夏草 優編 ショタっ子、草花を詰む その7
<異世界(夏草 優)サイド>
お師匠様の背中を守るのが俺の役目だ。弓に矢をつがえる。お師匠様の攻撃が繰り出されたタイミングで襲ってくるゴブリンに向けて矢を放つ。しかし津波のように押し寄せるゴブリンたちを相手にするのには、矢が足らなすぎる。
それでもお師匠様は、一歩ずつ確実に森へ近づいている。
「おい、メイダス!! 森の何処に、薬草があるんだ!?」
「金花です、金色の花です! もうチラホラ見え始めています!!」
そう、あと少しだ。あと少しで手に入る!! と、思った時だった。森の奥から、重装備のゴブリンたちが出現したのだ。ゴ、ゴブリンナイト!?
ゴブリンナイトとは、人間と同格の個体であり、それが出現したということは、既にゴブリンの国ができあがっていることを意味していた。
「はっ! マジかよ…」とお師匠様も呆れ顔だった。
二級冒険者のヴァグナーでも、人間の騎士と同格のゴブリンナイトを複数相手にするのは、かなりの体力を削られるはずだ。俺も一体ぐらいは打倒さなければと思い、一歩前にでようとしたが、お師匠様に止められた。
その動作で、お師匠様が呆れ顔だった理由がわかった。お師匠様にはゴブリンナイトなど眼中になかったのだ。その後ろに顕現した恐怖に俺は凍りついた。
ゴブリンゴーレム。冒険者で言えば二級以上の魔法使いが召喚できるゴーレムと同等の物。そんな物が、ゴブリン王国の入口付近に出てくるとは…。これでは人間の国、一国では相手にならないのでは??
「人間たちよ、何故、我らが森に侵略するのだ?」ゴブリンナイトが口を開いた。
「金花です。今、人間の都に流行病が蔓延している。その金花が治療薬と成ります。どうか金花を収集させて下さい」
ここで交渉が成立しなければ、金花の採取は難しいだろう。流石にお師匠様でも、あれだけの戦力を同時に相手にするのは厳しいはずだ。
「こちらは多数の犠牲者が出た。しかし…、この我が王からの親書を、そなた達の王に渡して欲しい。渡したかどうかは返事でわかる。どうだ? 渡すならば、その金花とやらの採取を許可しよう」
「わかった。どの道、もう王がいるということは、そちらも国が出来上がったということだ。オレ一人が勝手に国に喧嘩を売っていいはずもない。ただ、オレが直接、王へ手紙を渡せないことは理解してくれ。とある組織経由なので、多少は時間がかかる」
「なるほど。問題はない。だが確実に渡してくれ。あとは、好きなだけ採取するが良い。ただし本日限りだ」
ゴブリン達は見張りだけを残し去って行った。
俺は、またゴブリンたちが戻ってこないうちに、見える範囲にある金花を全て採取した。
「お師匠様、帰りましょう」
手紙を黙って見つめていたお師匠様に声をかける。
「あぁ…」とだけ呟くお師匠様だった。




