岩下 さくら編 アークと魔法の本 その17
<異世界(岩下 さくら)サイド>
深淵の騎士が向かってくる。アークには剣を防ぐ術がない。
(”空間:固定”で、剣を固定してみて!)
空間固定はアークの体重の2倍の重力抵抗を発生させる。軽く持っている程度ならば、剣は…、読み通り弾かれたように床に落ちた。
”影戯:分離”で、影を分離する。そのまま影は意思が通じたように剣に向かって走り出すが、剣までの距離は騎士のほうが近かった。
(”空間:交換”を使って! 影と騎士の位置を入れ替えて!!)
騎士と影の位置が入れ替わり、先に影が剣を手にする。
(”魔鏡:手鏡”で鏡を召喚するして、”魔鏡:開門”で鏡を開いて、剣を入れちゃって!)
影が投げた剣を拾うと、鏡を召喚して鏡の世界を開く。そして剣を入れて”魔鏡:閉門”で閉じてしまった。これで深淵の騎士は武器を無くしたのだ。
「今度は俺に任せてくれ!! 炎の魔法:爆炎!!」
魔法のランプが青白く光ると、ランプから炎の塊が深淵の騎士に向かって放たれた。
深淵の騎士はギリギリまで引き付け最後に回避しようとしたが、炎の塊は深淵の騎士に合わせて軌道を変えた。爆音と爆風が部屋をかき乱す。
深淵の騎士は壁にもたれ掛かっていた。壁まで飛ばされたのだろう。
鎧はヒビだらけだが深淵の騎士は、ゆっくりと立ち上がった。
「アーク!! もう一度だ! 何度でも…」
魔法が発動しない…俺の魔力が…。意識が薄れていく…。またか、ここで倒れるわけには…。
ぐっ、とこらえ…意識を保つ。そこに体を再生させたハーデェレンが深淵の騎士に飛び蹴りをする姿が視界に映る。ここは…我慢だ…少しでも魔法が使えるように整えるんだ。
ハーデェレンと深淵の騎士の殴り合いは、体格的な問題で、やや深淵の騎士が有利だ。俺は魔法のランプを深淵の騎士に向ける。だが接近戦のため撃つに撃てない。躊躇していると、ハーデェレンの顔面に深淵の騎士のパンチが入った。今だ!と思ったとき、ガッと腕を掴まれた。
「よう、アーク…。後は任せろ」二級冒険者ヴァグナーとメイダスだった。
メイダスが矢で牽制しつつ、ヴァグナーが短槍に重心を乗せながら、深淵の騎士のパンチをクロスカウンターに近い感じで突き刺した。そこにハーデェレンの全力の拳が止まってしまった深淵の騎士の腹部にめり込む。メイダスも矢を連射し次々に深淵の騎士に撃ち込んでいった。
三人の同時攻撃で、活動を停止したように頭部が下がる。すると深淵の騎士から光が漏れ始める。
「おい、こいつ、自爆するだぜぇ! 逃げろっ!!」
三人はこちらに向かってくる!! 爆発に巻き込まれる前に! 「魔法のランプ! 爆炎だっ!!」
最後の力を振り絞り、光り輝く深淵の騎士に爆炎を放つ!
爆炎はヴァグナーの頬をかすめながら、深淵の騎士に命中して、三人から遠くに離れた位置まで、深淵の騎士を吹き飛ばしたのだった。




