武器について
「武器って、いいっすよねー」
敵と対峙するウサギをみて、イヌが呟いた。
「爪があるじゃない」
横で同じように眺めていたネコが言う。
「でもそれって、結局自分の身体の一部じゃないっすか。正直触りたくない敵いるし…」
「あぁ」
「だからウサギさんうらやましいなーって」
「なるほどねー」
うんうんと頷くネコ。
敵に最後の一撃を加えたイヌが、二人を振り返る。
「おまえら、働け」
うらやましいなぁ…
街は今日も平和である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ウサギは遠方にいる敵に月刃を投げる。
「ぎゃっ」
敵を両断した月刃は、ブーメランのようにウサギの手元に戻って
「痛っ」
来るのと同時に、ウサギの手のひらを切りつけた。
かすり傷ではあるが、血が流れ、痛い。
「…ウサギさん」
ウサギが振り返ると、ネコとイヌが憐れんだような眼を向けていた。
「し、仕方がないだろう!生まれてこのかた、ブーメランなんてやったことないし、大きな刃物だってノコギリくらいしか使ったこと無いし…」
「諸刃ですからね、仕方がないですよ」
「投げるたびに外したり、取り損ねたりするのだって、仕方ないことだってわかってるっす。もう20回以上投げてんだし、そろそろ…なんて、微塵も思ってないっす」
二人が優しげな顔でほほ笑んだ。
「そんな目で俺を見るなぁ!」
仕方がないじゃないか。
もらいものなんだから。
ウサギの場合。
もらいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「爪じゃ間合いが足りねぇ」
思わず舌打ちをする。
「氷柱雨!」
氷柱の刃は、頭上の厚い表皮に阻まれてしまう。
地面からの攻撃も避けられ、遠距離からの攻撃は手によって弾かれる。
爪での攻撃は分厚い毛皮に邪魔をされ、急所まで届かない。
「もっと長い、武器でもあれば…」
ウサギの月刃より、刺すことに特化したような…槍や、剣の類の…
ふ、と地面に刺さった氷柱が見えた。
「あ」
作ればいいんじゃん。
敵を片づけたネコが、加勢に、とイヌの元へと来た。
「あー、そっちも終わったんだ。って、何、それ?」
イヌの手にしたものを見て、ネコが尋ねる。
「氷の剣…的な」
イヌの手には、氷で造形された、槍のようなもの。
「すごい手作り感」
作り手の不器用さが窺い知れるような代物だ。
「見た目より機能っす!」
イヌの場合
造りました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……グロい」
目の前の敵は、ブヨブヨとした皮膚を粘つかせ、異臭を放っている。
己の爪で攻撃するのは御免こうむりたいところである。
火で燃やしてしまおうにも、粘々のせいか火の付きが良くない。
「武器か…」
武器っていいっすよねー、と以前イヌが言った言葉を思い出す。
「とは言ってもね…」
ネコにはもらった武器も無ければ、イヌのように代用品を作る能力も無い。
周囲を見回す。
「良いもの発見」
にやり、とネコが嗤った。
「ネコさん?」
「…それは」
遅れてやってきたイヌとウサギが、ネコの手にする物を見て、顔を引き攣らせた。
「鉄パイプ」
掲げて見せる。
「わかるっすよ。なんでそんなもん持ってんすか」
「武器にと思って。そこで拾ったの」
「それはちょっと…」
それはどちらかといえば、悪役の持つものだ。
「駄目かな?」
「駄目というか…クラウドは悲しむと思うが…」
「そーゆーのは使い慣れてないと逆に邪魔になるっすよ。ええっと、ほら、生兵法は怪我のもとって言うじゃないですか」
「それもそうねぇ…」
ネコは手に持った鉄パイプを見て思案顔だ。
(諦めてくれないだろうか)
ネコの場合。
拾いました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おまけ。
「そうだ」
何か閃いたのか、ネコが声を上げる。
「なんすか?」
「危ないから、これに触らないでね」
そう言って指すのは例の鉄パイプ。
「どういうことだ?」
「こういうこと」
そう言うと、ネコは枯葉を手に取った。
目線の高さからひらひらと落とす。
その枯葉を両断するように、鉄パイプを横に一閃。
瞬間、二つに分かれた枯葉が断面から燃える。
「……」
「鉄は熱しやすく…ってね」
口角を上げて笑うネコに、イヌとウサギは顔を青くした。
三人の武器について。
貰う、造る、拾う。という感じです。
なぜ世の中のヒーローは練習もせずに武器が扱えるのか、不思議です。
短編をぶち込んだ感じで申し訳ないです。




