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空から始まる2度目の青春  作者: 紺野 翼


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小さな違和感


 放課後。


 レンはアーヴェルの研究室を訪れていた。


「来たね、レン君」


「こんにちは、アーヴェルさん」


「今日はどうしたんだい?」


「ちょっと聞いてほしいことがあって」


「何かな?」


 レンは少し考える。


「昨日のウィンドなんですけど」


「ああ」


「その前に、一度だけ変な感覚があったんです」


「変な感覚?」


「はい」


 レンは自分の手を見る。


「魔力を使おうと思ったわけじゃないのに、勝手に動いたというか」


「勝手に?」


「落ちそうになったものを止めようとしたときです」


 レンは、以前のことを説明する。


「気づいたらウィンドを使ってました」


「なるほど」


 アーヴェルは少し考える。


「そのとき、何か感じなかったかい?」


「感じた……というより」


 レンは言葉を探す。


「魔力が、自分より先に動いた感じがしました」


「自分より先に?」


「はい」


 アーヴェルの表情が少し変わる。


「もう少し詳しく教えてくれるかな?」


「えっと……」


 レンは思い出そうとする。


「危ないって思った瞬間に、身体が勝手に動いたんです。魔力を動かそうとか、術式を組もうとか考える前に」


「なるほど……」


 アーヴェルは机の上に小さな測定器を置いた。


「少し確認してみようか」


「何をするんですか?」


「レン君の魔力の流れを見てみる」


「分かりました」


 レンは椅子に座る。


 アーヴェルが測定器を起動する。


 淡い光がレンの身体の周囲に広がった。


「魔力を少しだけ流してみて」


「はい」


 レンは集中する。


 魔力を意識する。


 胸のあたりから、少しずつ外へ流していく。


 測定器の表示が変化する。


「……」


 アーヴェルが表示を見る。


「もう少しだけ」


「はい」


 レンは魔力を増やす。


 淡い光が少し強くなる。


 アーヴェルは黙って観察していた。


「……止めていいよ」


「分かりました」


 レンが魔力を止める。


「どうでした?」


「……もう一度、やってみようか」


「はい」


 同じことを繰り返す。


 今度はアーヴェルが測定器だけではなく、レン自身をじっと見ている。


「…………」


「アーヴェルさん?」


「いや」


 アーヴェルは少し考える。


「少しだけ、流れ方が変わっている気がする」


「変ですか?」


「変というより……」


 アーヴェルは言葉を選ぶ。


「普通の人なら、もう少し外側に流れが出るはずなんだけどね」


「外側?」


「身体から外へ向かって、もっと分かりやすく広がるんだ」


「俺は?」


「君の場合は、少し内側に残る」


「内側に?」


「うん」


 レンは自分の身体を見る。


「それって、何か問題があるんですか?」


「今のところ、問題があるようには見えない」


「じゃあ、大丈夫?」


「そうだね」


 アーヴェルは頷く。


「ただ、少し珍しい流れ方ではある」


「……魔法適性がゼロだったことと関係ありますか?」


「可能性はある」


 アーヴェルは少し考える。


「でも、今の段階では何とも言えないね」


「そうですか」


「そもそも、レン君の魔力の扱い方自体がまだ普通とは違うからね」


「やっぱり?」


「うん」


 アーヴェルは笑う。


「魔力を感じ始めたばかりなのに、術式の構造を理解して、短時間で起動までできるようになっている」


「それは……」


 レンは少し照れる。


「覚えるのが得意なだけですよ」


「それもあるだろうね」


 アーヴェルは測定器を片付ける。


「ただ、今は無理に原因を探さなくてもいいと思う」


「分かりました」


「しばらくは、魔力を使ったときの感覚を覚えておいてくれるかい?」


「感覚を?」


「うん。何か今までと違うことがあったら、教えてほしい」


「分かりました、アーヴェルさん」


「特に、勝手に魔力が動いたように感じたときはね」


「はい」


 レンは頷く。


「気をつけておきます」


「それでいいよ」


 研究室を出る。


 廊下を歩きながら、レンは自分の手を見る。


「……内側に残る、か」


 少し気になる。


 けれど。


「まあ、今のところ問題ないならいいか」


 レンは歩き続ける。


 魔力を感じられるようになって。


 ウィンドも使えるようになった。


 まだ分からないことは多い。


 それでも。


 少しずつ前に進んでいる。


 そう思っていた。


 その頃。


 研究室に残ったアーヴェルは、先ほどの測定結果をもう一度見ていた。


「…………」


 数値そのものに、大きな異常はない。


 魔力の総量も、今のところ問題ない。


 けれど。


「……やっぱり」


 アーヴェルは測定結果を拡大する。


 魔力の流れ。


 身体の外へ向かうはずのものが、一部だけ不自然に内側へ戻っている。


 ほんのわずか。


 見落としてもおかしくない程度の違いだった。


「普通の流れじゃないな……」


 アーヴェルは小さく呟く。


 けれど、それ以上は考えなかった。


 今の段階で結論を出すには、情報が足りない。


「もう少し、様子を見るか」


 測定結果を保存する。


 画面を閉じる。


 そして、アーヴェルも研究へ戻った。


 まだ誰も。


 この小さな違和感が何を意味するのかを知らない。

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