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イヌの本能


 目の端に映った、飛来物。

 それはまっすぐに、金髪の少年に向かっている。

 初めにネコが気付いた。すぐにウサギも気づき、止めようとするが間に合 わない。

 イヌは他に気を取られているのか、気付く気配がなかった。


「イヌ!」


 ネコは思い切り、叫んだ。回らない頭で、それでも彼を助けようと口を開いた。


「っおすわり!」


 瞬間、素早くしゃがみ込むイヌ。


「わんっ」


 元気のいい鳴き声のオマケつきだ。飛来物はイヌの頭上を通り過ぎ、壁にぶつかって砕けた。

 ウサギが化け物を殴りつけ、化け物は跡形もなく消滅した。

 残ったのは、周囲に漂う気まずさ。

 しゃがみこんだまま動かないイヌ。そのイヌを見られないネコ。どちらにも話しかけられないウサギ。


「……悪かったって」


 ようやく、ネコが口を開く。


「いえ、良いんす…」


 実際助かりました。そう言いつつも、イヌは顔をあげられないままだ。いくら身体が無事だとしても、年頃の少年としては失ったものは大きすぎた。

 おもむろに、ウサギがイヌへと歩み寄る。


「……お手」

「わんっ!……あ」

「何やってんですか、ウサギさん!」


 追い打ちをかけるようなその行為に、思わずネコが叫んだ。



 

 蝋燭の明りが揺れる、暗い部屋に集まる7つの影。


「諸君、我らが敵である、ジャージ共のひとり、イヌの弱点がわかった」


 影の1つがおもむろに発した言葉に、他の影が動揺を示す。


「勝機は我らの手にあり!行くぞ!」



「ふははははっ!今日じゃ必ず仕留めてやる!」


 いつものように高いところから登場したサタンは、高らかに宣言して3人のもとに跳び下りた。


「ずいぶんな自信だな」

「テンション高くてうっとおしさ倍増ね」

「覚悟しろ、イヌ!」

「?」


 サタンの言葉に、イヌも他の2人もそろって首を傾げた。

 サタンは手に持った槍を構え、真っ直ぐにイヌへと向かっていく。

 迎え撃とうと、イヌは拳を握った。


「無駄だ!」


 サタンが口角を上げて笑う。

 口を、開いた。


「おすわりっ!」


 イヌの瞳が見開かれ、びくりと肩を震わせた。

 サタンは勝利を確信する。

 すぐにしゃがみ込むだろうイヌに向かって、槍を突き出した。


「……ふ…」


 イヌが何事かを呟いた。

 同時に、サタンが突き出した槍が掴まれる。


「なっ!?」


 槍を掴んだのは、怒りに顔をゆがませたイヌ。


「ふざけんなぁっ!」

「へぼらっ!」


 怒りのままに繰り出された拳は、寸分の誤差もなく、サタンの顔にめり込んだ。


「な、なぜだ!?イヌは命令に逆らえないんじゃ…」


 鼻血の流れる顔を押さえ、うろたえるサタン。


「はっ!イヌが命令聞くのは、ゴジュジンサマに対してだろーが!」

「し、しまっ」

「覚悟は、出来てんだろうなぁ?」


 凶悪な笑みを浮かべ、指を鳴らすイヌ。

 顔を青くするサタン。


「お、お助けぇえぇぇっ」


 哀れなヤギの悲鳴が響く傍で、傍観していたその他のメンバーが一か所に集まってその様子を見物していた。


「……ご主人様?」


 ルシファが、ネコを指さす。


「…らしいわね」

「自分で犬って認めちゃ世話ないよねー」

 

 パンがからかい交じりに笑う。

 若干引いた様子でエンヴィが呟く。


「っていうか、日ごろどんな扱いしてんだよ」

「普通に接しているつもりなんだが…」

「イヌ不憫…」

 

 その言葉は確かに、敵からの言葉だった。けれどその言葉はサタンを殴るのに必死なイヌには聞こえていなかった。



忠犬なんだと思います。

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