戦の論功
大変お待たせしました。
一年近く間を空けてしまいましたが、再開会います。
先の六角との戦を終えて、そのまま信長の妹である市様との結婚したところで、話を中断しておりましたので、初夜から話は始まります。
それは冗談ですが、結婚後から話は始まります。
お楽しみください。
無事にお市さんとの結婚も終え、俺は晴れて新婚だ。
そう、初夜も流石に3回目となると慣れたもので、問題無く終わった。
これから数日はイチャイチャしても罰は当たらないだろうと、昨夜まではそう考えていたが、そこはお約束じゃ無いだろう。
朝一番、それもまだ朝食を取る前から殿下からお呼び出しだ。
まあ、俺も起きるのがこの時代感覚からしたら遅かったのもあるが、俺は新婚だ。
これくらい許されても良い筈なのに、前に結さんの時も、張さんの時ももう少し余裕があった。
何故に、お市さんの時だけ……分かっていますよ。
ほんの数日前まで、京の直ぐ傍の近江で六角氏が滅ぶような戦があった。
昨日までに一応戦後処理も終わったはずだが、それでも政を預かる者たちは混乱した政情を落ち着かせなければならないことくらい分かるけど、俺は京の治安を預かるだけで、それ以上の高みからの視点は持っていない。
俺の仕事の範疇では無い……そうもいかないか。
元々俺の方から仕掛けた事情もあるけど、それなら何故このタイミングで結婚させたんだよと文句も言いたいが、グズグズして良い筈はなく、俺はお市さんに手伝ってもらいながら身なりを整えてから、いそぎ太閤殿下の屋敷に向かう。
殿下の屋敷までは歩いても数分の距離だ。
これが貴族なら、尤も平安華やかりし頃の話だが、牛車なんかを使ったらそれこそ準備まで入れて1時間はかかるだろうが、俺は治安部隊の長だ。
歩いて行っても問題ない……筈だ。
今までもそうだったので、今更感はある。流石に護衛は付いてくるが。
屋敷に着くとすぐに部屋に通される。
部屋の中には、既に皆さん集まっておられた。
「おお、やっと来たか、婿殿」
そう太閤殿下は俺の義父になり、信長さんは義兄になるややこしい家族関係ができてしまったが、そう言う集まりでは無いだろう。
弾正までもが正信さんを連れているのだから。
信長さんの方にも丹羽様もいるし、これ完全にお仕事の話合いだ。
「おお、空か。
皆忙しい身なのだ。
早速始めようか」
「弾正様。
何の話ですか」
「空よ。
あれだけ大戦をした後だ。
そんなの決まっているだろう」
大戦か。
確かに南近江の大名家を潰したけど、あっさりと終わったこともあり、俺としては大戦の感じはしていない。
それよりも、志摩攻略の時の方が戦としては大戦と言えるような気がするが、確かに動員された兵士や、その結果からすると大戦と十分にいえるものだった。
「弾正様。
戦後処理は終わっていると聞いていたのですが」
「ああ、処理的には終わっている。
しかし、戦のあとだ。
まだ論功行賞をしていないだろう」
「え、その件は戦前に話が付いていたのでは」
「ああ、俺が六角の跡地を貰う件だな。
それで構わないが」
「空、こういうものはしかるべき者から論功として渡されるものだ。
それが済んでいないというのだ」
「え、だって、あれって綸旨に応えた格好でしょ。
流石に主上に何かを下さいとは言えませんよね、殿下」
「ああ、確かに主上から出された綸旨による戦だったが、それでもそれなりの物は必要だ。
その打ち合わせと云うか、確認だな」
「確認?」
「ああ、六角を潰した後の件について、正式に取り決めてしまおうと言うのだ。
太閤殿下の言うところによると、綸旨によって戦を開いた結果だから、きちんとしておかないと関白から横やりが入らないとも言えないからな」
「ああ、そうでしたね。
近衛関白は、事実上敵側でしたし、今回は完全に負け組ですが、あの人はそれで大人しくしている様な人ではありませんね」
「ああ、まあ実際は俺たちが兵力を持って入るから領地の方はすぐにどうこうなる訳でもないが、また綸旨でも出されると厄介だしな」
「そこで、一度領地の割り振りを確認して、勅使を出そうかと考えている。
六角は幕府より守護職を賜っていたようだが、朝廷からは何もしていない。
確か、あの地は京極氏が名乗っていたような。
尤も自称のようだが」
「だから、皆で集まり一度確認してから、お上から勅使を貰うことになったのだ」
正信様はそう言うが、近衛関白もいるし、話は簡単なのか。
まあ、でも悪い話ではない。
そこで、先の戦の結果、我々の支配地となったのは南近江と忘れがちなのだが伊賀もだ。
俺と一緒に動いた松永の軍は三好の勢力下となっている山城や河内などの事実上空白地を通って行ったこともあり、そろそろあの辺りについてもはっきりとさせた方が良いだろう。
「そう言うことならば、私から提案があります」
俺はそう言ってから、信長さんには近江国の守を貰うようにしてもらい、九鬼様には伊賀を、そして弾正様には河内と京以南の地の支配権について朝廷からお墨付きを与えてもらえるように殿下に頼んだ。
流石に、山城の地に守など置かれていたかは不明だが、役職を弾正より勧めてもらい、それらのお墨付きを貰えば晴れてあの辺りも落ち着くだろう。
尤も山城はもちろん河内についても関白あたりからの抵抗は必至だが。
「そう言うことか。
確かにそれは良い考えだな」
「大丈夫ですか、太閤殿下。
近衛関白から抵抗はありませんか」
「な~に、関白は暫く大人しくしているだろうから問題は無いだろうが、空よ。
俺に三好の地を横領させようと言うのか」
「事実上、三好の力はあそこには無いのでは」
「まあ、そうだが……」
「既に三好と戦までしている弾正殿が珍しいですね。
私は、何も河内や山城全てを弾正殿にとは言うつもりはありませんが、少なくとも河川交通に必要なところは弾正殿に抑えてもらいたいのです。
大和川を使って郡山との河川運送も始めるとお約束しましたし、何より淀川だけは絶対にこちらで押さえておかないといけません。
ですので、今開発中の淀辺りに人を派遣してあの辺りは弾正ご自身で治めてもらいたいのです。
実力的には今すぐ兵を入れても問題無いでしょうが、関白あたりからの横槍を考えますとお墨付きは貰っておいた方が何かと便利かと」
「確かに、既に正信を派遣して開発に当たらせているが……」
「あそこを朝廷、関白に抑えられますと、京や近江との河川輸送の莫大な権益を取られかねないかと。
まだ、気づいている人は少ないでしょうが、既に京と堺の船便で相当の利益が出ております。
そこに街道にあるような関では無いでしょうが税を取られると、ちょっと……」
「全く無税とはいかないだろうが、空の言い分はよくわかる」
「その件は分かった。
太閤殿下、今空の云う通りに勅使を出してもらうことはできますでしょうか。
しかも、時間はあまりありませんが」
「ああ、それは問題無いだろう。
弾正殿の云う通り、近衛が大人しくしていれば、私から直接主上に掛け合うことも可能だが、そうなると、九鬼殿や弾正忠殿はそれでいいが、弾正殿は如何しよう」
「河内之守だけでも良いでしょう。
その内、令外官を作り、京に入る河川管理の部署でも作り、その長官も兼務させれば問題は無くなります」
「新たな役職か……」
「その辺りも私の方で、五宮殿と相談しながら考えます。
こちらの方は、実際に弾正殿が実を押さえていれば後付けでも問題ないかと」
「よし、分かった。
早速、準備しよう。
なに、国司の三つくらいならそれこそ大納言でもどうにでもなるしな。
今の時代、朝廷には何ら力も無いしな」
その日の話し合いは終わった。
結局のところ、三人とも太閤殿下のお屋敷で、勅使を迎え、無事に守の役職を貰った。
心配していた近衛関白からの横槍も、その近衛関白自身が宮中に出仕しておらず、勅使は翌日に出された。
その勅使を迎えるにあたり、俺も駆り出されている。
一緒に俺の昇進までもが決められたようで、俺はこの時から近衛中将に昇進した。
あの律令官位から言うと一個飛ばしの従五位の下から従四位の下になる。
なんでも俺の功績もあるのだとかという理由だが、どうも以前に俺のやらかしも影響があるらしい。
俺は検非違使庁を復活させたが、どうもこれがいけなかったらしい。
検非違使庁の親分は別当とか言われており、その役職に就けるのは中納言以上の官位が必要だったとか。
尤も戦国のこの時代、一々慣例を持ち出して文句を言う奴は居ないだろうが、それでも敵対する近衛関白あたりが仕掛けてこないとも限らない。
今の近衛中将も近衛府と言うお役所の上から2番目で、ついでにこの役職に就いたことからやっと検非違使の事実上のトップ、令和の省庁で言うなら事務次官のような役割に当たる佐よりもはるかに上になるとか。
それでも別当よりは下位という少々ややこしい位置づけだ。
尤もこの別当は兼務が習わしで、栄誉職のようなものだったらしいと五宮さんは教えてくれた。
まあ、俺が検非違使庁を復活させるにあたり、俺はさっさとその長となったこともあり、今更栄誉職の別当を持ってきても無視はできるが、それでも軋轢は生まれるだろうし、太閤殿下はさっさともっと上に来いとまで言っている。
どうも太閤殿下は俺のことを最低でも大納言まではさせたいようで、近衛の影響を相当恐れてもいる。
まあ、今なら公金横領の容疑で権威をいくらでも下げることはできそうだが、流石にそれまでするとその後の影響が怖い。
だからという訳では無いだろうが、六角まで囚われてから助命するまでは近衛は良く参内していたようだが、弾正預かりとなった今ではすっかり参内しなくなっているとか。
元々、主上の生活もその日暮らしで、今まであまり参内されていなかったが、ここに来て朝廷も機能し始めたと云うか、俺からの利益欲しさかよく朝議も開かれるようになったと義父の太閤殿下は言っておられた。
だからと言って無視できるような小者では無い。
俺の知る歴史からはかなり変わった流れにはなったが、それでもあの近衛関白は既に上杉謙信とのパイプもある。
ここで、包囲網でも敷かれてはそれこそ俺の新婚生活は吹っ飛んでしまう。
それにもうすぐ年が明ければ葵と幸との結婚も控えているし、とにかく一日でも早く落ち着きたい。
それにしても、奈良時代から続く律令政治を利用させては貰っているが、本当に面倒で邪魔くさい。
その内どうにかしたいな。
昨年の冬に、信長の妹の市様との結婚で、話を中断しておりましたが、再開することにしました。
この後は全国統一に向かうことになりますが、まずは近衛関白とのしがらみからとなります。
なるべくありふれた話にならないようにしていきたいとは思いますが、果たしてどうなりますか。
今後にご期待ください。