第三話 黄金の中の白
五月の風が、新緑の香りを運んでくるゴールデンウィークの午後。
沙也加は、少し緊張した面持ちで電車のシートに座っていました。二駅だけの短い旅ですが、春奈の家へ向かうという事実は、彼女の胸を期待と不安でいっぱいにさせていました。
この日の沙也加は、いつもの制服とは違う「おめかし」をしていました。深い紺色のパフスリーブワンピース。そして足元は、純白のタイツです。
「……ここかな」
地図アプリが示したのは、静かな高級住宅街の中でも一際高い塀に囲まれた邸宅でした。門扉の横にある重厚なインターホンを押すと、すぐに聞き慣れた、でもいつもより少し弾んだ声が返ってきました。
「沙也加ちゃん? 今開けるね!」
大きな門が音もなく開き、玄関から春奈が駆け寄ってきます。その口調は少し前までのさん付け、敬語というどこか畏まったものから、年齢相応の少女らしいものへ変わっていました。それだけ二人の仲が深まっていたのです。
春奈も学校の時とは違う私服姿でした。淡い水色のサマードレス。彼女もまた、光を反射するような真っ白なタイツを履いています。
「春奈ちゃん、お邪魔します。……わあ、すごく素敵なお家」
「そんなことないよ、普通だよ。さあ、入って。沙也加ちゃんが来るの、ずっと楽しみにしてたんだから」
二人は春奈の部屋へと向かいました。天蓋付きのベッドがある広々とした部屋で、二人は並んでソファに腰を下ろします。
ふと、視線が互いの足元に落ちました。
「ねえ、沙也加ちゃん。白タイツ……なんだか新鮮ね」
「うん。春奈ちゃんも。学校ではずっと黒だから、自分の足じゃないみたいで、ちょっと落ち着かないかも」
沙也加は、ワンピースの裾を整えながら、白タイツに包まれた自分の膝を見つめました。黒タイツが「知性と規律」の象徴なら、この白タイツは、どこか「守られるべき幼さ」を強調しているようで、二人の間には少しだけ照れくさい空気が流れます。
「でも、沙也加ちゃんのその紺色のワンピに、白がすごく合ってる。……やっぱり、沙也加ちゃんはどんな時も足元まで綺麗ね」
「春奈ちゃんこそ。水色と白って、今日の空みたい。……私たち、私服になっても結局タイツを履いちゃうんだね」
春奈はくすっと笑って、自分の足を沙也加の足にそっと寄せました。
「だって、これが一番落ち着くんだもん。黒も好きだけど、こうして二人で『白』をお揃いにするのも、特別って感じがして嬉しいな」
「ねえ、おやつにする前に、私のアルバム見る? 幼稚園の時の写真とか」
「見たい! 春奈ちゃん、その頃からきっとお洒落だったんでしょ?」
二人は顔を見合わせて笑い合いました。
学校という枠組みを離れ、高級住宅街の一室で過ごす休日。
紺碧のセーラー服を脱ぎ捨てても、二人の根底にある「足元へのこだわり」と、お互いへの強い関心は、少しも変わることはありません。
「春奈ちゃん。今日、誘ってくれてありがとう。……白タイツ、履いてきて良かった」
「私も、沙也加ちゃんが来てくれて本当に嬉しい。……ねえ、次は夏休み、どこに行こうか?」
二人の白い足先が、リズムを刻むように楽しげに揺れました。それは、厳しい校則から解き放たれた、小学五年生らしい純粋な友情の輝きでした。




