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17、眠れぬ夜 side奈緒

―――――眠れない。

蓮本奈緒は、ベッドの上で寝返りを打ち、憂いを帯びた溜め息を吐いた。

時刻は、午後十一時。

良くも悪くも早寝早起きな奈緒は、遅くても十時過ぎには布団に入り、十一時にはかなりの確立で眠りについている。

しかし、今日は一切合財、睡魔が襲ってこない。襲ってくれない。

「・・・今日はいろいろあったから、かな、」

薄闇の中、小さく呟く。

――――――九連を迎えに病院に行って。

九連を慰めて。

九連の家で一緒にカレーを作って。

ほぼ喧嘩みたいになって。

九連に、“奈緒”と名前で呼ばれて。

そして、路上で絡まれていた沖永凪砂という少年を助けて。

(その子が、陽くんと瓜二つだった・・・)

今日は、何という一日だったのだろう。

影が拉致された事件から半年が経ち、刑事がまだ周囲をうろついているとはいえ、最近は落ち着いていた。なのにここにきて、いきなり色々起こった。

何かの予兆のように思えて、ならない。

(明日、遊子には細心の注意を払うように九連にもう一度念押しをしておかなきゃ・・・)

細心の注意を払ったところで遊子を回避出来るかどうかは甚だ疑問だが、注意をし過ぎるということはないだろう。

(・・・・・陽くん、)

陽という存在が、奈緒の中で徐々に姿を消して行きつつある。

今は、九連日向という存在が一番奈緒の心の中を占めている。

「ごめんなさい、陽くん」

一度だけとは言え、自分は陽と誓いあった。

『例えどんなに険しい道のりが待っていても、二人で乗り切ろう。生きて、ずっと二人で・・・』

陽は、奈緒に願った。

姉を殺した芦原の家で、ともに暮らすことを。

奈緒は、それに頷いた。

それほどまでに陽が好きだったし、陽が自分を求めてくれていることを知っていたから。

陽以外の人間を、好きになるわけがないと思っていたから。

なのに。

(あたしは、最低だ。陽くんとの誓いを破った上に、彼を殺してしまった。その上、違う人を好きになってしまった・・・)

――――――罪深い。

遊子ならそう言って哂うかも知れない。

(なら、九連は・・・・?それに、陽くんと同じ顔をしたあの子は・・・?)

哂うだろうか。

軽蔑するだろうか。

それとも・・・許してくれるだろうか。

(赦し・・・?)

自分が赦される資格などない。

そんなこと、百も承知のはずなのに、何を期待しているのか。

「あたしは、人殺しなんだから」

刑務所にも入らず、普通の人間と同じように生活している。

それだけでもおかしな話なのに、あまつさえ赦しすら願っている。

なんて、おこがましい。

(そう、あたしは人殺し。赦される資格はない。・・・九連を、好きになる資格も)

そう思っていても、九連日向という存在が蓮本奈緒という人間を支えていることは疑いようがないくらいに確かなことだった。日向のそばに居られなくなることを考えると、胃の腑が鈍い痛みに襲われる。

(けれど、遊子は九連と影に対して何らかのアプローチはして来る筈。・・・それなら、)

自分が屋敷に戻り、遊子の抑止力になるべきではないのか。

遊子の足枷になれば良いのではないか。

そうすれば、九連たちを守れるのではないか。

(やっぱり、あたしは)

ここに居るべきではない。

自分がいるべきはあの“屋敷”であり、日向の近くではない。

「あたしは」

ベッドを軋ませて、奈緒は上体を起こした。その瞳には、力強い光を宿らせている。

彼女は何かを決意して、何処かに携帯で電話を掛け始めた――――――――。






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