その8 マリア、猿とバトる
「市役所の者ですが、病院内に侵入したカラスは、警察の方々が捕獲しました」
市役所の職員たちと、精神病院の看護師たちは、慌ただしい。
「窓を開けるのを、当分の間、控えてください」
「患者さんの方々、落ち着いてください」
「安全になるので、大丈夫ですからね」
看護師たちの、声がけが続く。
マリアはというと、ケガも無く、ただ呆然と女性棟の大広間の座席に座っていた。
「遠藤マリア。あれは、ダークアニマルンでは無く、本物の野生のカラスだったであります」
「…私、敵だと思ったのよ」
「バトルに意欲的だったのは、大賛成であります。ただ、野生のカラスは、本当に危ないので…」
「私、天使を、アリエルを助けたかったのよ」
「…」
天使は、じっと、マリアを見つめる。
「何よ。アリエル」
「…遠藤マリア。初めて名前で、アリエルと呼んでくれたであります」
天使アリエルは、とても、うれしそうに微笑った。
マリアは、顔が真っ赤になってしまう。
「…だ、だって、一日中一緒なんだから。もう、私たちって、トモダチでしょ?」
「トモダチでありますか…?」
「ち、違うの?」
マリアは、アリエルの瞳を、覗き込む。
一生懸命に…。
アリエルは、大きく、うなづき返す。
「遠藤マリアは…、トモダチであります」
その8 マリア、猿とバトる
その後。
女性棟の食堂で、朝食をすませた。
すぐに、カラス侵入の連絡を聞いた姉から、スマホに電話が来た。
妹としては、心配する姉に安心させる言葉をかける。
翔子姉さんは、すぐ、病院に来ると言う。
止める理由は無い。
しかし、天使アリエルの協力が、したい。
マリアは、「大丈夫だから。翔子姉さん、来なくてもいいわ」と、伝えて、電話を切った。
「翔子姉さんには、短い間にたくさん心配をかけてしまったわ」
「それは、ダークアニマルンと、野生のカラスが悪いのであります」
「私、黒いヤツ相手だったら、また戦うわよ。安心して、アリエル」
「遠藤マリア、とても心強いであります」
女子中学生のマリアと天使アリエルの二人は、同時に、ミカエル様が、悲しそうに舞い降りて来たのに気づく。
ポタリ…
ミカエル様は、涙をこぼした。
「え?」
「ミカエル様!どうしたでありますか?」
大天使は、先ほどの野生のカラスの侵入にショックを受けていた。
永井クリスを、マリアと同じ病院にして、ダークアニマルンと戦うように提案した自分の愚かさに、涙があふれ出した。
「野生のカラスが侵入するなんて。遠藤マリア、怖かったでございますね。天使の召喚する神器は、強力でも、野生動物には、無力なのでございます…」
神器には、長所と短所があるらしい。
ミカエル様は、嘆く。
「窓を不用意に開けたままにしたのは、永井クリスの不始末。そして、ワタクシの不始末でございます。ごめんなさいでございます」
「いいわよ。私、ケガしなかったから」
キキキキキキキキッ
突如、甲高い動物の鳴き声が響き渡った。
耳を覆いたくなるような、不快な鳴き声だ。
「な、何よ。今度も動物?」
二度目の失敗は、避けたいと思うマリア。
しかし。
「これは、ダークアニマルンの鳴き声であります」
アリエルの一言で、直ぐ様、身構える。
「どこ?」
現在いる、女性棟の大広間には、マリアと二人の天使しかいない。
辺りをぐるりと見回したが、黒いヤツはいない。
どこにいるのであろうか?
「ダークアニマルンは、天使が見える人間を狙うはずであります。遠藤マリアの今いる周囲に存在していないであります」
「…永井クリスでございます!」
ダークアニマルンは、永井クリスを狙う!
二人の天使が、顔を見合わせる。
とうとう、天使が見えるクリスが、ダークアニマルンに狙われてしまったのだ。
「クリスって、今、どこよ」
「…言いづらい場所でございます」
ミカエル様は、言葉をにごす。
「ど・こ・よ!」
詰め寄るマリアを前にして、頬を真っ赤に染める大天使。
「…男の方の、おトイレットでございます…」
「男のトイレね。行くわよ、アリエル!」
「行くであります。遠藤マリア!」
頬が真っ赤で、頭から湯気が出るほどの照れを魅せるミカエル様を置き。
マリアとアリエルは、男性トイレに向かった。
病院には、トイレが何か所かにある。
しかも、マリアは、まだ病院の内部も地図もトイレの場所もわからない。
キキッ
キッ
だが、敵の鳴き声や、怪しげな気配を追ううちに、クリスを見つけることができた。
クリスは、1階の男子トイレの前にある自販機をじっくりと、眺めていた。
「お茶が良いか、天然水か…」
首をかしげていた。
「あんた、襲われてないの?」
「え、え、遠藤さん?な、どうしたんですか?」
キキーーーーー!
クリスの影の中から、黒いサルが飛び出してきた。
「うわあ!…え?サル?」
クリスは、腰をぬかせてしゃがみ込んだ。
「遠藤マリア、バトルであります!アクエリアスの水瓶を授けるであります」
天上が、水の恵みで透明な水色に染まる。
マリアの手元に、大きな水瓶が収まった。
「は?…つぼ?」
水瓶=つぼの中身を覗き込むと、海のような景色が広がっていた。
「深く気にせず、ダークアニマルンを、水攻めであります」
「…深く気にしなければ良いのね。わかったわ!」
水瓶を大きく振りかぶったマリア。
次の瞬間、水瓶から、水流が流れ出る。
水流は、凄まじい速さと勢いで、黒いサルを飲み込んだ。
黒いサルは、水流の中で消えていく。
サルは去る。
「遠藤マリア、大勝利であります」
「てへ。また、勝ったわ」
「え、遠藤さん。貴方は…」
クリスは、言った。
「貴方は、天上伝説の勇者なのですか?」




