変身のために必要なもの
「そういえば、それずっと着けてるよね」
ネコの友人、未子がそんなことを言ったのは、サークル室でダラダラしているときだった。
目線の先には、ネコの小指に嵌る華奢な指輪がある。
「彼氏?彼氏から?」
「いないわよ、そんなもの」
浮いた話の一つもない友人に、ついに春が来たかと期待した未子の言葉は、あっさりと否定された。
ネコは不快ともいえる表情で小指にはまる指輪を見つめた。
小さな赤い石のついた、花のモチーフのピンキーリングだ。
「でも、普段アクセサリーなんてつけないのに、珍しいよね」
「まぁ……孫悟空、的な?」
「は?」
屋上で寝転がっていれば、イヌよりよほど犬らしい後輩が話しかけてきた。
「そのピアス、カッコいいっすね」
「あ?」
後輩が褒めたピアスは、片耳につけている茶色の石のピアスのことだろう。そう検討がついて、思わずイヌは低い声を出した。
六角形のシルバーの土台に、茶色の石がはめ込まれている。確かにデザインは悪くない。
ただ、このピアスのせいで他のピアスがもう片方にしかつけられない現状はあまり好ましくない。
「どこで買ったんすか?」
どちらかと言えば空気の読めない後輩が、更にイヌに問う。
「知らねー」
後輩の言葉に、ふと思う。
「……イヌの首輪かってんだ」
今日のネクタイは誠実さをアピールする青。スーツはストライプの入った落ち着いたグレー。そして、透明の石のはめ込まれた、十字に線が引かれたネクタイピン。
「では、また後日。はい。メールで返し…送っていただければ…」
電話口で冷や汗をかく。
電話を切ると、どっと疲れが出た。
「…ウミガメの生態調査かっていうの」
ダメンジャーの三人に渡された変身するためのアイテムは、歳を勘案してか、意外にも落ち着いたものだった。
ネコにはピンキーリング、イヌにはピアス。ウサギにはネクタイピン。
そこまでは良かった。
問題は二つ。
一つ目は、外せないということ。
正確には、外すことは可能だ。ただ、アイテムと一定の距離が空くと、頭痛や腹痛といった体調不良が即座に襲ってくる。その距離、五十センチ。ウサギなどは、特に、入浴時などで苦労が絶えないのだという。諦めて三人とも風呂場まで持っていくようにしているようだ。
そしてもう一つ。
変身するための言葉は、「変身」の一言のみ。アイテムを装着状態のままうかつに「変身」という言葉を言ってしまえば、即正体がばれてしまう。
前後の脈絡は関係ないため、「へんしん」と何かの拍子に言ってしまわないか、三人とも神経をとがらせる毎日だ。
「あー、もう本当、勘弁」
三人の溜息は、空に流れていった。
変身アイテムって、持ち歩くの面倒かな、と…




