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あくどい
彼も別に、イイヒトではないのです。
「これで、終わりっ」
屋上の隅に追い詰めた敵に、ネコが伸ばした爪を振りおろした。もはやお馴染みとなった化け物退治の真っ最中である。
「っぎゃぁぁあ!」
猫の爪を避けようとした女郎蜘蛛は地を踏むことなく、宙に投げ出される。
そのままバランスを崩し、遥か下の地面へと…
「っと」
無意識に伸ばした腕を強く引かれた。
恐る恐る目を開くと、黒い静かな瞳とかち合った。白いジャージを着た、ウサギだった。
肩に回されるぬくもりに、敵とは知りつつ、女郎蜘蛛は頬を染めた。
「大丈夫か?」
抑揚の少ない、静かな声音。それすらも女郎蜘蛛の鼓動を乱れさせる。
「……ぁ」
言葉を持たない己を、初めてもどかしいと思った。この人間と、言葉を交わしたいと、女郎蜘蛛は思ったのだ。けれど、
「なんて」
「…?」
「言うと思ったかあぁあぁぁっ!」
女郎蜘蛛が最期に見たのは、愛しいヒトの固く握られた大きな拳。
「……容赦ねー。上げて落とすってやつっすね」
「……敵ながら同情するわ」
傍から一部始終を見ていたイヌとネコは、思わず顔を引きつらせた。