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関白たちの反撃?

 

 先に検非違使のお役所内に作ってある陳情などの要件で使っている部屋に関白とその取り巻きたちを通していた。

 一応ここにある応接用の部屋の中では一番上の造りではあるが、それでも大名や公卿などをお通しするような部屋ではない。


「殿下、この扱いは酷すぎませんか」


「ああ、わしらを何と心得ている」


「ここは、いっそのこと中将を大宰府に飛ばしましょう」


 などと取り巻きたちは威勢の良い事で盛り上がっている。


 まあ、陳情用に使っている部屋だ。

 きれいに掃除はされているが、調度品などもほとんどなく、事務的なものばかりで、禅宗的には割と落ちついた良い部屋だとはおもうのだが、まだこの時代の人からは良い評判は聞いていない。


 別に貶める様な造りにはなっていないのだが、格下扱いにされたとでも思っているのだろう。


 格下とは思っていないが、あながち間違いでもない。

 そこなら商人たち位には扱っている。

 商人たちの扱いには、俺は特に気を付けているからある意味感謝してくれてもいいとすら思う。


 敵なのだし、今まで俺に対する扱いを考えれば塩をまかれて玄関先で返されなかっただけましだろう。


 ああ、いかんいかん。

 感情的になっている。


 関白たちからやや遅れて、俺と弾正が部屋に入った。


 ここでもひと悶着があった。


「貴様、関白殿下を何と心得る」


 まあ、そりゃ~そうだ。

 何せ、上座に当たる奥側に俺たちが座ったのだから。

 でも、俺は、あくまで陳情客として扱うと決めていたので、構わず話を進める。


「私は上座に座った訳ではありません。

 ここは検非違使に陳情に来る人たちを出迎える部屋です。

 私はその陳情を聞くお役目が座る場所に着いただけです」


「き、き、貴様~」

 もう取り巻きたちは顔を真っ赤にして怒っているから、話などできそうにない。

 しめた、もうこれでいいよね。


「陳情で無いのなら、申し訳ありませんが、私も主上より頂いているお役目で忙しいのです。

 無駄な時は掛けられませんので、お帰り下さい」


 俺はここまで言うと、流石に横で聞いていた弾正が小声で俺に言ってくる。


「おい、空よ。

 やりすぎではないか。

 これって、まずいぞ」


「大丈夫です。

 関白殿下は、身分を盾にして面会を求めて来た訳ではないのですから、あくまで陳情として扱います」


「おま……ちょっとばかりやり過ぎのような気がするが」


 最後はほとんど独り言だったので、意識を関白たちに戻すと、先ほどから騒いでいたのは関白一派でも下の方の少納言だったようで、同じ一派の大納言が彼を諫めていた。


「これ、少し黙らんか。

 関白殿下の御前だぞ」


「そのお方を、あ奴が……」


「話が進まぬから、少し黙っておれ」


 大納言の諫めをきいて、まだ顔に怒気一杯の表情で俺の方を睨んでいたが、諫めていた大納言が、今度は俺の方に向き直り、話し始めた。


「彼が怒るのも、ご理解してほしいものだな、近衛中将殿。

 だが、我らは貴殿に喧嘩を売りに来た訳ではない。

 先の主上の行幸について話が聞きたかっただけだが、聞かせてもらおうかな」


「それはお役目としての報告を求められているとご理解すればいいのでしょうか、大納言殿」


「もちろん、貴殿の役目上、関白殿下に報告する義務があると、麿は考えるのだが」


「ええ、ですから先ほど来られた方に報告するために御所に上がりますと伝言を頼んだのですが、どうも伝わっていなかったのですね。

 つい先ほどまで私は五宮と一緒に御所に上がっておりました。

 しかし、待てど暮らせどどなたもいらっしゃらなかったもので、かなりお待ちしましたが、引き上げて来たばかりなんです。

 報告なら明日にでも()()()()御所に上がりますが……」


「一々御所まで行かずとも殿下のお屋敷を訪ねれば良かろう。

 先触れに出した者からもそう聞いているだろう」


「ええ、ですがお役目は私邸でするのは如何なものかと。

 私は、大納言殿もご存じの通り、田舎者の成り上がりです。

 幸い義父の五宮は大学寮の博士のお役を頂くだけあってしきたりには詳しく、報告などのお役目は御所にある溜まりで行われていると聞いております。

 私はしきたりには疎いものですので、五宮に無理を言って御所まで上がったのですがね。

 ただでさえ主上が御所どころか京から行幸に出ている時に、私邸で勝手に公人などが集まりなど、いらぬ誤解を招かないとも限りません」


「あらぬ誤解とは、なんぞや」


「謀略や乱などは大げさだとしても、仕来りを無視して私邸で報告など不作法も甚だしいと皆々様から陰口を叩かれるかと思いまして。

 ですので、私に主上から頂いております治安についての報告は明日にでももう一度御所にて行いますが」


「え~い、今ここに殿下もおわすのだ。

 ここでしないでどうする」


「ですから、朝廷の決まりで、できないのでは」


「それくらい融通を利かせないでどうする、使えない田舎者め」


 しめた。

 奴らから融通を利かせるという言質を貰ったぞ。


「ですが……

 そうですね、融通を利かせないと仕事は回りませんよね。

 ですが、私邸での密談はやはり避けるべきかと」


「だから、先ほどから言っておることだが……」


「ですが、唐の国のことわざでしたっけ。

 『李下に冠を正さず』と云うのがあるそうなんですよ。

 これは誤解を招く行いは避けるようにと理解しておりますし、私のような成り上がりはそうでなくとも色々と言われますので」


「だから、そういう心配はいらぬ。

 ここに殿下自らいらっしゃったのだ。

 貴殿にはあり得ないくらいの厚遇と理解されよ」


「ええ、存じております。

 ですから私も融通を利かせようと考えました。

 幸いここでは私が主管する検非違使の仕事しておりまして、殿下には大変失礼かとは思いますが、あくまで融通ということで、検非違使に陳情という扱いにさせていただきます。

 それならば私邸での密談に当たらないかと」


「貴様~~、なんという……」


「ええ、大丈夫です。

 ここでの話はきちんと記録に残しますので。

 あくまでお役目中ということで。

 絶対に密談には当たらないかと」


「もうよい。

 それよりも、あれなんだ。

 貴殿も計画からかかわっていたのだろう」


「あれと申しますのは主上の行幸のことですか」


「ああ、そうだ」


「計画に関わっていると言いますと、主上の移動に際して相談は受けておりましたが」


「理由は聞いてるか」

 今度は先の大納言からの質問だ。

 こちらの非をどうにかして誘いたいらしい。


「ええ、私が聞いていたのは御所での生活があまりに酷いからだとか。

 暑い事ですし、それならどこかに避暑にでもという話が出ていたように思いますが」


 俺の意図を察したのか弾正がここでナイスパスを出してきた。


「失礼します、中将殿」


「弾正殿か。

 そう言えば貴殿は最後まで主上の警備をしていたな。

 何か」


「は、ここに陛下からのお言葉を記した手紙と、同行しております山科卿から朝廷宛てのお手紙を預かっております」


 そう言って、先に話していた例の手紙を俺に差し出してくる。


「朝廷宛ての手紙は、私もその一員になるとは思うが、流石に私がここで読む訳にもいかないだろう。

 幸いここに朝廷の最高責任者であらせられる関白殿下もいることだし、お手紙はそのままお渡ししましょう。

 その前に、一緒に主上のお言葉を頂きましょうか」


 俺はそう言って、関白たちが何かを言い出す前に、あの話をそのまま読みだした。

 正直、俺はまだあのくねくねした文字は読めないのだが、少し前に弾正に読んでもらっているので、まだ覚えている。

 俺は、そのまま声に出して主上のお言葉を皆に伝えた。


 流石にこれを聞いた関白たちは全員が顔色を変えた。

 今回の行幸と云う謀略の全体像がはっきり見えたようだ。


 そう、今俺が主上のお言葉と声に出しているこの状況は、明らかに何かしらの政争だと分かるくらい強引なものだ。


 なので、関白たちは初めから謀略だと決めてかかり、一番政争について弱そうな俺のところに圧をかけて来たのだ。


 まあ、最初から関白たちの行動までもが計画にあったので、俺も慌てることなく対応できたわけだが。


 それに何より、俺の心情的にも関白たちの持つ権威と云うのを正直理解してない。

 ただの偉そうなおっさん程度しか思っていないので、いきなり関白がやってきてもありがたがるとかあり得ない。

 連中は、俺の屋敷にいきなり関白を訪問させることで、これ以上ない厚遇を与えて、心情的に優位に立ち、俺達に対して貸しを作るつもりだったようだが、俺からすれば迷惑以外にない行為だ。


 尤も今回ばかりは手紙を隠蔽できない形で関白に渡すというミッションが急に入ってきたので、正直助かったとは思ったが。


 それでもその程度だ。

 このミッションが無ければ借りどころか、俺の方が迷惑している分関白に対して貸しを作ったと思ったことだろう。

 まあ、今回は手紙を効果的に手渡すことができたので、貸し借りは無しと思ってやる。


 その関白たちはと云うと、山科卿からの手紙を回し読みしている最中で、どんどん顔色が悪くなっている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 腐った野郎に奇跡は訪れない、ていうか訪れさせない。
[気になる点] 誤字? 「弾正殿か。  そう言えば貴殿は最後まで主上の警備をしていなな。  何か」
[一言] 彼らは気がついていないけれども ここが彼らにとっての天王山だよね、ここで死にものぐるいで押し切らないと、 相手は完全に一族郎党に至るまで朝廷からの馘首、まで追い詰める覚悟ができてるのにな…
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