仮想の魔法
放課後。
校門を出たところで、アルトが口を開いた。
「今日、どっか寄ってかない?」
「もう寄り道も定番ね」
ユナが笑う。
「今日はどこをご希望?」
「ゲームセンター」
「またゲーム?」
「新しいゲーム入ったんだって」
「へえ、どんなの?」
「没入型シミュレーション」
「……それって、前に話してたやつ?」
レンが聞く。
「ああ。実際に中に入って遊ぶやつ」
「へえ」
レンは少し興味を持った。
「面白そうだな」
「だろ?」
「フィーリアは?」
「……行く」
「じゃあ決まりだな」
四人は商業区へ向かった。
ゲームセンターに入ると、奥の一角に大きな装置が並んでいた。
円形の台座。
その周囲を覆うように、半透明の魔導装置が配置されている。
「これ?」
「そう」
アルトが嬉しそうに頷く。
「最新型だってさ」
「結構大きいな」
「没入型だからね」
ユナが説明を読む。
「視覚、聴覚、身体感覚を仮想空間に合わせる……だって」
「身体感覚まで?」
レンが装置を見る。
「危なくないの?」
「安全制御が入ってるから大丈夫」
アルトが答える。
「仮想空間で攻撃されても、現実の身体には影響しない」
「へえ……」
レンは装置を眺める。
「じゃあ、本当に中で戦えるんだ」
「そういうこと」
受付を済ませ、四人で簡単な説明を聞く。
「対戦、協力、探索……色々あるみたい」
ユナが案内板を見る。
「最初は何する?」
「対戦」
アルトが即答した。
「やっぱりそれね」
ユナが笑う。
「これの一番面白いところだからな」
「アルト、対人戦好きだよね」
「だって相手が人間だからな」
「それが理由?」
「それが一番だろ」
アルトは笑った。
「コンピューター相手だと、ある程度パターンが読める。でも人間は違う」
「へえ」
「同じ攻撃でも出すタイミングが違うし、相手によって癖も違う」
アルトは楽しそうに話す。
「そこを読んで、次に何するか考えるのが面白いんだよ」
「なるほど」
レンは少し考えた。
「じゃあ、最初は俺とやってみる?」
「いいの?」
「むしろやろうぜ」
アルトが嬉しそうに笑う。
「決まりだな」
* * *
仮想空間が展開する。
視界が切り替わった。
レンの目の前に広がったのは、広い訓練場だった。
青い空。
平らな地面。
遠くには建物。
現実と区別がつかないほど精巧に作られている。
「レン、聞こえる?」
アルトの声がする。
「聞こえる」
「身体、動かしてみろ」
レンが腕を上げる。
自分の身体が、そのまま動いた。
「……本当に動くな」
「仮想空間だからな」
アルトが笑う。
「じゃあ、魔法を選ぼうぜ」
目の前に魔法の一覧が表示された。
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
「……全部使えるのか?」
「ゲームだからな。好きなの選べばいい」
レンは風を選んだ。
「風にする」
「お、レンらしい」
「なんとなく」
魔法を選択すると、目の前に術式が浮かび上がった。
「……」
レンがじっと見る。
「どうした?」
「いや」
魔法陣の構造を見る。
現実で習ったものとは少し違う。
けれど、考え方は似ている。
魔力を集める。
術式へ流す。
属性を変換する。
そして発動する。
「……なるほど」
「レン?」
「これ、面白いな」
「ゲーム始まるぞ」
「ああ」
開始の合図が鳴った。
一戦目
アルトが一気に距離を詰めてくる。
「速っ!」
レンが慌てて後ろへ下がる。
アルトが手を振る。
炎が飛んできた。
「うわっ!」
レンが横へ飛ぶ。
炎が地面へ当たり、光の粒になって消える。
「ゲームなのに結構怖いな!」
「慣れろ!」
アルトが笑う。
レンも風の魔法を放つ。
風がアルトへ向かって走る。
けれど。
「遅い!」
アルトが避けた。
そのまま距離を詰める。
「ちょっ――」
次の攻撃を受ける。
視界に敗北表示が浮かんだ。
「……負けた」
「よし!」
アルトが嬉しそうに笑う。
「どうだった?」
「強いな」
「だろ?」
アルトが笑う。
「もう一回やろうぜ」
二戦目
今度は、レンが最初から距離を取った。
アルトが近づいてくる。
火。
レンが避ける。
続けて土の攻撃。
それも避ける。
「……なるほど」
レンは相手を見る。
アルトは、こちらが距離を取ると魔法を使う。
そして、避けた方向に合わせて次の攻撃を変えている。
「そこだ!」
レンが風を放つ。
アルトが避ける。
その瞬間、レンが反対側へ回り込む。
「おっ」
攻撃が当たった。
「やった!」
「お前、もう分かってきたのかよ」
「さっき見てたからな」
「なるほど」
アルトが笑う。
その後は一進一退。
けれど、最後はアルトが一瞬早く踏み込み、レンの攻撃をかわした。
「よし!」
アルトの勝利。
「……また負けた」
「でも、さっきより全然いい」
「アルトが同じ動きしなくなったからな」
「そりゃ変えるだろ」
アルトが笑う。
「じゃあ、次で三戦目な」
「うん」
三戦目
三戦目は、最初からお互いに慎重だった。
アルトが動く。
レンが待つ。
レンが動けば、アルトが反応する。
相手の動きを見る。
前へ出る。
止まる。
フェイント。
魔法。
近接。
アルトは、一戦目とはまるで違う動きをしていた。
レンも同じだった。
相手の動きを見て、次に何をするか考える。
「……ここ!」
レンが風を放つ。
アルトが避ける。
そこへ、もう一つ。
今度は少し遅らせて風を重ねる。
「うわっ!」
アルトが被弾した。
「やった!」
「今のは読めなかった!」
アルトが笑う。
そこから二人は一気に攻撃を繰り返した。
避ける。
撃つ。
近づく。
離れる。
そして最後。
ほとんど同時に攻撃が当たった。
結果表示が出る。
「……」
「……」
二人で画面を見る。
「引き分け?」
「引き分けだな」
アルトが笑った。
「三戦目でそれかよ」
「アルトが強いからだろ」
「レンも強くなってるって」
レンは少し笑う。
「……面白いな」
「だろ?」
アルトが頷く。
「これが対人戦の面白さなんだよ」
「相手によって毎回変わる」
「そうそう」
アルトは楽しそうだった。
そこで仮想空間が解除された。
現実へ戻る。
「三戦でどう?」
ユナが聞く。
「もっとやりたい」
アルトが即答する。
「だと思った」
ユナが笑う。
「でも、次は私たちもやる」
「え?」
レンが振り返る。
「見てるだけじゃつまらないし」
「私もやってみたい」
フィーリアも頷いた。
「じゃあ、次は四人でやろうぜ」
アルトが嬉しそうに笑う。
「協力プレイもあるからな」
* * *
次に選んだのは、四人協力型のロールプレイモードだった。
仮想空間が切り替わる。
今度は、広い草原が広がっていた。
遠くには城。
その周囲を、魔獣の群れが取り囲んでいる。
「うわ……」
レンが思わず声を漏らす。
「今度はゲームっぽいな」
「役割を選べるみたい」
ユナが表示を見る。
「前衛、後衛、回復、補助……」
「俺、前衛!」
アルトが即答した。
「だと思った」
ユナが笑う。
「私は補助にする」
「じゃあ私は回復」
フィーリアが言う。
「レンは後衛でいいんじゃない?」
「分かった」
レンは後衛を選択する。
「属性も選べるみたいだな」
「好きなの選べばいいんじゃない?」
レンは風と火を選ぶ。
「これ、現実で使ったことある魔法と似てるな」
「ゲームだから簡単だけどね」
ユナが言う。
「じゃあ、始めるよ」
開始の合図。
魔獣が一斉に走ってくる。
「来た!」
アルトが前へ出る。
「任せろ!」
仮想の剣を振る。
魔獣を吹き飛ばす。
「右!」
ユナが叫ぶ。
「分かった!」
アルトが振り向く。
レンは風を放ち、敵の動きを止める。
「今!」
「おう!」
アルトが突っ込む。
フィーリアの回復魔法が飛ぶ。
「アルト、怪我」
「サンキュー!」
「次、左から来るよ」
ユナが知らせる。
「了解!」
四人がそれぞれの役割をこなしていく。
最初はバラバラだった。
けれど。
「レン、後ろ!」
「分かってる!」
風を放つ。
「フィーリア、今!」
「うん」
回復。
「アルト、今なら行ける!」
「任せろ!」
前へ出る。
「ユナ、次どうする?」
「そのまま右!」
「了解!」
少しずつ。
四人の動きが噛み合っていく。
「……なんか、これ楽しいな」
レンが笑う。
「だろ?」
アルトが笑い返す。
「対戦とは違う面白さがある」
「みんなで勝つ感じ?」
「そうそう」
最後の魔獣を倒す。
城を囲んでいた群れが消えていく。
画面に勝利の表示が浮かんだ。
「やった!」
ユナが声を上げる。
「勝ったね」
フィーリアも小さく笑う。
「結構面白かった」
レンも笑う。
「またやりたいな」
「次はもっと難しいやつ行こうぜ」
アルトが言う。
「もう一回?」
「もちろん」
ユナが呆れたように笑った。
「アルト、本当にこういうの好きだね」
「だって楽しいだろ」
四人で笑う。
ゲームセンターを出る頃には、外はもう夕方になっていた。
「今日は結構遊んだな」
「うん」
レンが空を見る。
夕暮れの空。
いつもの街。
けれど。
今日のレンの中には、一つだけ新しい感覚が残っていた。
仮想空間で使った魔法。
ゲームの中では、術式を選ぶだけで簡単に発動できた。
けれど。
「……あれ、現実でもできたら便利だよな」
「また魔法のこと考えてる」
ユナが笑う。
「だって面白いんだよ」
レンも笑う。
ゲームの魔法は、あらかじめ術式が用意されていた。
名前を選ぶだけで、すぐに発動できる。
なら。
現実でも、完成した術式をあらかじめ準備しておいて、呼び出せるようにしたら――。
「……今度、アーヴェルさんに聞いてみようかな」
そう呟きながら。
レンたちは、夕暮れの街を歩いて帰っていった。




