イヌの思考
短いです。
「なんなんだ、あれは」
眉をしかめたウサギに、ネコが返す。
「外国産っぽいですね。…妖精、的な」
なぜか紙パックのイチゴ・オレを飲んでいるが、変身前に飲んでいたのだろうか。
何にせよ、緊張感がまるでない。
「的なって…」
二人の会話を聞きながら、イヌは空を盛大な羽音を立てて旋回している一群を見上げる。
トンボのような透明な翅。風に揺れる衣装。
それはまさに、一般に想像され、描かれる妖精の姿である。
が、しかし。
土色の肌。眼の下の隈。鷲鼻に、鋭い爪と牙。
妖精的なその大群は、お世辞にも美しいものではなく、強暴そうだ。
集団で襲いかかる姿は、蜂を思い起こさせる。
とにかく、怖い。
「……はぁ」
思わずため息を吐いた。
「ティンカーベルには程遠いな…」
妖精と言えば、もっと可憐な女の子だと思ていた分、目の前の現実に巣押し落ち込んでしまう。
「ぶっ!げはっ、ごほっ」
「ティっ…ティンカ…っ」
イヌの言葉に、ネコとウサギが盛大にむせこんだ。
「なんすか、二人とも」
なぜか二人とも、イヌから顔を逸らす。
「いや、何でもない何でもない」
「あぁ。別に何でも…」
――その強面で案外、乙女思考だなんて、考えていませんよ。
イヌは割と思考がかわいい時があります。




