第十三話 秘密の共有、鎌倉の風 ※挿絵あり
十月の半ば、秋の気配が本格的になった鎌倉。
英和女学館初等部の五年生たちは、歴史学習を兼ねた遠足に胸を躍らせていました。
学校から出された指示は「動きやすい服装」。
普段、厳格な制服に身を包んでいる生徒たちにとって、それは自分の個性をアピールする絶好の機会でもありました。
鎌倉駅の改札を出ると、そこには色とりどりのパーカーやジーンズ、チノパンに身を包んだ少女たちの賑やかな輪が広がっていました。
その中で、沙也加と春奈は、やはり一際目を引くスタイルで並んでいました。
「沙也加ちゃん、その格好すごく似合ってる。タイツとスニーカーって、なんだかすごく『動ける!』って感じがするね」
「春奈ちゃんも。カジュアルなショートパンツに黒タイツって、制服の時とはまた違う、活動的な美しさがあるわ」
二人のスタイルは、絶妙な統一感を持っていました。
沙也加は、落ち着いたベージュのショートパンツに。春奈は、デニム素材のショートパンツ。その下には、もちろん、お揃いの漆黒のタイツを合わせています。
白ソックスにスニーカーというクラスメイトが多い中、二人の足元は、スニーカーのスポーティーさとタイツの知的な引き締まりが同居した、鎌倉の古い街並みにふさわしい「大人びたカジュアル」でした。
長谷寺の石段を登る時、二人のこだわりが光りました。
「ねえ、沙也加ちゃん。見て、階段を一段昇るたびに、タイツに光が当たって、筋肉の動きがすごく綺麗に見えるよ」
春奈が自身の脚を見下ろしながら、楽しげに言いました。
「本当だね。パンツスタイルだと脚のラインが隠れちゃうけれど、ショートパンツとタイツなら、しっかり歩いている実感が持てるし、シルエットも崩れない」
周囲の友達が「足が疲れちゃった」「ジーンズが重い」とこぼす中、適度な着圧感のあるタイツを履いた二人は、驚くほど軽やかに坂道を駆け上がっていきました。黒いタイツは、古都の湿った空気や木漏れ日を美しく反射し、彼女たちのステップに合わせて柔らかな陰影を描き出します。
高台から見下ろす由比ヶ浜の海。秋風が二人の髪を揺らし、ショートパンツの裾をわずかに持ち上げます。
「学校のセーラー服もいいけれど、こうして外の世界で、自分たちの好きなスタイルで『黒』を履けるのって、なんだかすごく自由な気持ちになれるね」
沙也加が海を見つめて呟きました。
「うん。場所が変わっても、履いているものが違っても、私たちの『好き』は変わらないんだなって、改めて思ったわ」
春奈が沙也加の手を握り、お揃いの黒い足元を誇らしげに揃えました。
クラスメイトたちがカジュアルな私服で弾ける中、二人の足元だけは、どこかストイックで、どこか特別な「境界線」を保ち続けていました。鎌倉の歴史ある風景の中に残された、二つの黒い残像。それは、五年生の秋という瑞々しい季節を、鮮やかに彩っていました。




