19、企み
「九連くんに?」
「はい。……奈緒さんに恋心を錯覚させるのはどんな人なのか、一度この眼で見てみたいんです」
凪砂の返答に、麻理花はふうんと心中で笑う。
(この子、なかなかの逸材かも……大人しそうな顔してるけど)
「駄目、ですか?」
凪砂の問いに、麻理花はうぅむ、と悩む素振りを見せる。
「どうなんだろう。凪砂くんは基本的に屋敷から出ないようにするって遊子から聞いたから……」
すると、麻理花のお代わりと追加のお菓子を持った遊子が談話室に戻って来た。
「ねえ、遊子、」
「あ?」
首を傾ける遊子に、凪砂の希望を聞かせる。
「九連兄に、ね。……凪砂は、彼に会ってどうするの」
「…別に、本当に一目見るだけで構わないんです。どんな人か、知りたくて……」
やはり駄目なのか。
そう思い、声が徐々に小さくなっていく。遊子の視線を犇々と感じる。
「………分かった。構わんよ」
「!本当ですか」
「あぁ。見ておいて損はないだろうしな」
ありがとうございます、と頭を下げる彼の横で、麻理花がはいはい!と勢い良く挙手なぞをしている。
「遊子、遊子!」
「なんだ、いきなり」
「凪砂くんて、学校退学したんならさ、うちの高校に入ればいいじゃない。そうしたら九連くんにも奈緒にも普通に接触出来るし!」
まるで子供のように興奮気味に言う麻理花。普段の彼女からはあまり想像できない姿だ。
「またいきなりなことを言うねぇ」
「その方が楽しくなぁい?奈緒の反応も見られるし」
麻理花には既に奈緒の動揺する姿が見えているかのような言いぐさに、遊子は苦笑するしかない。
「しかしなあ……」
ちらり、と遊子の視線が麻理花から凪砂に移る。
「当事者は凪砂、あんただ。麻理花の提案をどう思う?」
くだらない集団生活、くだらない程度の低い授業、そして頭の悪いいじめっ子ども。
つい数時間前、退学出来て嬉しかった学校という檻。そこに再び入り直す?本来ならば何を馬鹿なことをと一笑に付すであろうこと。……だけど。
「それは、楽しそうですね」
麻理花の屈託のない笑顔に釣られるように、凪砂もにっこりと微笑むのだった。