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読み切り短編

公爵令嬢に恋した腹黒な魔術師

作者: 中野莉央

この小説は短編小説『悪役令嬢に転生しましたが、浮気な婚約者の王子をフルボッコに致しますわ!』に登場する魔術師団長ミハイル・オルブライト側の行動を描いたサイドストーリーとなります。この作品のみでも読めると思いますが、出来れば前作もお読み頂ければ幸いです。http://ncode.syosetu.com/n3844cu/

 大国、グランディアン王国に夜の帳が降りる頃、王の誕生日を祝福する為、貴族を乗せた豪奢な馬車が続々と王宮に詰めかけ、担当にあたったメイドや召使い、兵士達は来客達の出迎えや接客に大忙しであった。


 パーティ会場となった王宮の大広間は磨き抜かれた大理石の床、細やかな意匠が施された壁、天井からはクリスタルが惜しげも無く使用された豪華な黄金細工のシャンデリアが吊るされ、訪れた貴族達を無数の蝋燭の灯と共に煌煌と照らしている。


  黒髪に紫水晶(アメジスト)色の瞳が印象的な、長身の男は魔術師団に所属している証である、銀糸の刺繍が施された黒い制服を着用して、パーティ会場と化した王宮の大広間の片隅に佇んでいた。


 数年後、史上最年少で魔術師団の頂点に上り詰める事になる人物。現在は一魔術師団員に過ぎない18歳のミハイル・オルブライトである。


 彼は豪華に着飾り談笑している紳士淑女の群れを壁際から、冷めた目で見渡していた。ミハイルは本日、このパーティ会場警備の任を受け、この場に居た。


「ミハイル、そんな怖い顔するなよ~。美しく着飾った貴婦人がこんなにいるんだから、もっとニコニコしたらどうだ?」


 軽口を叩いて来たのは同じ魔術師団に所属している、赤い髪色が鮮やかな幼馴染のデヴィッド・マイヤーである。彼もミハイルと同じく魔術師団の黒い制服を纏い、会場の警護に当たっていた。


「持ち場を勝手に離れるなデヴィッド。お前はともかく、私まで巻き添えで上から睨まれるのは御免だ」


「ま~。ちょっと位は大丈夫さ。何も起こらなくて暇だし」


 のんきなデヴィッドにミハイルは呆れるが、実際に突っ立っているだけで暇なのは事実でもあったし、コイツにこれ以上、何を言っても無駄だろうと早々に諦める。


 そんな時、不意に(スミレ)色をしたフリルのドレスを身に纏った、可憐な銀髪の美少女の姿に目を奪われる。


「あの(スミレ)色のドレスを着た銀髪の少女は…」

「ん? ああ、シルバースタイン公爵家の一人娘。シャルレーヌ様だな。有名だぞ」


「知らなかった…」

「あ~。お前、パーティとかほとんど出ないもんなぁ…。確か、今はグランディアン学園付属の小学校に通ってるとか…。」


「…………運命だ」

「は?」


「彼女は、私の運命だ…」

「はい?」


「シャルレーヌ様に結婚の申し込みをせねば……」

「おい、ミハイル! 正気に戻れっ」


 デヴィッドは焦った。幼馴染が白昼夢でも見てるなら、早急に目を覚ましてやらねば思った。


「失礼な。私はいたって正気だ」

 

 憮然と応じるミハエルであったが、彼の幼馴染は断固として認めなかった。


「イヤイヤイヤ、確かシャルレーヌ様は8歳だぞ!」


 小学生に結婚を申し込むと聞いて到底、正気の沙汰だとは信じられない。


「10歳差か。貴族なら十分、常識の範囲内という年齢差じゃないか」

「お前……。ロリコンだったのか…?」


 デヴィッドは咎めるように、白い目でミハイルを見る。

幼馴染の発言にドン引きして、実際ちょっと後ずさりしていた。


「いや、私は幼女に欲情した事は一度も無いぞ。ただ彼女が私の運命の相手だと気づいただけだ」

「ミハイル…。お前な、シャルレーヌ様がいくら超美少女だからって……」


 暴走しそうになっている幼馴染を何とか、思い留めたいデヴィッドであったが、国王陛下のスピーチが始まり、口を閉ざした。



「皆の者、今宵は余の為によく来てくれた。本日は嬉しい知らせがある。第二王子、レオンハルトとシャルレーヌ・シルバースタイン公爵令嬢の婚約が決まった。正式な婚姻は二人がグランディアン学園を卒業してから行う予定だ。若い二人を温かく見守ってほしい」


 会場が歓声に包まれる。


 金髪碧眼(きんぱつへきがん)の美少年、レオンハルト王子と可憐(かれん)なシャルレーヌ公爵令嬢は似合いのカップルだと皆、口々に褒め称え祝杯をあげている。



 それを横目にたった今、失恋した幼馴染にどう声をかけるべきかデヴィッドは悩んでいた。


「あー。なんて言うか…。これも運命って奴なんだろう…。シャルレーヌ嬢の事は諦める他ないよな……」

「……………………」


「王子の婚約者じゃ、どうにもならないだろ? まぁ、あんまり気を落とすなよ。ヤケ酒なら付き合うぜ」

「……正式な婚姻は二人が学園を卒業してからだ。まだ充分に時間はある」


 全く諦めていなかったのかと驚き、デヴィッドは横を見るとミハイルが顎に手を当て、ブツブツ呟きながら真剣な表情で考え込み、紫水晶色の瞳を鋭く輝かせている。


 その様子にデヴィッドは心当たりがあった…。



 士官学校時代に生意気だと言いがかりを付け、ミハイルに嫌がらせをしていた先輩への報復を考えていた時と同じ目をしていると…。そして、その先輩がどんな悲惨な末路を迎えたのかを思い出し、ゴクリと生唾を飲み込んだ……。


 ヤバイ…。こいつはやると言ったらやる男だ……。しかも、目的の為なら手段を選ばない奴だ……。


 一体これから、どんな事態になるのか…。宴もたけなわな会場の片隅で人知れず震えるデヴィッドだった。




 それからのミハイルは凄まじかった。シャルレーヌ・シルバースタイン公爵令嬢と結婚する為に、ただの魔術師団員では釣り合いが取れないだろうと、戦に出れば持ち前の圧倒的な魔力を存分に生かし、連戦連勝で大手柄をあげまくった。


 炎と闇魔法を得意とし、容赦なく敵を屠るミハイルは戦場で、黒炎の悪魔と恐れられるようになり、他国にまでその名が知れ渡るようになっていった。元々、士官学校創設以来の天才と呼び声も高く、この国で右に出る者は居ない高魔力を持つと言われていたが、見事にその実力を証明する形となった。


 戦場でのミハイルの活躍を目の当たりにした当時の魔術師団長は


「ミハイル・オルブライトがおれば、この国も安泰じゃろう……」


 そう呟き、魔術師団長の地位をミハイルに譲り引退した。




 ちょうどミハイルが魔術師団長になった頃、シャルレーヌ公爵令嬢の父である宰相閣下から相談を持ち掛けられる。


「娘が自衛の為に魔法を習いたいと言っているのだ。家庭教師になってくれる人材を紹介してもらえないか?」


「公爵令嬢への魔法の指南でしたら、ぜひ私にお任せ下さい!」


 紫水晶(アメジスト)色の瞳を輝かせたミハイル・オルブライトは二つ返事で家庭教師の任を引き受けた。


 多忙な魔術師団長が自ら、そのような申し出をしてくれるとは思っていなかった宰相は戸惑っていたが、この国一番の魔術師が指導してくれるのなら間違いなかろうし、本人が出来ると言ってるなら大丈夫なんだろうと納得した。


 こうしてミハイルは忙しい公務の合間を縫って足繁く、公爵家へ通うようになった。


 第二王子の婚約者である公爵令嬢に対して、間違っても愛を語ったりなどは出来ないが、有能な魔術の指導者として公爵令嬢から、着実に信頼を得ていき、ミハイルは満足そうであった。





「イヤ、史上最年少で魔術師団長になったのは凄いし、公爵令嬢の先生として信頼されるようになったのも良いけど…。王子との婚約が解消されないと、公爵令嬢との結婚なんて無理だろ? どーすんだ?」


 王宮の片隅にある魔術師団の執務室。

そこで力無く問いかけたデヴィッドに対してミハイルは不敵に笑う。


「そこを考えていないとでも思ったか? すでに『(コマ)』は用意してある」




 ミハイルが用意した『駒』はリリー・キャロンと言う名の少女だった。


 勿論、ただの少女ではない。どんな男でも1ヶ月で完全に落とせると噂の


 『魅了魔法を習得した魔女』それが少女の正体だった。




 ちなみに初めてリリー・キャロンとミハイル・オルブライトが会った時、彼女は挨拶代わりに『魅了魔法』を使って見つめてきたが、ミハイルは『精神攻撃無効』スキルを所持しているので、全くひっかからなかった。冷たい目で「下らん事はやめろ」と言われたリリーは苦々しい表情で舌打ちした。



 ともあれ、ミハイルの思惑通り、レオンハルト王子はリリー・キャロンに陥落した。


 シャルレーヌ公爵令嬢との婚姻を疎ましく思うようになったレオンハルトは国王と妃に


「真に愛する人ができたから、シャルレーヌとの婚約は解消したい」


 そう訴えたが、聡明で国一番の美貌と名高い公爵令嬢と、どこの馬の骨とも知れない少女とでは全く話にならないと相手にされなかった。



 百合の花をモチーフに金メッキ柱頭の装飾が施された、大理石の柱が等間隔に並ぶ王宮の大回廊。


 そこに配置されてある美しい彫像の側で、空を見上げながらレオンハルトは思い悩んでいた。


 偶然通りかかった(・・・・・・・・)魔術師団長ミハイルは王子には声をかけ、こう囁いた。


「シルバースタイン公爵家にとんでもない醜聞(スキャンダル)でも無い限り、婚約解消はまず無理でしょうね」


「とんでもない醜聞……」


「そうですね。例えば宰相閣下が横領だとか、宝物庫にある財宝の横流しとか…。ああ、いや真面目な宰相閣下に限って、そのような事はありえませんね。お金に関してはしっかり帳簿をまとめているそうですし……」


「……………………」





 

 後日、開かれた王子の誕生日パーティで、魔術師団長ミハイルはレオンハルトへ


「魔術師団一同からです」そう言って、表面に魔石の付いた豪華な意匠の宝石箱をプレゼントする。


「ふむ…。これは宝石箱か。表面についているのは魔石だな……」


「これはただの宝石箱ではございません。『隠避』の魔法が込められております。この中に入れておけば宝飾品の類が『トレジャーサーチ』で探知される事はございません」


「なんと……!」


「将来、貴重な宝石などを手に入れた時、防犯対策の一環として使って頂ければと思います。ただ魔石に傷が付けば『隠避』の魔法が解けてしまいますので、くれぐれも扱いにはお気を付け下さいませ」


 宝石箱を見つめながら考え込むレオンハルトを眺め、ミハイル・オルブライトは冷笑した。






 しばらくして、宝物庫から王家の至宝『カーバンクル紅玉のネックレス』が無くなり、状況的に宰相に疑いがかかった。ミハイルの筋書き通りに事は動いている。



 現在、ミハイルは魔術師団長として国王の命を受け、『カーバンクル紅玉のネックレス』の捜索の任に当たっている。黒幕は公爵令嬢との婚約破棄を切望しているレオンハルト王子の仕業なのは間違いない。密かに『仕込み』もしてあるので確信を持って言える。



 しかし、ここに来てミハイルは迷っていた。


 シャルレーヌと結婚するなら、シルバースタイン公爵家には没落して貰うのが一番確実だ。宰相職を失ったら、領地を手放すまでのシナリオはすでに頭の中にあるし、実現可能だろう。


 没落した所で彼女に優しく手を差しのべて、好意を示せばシャルレーヌが婚姻に応じてくれる公算は十分にあると踏んでいる。


 逆に今、宰相の冤罪を解けば、シャルレーヌとの結婚は遠のく……。



 何しろ、王子の婚約者であるという彼女の立場に遠慮して、愛の言葉を口にした事さえ無いのだから、現段階でシャルレーヌがミハイルに恋愛感情を抱いていない上、王子との婚約が解消になっても、宰相や国王がすぐに次を……。例えば他国の王族などを新しい結婚相手として決めてしまうと、また一手間かかってしまう可能性もあった……。もちろん、そんな縁談話は速攻で潰す自信はあるが……。



 とにかく、結婚だけを考えるなら没落して貰った方が事を運びやすい。


 ただ……。シャルレーヌは大きなショックを受けるに違いない。


 実の父に窃盗疑惑の上、没落など…。後日、真犯人を見つけたとしても、一度失われた名誉を完全に取り戻すのは難しいだろう……。シャルレーヌの心に一生消えないような、深い傷を残すのはミハイルの本意では無い…。しかし……。



 考えあぐねたミハイルは散歩でもして、頭を冷やそうと立ち上がり魔術師団の執務室を後にする。


 王宮の門番をしている兵士に敬礼されながら鉄柵門を抜け、外へ出ると当ても無く街路樹が植えられた歩道を歩く。


 しばらくすると憔悴し、美しい瞳を涙で潤ませながら石畳の道を歩く、シャルレーヌ公爵令嬢を偶然にも見つけてしまった。


 その姿を見てミハイルは衝撃を受けた。



 私は何をやっているんだ! 愛しい人を悲しませる原因をただちに排除せねば!



 すぐにシャルレーヌの元に向かい、優しく声をかけたミハイルは彼女を王宮の宝物庫に連れて行った。


 戸惑う公爵令嬢に、魔法を使い、過去の記憶をたどれば犯人が分かると促す。


 ちなみに『時空魔法』に関して、この国でシャルレーヌの右に出る者は居ない。そして、この方法で犯人に辿り着けるのは彼女だけだ。


 彼女が学生の身でありながら、すでにこの国で5本の指に入る程の魔術師という事実は他国から誘拐や暗殺の危険が高まるので、公にはまだ伏せられている。まさか犯人もこんな所から足がつくとは夢にも思っていないだろう。


 そろそろ頃合いだと感じたミハイルは密かに宝石箱に潜ませていた使い魔に思念を飛ばし、「『隠避魔法』がかけられてる宝石箱の魔石に傷を付けたら戻って来い」と命令した。これで『隠避魔法』は解除される。犯人は詰んだも同然だ。


 シャルレーヌが意を決し、魔法を操り犯人の痕跡を追うと、やはり第二王子レオンハルトの部屋へと消えていった……。『トレジャーサーチ』を使うと王子の部屋から強力な反応を感じるので間違いないと確信し、公爵令嬢が王子の部屋のドアをノックする。


 その間、ミハイルはひそかに『魔法無効』、『物理無効』の補助魔法をシャルレーヌにかけていた。


 これで王子が何をしようと、公爵令嬢がケガをする事は万に一つも無いだろう。


 もし、マジックアイテムを用意していて、精神攻撃などをして来たなら、即座に解除して王子に石化魔法でもかけてやればいい。ミハイルはそう思っていた。


 だがミハイルの心配は完全に杞憂(きゆう)だった。




「俺に嫌疑をかけるなど無礼千万! ただちに立ち去れば許してやるっ!」


 見え見えの虚勢を張る王子に対して、シャルレーヌは無表情で『硬直魔法』をかけ、一時的に自由を奪い、その隙にクローゼットから『カーバンクル紅玉のネックレス』を探し当てていた。


 逆上した王子は全ての罪を公爵令嬢に着せて殺害しようとしたが、逆にブチ切れた彼女によって一方的にボコボコにされた。



 ミハイルはその時、感動のあまり動けず、シャルレーヌ様は


 地上に舞い降りた戦女神(ヴァルキュリア)に違いないと紫水晶(アメジスト)の瞳を輝かせながら確信した。


 まず最初に『スタンショック』で軽いダメージを与えつつ、王子の動きを阻害したのは素晴らしい判断だった。


 次に『サンダーブレード』の威力を落としつつ、複数の雷剣で冷静に手足のみ狙った時には感動すら覚えた。公爵令嬢が本気で魔法を直撃させていれば、王子など一瞬で消し炭になっていただろう。


 さらに『サンダードラゴン』召喚で天蓋付きの寝台など、室内の豪華な家具を片っ端から破壊させ、これ以上ないほどの恐怖を王子に植え付け、ついに失神させてしまった。素晴らしいドSっぷりにゾクゾクが止まらない。


 失神した王子の姿を冷たく見下すシャルレーヌ様はまさに無慈悲な戦女神(ヴァルキュリア)といった風情で、私は彼女のあまりの神々しさにドキドキしながら祈りを捧げた。



 そして、その後の対応もシャルレーヌ様は完璧だった。


 ほとんどの家具が無残に破壊された部屋の惨状に驚きを隠せない国王や妃に『カーバンクル紅玉のネックレス』をここで発見したら王子が逆上し、自分に罪を被せて殺そうとした。とっさの事で気が動転し、魔法で王子にケガを負わせてしまったと涙ながらに訴えだした。


 その場に居合わせた魔術師団長として、私が目撃証言を添えたのは言うまでもない。


「とにかく一瞬の事で……。公爵令嬢が反撃していなければ、王子に殺されていたでしょう…」


 か弱い公爵令嬢が婚約者に裏切られ、しかも命を狙われたと、涙を流しながら震える様子に誰もが同情を禁じ得なかった。


 国王夫妻や兵士達は部屋の惨状は逆上した王子が放った魔法の仕業だと思い込んだ。


「公爵令嬢が召喚したドラゴンの仕業です」そう訂正する必要を感じなかったので、その場では何となく黙っておいた。調書を取る時、もし細かく聞かれたら話せば良い事だろう……。



 その後、本当に王子が今回の騒動を引き起こしたのか、真偽を確かめる為、隣国の国宝クラスのマジックアイテム『真実を見通す鏡』を借り、王子は黒幕だと云う事が完璧に証明され、同時に公爵令嬢や宰相の潔白が示された。


 ちなみに『真実を見通す鏡』は隣国で門外不出の貴重な品であった為、これを貸し出して貰った事で我が国は隣国に大きな借りが出来てしまったそうだ。




 色んな事が片付いたあと、公爵家を訪れたミハイルに対してシャルレーヌは学園を卒業後は習得した魔術の知識を生かしたいと語り


「魔術師団でミハイル様のお手伝いをしたいですわ」


 そう言って微笑んだ。公爵令嬢の言葉に魔術師団長ミハイルは内心、ゴロゴロと転がりながら狂喜乱舞していたが、国王は公爵令嬢を他国に嫁がせて外交に利用したいと考えてたようだったので、使い魔を使って収集していた宮廷情報のほんの一部を国王の前でそっと呟く事にした。


「公爵令嬢が魔術師団に入れなかったら…。私はショックのあまり、国王陛下が次々とメイドに手を出して、分かってるだけでも47人、外で子供を産ませてる事を王妃様の前でうっかり口にしてしまうかも知れません……」


 これを聞いた国王は血相を変え、「最大限の便宜を図る!」そう約束した。翌日には


「有能な人材を有効に活用できないのは国家の損失であろう……」


 公の場でこのように発言し、シャルレーヌ公爵令嬢は無事に魔術師団へ所属する運びとなった。




 ちなみにレオンハルト王子は国王の好色な所が最大限、遺伝していたようで、リリー・キャロンに出会う前は


「シャルレーヌのような美しい婚約者を持てて、俺は幸せだ……」


 学園でそう囁いた舌の根も乾かぬ内に、王宮に帰れば


「君のような可愛いメイドに仕えてもらって俺は幸せだ」


 などと言って、若いメイドを次々と自分のベッドに引きずり込んで楽しんでるような奴だったし


 メイドに飽きれば、パーティで出会った下級貴族の娘と一夜を楽しんだ挙句、その娘が王子の子を孕んだと泣きながら訴えれば


「俺の子だと証明できるのか? どうせ、どこの誰が父親か分からない子供なのだろう? 堕胎代はくれてやるから、さっさと立ち去れ!」


 そう言って、泣きじゃくる娘に金貨の入った袋を投げつけて寄越していた事が、片手では数えられない程はあったので、あのクズ王子がリリー・キャロンに見捨てられたり、離宮に軟禁されてもミハイルは全く良心が痛まなかったし、むしろクズ王子の被害から世の女性を未然に救う事ができた。社会平和に貢献できたと思っている位だった。




 シャルレーヌが魔術師団に配属され、ミハイルの補佐をするようになってから、魔術師団長は連日、上機嫌であった。シャルレーヌと一緒にランチを食べたり、仕事の相談などと理由を付けながら夕食に誘ったりとやりたい放題だったが、公爵令嬢の方もまんざらでは無いようで、10歳年上のミハイルを頼りがいのある大人の男性として好ましく思っているようだった。



 そんなある日の昼下がり、美しい花々が咲き誇る王宮庭園の片隅で二人がサンドイッチを食べている時、


「ミハイル様はこんなにも忙しいのに、どうして私に魔法を教えて下さっていたのですか?」


 小首をかしげて問いかけたシャルレーヌに


「…私が忙しい公務の合間を縫って足繁く、公爵家に通ったのは愛しい公爵令嬢の笑顔が見たかったからですよ」


 優しく微笑むミハイルに一瞬、言葉に詰まりながらも、やがて頬を赤く染め、嬉しそうに笑顔を返すシャルレーヌであった。




 その様子を魔術師団の執務室から眺めていたデヴィッド・マイヤーは遠い目をしながら述懐した。


「公爵令嬢が結婚適齢期になってから上手く行って良かったよ……。

俺は一時期、幼馴染が幼女に性犯罪行為を行うんじゃないかと、本気で心配してたんだぞ……」




 ともあれ、こうして二人は結ばれた。


 魔術師団長は腹黒だとか、策謀家だとか、評される事もあったし、ごく稀にゾクゾクしながら嬉しそうに彼の戦女神を拝む姿を見咎められ、変態なのではないかと疑惑を持たれる事もあったが、彼が最愛の人を思う気持ちは誰にも負けず、彼女の笑顔を守る為に一生を奉げると誓い、実際にそれを実行した。ミハイルの傍らに寄り添うシャルレーヌは生涯、幸せに過ごしたという。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 浮気者…てレベルじゃないですね 手ぇだすなら側室にするなり責任とれや! ざまぁ♪
[良い点] 初めまして、感想失礼します 中野先生の作品、一通り読まさせて頂きました。どれも面白く、一気に読まさせて頂きました。 ヒーロー、ヒロイン、その周りを囲む人々、どれも楽しく物語を盛り上げる…
[良い点] 知らぬが仏…!
2017/06/05 11:42 退会済み
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