第八話 炎に映える黒 ※挿絵あり
宿泊学習の最後を締めくくる、キャンプファイヤー。
高原の夜はさらに冷え込みを増し、吐く息がうっすらと白くなるほどでした。
大きな火を囲む五年生たちの輪。パチパチと爆ぜる薪の音と、オレンジ色の炎が揺らめく幻想的な空間で、沙也加と春奈は並んで丸太に腰を下ろしていました。
「ねえ、沙也加ちゃん。見て……タイツの色が、赤く光ってる」
春奈が小さな声で囁きました。
普段、都会の蛍光灯や教室の太陽光の下では、光をすべて飲み込んでしまうような漆黒のタイツ。けれど、このキャンプファイヤーの強烈な炎の前では、生地の表面がオレンジ色に照らされ、しなやかな筋肉の動きに合わせて不思議な光沢を放っていました。
「本当だね。……なんだか、生き物みたい。熱を持っているのが目に見えるみたいだわ」
沙也加は自分の膝を抱え込みました。体操着のハーフパンツと、足元の黒タイツ。そして炎の熱。冷たい夜気とのコントラストが、いっそう足元の「守られている感覚」を際立たせます。
「沙也加ちゃんはさ……中等部に行っても、高等部に行っても、ずっと私と一緒にいてくれる?」
春奈が、炎を見つめたままポツリと言いました。
「英和女学館」という籠の中、今はまだ初等部の五年生。でも、いつか大人になって、この指定のセーラー服も、黒タイツも履かなくなる日が来る。そんな漠然とした不安が、静かな夜の闇に乗って溢れ出したようでした。
「……もちろん。私、春奈ちゃんに出会うまで、この『黒』が好きだっていう気持ちを、誰にも言えなかったの」
沙也加は春奈の肩にそっと寄り添いました。
「だから、制服が変わっても、たとえいつかタイツを履かない日があっても、春奈ちゃんは私の特別な人だよ。……でもね、私たちが大人になっても、二人で最高に綺麗なタイツを選んで履こうね。今よりずっと、素敵な大人になって」
「うん。約束だよ。……世界中で私たちだけが知っている、一番綺麗な黒を、これからもずっと見つけ合おうね」
春奈は沙也加の手を握り、自分のタイツの膝の上に重ねました。
二人の手のひらには、タイツの細かな編目越しに、互いの体温が伝わってきます。
燃え盛っていた炎が少しずつ小さくなり、オレンジ色の光が穏やかな燠火へと変わっていく頃。
二人の足元を照らしていた光も、より深く、濃密な陰影を描き出していました。
「明日、東京に帰ったらまた白ソックスに戻らなきゃいけないけれど……。この高原の寒さと、タイツの暖かさは、一生忘れないわ」
「私も。……おやすみなさい、春奈ちゃん」
「おやすみ、沙也加ちゃん」
キャンプファイヤーの残り火が消えゆく中、二人の少女は、寄り添う二つの黒いシルエットとなって、いつまでも夜の静寂を楽しんでいました。




