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戦の準備


 俺は信長さんとの会談を終えると、一度三蔵村に戻ることにした。

 途中桑名で、藤林さんに会って、三蔵村で今後のことを話し合いたいからみんなを集めてもらうようにお願いを出した。


 藤林さんは直ぐに手配してくれたが、何の話し合いかを気にしていた。

 そうりゃそうだ。

 長島の件が終わったし、熊野の水軍の件もとっくに終わり、俺らにとってここ紀伊半島は完全に安全地帯と化していた。

 まだ、串本辺りで、少々うるさそうなのがいたが、本格的に本願寺との対決になっていないこともあり、俺らにとっては脅威になりえない。


 藤林さんは、ついに俺が日ノ本制圧に動くのかと期待した目を向けて来たので、伊賀国の支配について話し合いたいと伝えた。


 伊賀国は藤林さんにとって決して因縁浅からぬ土地だ。

 俺は伊賀国を望月さんに任せてしまおうと藤林さんに話すと、満面の笑みを浮かべて賛同してくれた。


 望月さんは甲賀の盟主なのだが、伊賀とも付き合いがある。

 何よりかなり前から伊賀の藤林さんとは交流があったのだ。

 藤林さんが伊賀を出てなければ藤林さんに伊賀を任せることも検討したが、いっそのこと甲賀も併せて望月さんに任せて、あの辺りの山地一帯を守らせるつもりだ。

  

 当然すべてが俺らに付いてくれるとは思えないが、そこは俺にも考えがある。

 既に峠でも成功しているように、まず俺らに付いたところに実利を取らせる。

 それ以外には一切の益すら与えないようにすればおのずと向こうから落ちて来る。


 この時代、どこも生きて行くのが大変なのだ。

 伊賀も甲賀も山がちの土地なので、本当に貧しい暮らしを強いられている。

 だから忍び働きをしてでも生きて行こうとしているのだ。

 俺らに付いただけで、豊かな暮らしが手に入るのならとこちらに流れるのは自明の理だ。


 山で出来る産業も考えている。

 まずは俺がしたように、炭の生産だ。

 後はうまくいけばシイタケ栽培もしていきたい。

 これはまだ研究していなかったが、うまくいけばそれこそどれだけの価値を生むか分からないものになる。


 後は、お茶の生産とか、桑を生産して生糸なんかも考えていければいいかなとは思っている。

 

 まあ、先の話だ。

 俺は藤林さんと一緒に三蔵村に向かった。


 なんだか本当に久しぶりに来た感じだが、先の長島制圧の時にも来ている。

 俺はその足で、三蔵寺に向かい、上人様に会った。


 「上人様。

 まずは結婚の報告に参りました」


 「おお、そうだな。 

 前に来た時にはそんな余裕がわしにもお主にも無かったしな」


 「ええ、此度、張さんを側室として娶りました」


 「それはめでたいな。

 ところで、葵や幸はどうしている」


 「ハイ、元気に暮らしております。

 今では私にとってなくてはならないくらいに色々と協力してもらっております」


 「二人は娶らないのか」


 「ええ、今はですが。

 既に約束させられましたので、二人は来年にも側室にいれる予定です。

 私も色々と面倒な役職を付けられまして、自分では自由にできないことが増えました。

 こと結婚なんかは全く私の意思が入らないくらいですよ。

 あ、張さんや葵や幸は私の意志です。

 私が望んでいることですが、時期とか色々と私に関係なく婚儀が進められています」


 「空よ、何かあったのか」


 「はは、上人様には分かりますね。

 葵と幸を娶るだけでも十分と思っていたのですが、どうも二人よりも先に織田殿の血縁と婚儀を結ぶことになりました。

 それを葵や幸にどう説明すればいいか、今から憂鬱です」


 「なんだ、そんなことか。

 心配せずとも、きちんと空の口から話せばよい。

 それで全てが片付く。

 空の立場で、孤児が側室に入ることの方が珍しい。

 葵も幸もその辺りを心得ておるから、心配せずとも大丈夫だ。

 それよりも、まだあるだろう。

 戦か」


 流石に上人様にはお見通しのようだ。

 「ハイ、もう一度はしないとまずいですね。

 できれば私は次の一度で済ませたいと考えております」


 「それはどうかな。

 そなたが寺に見えてからずっとそなたを見ていたが、どうもそなたの運命というか業だな。

 その業のなせるために、そなたは民を導いていかんといけないようだ。

 できればそなたにこの日の本から戦を失くしてほしい。

 そなたが伊勢から戦を失くしたようにな」


 「それはどうでしょうか。

 私は私のできることをしているだけです。

 それより玄奘様はどちらに。

 見えないようですが」


 「今、近江の方に参っておる。なんでも加賀の信者と本山とで揉めているようで、その中継となる近江の寺も落ち着かないようでな。

 そちらを見てもらうように頼んだ」


 なんだかそこら中きな臭い話ばかりで気がめいりそうだ。

 まあ、それ以上の情報は上人様も持っておられないようで、その日の話もそれで終わった。


 翌日には伊勢の主だったものが集まってくれた。


 うるさかった玄奘様もいないので、久しぶりに寺の本堂で話し合いを行った。

 前に寺で散々打ち合わせをしていたら、玄奘様に寺は会合の場所ではないと言われたんだよな。

 その玄奘様がいなければ、ここでしても良いよね。

 割とここでの話し合い、俺は好きなんだよね。

 ゲンが良いというか、そんな感じで。


 集まってくれたのは本当に忙しい所申し訳ないのだが、大名の九鬼さんを始め、藤林さんは俺と一緒に来ていたからわかるが、竹中さんと孫一さん、それに熊野水軍からも棟梁が来てくれた。


 開口一番に俺は竹中さんからお小言を貰った。

 国の行く末に関わる事なのに、こちらに一言も無く進めるとはどういう了見だと言ってきたのだ。


 え?

 そんなつもりはなかったが、確かに戦になる話だから確かに大事だな。

 それに何より一番怒られたのは信長さんとこから嫁を貰う話が付いたことだった。

 政略結婚はこの時代のスタンダードだが、いや、スタンダードだからこそ政を預かる者にとって重要な話なので、犬猫の子を貰うように勝手に決めるなと言ってきたのだ。


 俺はまだその話は上人様しか報告していなかったのだが、どうも信長さんから直接話がもう入ったことのようだ。

 大和の弾正にも筋は通すと信長さんが言っていたが、本当に行動が早い人だ。


 俺の結婚に半兵衛さんは反対の立場ではない。

 やむを得ないと思っているようだが、それだけにきちんと事前に話をしてほしいとお小言になったようだ。


 これには俺も反論させてもらおうとしたが、全くできなかった。

 俺も信長さんを訪ねるまでそんな気は全くなかったのに、話がどんどん進められてしまった経緯もある。


 辛うじて半兵衛さんのお小言が終わった時に言い訳をさせてもらえたくらいだった。


 その後に、藤林さんに先に話した通り伊賀国の支配についてと、六角攻めについて話し合った。

 こちらからは事前に伊賀を押さえておき、伊賀から信長さんと歩調を合わせて南近江に進攻することで、まとまった。


 「やはり戦になりますか」

 孫一さんは久しぶりの戦と聞いてやや張り切り気味だ。


 「できれば戦はしたくは無かったんだけど、三雲がとにかく酷い。

 しかし、蒲生とは戦いたくはない。

 なので、蒲生とは先に誼を結んでおきたいが、できるだろうか」

 

 藤林さんはその辺りもしっかり調べてあった。

 どうも以前から俺があの辺りを攻略すると睨んでいたようだ。

 なぜ俺よりも先に俺の気持ちに気付けるかは疑問が残るが、今回は感謝しかない。


 「大丈夫かと思います。

 というより、既に空さんは誼を結んでいるのでは」


 「ああ、知らない訳では無いから、そうなるかな。

 なら言い方を変えよう。

 悪いが調略を頼めるかな。

 ただでさえ人材不足の俺たちなのに、そこは放って置くには惜しい。

 信長さんに取られる前に抑えたい」


 「そうでしょうな。

 蒲生の一族は先代にかわいがられてはいたようですが、今代からはあまり良い扱いを受けてはいないようです。

 それに関の件でも揉めたのが悪かったようですね。

 下手をすれば粛清の対象にも成り兼ねませんね」


 「なら急いだ方が良いかな。

 九鬼さん。

 うちから軍を出すとしたらいつごろまでに準備ができますか」


 「軍ならいつでも出せますよ。

 な、雑賀殿」


 「ええ、先の長島でもほとんど被害も出ておりませんし、いつでも大丈夫です」


 「なら、その辺り信長さんと相談しておいてください」


 「しかし、いきなり攻め込めないでしょう。

 何より攻め込むにしても大義がありません。

 空さんはどうするおつもりで」


 「これから、その大義を作るよ。

 どうせ三雲を刺激すれば簡単に相手の方から大義を作ってくれると思うよ。

 今回こっちに戻ったのもその下ごしらえも有るんだ」


 「どうするおつもりで」


 「ここから朝廷に献上品を運ぶよ。

 あの峠を通ってね」


 「「「あ……」」」


 「そうですか。

 そうですね、それなら朝廷が怒っても不思議はありませんね」


 「ああ、あいつら卑しいから絶対に難癖をつけてなんかしてくるからね。

 証拠が無いと言い切っても無駄だしね。

 その献上品と一緒に俺も行くから」


 「それは危険では」


 「だからその前に最低でも甲賀の道を軍が通れるようにはしておきたいね。

 孫一さん準備できないかな。

 孫一さんのとこだけで十分だと思うのだが」


 「ははは、大砲でも持っていきましょうか」


 「そうだね2門もあれば十分でしょう。

 何かやったら大砲でも撃ちこんでしまおうよ。

 でも、その奇襲にも大義を付けるために一度俺は京に戻るよ。

 俺の処、検非違使から伊勢に貢物を要求しようかな。

 そうすればこちらが勝手に出したものじゃ無くなるよね」


 「そこまでお考えとは、恐れ入りました」


 俺は謀略に手を染めることも躊躇しない。

 俺の中で完全に六角の排除は決まっていた。


 後は実行あるのみ。

 問題があるとすれば伊賀国内で、できるだけ多くの村の賛同を得られるかどうかだ。


 藤林さんはどういった経緯か知らないが一度は伊賀を追い出された人だ。

 それもあるので、今回は望月さんを前面にして考えを進めている。


 あ、まだ望月さんの答えを聞いていなかった。

 帰りに聞いてから帰ろう。


 もう完全に事後報告だよね、これは。

 まあ、望月さんも半ばあきらめていたようだし、元々向こうから言ってきたことだしね。


 そうと決まれば京に帰ろう。


 あ、新婚の張さんに新たな嫁の話をしなければいけなかった。


 痛たたた、胃の辺りが急に痛み出した。


 「どうしましたか、空さん。

 お加減でも……」


 「アハハハ……」


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