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シルブハス ニ

 タカラオは幼子を育てた。幼子はまだ四ツか五ツ頃に見えた。当時タカラオはガシライを凌ぐ里の使い手だった。彼には妻も子もおらず、しかしそれを欲しておらず、彼の業に狂気が必須であるならば、彼は最適な人格を持ち合わせていた。

 里の外で拾われた幼子は別の名を名乗ったが、タカラオによって名の一部を省かれクロと名付けられた。彼が成人する前までオニという名で呼ばれていたように、里流の名を彼に授けたのだ。幼子の居た故郷は獣に襲われ流浪の最中両親は殺されてしまったのだと言う。その齢の幼子とは思えない淡々とした話しぶりを気に入ったのか、そうでないのか、タカラオは幼子の話を聞いて笑い、彼を気に入った。

 タカラオは里の中でただ一人幼子の偽りに気付いていた。

 クロの成長は著しく遅かった。しかし頭は冴え、小さな体とは思えない身体能力はタカラオの関心は買ったが里からは不気味がられ、孤立がちな生活が続いた。

 彼が里に来て数年が経った頃、タカラオは幼子にある女を殺させた。

 タカラオは事ある毎にこの里の、この国の宗教の概念の一つである業についてクロに語り聞かせた。

 タカラオは言った。業を受け入れろと。クロは始め抵抗し、里のもう一つの生き方である糧を得る道へ逃れようとした。しかしクロは受け入れた。その結果タカラオは里の外で獣に襲われ死んだ。その後俄にクロと獣が交わりを持っているとの噂が流れたが、誰も真相を知る者はいなかった。

 クロが里に来て十年以上が経っていたが、彼も幾分か成長はしていたものの年齢に不釣合いに幼く見え、里一番の手練テダレが里の付近で獣如きに殺されたこと、この二つが合わさってクロのへの視線は決定的なものとなった。


 スニルの目は時にタカラオを思わせる。

「ダメだ貴様だけは。残れ。」

「これ以上ここに居れば、俺はきっとあんたを殺してしまう。」

 スニルの頬がピクリと引き攣った。まだガキの癖に、そう思う反面ガキの癖に淡々と伝える姿とあの腕を思うと冗談ではないのだろう、彼の嗅覚は察する。

「俺から去って、この国で貴様みたいな輩どもがどうやって生きる。」

 声こそ荒いでいないが彼の目を思わせる感情がクロの背を追いかけた。

「どうとでもなる。俺に関わるな。」

「異教徒が。」

 振り返り答えたクロに、スニルは吐き捨てた。



 鍛冶仕事はこの国では不向きだった。とにかく燃料である炭が高騰していて更には人々が貧しすぎた。鍋や刃物の修繕程度ならともかく新しくそれらを作るとなると明らかに輸入される製品の方が安かった。しかしこれでも燃料は格段に安くなった方だという。なんでも、新しく得た伐採地から木材の供給が始まったらしい。

 それを知った時、アヤ達は明らかに顔を曇らせた。

 やっとの思いで粗末な移動式の炉や道具を手に入れ、蓄えも尽き始めた頃雨季が来た。一日はスコールと晴天が何度も繰り返されるようになり、突き抜けた力強い青い空を反射してどちらが空なのか時に見間違える程に辺り一面は水没した。

 川舟に鍛冶道具一式を積んで全員でスラムへ向かう。思わず吸い込まれてしまいそうな景色に久しぶりに皆の心は弾んだ。

 街に着き、久しぶりに大勢の人を見たクロを除く全員は緊張した顔を見せた。以前の仕事で顔が割れてしまっているクロは布を頭に巻いて大きく顔を隠しながらそんな皆に笑いかける。

 立ち竦む一行の中で、アヤは意を決して声をあげた。

「鍛冶は入りませんか?お鍋に包丁に鎌、なんでも修理します!今は炭が安いからお得に修理できますよ!」

 薄汚れた街に透き通った声がよく響いた。羞恥に頬を染めながらも声をあげるアヤを見てクロは驚いたような顔をし下の子達を見た。イーコはクロの顔とシンとラクを見比べた後、よしっ、と気合を入れてアヤに続いて声をあげた。その姿を見てシンとラクもはしゃぎながら大声をあげた。

「お前は参加しないのか?」

 からかうようにハイに声を掛ける。

「俺もあんたのように鍛冶する側になるつもりだから、いいんだよ、今は。」

 慌てたようにハイはそっぽを向いて答えた。その姿を見てクロは笑う。

 確かに今は普段より炭が安い。その日は想像以上に修理の依頼が殺到し、クロは一日中屑鉄を溶かし、ひび割れを鍛接し、刃物を研ぎ続けた。アヤ達は途中から楽しくなって呼子に夢中になり、ハイはクロの手元を必死になって見ながらもクロの手伝いを続けた。

 雨季はスラムの民達にとって乾季に比べればいい季節だった。清潔な水がただで豊富に手に入り、魚がよく捕れる。農産物の収穫期の恩恵を受けられないスラム民達にとって、色々な意味で無い金を絞って家にあるものを修繕するいい機会だったのだろう。

 その日、想像以上の売上を手にしたクロ達は鍛冶仕事で真っ黒な体になって帰路についていた。初めてした商売がうまくいった興奮と、これまでの引きこもりがちな生活と正反対の一日と、汚れて真っ黒な顔になっている姿に皆お喋りが止まず笑いあった。

 途中、スコールが降った。猛烈に降る雨に皆大騒ぎし、下の子達は服を脱いで体を洗い始めた。

 クロはまだ頭巾を被っていたことにそこでようやく気が付き、頭巾を取ると空を仰いだ。傾き始めた分厚い空から落ちてくる冷たい雨が太陽と炭に照らされ火照った体を心地よく冷やした。目を瞑り、深く息を吐く。ふと視線を戻すとアヤも雨に濡れていて、こちらを見て笑っていた。

「お疲れ様!全部クロのおかげだね!」

 俺の?言われてクロは虚を突かれた気がした。

「クロありがとう!」

 シンとラクがイーコにつつかれて大声で叫んだ。

「頼りにしてるよ。」

 ハイもはにかんだようにクロに伝えた。

 アヤはクロの顔に思わず見惚れた。

「皆、頑張ろうな。」

 笑うクロの表情は、どこまでも無邪気だった。



 雨季が終わりに近付く頃、こんな噂が立った。

 乾季を目前に控え、大々的にスラム民狩りが行われる、と。

 その噂は瞬く間に広がった。事実、目付きの悪い連中が壁の向こう側との行き来を頻繁にしているのが多数目撃され、更には様々な物の価格が高騰した。

 その不穏なスラムでの噂を前に、俄にクロ達の売上は伸びた。中でも武器を造れないかという相談が複数持ち込まれ、その価格の高さを前にスラム民達は去りながらも、正規の流通路で武器を手に入れることができないスラム民達は様々な手段を講じて武器を手に入れた。幾度となく警備兵が襲撃され身ぐるみを剥がされ、報復にスラムが焼かれた。


 噂はあくまで噂だったのか違うのか、しかし確かに両者の間で緊張は高まりつつあった。

 きっかけは彼らにとってはいつもの行動だった。無作為にスラム民達の家に武装した集団が僧同伴のもと上がり込み、異教徒の証拠を探し、見付けたからには周辺一帯のスラム民達を邪教を信仰していると宣言し後日狩りを行う。

 その日、ある少女が持っていた金属製の首飾りが邪教の儀式用具だと決め付けられ、怒ったスラム民達は僧諸共その集団を叩き殺してしまった。僧が殺されたという事実は、より過激になりつつあったマーブ教団の原理主義派のメンフ派にとってなにより重大であった。


 生活は以前に増して貧しくなった。シンとラクは貧しい食卓に不満をこぼし、イーコに怒られ、アヤに慰められるということが毎日のように続いていた。それでもクロは穏やかに流れ続ける時間に満足をしていた。

 雨季の終わりは水没した平原の水かさが減って船が進まなくなった。クロとハイは船から降りて船を引っ張り、船に残った四人はそれを応援しながらスラムへ向かった。

 まばらに訪れる客を相手にしながら、ふとこちらを見ている数人を従えた馬上の男に気が付いた。クロは面を伏せ鍛冶仕事を続けたが、馬上の男は馬から降りてクロ達に近付いた。明らかにスラム民達とは違う裕福さを備えた男に対し、アヤは客引きに向かおうとするシンとラクを抱き寄せて引き止めた。

 男はクロの前に立ち暫く仕事を眺めていた。

「やっぱりてめぇか、イサイ。」

 クロが顔を上げるとそこにはスニルがいた。

「てめぇがこんなことも出来るとはな、恐れいったぜ。」

「何か用か。」

「そうだな、用は特になかったがてめぇを見て思い出したぜ。お前、また俺の下で働け。金は以前の三倍出す。」

「妙に切羽詰まってるみたいだな。」

「なんだと?」

 スニルは以前と同じように贅沢な服を着ていたが妙に汚れが目立ち、常に高級な酒を持ち歩いていたのが安酒に変わっている。

 スニルはそれ以上返事をしないクロを激しく睨み、鎌を研いでいたクロの砥ぎ石を蹴飛ばした。

「俺の依頼を断るとどうなるか分かってんのか、てめぇは。」

「命令ではなく依頼か。お前が俺のような奴に縋るなんてな。」

 スニルは更に顔を険しくさせたが、暫くして踵を返して去ろうとした。

 おいイサイ!スニルは振り返り声を掛けた。

「イイ女連れてるな。俺の下にいた時にこの女をちゃんと俺に貢いでりゃ一年分の稼ぎをやってたぜ。」

 スニルの発言にクロは押し黙り、そして俯いた。スニルはその姿に笑い、ハイはその意味を悟って思わずクロを見る。

「消えなさい!」

 突然熱気を割るような鋭い声がスニルに向けられた。スニルはアヤを見た。この街に似つかわしくない一見病弱にすら見えた女の目はスニルの期待していた反応と違い揺れることなく彼を見据えていた。その目は力強く、しかしどこか覚えがあった。

 視線を合わせ続けることができずスニルは視線を外してしまい、そのことに気付いて妙に苛立って舌打ちし、目に留まったまだ俯いているクロを鼻で笑ってから去っていった。

 クロは改めて自身の行っていたことを思った。そう、おかしくなかった。いつ自身のような存在が自身の大切な存在を奪っていったかも。

 アヤはクロを見た。手元を止めて黙り込むクロを見てなにを言えばいいのか迷った。

 その日の夕方仕事を終え、いつものように食べ物を買いに市場へ向かう。

 ふとクロはシンの視線の先にあるものに気付いた。そこには貧しい身なりながらも母親にじゃれつき甘える子供の姿があった。ちょうど彼と同じ年の頃だった。

 クロもそれから目を離せなくなった。自身は、あのような存在を幾つも壊してきた。そんな自身なればこそ、怯えるのもおこがましいのではないだろうか。

 クロ、隣を歩いていたアヤが声を掛ける。

「クロは皆を守ってくれていた。それでも許されないけど、きっと、きっと仕方なかったんだよ。」

 アヤもその先を見ていた。彼女の横顔は容易に夕日に染まってしまう。

 彼女がこちらを向く。その瞳はかつて見たように黒く濡れていた。

 どんな顔をしただろうか。分かっていても納得なんてできるわけがない。なのに、誰かに隣で肯定してもらえるだけでこの重く、腹の底で蠢くなにかを忘れられる。誰かに代わりに涙を流してもらえるだけで、自分を誰だったかを思い出すことができる。


 どう表現すれば良かったのだろう。知っていた。なんだったか。でも、知っていた。

 

 帰路に着こうとした時、夕焼けを背景にしたスラムから悲鳴が上がった。悲鳴は連鎖するように大きくなり、あっという間に怒声の入り混じった大きな騒ぎへと変節した。

 すぐにクロはスラム民狩りを連想した。巻き込まれる前にここから離れる必要を感じ船に急いで全てを詰め込みスラムを出た。

 その日は皆不安な面持ちで遠ざかる夕焼けを眺めていた。

 スラムは火がくべられ、それ自身が夕焼けの源であるが如く空を燻り続けていた。


 翌日、遠目から見てもスラムの姿は一変していた。

「引き返そう。」

 ハイが緊張を隠さずに言う。堤防沿いに密集していたボロ小屋は燃え尽きた後も未だ煙が燻り、微かに尋常でない人の叫び声がこの距離からでも響いている。

「いや・・・何があったのか情報が欲しい。俺は街に入る。ハイ、皆を頼んだぞ。」

 ハイは目線を逸らしたが頷いた。クロはハイに皆を託し引き返すよう伝えた。そして自身はスラムに潜り込んで様子を見るつもりだった。その尋常ではないスラムの焼かれ方に、これから先糧を得る方法がなくなるのではないか、そんな危惧を抱いた。

「そんな、ダメよ。クロも一緒に帰るの。」

 アヤは心配を隠し切れない表情でクロに縋った。

「俺は絶対大丈夫だ。アヤ達にはハイがいる。アヤ達も絶対大丈夫だ。」

 ハイの様子を横目で見ながらもクロは腰に短刀を隠し、頭に布を被り一人行く準備を始める。その姿に幾ら止めようが彼は行くということを悟った彼女は鳴る心臓を抑えるように胸に手を宛てた。

「絶対に無理しないで、無事に帰ってきてね。」


 今は腰ほどもある水もスラムに近付くごとに浅くなっていく。しかしクロは体を低くしなるべく水の中に体を隠しながら近付いた。

 繋留所代わりに使っていた低い堤防から顔を出す。焼け跡の合間合間には死体が転がっていた。蝿がうるさく、しかしあれだけうるさいはずのスラムからは人の気配がしなかった。

 水から上がり死体を調べる。男、女、子供、どれも区別なく鋭利な刃物で斬り付けられた痕がある。それを見てすぐに思う。ただのスラム民狩りならば女や子供は抵抗しても捕えるはず。

 その時スラムの中心から鬨の声が上がった。クロは走りその声がする方へと向かう。その途中様々なものを見た。

 死体はスラム民ばかりではなくシルブハスの手先となった武装させられたスラム民の姿も多数見られた。どれも死体はボロボロで、スラム民の怒りを見るようだった。更には馬の死骸、そして正規兵の旗、その旗の下にもボロボロの死体が。

 燃える断頭台。周辺にごろごろと転がるスラム民達の生首。昨夜なにが起こったのか大体が想像つく。

 これはスラム民狩りでもなんでもない。粛清だ。


「・・・の汝らに告ぐ!ここはマーブによる約束の地!そして聖陵の地である!その地を異形なる邪神を崇め汚すことその罪万死に値す!我らジャーブアーを守護し奉る騎士団!御命オンメイの下神の懲罰を下すなり!」

 黙れシルブハスの犬ども!

 てめぇらは神の使いでもなんでもねぇ!

 神の名を騙った悪魔はてめぇらだ!

 俺達も敬虔なマーブ教徒だ!同教徒殺しの獣野郎が!

 スラムの中心にある広場ではシルブハスの正規兵達の部隊が集団を形成したスラム民達と睨み合っていた。照りつける日をきらびやかに反射する一団は指揮官の宣告が終わると同時に再度鬨の声を上げ、三メートル程はある長槍を下ろし槍の穂先で壁を作った。

 対するスラム民達は大声でシルブハスを呪う罵声を浴びせている。

 馬上の指揮官は剣を高く振り上げ、突撃の号令と共に剣を振り下ろす。更に鬨の声を重ねた槍兵達がスラム民達に一丸となって走り迫った。スラム民達にも指導者らしき人物がおり、その指導者が腕を高く上げると生身の彼らも鋼鉄の壁に向かい走りだした。

 ぶつかりあった彼らの衝撃で肉が吹き飛ばされ、広場は一瞬で埃と血しぶきが舞って赤く暗い霧が包み、汚い地面が一瞬で血で染まった。

 数では圧倒しているスラム民達は槍の壁に突き破られ紙を引き裂くように集団は割られていく。

 しかし怒りで狂信的になっているスラム民達はその一方的な状況に一歩も引かず、肉の壁の重みで槍兵の動きが鈍ると槍を掴んで槍の間に体を滑り込ませ、対照的な見るからに野蛮な武器を手に正規兵達に挑みかかった。それを見た正規兵達は槍を剣に持ち替えて応戦を始める。残酷な白兵戦が始まった。

 白兵戦が始まってもスラム民達は劣勢だった。装甲も施さず、急拵えで製造した斧や棍棒といった武器で武装した彼らは個対個で圧倒された。しかし死を恐れず後から後から押して湧いて出てくるスラム民達は次々と正規兵達を押し包むように包囲し始めた。

 背後に控えていた正規兵の指揮官が状況に気付いて手元に残しておいた僅かな予備兵力を退路を残す為に投入したが焼け石に水だった。新たに投入された隊も押し包まれ、更には指揮官の元へもスラム民達が押し寄せ、いつの間にかどこからか呼び集まったスラム民達は広場とそれに繋がる通路全てを覆い尽くした。

 数に圧倒される正規兵達は引き倒され、鈍器で装甲の上からめった打ちにされ次々と殺されていく。そのような光景が増えれば増える程に恐怖は伝播し、あれほど優越に見えた正規兵達は退路もないのに戦いを放棄して逃げ惑い始めた。最早指揮官が怒声を上げたとしても聞こえるような状況ではなかった。

 クロはスラム街で数少ない高い建造物である人のいなくなった教会の屋根からその戦いを見守っていた。

 正規兵達が汚れた波に飲まれて消えようとする頃、更に壁の向こう側から武装を施した兵達が姿を現した。しかしその兵達は広場に辿り着く前に通路でスラム民達に襲われて乱戦となり、同じような光景が繰り返された。

 見渡す限りのスラム街では、遠くでも煙が上がっているのが見える。

 突然広場のスラム民達が鬨を上げた。

 気付けば戦いを続ける兵士の姿は見えなくなり、極少数残った彼らはスラム民達に捕らえられ、地を震わせるような民衆の叫びに戦いが始まる前の威厳が嘘だったかのように震え上がった。

 スラム民達は兵達を縛り上げて壁に立たせると集団で足元に落ちていたあらゆるものを投げつけた。広場を舗装する石材や手に持っていた武器、ダーツのように短剣を投げつけるものすらいた。

 兵達は投げつけられるものに骨を砕かれ、短剣が突き刺さり、立つこともできなくなり地に伏せても手で頭を守ることもできずに無慈悲に投擲が続いた。

 数人が動かなくなる頃更にスラム民達から歓声が沸き起こった。どこからか持ってこられた断頭台に気付いたのだ。

 彼らは負った傷に緩慢な動きで虚しく抵抗する兵達を無理やり断頭台に据えると、残酷にもあまりに切れ味の悪い斧で何度も失敗しながら苦しみもがく兵達の首を落とした。彼らが苦しめば苦しむほど、首が落ちる毎に大歓声が起こり、それが街中に広がっていく。

「人の生きる場所じゃない・・・」

 無意識に衝いて出た言葉は、どこまでも無責任に響いた。



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