えるよう、手配が済んである」


カラス:「まじか…!」


ヴァン:「あー、そういやなんか居たな。」


フェリス:「そう、通称、「任侠」と呼ばれる剣士だ。こんな街中で訓練なんかしたら目立つし、その人のところまで案内するよ。」


ヴァン:「ひょお〜、持つべきものは禄戀会のツテだな。」


カラス:「何から何まで、悪いな」


フェリス:「良いってことよ。私もアカシさんから2人の護衛命令貰ってるし。同期の好だと思って、ね。」


カラス:「ああ。有難く頂戴する」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:「…。」


0:ガロは冒険譚をテントに置いた


林檎:「…?何してんのガロ、行くよ?」


ガロ:「おう、すぐ行くよ」


林檎:「…。おっけ、わかった。」


0:林檎はテントから出た


ガロ:「…。」


0:ガロは立ち上がった


ガロ:「…。行ってくる。」


0:ガロはテントを出る


ガロ:(M)ガロンドール冒険譚。外伝。


ガロ:(M)A級ギルド。赤い林檎リーダー。アレジ・ロンドンに修行をつけてもらうことになった。


ガロ:(M)もっと、もっともっともっと、強くならないと。


ガロ:(M)でなきゃあ、自由は勝ち取れない。


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈


フェリス:「ふう、やっぱ、きっつい。」


カラス:「随分登ったが、どこだここは」


ヴァン:「ブランコ山脈、標高6200mにも登る僻地だ。夏は最高気温43度を超え、冬は最低気温-21度、積雪4メートルと。日本の四季よりも遥かに壮絶な環境変化を持つ山脈で有名だ。勿論、こんな環境に人が住めたもんじゃねえが。」


カラス:「…だが。居るんだろう。ここに。その剣士が」


フェリス:「うん。この環境だがらこそ、鍛錬に相応しいんだってさ。凄いよね、普通に。ちょっと引くもん。あ、オフレコで」


カラス:(M)傾斜がえげつねえ。足場も悪い。山を登るだけでも相当体力持ってかれる。


ヴァン:「…」


カラス:「おい、ヴァン」


ヴァン:「なんだ。」


カラス:「お前。全くと言っていいほど息切れしてねえな。」


フェリス:「あ。確かに。凄いね。ここに来くるの2回目だけど、私ヒーヒーだもん。」


ヴァン:「そりゃあ、自分の呼吸を無視するからだな。」


フェリス:「呼吸?」


ヴァン:「人には人のペースってのがあるのよ。敵を見る前に、まずは自らを見ろって。最大の敵は己自身だって。なんかの教科書に書いてあった気がするぜぇ。」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


林檎:「僕の手を殴ってみてくれ」


ガロ:「は…?」


林檎:「ただのパンチだ。」


ガロ:「ったく、よく分かんねえけど。分かったよ」


林檎:「うん。全力で頼む」


0:ガロは拳を振りかざした


ガロ:「そぉぉおおおおらっ…!」


0:ガロの拳は手のひらに収まる


林檎:「…。手応えは?」


ガロ:「ねーよ。殴ったにも満たねえ」


林檎:「そう。こりゃあおかしい。僕の手のひらにはダンゴムシでも乗ったんじゃないか、くらいの衝撃しか残ってない。君の筋肉量。殴る速度から考えて、採算の合わない結果だ。」


ガロ:「意味わからん。何が言いてぇんだよ」


林檎:「君は、異常性を使った後、その行動が、現実では考えられない質量となる。ってなると、こう考えられないかな」


0:林檎はヒラヒラと手を回した


林檎:「ーーー君の異常性は。「運動エネルギーの前借り」なんじゃないかって。」


ガロ:「運動エネルギーの前借り…?」


林檎:「ああ。僕がこう思った最大のきっかけは、君。異常性のクールタイムを「リセット」する座標があるだろ」


ガロ:「おう、ある。」


林檎:「それは前借りが終わったあと。運動エネルギーの借金を返済している中、更に未来の運動エネルギーを繰り越しで借りる行為。つまり、「前借りの前借り」をしている状態だ」


ガロ:「…」


林檎:「そして、前借りをするに当たって必要な計算式が二つ。確か、グリッドボロウ、だったかな。それはどの結果を前借りするかの計算。二つ目のトリガーワードで、その結果を放出する計算。この連立式と考える」


ガロ:「おお…」


林檎:「つまり君の異常性は、その定義の転換次第で、如何様にも化ける代物なんだよ。ガロ」


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈。頂上付近


カラス:「おお。見えてきたぞ」


ヴァン:「こご頂上か?ほほぉー、雲隠れってやつだ。壮観だなあ」


フェリス:「だね…っ。はぁ…っ。着いたぁ…」


ヴァン:「それで。どこに居るんだ。その剣士ってのは。」


カラス:「…あの小屋か?」


0:カラスが指さす方向には、小さな木造の小屋がある


フェリス:「そうそうあれあれ、ってよく見つけたね」


カラス:「…。」


フェリス:「よっこらせ、すみません!いらっしゃいますか!」


ヴァン:「さて、禄戀会の任侠。いざ拝見、だな。」


カラス:(M)小屋の中から。聞き覚えのある鼓動が聞こえてた。


フェリス:「あれ、居ないんですか〜?ニカクさん!」


カラス:(M)俺が一番。よく知ってる。


ニカク:「あ〜もう、そんなに叫ばなくても聞こえてる。少し待たないか」


フェリス:「あ、すみません。どうも、ご無沙汰ぶりです、ニカクさん」


ニカク:「ああ、彼らが例の」


フェリス:「はい。」


カラス:「…は…?」


ニカク:「…。久しぶりだ。カラス。」


フェリス:「…え?」


カラス:「てめぇ…」


フェリス:「やっぱり知り合いですか?」


ニカク:「まあ、そうだな。旧縁だよ。」


カラス:「ーーーニカク…!」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:「FURU・BURSTッッ!」


0:殴るが止められる


林檎:「っと。そうそう、その調子だ」


ガロ:「ーーはぁ、はぁっ…!くっそ、めちゃくちゃ、難しいぞこれ…!」


林檎:「この程度へこたれるなよ。」


ガロ:「へこたれてねーーし!」


林檎:「はは、よく言う」


0:回想


ガロ:「ーーーLimitリミットBORROWボロウ


0:身体は熱を帯びる


林檎:「よし。出来たね。」


ガロ:「おう。」


林檎:「君の一日目の訓練はひとつ。常にトリガーワードを、即ち異常性を行使し続けながら、異常性を使わないこと、だ。」


ガロ:「…は?」


林檎:「一度やった事があるんだろ。グリム写本?ってのの解決で。異常性を使いながら、その座標をズラして異常性を発動させない訓練を」


ガロ:「ああ。やったけど。」


林檎:「それを、僕と戦いながら常にしてもらう。僕に一発貰ってもOUT。異常性を発動してしまってもOUT。山脈20周だ。」


ガロ:「……はぁ…??」


0:回想終了


林檎:「そぉら!」


0:蹴った


ガロ:「ごほっ…!」


林檎:「はいはい、次だよ次。」


ガロ:(M)1回出来たから余裕だと思ったけど…思ってたよりも、ずっっと、ずっと難しいぞこれ…っっ…!


林檎:「はーーーいまた下向いた!」


0:殴る


ガロ:「きゃべつ!」


林檎:「そんなんじゃ!」


0:蹴る


ガロ:「ごまあぶら!」


林檎:「エマにも勝てないぞ!」


0:殴る


ガロ:「しお!」


林檎:「ったく。このヘナチョコが」


ガロ:「っそ…!誰だよエマって!!」


0:走った


ガロ:「FURUフルッッ!」


林檎:「…!」


ガロ:「BURSTバーストッッ!!」


林檎:「Scrambleスクランブル


0:異常性は発動し、爆風が山脈を揺らした


ガロ:「うおおっ!?やっっべええ!使っちまった!!」


林檎:「っと。おいおいおい。危ないな。」


ガロ:「くそ…!」


林檎:(M)一発で山脈と雲の一部を削り取る程の威力。なるほど、そりゃあ超新星って呼ばれるわけだ。


ガロ:「LimitリミットBORROWボロウ…ッ!」


0:身体が発熱する


ガロ:「林檎、もう1回だ。」


林檎:「…。君、前も説明したけど。それは前借りを更に繰り越して前借りする、所謂奥の手だ。使い過ぎちゃあ、その分のしわ寄せも凄いものになるよ」


ガロ:「俺は言ったぞ。自由の代償は、俺が全部払う。その為なら、グランシャリノをぶっ飛ばすまで。何回だって借りてやる。」


林檎:「…。駄目だ。」


ガロ:「は?」


林檎:「まず、山脈20周」


ガロ:「げ。ちょっと待てよ、そんなことしてる場合じゃあ…」


林檎:「常に緊張感を持ってもらう為だ。座標定義を意図的にズラすってのは想像以上に難しい。神経も使う。無駄に集中力だけ消費するのも勿体無いし、体力も着くからね」


ガロ:「〜〜っ。わぁーったよ。行ってくる」


0:ガロは走り去った


ガロ:「…っそ…!くそ!くそ!!」


0:ガロは走りながら叫んだ


ガロ:(M)次から次へと、嫌ってほど強い奴が出てきやがる…!!俺、まじで何も出来ねえ…!


0:ガロは速度を早める


ガロ:「だぁーーっ!ちくしょおおおおっ。」


0:場面転換

0:回想 11年前

0:日本 京都 明野宮


フクロウ:(M)カラスが家に来てから。4年。随分と時が経った。


少年:「おい。クソ師範代」


フクロウ:「なんだい。カラス」


少年:「俺と戦え」


フクロウ:「はは、またかい。」


少年:「戦え。」


ニカク:「おい。カラス」


少年:「なんだァ、こら。」


ニカク:「お前が今、誰に向かって口効いてるか、分かってるのか。」


少年:「ああ知ってるさ。日本最強と名高い剣士だ。だからこうして剣交えようとしてんだよ」


ニカク:「分かってるなら下がれ。師範代はお前なんかに時間を割くほど暇じゃないんだ。」


少年:「そんなもんてめぇが決めてんじゃねえよクソアマ」


ニカク:「クソ…?」


フクロウ:「こらこら。よさないか。」


ニカク:「…そもそも、師範代はカラスに甘過ぎますよ。ここは政府直下の桜華道場です。こんな何処の馬の骨とも知れない奴を置いておく程、敷居の低い場所では無い」


少年:「随分な物言いじゃねえか。そんなに偉いか、ボンボンが」


ニカク:「出生に限らず、礼節を欠く程落ちぶれたつもりは無い。」


少年:「ああ…?」


ニカク:「はあ…?」


フクロウ:「ははは、仲がいいね、二人は」


少年:「どこがだ!」


ニカク:「どこがですか!」


フクロウ:「…そういう存在はね、大切にした方がいい。切磋琢磨する友と言うのは、生涯何者もにも変え難い宝になる。」


ニカク:「私とコイツじゃあ勝負にもなりません」


少年:「言いやがったなテメェ。表出ろや。」


ニカク:「なんだ。やるか?丁度いい、お前にはいつか自分の未熟さを分からせてやりたいと思っていたんだ。」


少年:「お前から教わることなんざねえよ、精々のお高く止まった鼻がへし折れねえよう、大事に隠しとく事だな」


フクロウ:(M)心地好い、春の風。桜が舞い、盃に落ちた。


0:道場


ニカク:「桜華一刀流。壱の型、皆伝。ニカク・シュウレン。参る」


少年:「カラス。ただのカラスだ。」


フクロウ:(M)刀は身を離れる。理に至るは、意志足る剣。


0:二人は木刀を構えた


ニカク:「はぁぁあああっ!」


少年:「うぉぉおおおっ!」


0:回想終了

0:イタリア ブランコ山脈

0:剣戟の音


カラス:「ーーーーぉぉおおおおおッ…!!」


フェリス:「ーーーすっ…ごい…」


ヴァン:「流石に禄戀会幹部って感じだなぁ。」


カラス:「ーーーはぁ…はぁ…っ…!」


ニカク:「桜華流。中段」


カラス:「冗談、じゃねえ…!」


ニカク:「抜刀」


カラス:「お前がそんな剣筋な筈がねえんだ…!」


ニカク:「中断なかだち


カラス:「がっ…!」


0:カラスの刀は宙を舞い、地面に落ちる


カラス:「ーーーはぁっ…。はぁ、はぁ。」


フェリス:「そこまで!!」


ニカク:「…」


フェリス:「10本。ニカクさんの勝ち、です」


カラス:「…そっ…。くそ…!」


ヴァン:「こりゃ確かにA級ギルド。とんでもねえ体捌きだ。」


ニカク:「暫く合わない間に。随分差が開いたな。カラス」


カラス:「この野郎…!」


フェリス:「まあまあまあ、その辺で。一回休憩にしよう。」


ヴァン:「んだな。会うなり手合わせだのなんだのって。生き急ぎ過ぎだ。」


カラス:「…」


ニカク:「まるで話にならん。これでグランシャリノに喧嘩を売るつもりだったのか」


カラス:「んだと…」


ニカク:「久しぶりに剣筋を見れば。尽くガッカリさせる」


カラス:「…っ…。」


フェリス:「ニカクさん」


ニカク:「…。」


0:ニカクは刀を鞘に収めた。


ニカク:「今のお前じゃあ、打ち合う意味すらない。」


カラス:「…!」


ニカク:「フェリス。猶予は一週間だったな」


フェリス:「はい、みたいですね」


ニカク:「…。一週間。実ったら私の所に来い。その時は相手してやる。」


カラス:「…。」


ニカク:「言い返す言葉もなし、か。」


カラス:「…。10本中。一本も取れなかったんだ。認めるさ。今は、お前の方が強い。」


ニカク:「…そうか。」


0:ニカクは小屋に入った


カラス:「…」


ヴァン:「…あ〜…」


フェリス:「まあまあ、元気出しなよ、カラス」


ヴァン:「お前のそれって無自覚なのか?」


フェリス:「なにが?」


カラス:「ヴァン。」


ヴァン:「あー。おう。なんだ」


カラス:「今の俺は。何がダメだった。」


ヴァン:「そうさな。兎にも角にも事情聴取から。ニカクちゃんと戦って、どう思った?」


カラス:「…。遠かった。余りにも」


ヴァン:「ふむ。」


カラス:「俺の刀は届かないのに、あいつの刀は喉元にある。そんな情景が10回も続いた。少なくとも、あの15分間。俺はずっと主導権は握られていた。」


ヴァン:「よく見えてる。因みに。先に言っとくが。アンタは天才だ。その上で聞かせてもらうぞ。その才能、今まで磨かずに何してきた」


フェリス:「え?」


カラス:「鍛錬を怠ったつもりはねえ」


フェリス:「いや、うん。そりゃそうでしょ。カラスだよ?内臓溢れても修行してるって」


ヴァン:「ンマー。身体的に鍛えちゃいるんだろうが。その驚異的な六感と、野生獣にも近い勘所。そして何より、「成長途中」の技術。ここがねえ。」


カラス:「…!」


ヴァン:「ニカクちゃん。多分、アンタと同じ流派の人間だよな。じゃあフェリスちゃんでも分かるんじゃないか。カラスとニカクちゃんの差が」


フェリス:「いやまあ、そりゃあね。速さも動きも、どれとったってそうだし。あと。こう、何気ない予備動作一つ一つが、ニカクさんは「丁寧」だったかも。攻め切るって言うか。伸びきってる感じ」


ヴァン:「そう。そこなんだわ。カラス、アンタ強くなるだのなんだの抜かすが。その「型」は独学に近い形になってんな。しかも、悪い方向に」


カラス:「…」


ヴァン:「俺にはねえ。アンタみたいな天才が、自分の成長限度を、ある一定のラインで「止めちまってる」ようにしか見えねえんだわ。」


カラス:「…。思い当たる節はある。言い返す言葉も無い。」


フェリス:「うわ。正直だなぁ〜。」


ヴァン:「…。まあ、別にその理由を詮索するわけじゃねえが。アンタに必要なのは「技」だ。心·技·体、どれを欠いても駄目だってのが武術、剣術のセオリーな筈だぜ」


カラス:「…。かたじけねえ。本当に。言い返す言葉がねえ。」


0:カラスは拳を握った


カラス:「その上で…!無礼千万、手前勝手な願いだと承知の上で、今はこのまま。やらせてくれ。」


フェリス:「うわわわあ、本当に本当に正直だなぁ」


ヴァン:「…。分かったよ。ただ、アンタが「ベスト」を尽くさねえなら、俺だって降りる。そこんとこは頼むぜ」


カラス:「ああ。誓う。」


ヴァン:「…よしっ。そんじゃあ、思考と観察について説明してやる。メモとれよ」


カラス:「分かった」


フェリス:(M)素直だなあ…


0:場面転換


0:場面転換

0:ブランコ山脈近辺


ヴァン:「監察官は対異常体を想定して、常に思考を辞めない。こりゃ対人戦だって同じだ。最後の最後まで、生き残る方法、勝つ方法、逃げる方法、殺す方法、様々な観点から頭を回してみる。」


フェリス:「へえ。疲れそうだね」


ヴァン:「そりゃ疲れるさ。その思考回数は洒落にならない。有り得るかもしれない杞憂に振り回され続けるんだからな。そんな徹底ぶりだからこそ、人が異常体を殺す方法。とか呼ばれてるんだが」


フェリス:「うわ!それCMで見た事ある!」


ヴァン:「はは、だろ。」


カラス:「有り得るかもしれない、もしかしたら、か。」


フェリス:「じゃああれだ、カラスってどうやっていつも戦ってんの?勘?」


カラス:「ああ。その場の思い付きと勘だな。」


フェリス:「どっちも勘じゃん」


ヴァン:「あながち悪くない。人ってのはいつ如何なる時も、第三の目を持つのが最良だと言われてる。」


フェリス:「第三の目!」


ヴァン:「いや、そういうキラキラしたもんじゃねえや。悪ぃな。」


フェリス:「そっかあ…」


ヴァン:「鷹の目って聞いたことあるだろ」


カラス:「ああ、自分を真上から見たような視点で見るアレだな」


ヴァン:「そう。あれは空間の観察だ。そいで「あ、次こいつこうするなぁ」って言うのが対人の観察。最後が、自分を見る、内なる目。自身の観察。この三つの目を上手く使い分けた時、人はまるで360度視界が広がる超人が出来上がるってわけだ」


フェリス:「そりゃ凄いけど、そんな大層な事、監察官は全員できるのかい…?」


ヴァン:「無意識的になら、この三つの目は全員が使えてるはずだ。自己観察、空間観察、対人観察、この用途を必要に応じて切り分ける。これが何気に難しい」


フェリス:「ほお…」


ヴァン:「アンタだって出来てるはずだぜ。ナイフもった素人が今背後から襲いかかったら、そのまま死ぬか?」


フェリス:「いや。確実に防げるし気付けるね」


ヴァン:「そういう事だ。結局は違和感をどう見過ごさないか。これに尽きる。元より対異常体執行術は、自分より格上の相手と戦闘する事を前提に作成された、戦闘技法。思考テクニックだからな。」


カラス:「…。」


ヴァン:「今までは野生の勘で戦ってきたかもしれんが、頭を常に回しながら戦う。まずはそれに慣れるしかねえな。」


カラス:「わかった。」


フェリス:「そうは言うけど。何考えながら戦うのさ。今日の晩御飯?」


ヴァン:「いいや。逆算だ」


カラス:「ぎゃく」


フェリス:「ざん」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:(M)異常性抑止訓練を開始してから、11時間30分。


林檎:「さあ!最後だ!おいで、ガロ!」


ガロ:「ーーーFURU」


林檎:「…よし。」


ガロ:「BURST!!!」


0:異常性は発動しない


ガロ:「ーーーはあ…っ!はあ…!はあ、はあ…!」


林檎:「2時間連続耐久、クリア。合格だ」


ガロ:「…っしゃ…!!」


0:ガロは拳を握った


ガロ:(M)ついに、一日目の訓練が終了した。


林檎:「さて、それじゃあ、今日はご飯にしようか」


ガロ:「嫌だ。このままやるぞ」


林檎:「今日はご飯だ。」


ガロ:「嫌だ」


林檎:「ちゃんと食べないと健康に悪いよ」


ガロ:「嫌だ」


林檎:「…。君な。」


ガロ:「なんだよ」


林檎:「僕だってお腹減ってんだよ!!何時間かかっとるんだコラ!!!」


ガロ:「知らねえーーよお前がやれって言ったんだろバカ林檎!!」


林檎:「うるさい!!ご飯ご飯ご飯ご飯!」


ガロ:「訓練訓練訓練訓練訓練!!」


林檎:「ああああもう!普通逆だろ!?なんで僕がご飯せがんでるみたいになってんだよ!」


ガロ:「そーーだろうが実際!急いでるって言ってんだろうが、寝てる暇も飯食ってる暇もねえんだよ…!」


林檎:「ガロ!!」


ガロ:「…なんだ。何言われたって俺はーーー」


林檎:「次の修行は、ここで待機。僕が帰ってくるまで好きにしてていいよ。」


ガロ:「は?」


林檎:「それじゃあ!」


0:林檎は走り去った


ガロ:「おいてめぇ!待て!!」


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈


ヴァン:「そおら!」


0:殴るが止める


カラス:「っっとぉ。あっぶねえ…!」


ヴァン:「はは、よく凌いだ!」


フェリス:「Automataオートマタ


カラス:「くっっそ、また来やがる…!」


ヴァン:「はい!!!「12の逆算」を答えられる限り答えよ!」


カラス:「はぁ!?今かよ!」


フェリス:「Switchスイッチfeatherフェザー


0:レーザーがカラスの頬を掠める


カラス:「っっぶねえ…!えっと、5+7!」


ヴァン:「そぉおおおい!」


0:殴られる


カラス:「ぱんっ」


フェリス:「喰らえ目潰し!」


0:止めた


カラス:「うおぉうぉ…!危ねぇなてめェ…!」


フェリス:「クールタイムだから非力な私は目潰しか金的しか残ってないんだ」


ヴァン:「ほらほら、さっさと算数しなさーい!」


0:蹴るが、刀で受ける


カラス:「うおお…っ。くそ、えーっっと、6+6!!」


ヴァン:「はいその調子!」


カラス:(M)なんっっだこれ…!まるで集中できねえ…!!そもそも戦闘中に逆算ってなんだ…!?いやいやいや、そんなこと考えてる場合じゃねえ…!12の逆算で、えっと…えっと…!


フェリス:「Automataオートマタ


カラス:「10+11!」


ヴァン:「21だよ馬鹿!!」


カラス:「あ」


フェリス:「Switchスイッチfeatherフェザー!」


0:場面転換


ガロ:(M)訓練開始から、2日経過。集合まで残り4日。


0:2日目

0:メキシコ シェフロア山脈


林檎:「定義を意図的にズラすのに慣れたら、次は、君の異常性にまつわる「定義」へと変換する。この練習だ」


ガロ:「俺の定義。よく分かってねえんだよな。前借りっつっても。」


林檎:「ううんとね。君の今まで撃ってきたパンチは、「24時間、絶え間なく放たれた運動エネルギーの収束」なんだよ。」


ガロ:「凄く分かりやすく言い換えてくれ」


林檎:「一日分パンチって事」


ガロ:「ほお。一日パンチしたって、あんな威力になるもんなのか」


林檎:「恐らく、君が収束する結果というのは、衝突エネルギーでは無い。単純な運動指数だ。それは全くの別物でね。一説では、人が24時間以内に働きかける全ての運動エネルギーを収束すると、核弾頭1発に相当すると言われている。」


ガロ:「なるほど。」


林檎:「じゃあ、こうは考えられないだろうか。24時間分ではなく、1時間分の運動エネルギーを収束すれば、もっと小回りの効く戦い方も出来る、と。」


ガロ:「…!確かにっ。それなら1時間待てばまた異常性使えるようになるわけで…。しかも周りを巻き込む心配も要らない。確かに、全然ちげえ」


林檎:「そういう事。今からひたすらに、定義規模を縮小する練習だ。初めは1時間。安定してきたら徐々に分数を細かくする。」


ガロ:「…」


林檎:「…。どうしたの?」


ガロ:「いや。なんか。やっと、アイツらに対抗出来る気がしてきた。」


林檎:「…そっか。」


ガロ:「早速やらせてくれ。林檎」


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈近辺


ヴァン:「まず、執行術において最も重要だと言われてんのが、一セットと後ひとつ。観察と、思考。これがワンセットな。」


カラス:「ああ。もうひとつはなんだ」


ヴァン:「呼吸だ。」


フェリス:「え、私も聞いていいのぉ?なんか得した気分」


ヴァン:「はは、やろうと思ってやれるほど簡単なものじゃねえよ、あれは。」


カラス:「…詳しく教えてくれ」


ヴァン:「うーん、そうだな。じゃあまずは呼吸からだ。」


カラス:「ああ、よろしくたのーーー」


0:カラスの首元にヴァンの拳が軽く当たる


ヴァン:「あら不思議。目の前に拳が」


カラス:(M)なんだ…!?いきなり目の前に拳が…っ。っつーか、いや、見えたんだ。はっきり。こいつが手を出したのを理解した。でも、避けられなかった。いいや違う、「避けなかった」…!


フェリス:「え。今のが執行術なの?別にノーマルパンチだったけど」


ヴァン:「ああ、そうさ。ノーマルもノーマル。ただのパンチだ。フェリスちゃんから見りゃあな」


フェリス:「んー。どゆこと。」


カラス:「こいつの言う事は、随分的を得てやがる。今のは本当に、何の変哲もない突きだった。ただおかしいのは、「異様に気持ちわりぃ突き」だった事だ」


ヴァン:「はは、面白いもんだろ。第一線で動く監察官が馬鹿みてぇに速く初動を繰り出せる。それは勿論素の身体能力も然ることながら、呼吸の「ずらし方」にある」


カラス:「呼吸のずらし方…」


0:ヴァンはタバコに火を付けた


ヴァン:「人ってのは、好みの呼吸ペースがあるんだよ。その人間の体格。運動量。肺活量。肺を支える横隔膜から肋骨の構造、それを象る肩甲骨の開き方や柔軟性。あげだしたらキリが無い。人は如何なる時も、呼吸をする。これは唯一絶対の人間に与えられたルールだ。」


カラス:「その法則から、人間が最も嫌がるタイミングを探り当てるのが執行術だってか…?冗談じゃねえぞ」


ヴァン:「そんな難しい話じゃない。人はな。呼吸を抜き終わったタイミング。即ち「体内酸素が最も少ない」状態が。一番無防備であり、鈍足なんだ。これは電気信号の話な」


フェリス:「むむ。脳が信号を出して体を動かすから、その信号が最も遅れるのが酸素のない状態って話?」


ヴァン:「ああー。俺の好きな話がある。ボクシング世界大会3連覇の絶対王者。ヒュンケル・スミスのトレーニング方法は、肺活量トレーニングだったって話だ。知ってるか?」


フェリス:「知らない」


カラス:「知らねえ」


ヴァン:「そりゃそうだ。ボクシングは、世界最速の格闘技だ。その際たる技が」


0:ヴァンは一発、虚空に拳を放った


ヴァン:「ジャブだ。」


カラス:(M)速ぇ。合気とも、柔道とも、極新とも違う。


ヴァン:「プロボクサーのジャブは平均時速30kmを超える。世界最速、最短、最小、最先端を競う格闘技だ」


フェリス:「時速30kmって。あんまり早くなくない?」


カラス:「射程距離の差だろ。俺らが50mを走りきるのとは訳が違う。全くの初動から30km。それも、監察官でも無い、異常体でも無い人間が出す速度にしちゃあ、そりゃやばい数字だ」


ヴァン:「流石、勘がいい。プロボクサーの第一線では、時速45〜50kmの世界だ。対人距離は僅か1mにも満たない。その体感速度は。」


0:ヴァンはフェリスに拳を鼻先に着けた


フェリス:「…っ!」


ヴァン:「音速に等しい」


フェリス:「は、や…!びっくりした!」


ヴァン:「そんな競技の、しかも世界チャンピオンが最後に鍛えたのは。筋肉でも無い。動体視力でも無い。肺活量だ。一瞬の判断の遅れが命を取られる世界において、脳を回転させる酸素量ってのは。痛みにも変え難い恩恵なんだよ」


カラス:「…。」


ヴァン:「つっても、オーウェンの初動を見逃した俺が言ったって格好つかねえが。」


カラス:「いいや。アンタはあの場で、誰よりも早くクソ神父の初動に勘づいた。コンマ数秒だが、狙われたのが俺だったら、既に命は無かっただろうよ」


ヴァン:「そう言って貰えると面子保てるねえ。ただまあ、すごーーく単純な話。一等級に並ぶ監察官は全員「違和感」を見過ごさねえよう、常に頭を回してる。とくに、初見の異常体とやり合うなら尚更だ。」


カラス:「…。」


ヴァン:「捉えるのは、表面じゃない。膨らむ肺。動く関節。強ばる筋肉。血色を変える肌。視線。全部、奥だ。もっと奥を見る。これが第一歩だ。って、ラインハルトは言ってたぜ」


フェリス:「えっ。ラインハルトって、ロゼット・ラインハルトかい?」


ヴァン:「ああ。俺の教師だ。」


フェリス:「はぁ〜、若手の中じゃあ一番手練と言われる女が教師かい。ずる。」


ヴァン:「はは、学生特権だ」


カラス:「…奥を見る。内側。」


0:回想


フクロウ:「君はとても真っ直ぐな目をしているね」


カラス:「出たよ。毎度毎度なんだよ急に」


フクロウ:「相手を真正面から、澱みなく見ることの出来る。それはとても素直で、優しい事だと思うんだ」


カラス:「いや、だからなんなんだよって。」


フクロウ:「カラス」


カラス:「あ…?」


0:フクロウはカラスの頭を撫でた


フクロウ:「君は、もっと自分を見てあげてもいいんじゃないかな。」


カラス:「…」


フクロウ:「武の道は、生ける道だ。自分を通して、敵を見る。安心しなさい、自分より恐ろしい敵はいない。」


カラス:「…うるせ。さっさともう一本打たせろ!」


フクロウ:「はは、構わないよ。」


0:回想終了


カラス:「ーーー…。」


0:カラスはヴァンを見つめた


ヴァン:「…ん?なんだよ。急に見つめられても困る」


カラス:「…。」


ヴァン:「…あ〜…」


林檎(M)確信があった訳では無い。何となく。言われるがまま、カラスは五感に全ての集中力を集めた。しかしそこに一切の力みは無く、静かに、丁寧に、尚グラス一杯にまで注がれた、溢れんばかりの神経は。その視界に意外なものを映し出す


カラス:「ーーー。」


林檎:(M)ヴァン・ハンドレッドの皮膚は透け。筋肉層を露わにし、骨格から臓器に至るまでの構造を「感じ取った」。それは視力ではなく、感覚。透き通る世界の中で、心臓の鼓動を。血流の躍動を。細胞の活性の大枠を、繊細に。且つ、大胆に汲み取った。


カラス:「ーーーー…。…はぁ…っ…はぁ…ッ…。」


フクロウ:(M)しかしそれは、1秒もしない内に現実へと場面を移す。


フェリス:「カラス…?何してんの」


カラス:「…。ヴァン。」


ヴァン:「…ああ。なんだ?」


カラス:「丁寧に隠し持ってる二丁拳銃が。お前の本流か。」


ヴァン:「…!」


林檎:(M)カラスが見た景色は、執行術の極意では無い。その先にある、ある一定のものしか辿り着けない景色。その領域を人は、天賦の才と呼ぶ。


ヴァン:「…凄いな。アーヘンでもバレたこと無かったってのに。」


カラス:「…」


ヴァン:「こりゃあ、余計な節介だったか…?」


フェリス:「え。なにが。どゆこと。」


ヴァン:(M)元はと言や、アホレンジャーの中でもずば抜けて直感に長けてたのはこいつか。その景色を、独学で。なんの訓練も受けてない人間が、「予感」として感じ取ってたもんを、言語化しちまった。


カラス:「…こりゃたしかに。まだまだ足りねえな。酸素。そもさん、これだけ寒くて標高が高けりゃ酸素も薄い」


ヴァン:(M)それなりに鍛えりゃあ、こいつは。マジで相当強くなる…!


カラス:「ただ、いい事聞いた。感謝する。」


ヴァン:(M)やっべ〜。オジキ。敵にならねえ事を願うしかねえや。すまん。


カラス:「…。」


0:カラスは崖へ向かう


フェリス:「ちょちょいちょい、カラス?どこ行くの?」


カラス:「この感覚を忘れたくねえ。暫く籠らせてもらう。」


フェリス:「唐突な引きこもり宣言。ちゃんと寝るんだよ〜」


0:カラスは崖の端まで歩いて行った


ヴァン:「こりゃあ、一週間も要らねえかもしれねぇな。」


0:場面転換

0:小屋


ニカク:「…。師範代。アイツは、とんだ腑抜けになってしまいましたよ。」


0:ニカクは刀を下ろした


ニカク:「……。繋ぎは、果たせますでしょうか。」


0:場面転換

0:シェフロア山脈


ガロ:(M)段々と。頭の中の、有耶無耶とした感覚が鮮明になって来たのが分かる。長い迷路を爆速で走るような感覚で、辿り着いた定義が、座標。


林檎:「45回目。はじめ。」


ガロ:「ーーーGRID・BORROW。」


林檎:「…。」


ガロ:(M)…。カチッと。何かがハマる音がした。


林檎:「…。」


ガロ:「…。駄目だ。」


林檎:「…え?」


ガロ:「これじゃ駄目だ。違う、ここじゃあ、もう遅い。」


林檎:(M)薄々感じていたけど。ガロは勘がいい。


0:ガロの焦点は合わず、集中した眼差しで木々を眺める。


ガロ:(M)これじゃあズレちまう。一時間は狙えても、もっと細かいのは無理だ。だったら最初から、もっと区切っちまえばいい。


林檎:(M)既に5日目のスケジュールに入ってる。想像以上、期待以上の超新星だ。


ガロ:「ーーーここだ。」


林檎:「…。なにか掴んだかい」


ガロ:「ああ。好きな分数で指示してくれ。」


林檎:「…。1時間15分。」


0:ガロは目を瞑った


ガロ:「ーーーー450GRIDグリッド。」


林檎:「…!」


ガロ:「QuickクイックBURSTバーストッッ!」


林檎:(M)その拳は、鋭利に大木へ突き刺さり。向こう3本の木々も薙ぎ倒し。大型トラックが走り去ったかのような突風に枯葉が舞った。


ガロ:「ーーーふぅ。」


林檎:(M)それは、明らかなる。定義転換。


ガロ:「おい。やったったぞ。林檎」


林檎:「…。ああ。お見事。本当に、お見事。」


0:ガロは悠然と立ち尽くしている


林檎:「君ならば或いは。レーヴェンシュタインとも、張り合えるかもしれない。」


ガロ:「レーヴェンシュタイン…?誰だそれ」


林檎:「またまた、君と似た異常性を使ってた彼だよ。グランシャリノの。」


ガロ:「…。あー、アイツか。」


林檎:「うん。君の兄ちゃん」


ガロ:「……あ?」


林檎:「……え?」


ガロ:「いやいやいや、待てよ。俺に兄弟なんか居ねえぞ」


林檎:「え。いや。確かにアーカイブには君の実兄だって書いてあったけど。え。」


ガロ:「なんのアーカイブだよそれ。嘘つくな。」


林檎:「嘘つかないよ。実際に君と似た異常性使ってただろ」


ガロ:「そりゃそうだが、だからって兄ちゃんだって確定はしないだろ」


林檎:「いや、親族の異常体は似通った異常性を持つ事が多いんだ。遺伝子から来る思考指針の影響だろうけど」


ガロ:「いや、いやいや。意味がわからん。」


林檎:「…。ガロ」


ガロ:「なんだよ。」


林檎:「君、昔の記憶、どこまで覚えてる?」


ガロ:「…いや。あんまり覚えてねえ。スラムに住んでたって事くらいだな」


林檎:「…。そういう、事ね。ははは、通りで。はは、そうか。そうかそうか」


ガロ:「は…?なんなんだよ」


林檎:「いいな。万有引力とでも言うのか。業ってのは、業を呼ぶもんだね。」


ガロ:「さっきから何言ってんだ、お前。」


林檎:「いいや。僕以外にも居たんだな、と思って。「其れ」を食べた奴が。」


ガロ:(M)夜が明けて、訓練開始から、4日目を迎えた。残り、3日。


0:場面転換


0:回想 9年前

0:京都 明野宮


カラス:(M)ーーー今は既に。捨てた記憶。


0:伽藍堂になった道場


カラス:(M)あれだけ活気のあった道場が。俺とニカクの二人だけが、膝をつく


フクロウ:「…二人とも。見てご覧」


カラス:(M)その時の先生は。いつもとは違う表情だった。


ニカク:「何をでしょう?」


フクロウ:「桜が、舞っている。」


ニカク:「視力を失って尚、その景色を汲まれますか。流石ですね。」


フクロウ:「桜の匂いも、春の匂いも、柔い花弁の感触も、これでもかという程分かるよ。君たち程に」


ニカク:「…。」


フクロウ:「私は、この景色を。精一杯、目に焼きつけるよ。目が無いのならば、肌で。肌でなければ匂いを。それでも無ければ、脳裏に。」


カラス:「で。なんなんだよ。俺達を呼びつけた理由は。」


ニカク:「カラス。」


カラス:「いいや、今回ばかりは言わせてもらうぞ。他の奴らはどうした。この1ヶ月で俺らしか道場に残らねえ筈がねえだろ。」


0:フクロウは盃を口に着けた


フクロウ:「…内閣府に、中央政府の介入があったそうだ。各国で、同じ事柄が起こり続けるだろう。敗戦国家は目下、列強も沈んでいくだろうね。」


ニカク:「…!」


カラス:「…」


フクロウ:「勿論、政府の犬に過ぎない私も。この道場も、何れ失脚する。この立場を失う。その関係者が。不自然な失踪を続けている。」


カラス:(M)桜花一刀流。900年続く、日本政府直下の刀術。


フクロウ:「少なくとも二年以内に、日本も中央政府の完全管理下に置かれることだろう。その前に、内閣府は消したいんだ。長年内閣府が抱えた不祥事と共に。900年続いた「汚点」なる我々を。」


カラス:(M)その実態は、表沙汰に出せない日本内閣府の不祥事。その抹殺役である。


フクロウ:「私は最後までここに残る。どの道、目も見えない老兵だ。それでも、君達は巻き込めない。」


ニカク:「そんな…」


フクロウ:「他の皆にもそう伝えた。納得してくれたよ。最後は、君達だ。」


ニカク:「そんな馬鹿な話がありますか…!!」


0:ニカクは立ち上がった


ニカク:「師範代は、今まで内閣府の為に、何人もの人間を斬った…!それを今になってお役御免だなんて、あっていいはずがない…!」


0:ニカクは拳を握った


ニカク:「…戦いましょう。」


フクロウ:「…」


ニカク:「内閣府も、中央政府も。私達の手で潰しましょう。圧倒的な暴力に対抗するなら、こっちだってそうするしかない…!もう昔みたいな餓鬼じゃないんです、私だって、先生の力になれます…!」


0:ニカクはフクロウの顔を見た。


ニカク:「だから…!!その顔をやめてください…っ…!」


フクロウ:「ーーー…。ありがとう。ニカク」


ニカク:「……」


フクロウ:「君は、優しい子だね。本当に。優しい」


ニカク:「…」


フクロウ:「もう君との仲も、12年ほどになるかなあ。昔なんて、敬語も使えなくて…。はは、懐かしい」


ニカク:「…師範代…」


フクロウ:「…沢山人を殺してきた私には。贅沢過ぎる日々だった。唯一気がかりなのは、皆にも私と同じ業を背負わせてしまった事だなあ。」


ニカク:「師範代…!」


フクロウ:「…。なんだい。」


ニカク:「どうして、一緒に戦えと、言ってくれないんですか。私は、師範代に拾われた、その日からずっと、貴方に尽くしてきた…!」


フクロウ:「…うん。」


ニカク:「時代遅れかもしれない、時世違いかもしれない、それでも確かに、あなたは私の、君主なんです…っ。」


フクロウ:「……うん。」


ニカク:「お願いします。師範代。私に、死に場所を与えて下さい。」


カラス:「ニカク!!」


ニカク:「…なんだ…!」


カラス:「主の御前なんだろうが。だったらまず命を聞け。何もこれだけを伝えるだけならわざわざ真剣まで持ち出す必要も無い。」


ニカク:「刀…?」


カラス:「そうだろ。先生」


フクロウ:「…本当に。成長したね。大きくなった。」


0:フクロウは桜を見つめた


フクロウ:「桜花一刀流は、かつて英国の勇者に仕えた、騎士たる侍が使用した剣術だ。」


ニカク:「…」


フクロウ:「この流派は。誰かを守る為のものだったのかもしれない。血縁でない、技のみを継いだ私の知る由では無いけどね。確かに、その騎士の扱った剣術は、時を超え、海を越え、国境を越え、900年経った今も尚、こうして受け継がれている。」


0:フクロウは二人の頭を撫でた


フクロウ:「そして、私もまた。誰かに繋ぐ番なんだよ。」


ニカク:「…それはつまり。私達にも逃げろと、そう言ってるんですよね…」


フクロウ:「…。海を越えなさい。フランスでは大陸支援団体がその勢力を増している。一先ずの保護はされるだろう。英語、ドイツ語、フランス語は必要最低限、教えた。君たちなら。必ずやっていける。」


ニカク:「嫌です…!さっきも言いました、私は、師範代に最後まで着いていきます…!」


フクロウ:「…。二人をここに残したのは。お願いが、二つあるからだ。片方は海を越え、桜花流が代々継いだ刀を持ち出して欲しい。これは、世に出るには余りにも危険だ。だから、君たちのどちらかなら出来ると。そう思った。」


カラス:「…もう片方ってのは」


フクロウ:「…。私の首を撥ねて欲しい。」


カラス:「…!その為の真剣だってか…!?」


ニカク:「…いや、いやいや…正気…ですか…?」


フクロウ:「内閣府が求めるのは、桜花流の根絶。ひいては、桜花に纏わる不祥事の完全抹殺だ。であればこそ。私の首ひとつ差し出すのが最も良い。」


ニカク:「何を言ってるんですか…!」


フクロウ:「私が悪役になる必要がある。ただ死ぬだけでは許されない。長年の罪の元、断罪される必要がある。」


ニカク:「ふざけるのも大概にしてください!!出来るわけがないじゃないですか…!!」


フクロウ:「片方はギルドへ身を隠す。片方は内閣府の汚点である私の首をとった英雄として。どうか君たちだけは生き残っておくれ。」


ニカク:「そんなの聞きたくありません!!だったら私は自死を選びます!」


フクロウ:「…ニカク。君は優しい子だから、そうして私を庇ってくれる。ありがとう、本当に嬉しいよ」


ニカク:「そんな、そんな話をしてるんじゃ…」


フクロウ:「君たち以外は皆、抹消されてしまった。今まで私が、内閣府の為そうして来たように。桜花流が終わるのもいい。技が途絶えるのもいい。因果応報、私が死ぬのもいい。」


0:フクロウは二人に見えないよう、拳を強く握っている


フクロウ:「けれど…子供達に。私と同じ業を背負わせた…それが私の最大最悪の業だ…っ。」


カラス:「…」


フクロウ:「厳しい選択を強いていることは重々承知だ。それでも、君達は悪くない。私の、唯一できる、最大の贖罪だ。」


ニカク:「それでも…それでも私はーーー」


カラス:「俺が斬る。」


0:静寂


ニカク:「ーーーーは…?」


カラス:「僭越ながらその首、このカラスが頂戴する。いいな、先生。」


ニカク:「いいわけねえだろ…ッ…!」


カラス:「そこどけ。」


0:胸ぐらを掴んだ


ニカク:「カラス…ッッ!お前、今更自分の命ひとつ惜しいが為に、先生の首を撥ねると、そう言っているのか…!」


カラス:「だとしたら何だ」


ニカク:「下衆だ…!万死以上に許し難い…っ!」


カラス:「生きる為に殺すのが罪か」


ニカク:「お前…!本気で言ってるのか、それ…!」


カラス:「…」


ニカク:「少しはマシになったかと思えばこれだ。見損なったぞ…!先生は私達に、人生の全てを与えてくれたんだ…!それを仇で返すようなマネがーーー」


カラス:「ーー死んでやるのが恩返しになんのか!!」


ニカク:「…!」


カラス:「…。先生。二つ目は俺が貰う。」


フクロウ:「…。ありがとう。カラス」


ニカク:「ちょっと…待ってくださいよ…!」


フクロウ:「…師にはなれても、生き方を示さなければ。親にはなれない。」


ニカク:「…」


フクロウ:「私は不出来な親だったろうけど。沢山の子供に囲まれた。だから私もまた、私の守るべく者の為に。これを継ぐ。」


フクロウ:「楽しかったよ。まるで、息子たちを見ているようだった。」


ニカク:「…っ…。」


0:フクロウは刀をニカクに渡した。


フクロウ:「だから。私達を、ここで絶えさせないでくれ。」


ニカク:「…っ…。」


0:ニカクは膝を着き、刀を手に取った。


ニカク:「ーー承知。」


フクロウ:「ありがとう。ニカク」


0:イタリア ブランコ山脈

0:山脈近郊 キャンプ 早朝


ヴァン:「ったく。やっと帰ってきやがったな。」


フェリス:「うぅ〜ん。こんな朝っぱらから何だってのさ。」


ヴァン:「鬼が、金棒持って帰ってきたぜ。」


カラス:「ーーーー…。」


フェリス:「んん。ちょちょーい、カラス、寝てなかったのかい」


カラス:「ああ。気付けば朝だった。」


フェリス:「…。そっか。」


ヴァン:「…。」


0:カラスはフェリスとヴァンの間を通り抜けた


カラス:「試しだ。少し、行ってくる。」


0:カラスは小屋に向かい歩いて行った

0:場面転換

0:小屋


ニカク:「……。来るか。」


0:キャンプ


ヴァン:「…。気付いたかよ、フェリスちゃん」


フェリス:「そりゃあ、気付くでしょ。6時間前とはまるで別物じゃん。…髪、あんなに長かったっけ。」


ヴァン:「いやあ、俺の知ってるビジュなら単発黒髪The清楚青年だったが。」


フェリス:「どーゆーこと、あれ。」


ヴァン:「さあな。俺の知ったこっちゃあねえが。」


0:場面転換

0:ニカクの小屋


ヴァン:『監察局最強と呼ばれる男に。ホトバシ・カンラという男がいる。』


カラス:「ーーー失礼する。」


ヴァン:『その人は。何かに集中すれば、時の流れを忘れるように。時の流れに焦点を当てる事が出来たのであれば。それ以外を『遅れたように』捉えることも、或いは実現可能だと言う。』


ニカク:「…。随分。男前になったじゃないか。」


ヴァン:『それはある種の到達点であり、人はそれを、理と呼ぶ』


カラス:「…。」


ニカク:「…。」


0:カラスはその場に正座し、刀を置いた。


カラス:「試しにつき。暫し眼前に据えさせて貰う。」


ニカク:「如何様にも。」



0:長い静寂



ヴァン:「…。興味本位で覗いちまったが。」


フェリス:「無言だね。」


カラス:「ーーー…。」


ヴァン:「…」


ニカク:「叶ったか。」


カラス:「…いいや。」


ニカク:「そうか。」


カラス:「11年前とはまるで面構えが違う。」


ニカク:「互い様だ。」


カラス:「お前は、何を見た。」


ニカク:「…それは。」


0:ニカクは刀を取った


ニカク:「鉄に聞け。」


カラス:「ご最も。」


0:二人は既に鍔迫り合いになっている


フェリス:(M)ちょいちょい、ちょちょちょい…!まじか…っ。いつ刀抜いた…!まるで見えなかったぞ…!


ヴァン:「…。」


ニカク:「なんだ。4日前とは打って変わって。随分マシになった」


カラス:「…。やめだ。」


ニカク:「それがいい。」


フェリス:「あれ。やめちゃった」


0:二人はまた刀を置き、向かい合った


カラス:「今の俺じゃあ、まだお前には届かない。もう一度聞く。ニカク。お前は何を見た。」


ニカク:「鉄に聞けと言った筈だ」


カラス:「鉄じゃなかったからな。お前のは」


ニカク:「…!」


カラス:「その刀。「異常器」だろう。」


ヴァン:「うぇ!?」


フェリス:「うぉ!?」


ニカク:「…。僅か二日で此処に至る。やっぱりお前は凄いよ、カラス」


カラス:「世辞は要らん。」


フェリス:「やっべ。何喋ってるかわかんない。日本語?」


ヴァン:「だな。ギリギリ理解出来るが。所々妙な言い回ししやがる。これだから嫌いだ日本語は」


フェリス:「…そう言えば、カラスってなんでフランス語喋れるんだろう」


ヴァン:「…なに?」


フェリス:「いや。ギルド試験の時から思ってたんだけど、明らかに東アジア系なのにフランス語それなりに喋れるんだよね。書き読みはできるか知らないけど」


ヴァン:「…うわ。まじだ。よくよく考えりゃそうだ。アイツのあの感じで教養があるようには見えねえし。いや、バカにしてる訳ではなく」


フェリス:「してるよ、それは。」


ヴァン:「は。こんな初歩的な違和感見逃すとか、監察官の卵失格だねえ。」



ニカク:「…。お前の言う通り。この刀は異常器だ。」


カラス:「グランシャリノの所有物か」


ニカク:「いいや。違う」


カラス:「禄戀会の所有物か。」


ニカク:「違う」


カラス:「…。」


ニカク:「これは。あの日。師範代から譲り受けたものだ。」


カラス:「…。」


ヴァン:(M)異常器…っ。確かにそう言いやがった。あの刀、異常器なのか…?


ニカク:「私に何を見たかと聞いたな。そりゃ私が聞きたい。」


カラス:「…。」


ニカク:「8年前。私達が京都を離れる前。師範代が、亡くなった時。」


カラス:「…。」


ニカク:「お前は、何を見ていた。」


カラス:「ーーー何も。見てない。」


ニカク:「…。」


カラス:「あの日。桜花一刀流は死んだ。それだけだ。」


ニカク:「…。応えるべくもなく、か。」


0:ニカクは刀を再び構えた。


カラス:「…。」


0:カラスもまた、刀を構えた


ニカク:「桜花一刀流の存在意義を、お前は知ってるか。」


カラス:「内閣の不祥事抹殺係だろ。それくらい分かる。」


ニカク:「私達はともに、呪われた剣先を持つ。紛うことなき、兄弟弟子だ。」


カラス:「知ったこっちゃねえ。俺は今しか見てない。」


ニカク:「それもまた、呪いか。」


0:二人は間合いを詰める


ニカク:「桜花一刀流。壱の型 皆伝。ニカク・シュウレン。参る」


カラス:「カラス。ただの、カラスだ。」


ヴァン:「おいおい、こんな小屋でやる気かよ…。壊れるぞまじで」


カラス:「はぁぁぁああっ!」


ニカク:「うぉぉぉおあっ!」


0:刀が当たり、火花を散らす


カラス:「っっ…。」


ニカク:「少しは見えるようになったか…!」


0:刀を翻し上へ押し退ける


カラス:「うぉおっ…!」


ニカク:「桜花流。上段」


カラス:「ちっ…!桜花流。下段」


ニカク:「千年落とし…ッッ!」


カラス:「巻柄ぁッ…!!」


フェリス:「すっっげ…。こわ。」


ヴァン:(M)カラス。アンタ、気付いてねえだろ。


カラス:「ーー桜花流。中断」


ニカク:「桜花流。開き。」


ヴァン:(M)この4日でお前。A級と張り合えるくらい、強くなっちまってる


カラス:「春夏冬一ッッ…!!」


ニカク:「喝采ッッ!」


0:打ち合い、距離をとる


カラス:「ーーーはぁ…。はぁっ、はぁ。」


ニカク:「…僅か4日だ。4日で。ここまで成る。やっぱり師範代は、お前を後継に選んだんだな」


カラス:「そんな訳がねえだろ。皆伝どころか、初伝すら頂いてねえっつうの。」


ニカク:「いいや。師範代の後継は、お前だよ。カラス」


カラス:「ふざけんじゃねえ、後継はてめえだ…っ!」


0:2人は再び打ち合う


カラス:「先生の首を撥ねたのは俺だ…!俺が、先生の技を繋いでいいはずがねえ…!」


ニカク:「じゃあ何故刀を持つ…!全てを捨てたと宣うなら、潔くそれを捨てたらどうだ!!」


0:刀は打ち合い、鍔迫り合いになる


カラス:「黙ってろ…!そりゃあ俺の都合だ…!」


ニカク:「私にも勝てず、同胞も救えず、先生も救えず、仲間すら救えなかったお前に都合を語る権利は無い…っ!」


カラス:「うるせぇ…っ。」


0:刀は激しく押し付け合い、付け刃が揺れる


ニカク:「ーーーーッッ…!お前が未だに刀を持つと言うのなら、そんな半端な覚悟で握るな…ッ!」


0:刀は弾かれた


カラス:「ーーー…。」


0:静寂


ヴァン:「勝負あり、だな」


フェリス:「…うん。」


カラス:「…。」


ニカク:「だから言ったんだ。今のお前とは、打ち合う価値もない。桜花を。師範代を終わらせたお前とは。」


カラス:「…。」


ニカク:「仲間を失って尚、目を背け続けるなら。その刀を手放せ。虫唾が走る。」


0:回想


フクロウ:「頂きます、と言うんだよ。」


カラス:「なんだそれ。早く食わせろ」


フクロウ:「食料を頂く時は、その命に感謝するんだ」


カラス:「死んでんじゃん」


フクロウ:「死んだから、だよ。」


カラス:「…イタダキマス」


フクロウ:「うん。良い子だ。」


0:回想終了


カラス:「…畜生…」


ニカク:「…」


カラス:「あーーーーちくしょぉおおっ…!!」


フェリス:「…壊れちゃった…?」


ヴァン:「多分。」


カラス:「…。」


0:カラスは天井を見つめている


カラス:「分かった。もう。辞めだ。」


ニカク:「…」


カラス:「今を見る…!過去も、今も、全部ひっくるめて、今だ…っ…!!」


ニカク:「…。」


カラス:「ヴァン。フェリス」


フェリス:「あ、はいっ。」


ヴァン:「へ。なんだよ、侍崩れ」


カラス:「必ず、コイツに勝つ…!だからあと三日。胸を借りていいか…!」


ニカク:「…。」


ヴァン:「ここまで来たら、NOはねえだろ。」


フェリス:「まあ、元よりそのつもりで来てるからね…!」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:(M)四日目。座標の調整訓練が終了した。


林檎:「いやあ、お見事。」


ガロ:「…はぁ…っ。はぁ…!」


林檎:「想像以上の出来だよ、ガロ」


ガロ:(M)3時間、2時間、1時間、30分と、細かな調整に定義を確定させ、異常性発動に至ることに成功した。


林檎:「じゃあ、今日はこの辺りで」


ガロ:「次だ…!次の訓練だ…!!」


林檎:「うわ出た。生き急ぐなっての」


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈


ヴァン:(M)四日目。思考速度の強化訓練


カラス:「桜花流、下段…っ…!」


フェリス:「SwitchスイッチGuardianガーディアン


カラス:「上流…っ!花弁ァ!」


フェリス:「うっひょぉー!あぶない!」


ヴァン:「5!」


カラス:「2+3!1+4!」


フェリス:「Automataオートマタ


ヴァン:「対・異常体執行術」


カラス:(M)対二人。初動なら俺の方が早い…っ。まずは異常性を発動される前に…っ。


ヴァン:「仁・発勁…ッ!」


0:木刀で受け流す


カラス:「うぉおッ…ぉぉおあらァっ!」


ヴァン:「わおぉっとォ…!?」


フェリス:「ちょっ。ヴァン!?」


ヴァン:(M)威力逃がして加速…!やっぱり勘はピカイチぃっ。


カラス:「桜花流、速攻…ッッ…!」


フェリス:「うわわっ。はっ…や…!」


ヴァン:「42っ!」


カラス:「20+22…っ。一閃いっせん…ッッッ。」


0:木刀で腹をしばいた


フェリス:「ごほっ…!」


カラス:「12+30。18+24。2+40。21+21…」


ヴァン:(M)思考を止めねえ…っ。それで居てあの反応速度…!っぱ半端ねえな…!


フェリス:「いっったぁーーい!痛い!」


カラス:「え、あ。すまん。」


ヴァン:「隙ありぃ…ッ…っっと、と、と。」


0:剣先はヴァンに向かっている


カラス:「怪我したか。」


フェリス:「したよしたしたっ。打撲っ。」


ヴァン:(M)マジか…っ。見もせず警戒してやがる…!何だこの野郎、舐めやがってンン!


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:(M)五日目。


林檎:「君の異常性は、体の局部に作用する事も出来る。そうだったね」


ガロ:「ああ。試した事があるのは足と手だな。」


林檎:「じゃあ、考えてみよう。身体全ての物理運動エネルギーを、常時前借りし続ける。」


ガロ:「前借りし続ける…?今だと一発撃っちまえば終わりだけど、それを借り続けるって事か?」


林檎:「そうそう。理解が早くなってきたね。前借りをした後、前借りの前借りをして、更に前借りする。これを5秒単位で繰り返す。これは相当集中力も使うし、その反動も相当なものだ。」


ガロ:「…。でもよ。これが出来れば、実質5倍の運動量で動き続けられるって訳だろ」


林檎:「そう。それはやばい事だ。明日までの課題はこれだ。正直、いちばん苦労するとも思うけど。」


ガロ:「…ああ。やらねえ手はねえ。」


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈


ヴァン:(M)五日目。集中領域の拡大の為、肺活量訓練。


0:水辺


カラス:「…。」


フェリス:「ねえ、これ大丈夫?死なない?」


0:カラスは逆さ吊りで顔が水に浸かっている


ヴァン:「いやまあ。死ぬだろうな。ほらー、もっと息吐き出せ。限界まで。」


カラス:「…」


フェリス:「もう息でてないよ。死んじゃうよ」


ヴァン:「しゃーない。ほれ、帰ってこい。」


カラス:「ーーーはぁッ…!はぁ、はぁ…!殺す気か…!」


ヴァン:「死んだ方がマシだろ」


カラス:「はあ、はあ…はは、ああ。全くだ…っ。」


0:場面転換

0:メキシコ シェフロア山脈


ガロ:(M)六日目。引き続き前借りと、その許容量拡大訓練。


林檎:「さて、行くよ」


ガロ:「…。おう。」


0:ガロは深呼吸をした。


ガロ:「ーーーーFANBLEファンブル


林檎:(M)定義を混合させるか、賢いよ。一々定義の切り替えをするくらいなら、そういう定義に収束してしまった方が或いは


0:ガロの身体は発熱を繰り返す


ガロ:「…はぁ…っ。はぁ…。」


林檎:(M)ただまあ、長くは持たないだろうね。運動エネルギーの消化による熱量はその身体を確実に蝕む。それも、秒単位で繰り返すんじゃあ尚更だ。訓練が始まってからずっと前借りを続けている。少なくとも、向こう1ヶ月は動けなくなっても不思議じゃない。


ガロ:「余所見してんなよ、林檎」


0:ガロは林檎の後ろにいる



林檎:「…!」


ガロ:「120GRID…!」


林檎:「Moveムーブ…!」


0:ガロは岩に押し戻される


ガロ:「うおおぉっ…!っと…!」


林檎:(M)速い…!だけじゃない、緩急まで付けてくる…!


ガロ:「うぉぉおらぁあっ!」


0:殴るが、受け止めた


林檎:「…っっ…!」


ガロ:「もういっちょ…!」


0:蹴った


林檎:「ごほっ…!こんにゃろ、Moveムーブ!」


0:その場から離れた


ガロ:「っっと…!あっっぶねえ…!」


林檎:「はは、はははっ。こりゃ凄い、思ってたより遥かに、驚きっぱなしだ…!もうちょい、出力上げるよ…!」


ガロ:「ああ、さっさと来いよ…っ。おえっ…!」


0:ガロは嘔吐した


ガロ:「おえええっ…!ごほっ…おえっ。」


林檎:「…。まあ、そりゃあ、そんな負荷、2分と持たないか。一旦休憩にしよう。」


ガロ:「ーーーFANBLEファンブル…っっ…!」


林檎:「…」


ガロ:「なんだぁ、敵前逃亡かぁ。林檎…!」


林檎:「…しょうがないなあ、もう。いいさ、付き合ってあげるよ、超新星。特別訓練だ…!僕に一発、入れてみろ…!」


ガロ:「はは、上等だ…!」


ヴァン:(M)日が、落ちた。


0:回想

0:10年前


ニカク:「お前はなんで、師範代に着いていくんだ。」


少年:「あ?なんだぁ急に。」


ニカク:「…。認めたくは無いが、お前は天才だ。正直、私よりも剣客としての才に恵まれてるだろう。だが、誰もが刀を懐に差した時代はとうに終わった。今のご時世。この刃ひとつで成り上がる事も、成し遂げられることもそう無い。」


少年:「まあ、そうだな。」


ニカク:「だというのに。なぜお前はここに居着く。かれこれ3年共に過ごしたが。飯を食えるという理由だけで腰を下ろすほど、飼いやすいようには見えない。」


少年:「…。」


ニカク:「私は育ててもらった恩も、拾ってもらった恩も、尊敬もある。私は師範代のような人間になりたい。だからここで己を研鑽する。それが魂であり、刃だ。」


0:ニカクは木刀をカラスに向けた


ニカク:「私は、何れ師範代の後継となるのが夢だ。」


少年:「…そうか。」


ニカク:「私はお前を好敵手として認めなくてはならない。そして、それは最も高い壁だと自負している。だから、聞かせてくれ。この時代に、刀を持つ理由を」


0:カラスは暫く沈黙し、腰を下ろした


少年:「…。お前、親に捨てられた事、あるか?」


ニカク:「無いな。私の両親はどちらも死別だ。最早顔すら覚えてもない。」


少年:「そうかぁ。俺も覚えてねえな。ただ、一つだけ覚えてる事がある。そもそも俺を捨てた親も、実の親じゃない。拾われ子の、更に捨て子。里親にかけられた言葉だ。」


ニカク:「…。」


少年:「俺の先祖は、鬼だったらしい。」


ニカク:「…!」


少年:「泣きじゃくる、自分のケツも拭けないガキの頃、そう言われて煙たがれたのだけ、覚えてる。その話が本当かどうかなんざ微塵も興味がねえが。物心着いたら、俺はもう人のものを奪う殺すの環境で生きた。それはもう、鬼となんら変わらねえよ。」


ニカク:「…。」


少年:「けどさあ。先生だけが、人でいる事を許してくれたんだ。そんな人が、其れを握らせてくれてんだぜ。だから、おれぁ決めてんのよ。」


0:カラスもまた木刀を握った


少年:「俺を付すのは。」


カラス:「____コイツだけだ。」


0:回想終了


林檎:(M)そして、六日目の夜。


0:イタリア ブランコ山脈


カラス:「…。」


ヴァン:「うし、集中してんな。」


フェリス:「下山と、リベールに戻る時間を考えれば、今日がラストチャンスだ、頑張りなよお、カラス」


カラス:「ああ。感謝する。」


0:小屋から人影が出てくる


ニカク:「…。今宵は、月がよく見える。」


カラス:「…ああ。本当に。よく見える」


0:二人は山脈の頂上部で対峙した。


ニカク:「……。」


カラス:「……。」


ヴァン:(M)相手はA級幹部格。一等監察官か、それ以上の化け物だ。如何に食らいつく、侍くん。


カラス:「…。その刀、ちぃと見せてくれよ」


0:岩陰


フェリス:「で、でた〜っ。剣豪同士でよくあるそれっ。」


ヴァン:「ここで見せなきゃ武士の恥とも言わんばかりのそれっ。」


0:頂上部


ニカク:「であれば、手前の獲物も拝見したい。」


カラス:「無論だ。」


0:二人は近付き、刀を交換した。


フェリス:「やっぱやるんかぃ〜っ。しかも交換っ。」


ヴァン:「日記かっ。JapaneseSAMURAIにとって刀とは日記なのかっ。」


0:二人は刀を鞘から抜き、月光に当てた


フェリス:「おぉ〜。物色してますなあ」


ヴァン:「つーかさっきから口数少な過ぎだろ。」


フェリス:「日本人って皆そうなの?」


ヴァン:「知らん。」


0:頂上部


ニカク:「…。やはり、鬼一門。あれから刀は変えてないと見える。」


カラス:「ああ。フランスじゃあ、良質な刀鍛冶なんて居るはずもねえからな。それに、そいつぁ俺の相棒なんだ。」


ニカク:「そうか。いいや、それはそうだ。」


0:刃に指をつけた


ニカク:「ーーーしかし、荒い。」


カラス:「…」


ニカク:「随分と無茶な扱いをするもんだ。その刀身の生き様は、泥酔にも近い。」


0:ニカクは刀を振るった


ニカク:「…それでいて。なかごの芯は今だ根強く刃を支える。」


カラス:「…。」


ニカク:「…。お前は、その刀に何を見る?」


0:岩陰


フェリス:「また日本語だよ…。なんて言ってんの?」


ヴァン:「刀の生き様がどうの、と。俺ら監察官や、アンタら異常体とは全く違う。ああいう武の人間ってのは肌身離さぬ“相棒“ってのを持つんだろうなあ」


フェリス:「確かに。私達が何か特定の武器や道具を長年愛用することは少ないし、そこには歴史が詰まってるって話か。」


ヴァン:「かっくいいねえ、ジャパニーズサムライ」


フェリス:「うん。かっくいい。」


0:頂上部


カラス:「…。丁寧だな。」


ニカク:「…」


カラス:「禄戀会には研ぎ師が居るのか?」


ニカク:「いいや。居ない」


カラス:「そうか。それじゃあ尚更、丁寧だ。綻びに偏りも無い、満遍なく、使い尽くしてる。やっぱりお前の剣は、頑固で、口煩くて、嫌に律儀だ。」


ニカク:「褒め言葉として受け取ろう。」


0:刀を鞘に納めた


カラス:「ーーー名刀につき、敵は見果たした。感謝する。」


0:カラスとニカクは刀を再び交換した。


ニカク:「満足した。今のお前なら、斬ったとて恥にはならん。」


カラス:「そのまま返す。」


0:場面転換

0:メキシコ。シェフロア山脈


林檎:「…。時間的にも、体力的にも。これが最後だ」


ガロ:「おう。」


林檎:「…。その前に」


ガロ:「…」


林檎:「焦ってるだろ。君」


ガロ:「…そりゃ焦るだろうが。」


林檎:「君はどうして自分が焦ってるのか。多分わかってないよ」


ガロ:「…どういう意味だ」


林檎:「それを気付かせてくれるのは、いつだって友人だ。僕はきっと、君の友達にはなれない。だから、それを教えてやれるのは僕じゃない。」


ガロ:「…」


林檎:「僕に示してくれ。君が、どこまでの荒波に耐えられるかを。」


ガロ:「ーーーFANBLEファンブル


0:場面転換

0:イタリア ブランコ山脈


フェリス:「始まる…っ。」


ヴァン:「フェリスちゃん、最悪の準備だけはしといてくれよ。」


フェリス:「分かってるけど。私一人でニカクさんを止められる筈もない。君も頼むよお、アーヘンの」


ヴァン:「勿論、ここで死なれちゃ本末転倒だ。」


0:頂上部


カラス:(M)人を殺した。先生も見殺しにした。故郷も捨てた。流浪の身になり、フランスに来て、侍ごっこをし続けた。


ニカク:「…」


カラス:(M)今を見るっつー免罪符を使って。自責の全てから逃げた。先生の言葉を使って、だ。


0:ニカクは鞘から刀を抜いた。


カラス:(M)ごめんなぁ…先生。俺が卑怯なばっかりに、今までの景色で、随分無礼な事ばっかりしちまったな。


0:カラスは依然、月を眺めている


カラス:(M)でも。ちゃんと今を見るなら、ここいらで其れも終わりにしねえと。


ニカク:「ーーー…。構えなくていいのか。死地だぞ」


カラス:「…。否や。」


0:カラスは腰を下ろし、構えた


カラス:「さするに定まれり」


0:沈黙


ニカク:「桜花一刀流。壱の型。皆伝、ニカク・シュウレン。禄戀会の其の名に。いざ、参る」


カラス:「…。」


0:カラスは刀を鞘に入れたまま構える


カラス:「桜花一刀流。準ギルド、「アホレンジャー」の何某。一身上の都合により、兄弟子に刃を向けさせて頂く。」


ニカク:「はは、なんとも。締まらん」


カラス:「は。全くだ。」


0:暫しの静寂


ニカク:「桜花流。上段。」


カラス:「桜花流。「執刀」…。」


ヴァン:「…!」


ニカク:「下流・獅子山羊ししやぎッッ…!」


カラス:「抜刀・居合…ッッ!」


0:二人はすれ違い、刀の当たる音だけがその場に響く


カラス:「…。まずは一太刀。」


ニカク:「ーーーこほっ…。」


0:ニカクの腹は浅く斬られている


カラス:「返す。」


ニカク:「…っ。はは、余計だ。」


0:岩陰


フェリス:「うおお〜っ。斬った斬ったっ。見た、ヴァンっ。ウチの子やったわよ〜!すごいぞ〜!」


ヴァン:(M)執行術を刀術に置き換えやがった…っ!まじかまじかまじか…!こんな土壇場で、まだ先に行きやがる…っ!


0:頂上部


ニカク:「いいな、今まで喰らった肉も、毒も、痛みも、全て培うか。」


カラス:「…」


ニカク:「ようやっと。昔の顔に戻りたり。」


カラス:「もう終わりじゃねえだろうな」


ニカク:「まさか。好敵手の再来だ。寝ていられるか」


カラス:「ああ、安心ーーー…した…ッ」


ニカク:「…!」


0:カラスは地面を踏み込んだ


フェリス(M)地が割れるほどの踏み込み…!これは、まじ速いぞ…!


カラス:「しゃぁぁあああッッ!」


ニカク:「はぁぁぁああ…ッ!」


0:二人は刀を激しく撃ち合う


フェリス:「うえぇ!?まじかっ。反応するのかぁそれっ。」


ヴァン:「ンマー当然といやぁ当然か…!」


0:頂上部


カラス:「随分、太刀筋が様になってやがるじゃねえかッ!」


0:カラスが振るった斬撃を躱す


ニカク:「っは…!お前はムサい荒いが健在だな…っ!」(刀を振り上げる)


カラス:「っっとぉおッ…!?」(弾かれる)


ニカク:「肘が上がったな…!」


0:急接近


カラス:(M)桜花流・上段


ニカク:「ーー…!」


カラス:「千年落とし…ッッ!」(刀を振り下ろす)


ニカク:「旋回ッッ!」(流し距離をとる)


カラス:(M)呼吸を乱すな。よく見ろ。集中しろ…!


0:低姿勢で構え直すニカク


ニカク:「桜花流・中段」


カラス:(M)右左腕骨。上腕。肺の膨らみ。


ニカク:「居抜き…ッッ!!」


0:刀で受け止めた


カラス:「…ッッ!長らく見た…っ。だから今だと思った…!」


ニカク:(M)変則的だ。常に即興。その場0.2秒内に思考と結論を導き出している。これも執行術の賜物か。僅か6日にして。


カラス:「うぉぉおおおっ!」(横に振る)


0:ニカクは肩を斬られた


ニカク:「…ッ、はは、天晴れ…!!」(即座に構え直す)


カラス:(M)浅い…っ!踏み込みこまれてる…っ!


ニカク:「抜刀・居合…ッッ!」


カラス:「がはっ…!」


0:カラスは腹を斬られる


ニカク:「返すよ」


カラス:「ごほっ…!はは、余計だって言ったろ…!」


ニカク:「ああ、言葉も無いッッ!」


0:ニカクの追撃を刀で受け止めるカラス


カラス:「ッ…づぁァっ!」


ニカク:「ッ…ぉぉお…!」


0:互いは鍔迫り合いとなり、力勝負


ニカク:「うぉぉおおおおおッ!」


カラス:「がぁぁああああああッ!」


ヴァン:「力勝負に入った…!押し切れカラス…!」


フェリス:「行ったれーー!」


ニカク:「ーーー獺祭だっさい…ッ!」(下に潜る)


カラス:(M)左足の脱力…!下を取られる…!


ニカク:「上流・花弁ァアッ!」


カラス:「ぉぉおッーーラぁぁああッ!」(刀を蹴る)


0:カラスは刀を蹴り、宙を待った


ニカク:(M)刀を蹴って上空に登った…!逃げ場の無い上空は失策だ、結論を間違えたな…!


カラス:「ーーー桜花流・超・上段」


ニカク:「…!」


カラス:「執刀しっとう


ニカク:(M)その体勢からまだ抜くか…!!


カラス:「覇巡はじゅんッッ!」


ニカク:「巻柄ァァアッ!」


0:刀は激しく打ち合う


ニカク:「ーーーぐっっ…!」


カラス:「ーーーがっ…!」


ニカク:(M)右手首、折れたか…!?


カラス:(M)左肩、逝っちまったなぁこりゃ…!


0:着地したカラスとニカクは超至近距離


ニカク:(M)ーーーだが…!


カラス:(M)一向に引けねえ…!


0:回想

0:火の上がる明野宮


フクロウ:「…とうとう最後まで。君は私と着いてきてくれるんだね。カラス」


カラス:「…」


フクロウ:「私の首を落とす。君にとって、ある種呪いのようなものを掛けてしまう。それでも君は優しいから。何も言わないんだ。」


0:カラスは刀を握っている


カラス:「…先生は。どうしても俺を拾ってくれたんだ。」


フクロウ:「…私も。沢山の人間を殺してきた。我が生に、報いたかった。その結果、君たちをあらぬ事に巻き込んでしまう事になった。君達は、何も悪くない。私の首を落としたとて。気負う必要は無い。」


カラス:「…っ…。」


フクロウ:「だから。今を止めてはいけないよ。カラス」


0:カラスは刀を振り上げる


少年:「…。なんだ。もう行くのか?」


カラス:「…。ああ。これ以上ここには居れねえ。」


少年:「そうか。」


カラス:「…。じゃあな。」


少年:「ああ。行ってらっしゃい。」


0:カラスは刀を振り下ろす

0:回想終了


カラス:(M)止めねえよ、先生…!アンタから繋いでもらった…!こいつからも、繋いでもらった…!


ニカク:(M)来いよカラス…!私たちを、斬ってみせろ…!


ニカク:「ーー塗りつぶせ。八咫烏…ッ!」


ヴァン:「…!異常器か…!!」


フェリス:「カラスーーっ。異常器使ったぞーっ。気をつけて!」


カラス:「万事。構わない。」


ヴァン:「ーーははっ。そりゃそうだわなぁ…!」


フェリス:「ひゅーぅ。お熱い…!」


カラス:「桜花流・執刀」


ニカク:(M)嗚呼、思い出す。僅か6年の、青い春

フクロウ:「解体ッッ!」


カラス:(M)その技も、どの技も、見覚えがある。

カラス:「乱れ桜ぁぁあ!」


ニカク:(M)よく伸びている。今までの太刀筋とは別物だ。

フクロウ:「春夏冬一しゅんかとういつッッ!」


カラス:(M)何もかも中途半端で投げ出しちまった。だが、今はもう、全く持って、よく見えすぎてる…!

カラス:「巻柄ァアッ!」


ニカク:(M)よかった。桜花一刀流は、師範代が繋いだものは、どうやら死んじゃいない。

フクロウ:「桜花流・奥義…ッッ」


カラス:(M)胸借りるぜ、先生。

カラス:「桜花流・奥義…ッッ」


ニカク:(M)誰かの為に振るう剣を得たのなら、お前はもう、私以外の誰にも負けるな…!

フクロウ:「神楽ァァアアッ!」


カラス:(M)先生、「今」まで散々、心配かけた。もう、大丈夫だ…!

ニカク:「神楽ァァアアッ!」


0:二人は激しく斬り合う


ヴァン:「ここまで付き合ったんだ!負けんなよてめぇ!」


フェリス:「いけーーー!カラス!!」


カラス:「うぉぉおおおぉおおおおおぁッ!」


ニカク:「うぉぉおおぉおおおおぉおおッ!」


フクロウ:(M)零れるような、溢れるような、水の音が鳴り響いた。


ニカク:「ーーーーーがは……っ…!」



0:その場には二人の荒い息使いだけが残っている



カラス:「…。斬り捨て。御免。」


0:カラスは刀を振り、血をはらった


フェリス:「…勝負、あり…!カラスの勝ち…です。」


ニカク:「…ああ。異論ない。天晴れだ。」


ヴァン:「……おお…」


フェリス:「…勝っちゃった…まじで…」


ヴァン:「ぉぉおおおお!」


フェリス:「おおおおおお!」


カラス:「はぁ…はぁ…っ。」


0:カラスとニカクはその場に倒れた


ニカク:「強く、なったなあ、カラス」


カラス:「はっ。どっちが、だよ。」


ニカク:「外側の話じゃない…。」


ヴァン:「やったなあカラスお前おいお前おい!」


フェリス:「凄いじゃん!なんかちょっともう!アウェイだよねもう!」


カラス:「勝ちはしたが、刀がボロボロだ。もし本当にこいつが俺の首を取るつもりだったなら、勝負は分からなかったろうよ」


ニカク:「謙遜するな。勝ちは勝ちだ。そもそも、私とお前のとでは、そもそもの出来が違う。素直に喜べ」


フェリス:「そうだよお、禄戀会だよ?A級だよ?その人に勝ったんだ、もっと喜びなよ、アホレンジャーのカラスくん」


ヴァン:「ああ、あれは締まらなかったな。さっさと改名を薦める」


フェリス:「私は好きだけどねえ、バカで」


カラス:「…。」


0:カラスは刀を地面に刺した


フェリス:「えっ。…怒った?」


カラス:「感謝する。お前ら。」


ヴァン:「お、おお…」


フェリス:「なんつーか、感謝されてばっかだなあ」


カラス:「…。ニカク」


ニカク:「…なんだ」


0:頭を下げた


カラス:「有難う。」


ニカク:「…はは。いつからそんな、礼儀正しくなったんだ…。」


カラス:「…」


ニカク:「…こちらこそ。最後の突っかかりが、取れた気分だ。桜花一刀流の後継者は、やっぱりお前がいい。」


フェリス:「…って!ニカクさん、傷大丈夫ですか!?」


ヴァン:「ああ、興奮しすぎて忘れてた。結構血出てる、内臓に傷入ってないといいが…」


ニカク:「は。舐めるなよ、フェリス、アーヘンの。」


0:ニカクは飛び起きた


ニカク:「これしきで死んでたら、禄戀会幹部は務まらない」


フェリス:「あンれぇ〜…思ったよりピンピンしてるぅ…」


ヴァン:「は、はは、流石にA級…。感服だあ、こりゃ。」


ニカク:「…カラス」


カラス:「あ…?」


0:ニカクは刀を手渡した


ニカク:「持ってけ。」


フェリス:「えっ。」


カラス:「…どういう意味だ」


ニカク:「どうもこうもない。これは、師範代が、次の桜花一刀流を託す人間に渡したものだ。であれば、お前に渡すのが道理だろ」


カラス:「受け取れん。先生がお前に託したものだろ」


ニカク:「その私が、お前に託すと言ってるんだ。今それを持っているべきは、私じゃない。」


カラス:「…。」


ニカク:「そうしてくれないと。私が、師範代に合わせる顔がない。」


カラス:「…。」


0:カラスは刀を手に取った


カラス:「分かった。有難く頂戴する。」


フェリス:「ちょいちょいちょい、カラス、それって確か…」


ヴァン:「ああ。異常器らしいじゃねえか。」


カラス:「らしいな。」


フェリス:「って。ニカクさん、異常器使いました?」


カラス:「知らん。だが、手を抜いた訳では無かった。そういう温度だったよ、なあ?」


ニカク:「…はっ。手前が鉄で語るというのに、此方が理から外れた武具では示しがつかん。それだけだ。」


フェリス:「正々堂々って奴ですか。侍っぽいすねえ。」


ヴァン:(M)使ってない、とは言わなかったな。


カラス:「…。」


ニカク:「…」


0:フェリスは何かを察した


フェリス:「あっ、あ〜!そうだそうだぁ。早くリベールに戻らないと。ね、ヴァン」


ヴァン:「ああ?どうせアチラさんだって時間通りにゃあ来ねえだろ。ちぃとくらいゆっくりしたって…」


フェリス:「キャンプ。片付けじゃんけん。私勝ったよ」


ヴァン:「畜生ぉぉぉっ!急げ急げェ!」


フェリス:「あはは、邪魔者は急ぐんだよォ、そぉれ頑張れ頑張れ。」


0:フェリスは去り際にウィンクをかました


カラス:「…」


ニカク:「…」


カラス:(M)なんのウィンクだ。


ニカク:(M)なんのウィンクだ。


0:静寂。


ニカク:「…。もう、行くのか。」


カラス:「ああ。リーダーが待ってる。」


ニカク:「そうか。」


カラス:「…。そうだ、コイツの名前はなんだ。」


ニカク:「ああ、そう言えば、肝心なことを伝え忘れたな。…その刀の名前は」


0:風が吹いた


ニカク:「八咫烏だ。」


0:キャンプ


ヴァン:「…」


フェリス:「ほーらぁ、手ぇ止まってるよ」


ヴァン:「なあ、フェリスちゃん。」


フェリス:「ん。なにさ」


ヴァン:「あの異常器は、多分。900年前のものだ。まさかまだ現存してたなんて、アツいよな。」


フェリス:「…急に何言ってんの?」


ヴァン:「教本に記載があった。過去、勇者の騎士が使ったとされる刀、それそのもの。」


0:ヴァンはキャンプ用品を片付けながら話している


ヴァン:「その特性は。凄く纏まった言葉で言うと「過去の再現」。」


0:頂上部


ニカク:(M)…。師範代。こいつは、死んじゃあ居なかった。


カラス:「…。なあ、ニカク」


ニカク:(M)私が繋ぎ切れなんだ、貴方の示しを。


カラス:「お前は今、なんの為に刀を握ってるんだ。」


ニカク:(M)心残りが、無くなった気分だ


0:キャンプ


ヴァン:「かつて己が見た情景を、短期的にその刀身へ上書きする。…もしかしたら、桜花一刀流は、さっき「蘇った」のかもしれねえな。」


フェリス:「はい、野暮。」


ヴァン:「あぁ、そうだそうだ。部外者はそんくらいで居るのが筋ってもんだ。これ以上は野暮か」


フェリス:「んだんだ。カラスが「何」と戦ってたかなんて、それこそ。あの二人だけが知ってればいいでしょーよ。」


0:場面転換

0:ニカクは空を見た。


ニカク:「リーダーの。禄戀会が主君の為、だ。」


カラス:「…そうか。シンプルでいいな。」


フクロウ:(M)太刀筋は、意思も、生き様も、全て体現してくれる。そこに言葉は要らず。あるのはただ、鉄の花


カラス:「精々長生きしろや。ニカク」


0:ニカクはカラスの胸に拳を当てた


カラス:「…。」


ニカク:「果たすべき今の為に。行って来い、カラス。」


カラス:「…」


0:


カラス:「ああ。行ってくる。」


0:


ニカク:「…」


0:カラスはキャンプへ降りた


ニカク:「…。」


0:ニカクはカラスが振り返らないの知る


ニカク:「…。頑張れよ。兄弟」


0:場面転換

0:キャンプ


フェリス:(M)12月4日。訓練終了から2時間後。ブランコ山脈からの下山を開始した。最後の挨拶をしようと、ニカクさんの小屋に顔を出しけど、既に姿は無かった。アカシさん達のところへ帰ったのかもしれない。


0:三人は山を降りる


フェリス:(M)帰りは、行きよりも少し歩幅の広いカラスが、そこに居た。


0:ブランコ山脈 頂上部


ポルジッコ:「…あーー。こちらポルジッコ。おい。着いたけど誰も居ねえぞ。」


0:誰かと話している


ポルジッコ:「おいおいおい、しっかりしてくれよ。勘違いしねえように言っておくが、俺らはお前らの手足になったわけじゃねえぞ。」


0:ポルジッコはキャンプ跡地を見た


ポルジッコ:(M)焚き火の後。まだ暖かいな。


0:周りを見渡す


ポルジッコ:「いいや、ついさっきまでこの辺に誰かが居た。このまま追跡する。ああ。」


0:ポルジッコは通信を切った


ポルジッコ:「さーーーて。鬼が出るか蛇が出るか」


ニカク:「八葉はちよう・二刀流」


ポルジッコ:「…!」


ニカク:「弐ノ太刀・羅生門ッッ!」


0:ポルジッコの通信機は真っ二つに切れた


ポルジッコ:「おっっ…と。なんだぁ、なんだなんだ。随分なご挨拶じゃねえか」


ニカク:「不意打ちにつき。詫びを。」


ポルジッコ:(M)狙いは通信機か。禄戀会の指示か。面倒くせぇ。本丸は?見当たらねえが


ニカク:「お前か、グランシャリノの協力者は。」


0:ポルジッコは両手を上げた


ポルジッコ:「いやあ、人違いだ。俺は善良な。善良な登山客だ。」


ニカク:「抜かせ。標高5000mに正装で来る戯けが居るか」


ポルジッコ:「目の前にいるだろうが。目ェ付いてんのか」


ニカク:「左様か。」


0:ニカクは刀を再び抜いた


ニカク:「であれば、道を誤ったな。」


ポルジッコ:「まさか本当に匿っているとは。禄戀会も敵に回ったか?」


ニカク:「リーダー命令と、個人的な餞別だな」


ポルジッコ:「そうか。そうかそうかそうか。」


0:ポルジッコはネクタイを緩めた


ポルジッコ:「互いに、あんま話す事も無いな。」


ニカク:「言葉に同じく」


0:ニカクは刀を振るった


ニカク:「兄弟の門出だ。無粋な真似はしてくれるなよ。グランシャリノ。いいや、バグテリアの狗か。」


ポルジッコ:「その手負いで随分大口叩き為さる。おいおい。おいおいおいおい。仕留める目してんじゃねえか。おいおい、そりゃ駄目だ。調子乗りすぎ、だよ。なあ。A級。」


ニカク:「手負いに見えるか。勲章だよ、生憎」


ポルジッコ:「そうか。あの世で自慢してるといい。」


ニカク:「ーーー八葉二刀流。」


ポルジッコ:「120ミリアンペア」


ニカク:「四ノ太刀・暁ッッ!」


ポルジッコ:「Sparkスパークッッ!!」



カラス:(M)抜刀の音と。爆発音。


ニカク:(M)それに気付かぬ馬鹿じゃなし。


カラス:(M)故に、振り向かず、ただ歩む。


ニカク:(M)立ち止まるか、畏まるか。


カラス:(M)それこそ愚か。


ニカク:(M)師範代。私も。何某へ。其れを繋げたでしょうか。


フクロウ:「…。立派に出来たさ。よく、頑張ったね。」


ニカク:「ーーー…」


0:ニカクは笑っている。


0:ブランコ山脈 腹部


フェリス:「カラス?何してんのお、いくよ」


ヴァン:「…。」


カラス:「……。ああ。今行く。」


0:カラスは刀を握った。


カラス:「…またな。」


0:場面転換

0:イタリア シェフロア山脈


ヴァン:(M)6日と4時間24分。かくして不意に訪れた強化訓練は、終わりを迎えた。


林檎:「ーーうん。合格だ。よく頑張ったよ、ガロ」


ヴァン:(M)一方。6日と1時間11分。時刻25時11分。辺りは砂煙と倒れる木々で覆われている


林檎:「あと約22時間。約束の時間まで残り僅かだね」


ヴァン:(M)イタリア。シェフロア山脈にて、こちらもまた、激動に抗う新生が一人。


ガロ:「ああ、ラスト一日、最後の訓練だ…っ。次は、何をすりゃいい…!」


林檎:「…。実戦、だね。」


ガロ:「実戦…?」


林檎:「異常体との戦闘経験が無さすぎる。君は頭で考えるよりも、感覚で覚えた方が早いと踏んだ。僕とだけやり合っていても、敵は常に未知数だ。」


ガロ:「何でもやるぞ…。ジャイロとノエル助ける為だ。」


0:場面転換

0:ブランコ山脈


カラス:「…朝日か。」


フェリス:「だね。飛行機の時間が、あと4時間後だ。これなら余裕で間に合うね」


ヴァン:「良かったよ、帰りまでキモダッシュじゃなくて」


カラス:(M)過去も精算した。繋ぎも頂いた。後は、今を生きるだけだ。ガロ。


0:場面転換

0:イタリア シェフロア山脈


林檎:「…4時間後。少し寝たら、君を実戦の場へ飛ばす。」


ガロ:「4時間…。はは、ああ、上等だ。なんなら今からでもいいぞ。」


林檎:「そう焦るもんじゃない。何でもそこは、法の一切が適応しない街と言われている。一筋縄ではいかないよ」


ガロ:「望むところだって言ってんだろ。最後の一日。どんな訓練でも受けて立つ。」


0:ガロは立ち上がった


ガロ:「どこだ、そこは。」


林檎:「ーーーバグテリア法外特区。自由と、喧騒の街だ。」


ヴァン:(M)何某。あららかなる流れに、抗ふべし。


0:ーーー「何某」ーーー


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