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教育って本当に大事

 

「読み書きは各地にある寺に協力を仰ぐのですか」

「ああ。僧たちには政には参加させない代わりに教育をしてもらい、その代価としていくばくかの銭などを支払うようにしていきたい」

「それは良きお考えで」

「本当はそろばんなどの計算まで領内でできればいいのだけれど、それは追々として、その代わりに所作などの行儀作法についても簡単に教えてもらおうかと考えている」

「それは思いつきませんでした。

 まこと良きお考えだと思います」

「空さん。

 なぜそろばんはともかく、計算を教えないの」

「幸、良いことに気が付いたな。

 いろいろと理由はあるけど、うちって数字が特殊だろう」

「あ、南蛮数字だったっけ」

「ああ、それが一番の理由かな。

 あの数字で帳簿を付けているから、帳簿のできる人を育てるには一緒に教える方が効率が良い」

「あの面倒くさいお武家様のことを言ってますか」

「とにかく、賢島に学校を作って、領内各地から頭の良さそうな孤児を集めて、将来的には孤児だけでなく、広く子供たちから政だけでなくいろんな方面で活躍できる人材を育てるための学校を作る」

「なぜ、ここ京でなく、賢島なのですか」

「空さん。

 京かもしくは堺や領地内で考えるのならば他にも人の集めやすい場所があるように思いますが」

「場所については将来的には各地に作れればいいけど、初めは賢島が最適だと考えている」

「その理由は何ですか」

「まず他の勢力からの邪魔を排除しやすい。

 まだまだ俺たちには敵が多い。

 俺たちが強くなるための人材を育てているとわかれば誰だって襲ってくるだろう。

 賢島は最初から外からの攻撃を考えて作られた島だ。

 何せ、伊勢から北畠からの攻撃を考えて準備したのが始まりだからな」

「それ以外にも理由がありそうですね」

「ああ、あそこには商館をはじめ数字を使う部署が実際に機能しているし、そのほかには研究のための鍛冶職人も多数いる。

 それに船大工もいるから、政用の人材だけでなく職人たちの養成にも使える。

 まずは集まった子供たちの資質やその子たちの希望を聞いてその方面で教育を強化していく。

 何をするにも数字や計算の能力は必要だから最初はそのあたりから教育を始めて、その後実際にいろんな仕事を経験させながら見極めていこうかなと」

「それを私に」

 俺がここまで話をすると急に幸が怖気ついてきた。

 まあ、そりゃそうだ。

 大学の設立をいきなり高校生になろうかという年ごろの娘にさせるのだから。

 しかし、俺も大学で教育は受けていたけど大学の設立どころか日々の運営など全く知らないので、だれがやっても手探りには変わりがない。

 本当は張さんあたりに任せたかったのだが、あいにく張さんには領地全体の銭管理を任せていくつもりなので、俺の手駒としては幸しかいない。

 それに何より、今のあいつは俺たちの中では一番暇なのだ。

 そう、幸が頑張って暇になるようにしてきたことを全く考慮していない訳ではないが、あいにく俺たちにはとにかく余裕がない。

 これもひとえには、各地にいるお武家さんたちが俺の基準で考えれば全く使えない。

 彼らに任せるくらいならば令和の中学生にでもかませた方がはるかに物事はうまくいくと思われる。 

 いや小学生でも小五位ならば十分に使える知識があると思うと、本当に教育の体系って重要だ。

 まあ、令和だからできたとも考えたのだが、そういえば寺子屋での教育でかなりの人が十分な教育をされていたとも聞いたことがある。

 その寺子屋の教育を本当の寺にお願いして、その後の高等教育を幸に任せようとしているのだ。

 俺の方では、結さんとお市さんに、それに五宮を使って暇そうな公家を利用して寺でさせる教育についての指針を作っていく。

 将来的には教科書的な何かもできればと、そのあたりについても相談していった。

 幸が最後には涙目になっていたので、俺は助け船を出しておく。

「何も一人ですることはないのだぞ。

 後で紅谷さんに手紙を出しておくし、時間を見つけて俺の方から直接紅谷さんに協力も依頼しておく。

 当然賢島の政を担っている豊田さんの協力は必須だ。

 政全般の教育については豊田さんに丸投げでもいいくらいだと考えているし、帳簿についての先生などは紅谷さんに相談すれば、誰かしら見繕ってくれるだろう」


「本当に?」


「ああ、大丈夫だ。

 幸は商館の仕事の他に、まずは学校の校舎だな。

 勉強を教えるための専用の建物を手配してくれ」

「うん、わかった」


 話がまとまったようで、この後奥さん方は集まってお茶をしながらおしゃべりをしていく。

 俺も交じりたいとはさすがに思わないが、正直この時間の余裕がうらやましい。

 俺は彼女たちを分かれて、さっそく五宮と相談して公家の選定に入った。

 どうして俺はいつまでたっても暇にならないのかな。

 それこそ伊勢の片隅で細々と商売でもできればと思っていたあの昔が懐かしい。

 まあ、あの時はあの時で、日々生き残れるか心配でそれどころではなかったんだけどもな。

 あ、それは今も変わらないか。


 日々の仕事に加えて、俺の領地となった若狭に越前、それにいまだに問題しかない加賀についてもそろそろ動かないといつまでたっても越前が落ち着かない。

 現状では越前も西半分くらいしか完全に掌握できていないし、東については今のところ積極的に動こうとも思わない。

 とにかくマンパワーが足りない。

 若狭についてはとにかく半兵衛さんの手際の良さに救われて、ほとんど無傷で領地化に成功できた。

 そのおかげもあって、それほど領地も荒れることなく掌握ができたので、半兵衛さんの他には葵だけでもどうにかなっている。

 しかし、越前はそうもいかない。

 まあ、越前国内で派手に戦をしたおかげで、とにかく領地が荒れに荒れている。

 そこにきて一向宗が好き勝手に動き回っているので、とにかく領民を落ち着かせるだけでも大変だ。

 領民たちが落ちつかないと炊き出しすらできずに領民たちはばたばたと死んでいく。

 人がいなければ土地だけあっても荒れるだけだ。


 落ち着きを取り戻せたところから炊き出しを行い、領民たちを基本元の場所へと誘い帰農させていく。

 それが終わったのが西側の半分だ。

 流石に年貢は数年無理なので、その旨は伝えているし、俺たちの方からも積極的に新たな農法も伝えている。

 農法といっても正条植だとか、田植えの基準だとかといった簡単なものばかりなのだが、それでも伊勢では画期的と言える成果を出している。

 伊勢の石高は戦国の世でも上国とされているだけに相当に大きかったのだが、今では下手をすると倍近くまで収穫を上げているのではないだろうか。

 現状の石高を正確には覚えていないが下手をすると100万石以上の収入はあるはずだ。

 それに商売関係も入れると200万石に手が届くくらいではないかと俺は考えている。

 何せ、俺の京での活動費用もほとんど伊勢からの持ち出しだが、それでも伊勢では各地遠征しても戦を仕掛けるだけは余裕でできるのだ。


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