マタタビ事件
「ふははははっ!」
恒例の高笑いと共に、サタンら七人が現れた。
「ネコよ!今日は貴様に勝つ!」
「今日はピンポイントか」
「何するんだろうな」
今日も平和だなー、と言いながら、律儀に対峙する三人。
実際、サタンは「ヒーロー」を倒すことに拘り、一般人には手を出さない。ほかの六人も常に対峙する化け物とは違い、人を襲うことに興味はないようだった。
弱すぎる対象に興味は無く、たまにネコたちとじゃれて帰る。それだけの様だった。
ネコたちにしてみれば、そのじゃれあいが命がけになることもあるのだが。
「これを見よ!」
そう言って、サタンが右手を掲げた。
「……鰹節?」
「え、粉の?」
「…やばい薬とか。でもなんかいい匂い…」
ビニール袋に入った茶色の粉末が握られている。
何もかかれていないビニールから、中身を当てるのは困難だ。
「違う!マタタビだ!」
サタンはビニールを破り、粉末を風に流した。
「やばいっ、ネコさん!」
「息をするな、ネコ!」
意図を察し、イヌとウサギがネコを振り返る。
「にゃー…」
赤い顔をして、座り込むネコ。
既に手遅れだったらしい。
ネコの習性を利用されたのだ。三人の中で特に容赦のないネコは、彼らにしてみても手ごわい。そのネコを、封じられたことになる。
「ふははははっ!これでネコは戦えまい!行け、ルシファ!奴にとどめを刺すのだ!」
高らかに笑い、サタンはルシファに命令する。
「他はイヌとウサギを足止めしろ!」
「くっ」
「やばいっ」
身構えるイヌとウサギ。
イヌが犬の能力として爪や素早さを持ち、ウサギが兎の能力として脚力や察知能力を持つように、ルシファは象徴とされる獅子の能力を持っている。
それはすなわち、獅子としての圧倒的なパワーや、鋭く強靭な爪や牙だ。それ以外にも、七つの大罪を背負う「ルシファ」の力を併せ持つ。それは、ほかの敵が塵芥に見えるほど、圧倒的な強さだ。
ルシファの強さは、イヌもウサギもその目で見ている。
マタタビに酔ってしまったネコが、自力でどうこう出来る相手ではない。
ルシファが、ゆっくりと近づいてくる。
他の敵に阻まれて、ネコに近づくことができない。
最悪の事態を想像し、肌が粟立つ。
「……にゃ?」
近づいてきたルシファに、ネコが無邪気に首を傾げた。
「ネコっ!」
「ネコさんっ!」
逃げろ、という言うことすら、もどかしい。
伸ばした手は届かない。
ルシファがその手を、ネコに――
「にゃん?」
「ぐる」
「にゃー」
「ぐるる」
それは、とても平和な声だった。
「は?」
ネコの頭に優しくのせられた、ルシファの手。
気持ち良さそうにすり寄るネコに、ルシファもしゃがみこんでさらに撫でる。
お返し、とルシファの頭をなでるネコ。
「えー…と」
「どういう、ことかな?」
呑気に頭を撫であっている2匹に、周囲は困惑顔だ。
「あー…もしかして」
エンヴィが眉間に皺を寄せて、言った。
ネコに触れるルシファが許せないのだろう。
「獅子って、ネコ科だし」
「あ」
その場にいた全員が、今の状況を理解した。
「ルシファも酔ってんじゃない?」




