八雲 リディ編 不幸を呼ぶ魔女 その1
<異世界(北条 彩乃サイド)サイド>
牛丼を買っただけでストレスいっぱいだ。足早に家に帰ると、乱暴にドアを開ける。わたしには…わかる。弟の他に誰かがいるって…。あれ? 弟はまだ学校のはずだけど?
玄関から、一番奥にあるわたしの部屋までの途中に、弟の部屋がある。弟の部屋のドアが少しだけ開いている。まるで中を見てくれと言わんばかりに。
弟は裸だった。そんな姿でするのはアレ以外ない。あれ? 弟って何歳だっけ?
心臓がバクバクしている。驚いているのか、興奮しているのか、どっちだろう?
部屋に入る。まずは深呼吸だ。落ち着け、落ち着け。
パカッと牛丼の蓋を開け、胃袋の中に牛肉と米を掻っ込む。
モグムシャ、モグムシャと食べていると、ギィィィって音がしてドアが開く。
えっ!? 裸の女が入ってくる? 頭が混乱する…。
「八雲?」そうだ。同じクラスの八雲 リディだ。
「邪神様の力。上手に使えているみたいね」
「なんで、あんたが、知っているの?」
「ふふっ。元々あなたと同じ、送り主だったのよ。でも突然言われたの。ずっと送り主を続けるか、サキュバスになるかって…。答えは決まってるわ。いつか殺されるかも知れない送り主より、サキュバスを選ぶでしょ? そんなことはどうでも良いわ。それより…この紙に書いてある通り、明日の午後14時に…私を異世界に送りなさい」
「だ、駄目よ。わ、わたしと接触して、失踪したら…わたしが、疑われるわ! それに…あなたなら…異世界で…魂を破壊して、わたしを殺せる気がするもの」
「そうね…。あなたが疑われては…確かに困るわね。では、休校が開けて、三日後によろしくね。あぁ…それに魂を破壊する気はないと言うか、できないのよ、わたしには…。むしろ魂を守る側になるのよね」
「お、弟に…何をしたのよ!?」
「サキュバスがやることなんて…言わなくてもわかるでしょ? 今なら、どんな記憶にでも変えられるけど…どうしたいのかしら?」
「ゆ、夢を…みてたってことにして!」
「あら? 結構、家族思いじゃない? 昔は嫌いだったけど、今は好きよ、偽善者さん。ふふふっ。面白いわ。死ぬのが怖くて、怖くて、どんどん犠牲者を増やしていくのね。わたしと一緒だわ」
あの女が家を出ていった後、弟の後始末が大変だった。大切な弟だ。何も関わって欲しくない。ただの夢だと思っていて…。
八雲 リディ…。あいつは人間じゃない。サキュバスとか言ってたっけ? 異様な存在だ。決して逆らってはいけない。そうだよ、異世界に行きたいと言うならば、行かせてあげればいいじゃないか。そうすれば、二度と会うこともないのだから…。
リディが残したメモをみる。
『最古の魔女にして最凶の魔女』
たったそれだけだ。しかし…こんなのを異世界に放って良いのだろうか?
「あっ…。わたしの…クラスメイトに手を出さないように…言っておかないと」
帰ったと思っていた”八雲 リディ”が背後に立っていた。
「ふっ。その程度の約束なら構わないわ? でも、良いのかしら? 誰かが、島の魂に辿り着くかも知れないわよ? 意味がわからないわ。あなたって…最高の偽善者ね」
立ち去ろうとする”八雲 リディ”を引き止めた。
「待って! あ、あの…わたしの…魂を破壊する転生者がいたら…殺して…」
「えぇ、勿論。あなたに言われなくても、そうするわ。その代わり…」
わたしの衣服に”八雲 リディ”の手が伸びたのだ。




