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一大物流網の夢


 賢島に着いたら、一旦紀伊之屋さんと能登屋さんとは別れた。

 なにせ大店の主なのだからここの店の様子も知りたかろうし、何より、ここの番頭さんも打ち合わせに参加してもらうように俺から頼んだのだ。


 で、俺はそのまま城に向かう。

 城には豊田さんが居たので、大広間を借りるように頼んだ。


 大広間でみんなを集めて話し合いをしたく、準備を始めた。


 俺の頭の中には転生前の義務教育の賜物で大体の地図が入っている。

 流石に昭和の時代に完全に埋め立てられた巨椋池は正直知らなかったが、それでも堺から京、琵琶湖と云った地理関係は知っている。


 その辺りも含めて集めた皆に相談しやすいように地図を作ることにした。


 豊田さんに無理を言って紙をたくさん用意してもらい、張り合わせて大きな紙を作った。

 そこにいつも持ち合わせている木炭で簡単に下絵をかいてから墨で地図を書いていった。


 地図造りに集中していた為か気が付かなかったが徐々に人が集まってきた。


 「空さん、何しています。」

 「あ、伯珪さんもいらしたのですか。」

 「ええ、張さんにお誘いいただきましたから。

 何やら面白いことを始めるそうですね。」

 「ええ、みんなが来たら説明しますが、あ、能登屋さんと紀伊之屋さん、いらっしゃいませ。

 もう店の方は大丈夫ですか。」


 「ええ、空さんを待たせるわけにはいきませんから。

 店の方はいつでも来れますしね。」


 「それより空さんは何をしているのですか。」


 「そうですね、まだ尾張からの人が来ていませんので、来てからと思っておりましたが、良いでしょう。

 来たらもう一度の説明になりますが、簡単に説明しますね。

 これは地図を書いておりました。

 まあ雑な地図ですがないよりはましだと思ってください。」


 「それで、これはどこの地図ですか。」


 「ええ、ここが堺で、ここから淀川を伝うと、ここが淀になります。

 この辺りが巨椋池になりますが、正確な地形は分からないのでだいたいだと思ってください。」


 「ほほ~。

 ではここが京の町か。」


 「いえ、その辺りだと草津になりますか……あ、何で信長さんがここに居るのですか。」

 急に地図を見て質問してきたのは、今しがたここに入ってきた信長さんだった。


 ちなみに、以前信長さんから弾正忠などと呼ばずに忌み名で呼べと言われたので、今では失礼を承知でそう呼ばせてもらっている。


 「なんでも糞もあるか。

 空が面白いことを始めるから人を集めていると聞いてな。」


 「え?え?

 私は丹羽様に人を出してくださいとは手紙で書きましたが、信長さんを呼んだつもりはありませんよ。」


 「何か、俺は邪魔だと言うのか。」


 「いえいえ、違うでしょ。

 このような些末なことに大大名のご当主様を呼んでどうしろと。

 丹羽様もお忙しそうなので、誰でも構わないとは書きましたが、丹羽様以上にお忙しい信長さんが来るとは思っても見ませんでしたよ。

 せいぜい丹羽様のご家来の誰か、例えば木下様辺りが来て下さるかなとは思いましたが。」


 「ああ、猿か。

 猿なら一緒に来たぞ。」


 「空様、お久しぶりです。

 主の丹羽は流石に殿さまが城を開けるので来れませんでしたがよろしくと言っておられました。」


 そうだよな。

 信長さんが勝手に城を抜けるのでは丹羽様は今頃デスマーチの最中だな。

 早く話を切り上げてお帰り願わないと丹羽様が過労死してしまうかも。


 「皆さんが集まってくださったので、ご相談したいことがあります。

 まずは私の説明を聞いてください。」


 そう言って、書きかけの地図を前に、町を書き入れながら話を始めた。


 「現在、私どもは伊勢の桑名周辺から観音寺まで、八風街道を使って商いをしております。

 また、船を使って堺まで商路を繋いで商いをしており、非常にこれらは盛んになってきております。

 今では尾張の熱田から堺までは船で、観音寺までは桑名経由で馬借などを使って陸路で盛んに商売をさせて頂いております。

 私事で申し訳ないのですが、最近になって、都で帝から仕事を仰せつかり、帝を中心に私は仕事をしておりますが、兵糧などの手配で少々困ってきており、そちらにいる紀伊之屋さんや能登屋さんの協力の元堺から船で上京までの船便を作りました。

 まだ、お試しの期間ですが、十分に商いで使えそうなことが分かりましたが、そうなると少々問題があります。

 上京などでは商いが徐々に戻り始めますと、京に運び込まれる品の量が増えてきますが、我々の船では運びきれないことが分かりました。

 そこで、堺との船便を強化してしまおうと考えましたが、それならいっそのこと我らの持つ船便や馬借などをまとめてみようかと思いつきました。

 見てください。

 観音寺から京までは淀を通り船便で結べます。

 尤も、下りは良いのですが、淀から観音寺に向かう途中に流れの急なところがあり、そこも含めてどうにかしようと相談したく集まってもらいました。」


 「面白いな。

 確かに空の描いた絵地図で見る限り、都と近海は本当に直ぐだな。」


 「ええ、草津や坂本から陸路でも峠こそ超えますが直ぐです。」


 「しかし、あそこは叡山が関を設けておりますからな。

 商いには不便ですわ。」


 「そこで、この川を使う船便が欲しいのです。

 これが使えれば私も本当に便が良くなります。

 拠点の有る観音寺までも直ぐですし、堺からも船便で結べますから。」


 「ああ、確かにあれは便が良かった。

 観音寺と結べれば確かに便は良かろうが、今でも十分に便がいいのに空は欲張りだな。」


 「ええ、整備するなら一遍にと思った次第です。 

 で、ご相談なのですが、今後も考えて巨椋池のこの辺り、淀の町の直ぐ傍に蔵町を作りたいと思っております。」

 そう言って、前から考えていたハブ構想を丁寧に説明した。


 「ここ、賢島もそうですし、今では桑名も同じように各地への中継地点としての機能を持っております。

 ですので、ここも堺や下京、上京、果ては観音寺などへの中継基地にしたいと考えております。」


 「それに協力せよと言うのだな。」


 「大和の弾正様は既に全面協力の約束を空様としております。」


 「しかし面白いことを考えるのだな。

 それなら六角も誘うのか。」


 「いえ、誘えません。」


 「誘わない、いや誘えない。

 それはどうしてだ。」


 「ハイ信長様。

 すでに信長様もご存じかとは思いますが、先代様と違って六角のご当主はそのお考えが……」


 「ああ、あ奴は凡夫と云うのだな。

 峠道に関を設けて商いを潰すという奴だったな。」


 「さすがに知っておりましたか。

 それもあって、別な道を探っておりました。」


 「それだけでは無いのだろう。」


 「ええ、これは私の夢なのですが、近海を通って高島まで行ければ、そこから街道を少しばかり行くと小浜があります。

 小浜からは蝦夷や博多などいろんなところに船で繋がりますから、商いがどれほど繋がるか楽しみなのです。

 それもこれも淀の中継点を設けることで物流を管理できます。

 皆さん、いかがでしょうか。

 この計画には銭はかかりますが、見返りも大きいと思っております。」


 「空さん。

 その計画にわしらも参加させてくれると言うのか。」


 「え?

 紅梅屋さんも参加してくださるのですか。」


 「そりゃ~そうだ。

 ここだって、婿殿がいたから来れたのに、今度は初めから参加できるのなら大賛成だ。

 それに今の話じゃないが、小浜経由でも商いが広がるのがまた良い。」


 「空さん。

 京の川船の発展ならうちらもそのまま参加で良いんですよね。」


 「ええ、是非にお願いします。」


 「おい、空。

 尾張はどうするんだ。

 まさか無視する訳では無いよな。」


 「ハイ、大和でも話しましたが、参加は大歓迎です。

 しかし、尾張屋さん以外は直ぐの参加は見合わせてください。

 船頭多くしてとなりますから。」


 「ということは、いくつでも参加できると言う訳だな。」


 「ハイ、今のところ信長さんや弾正様には町の政について相談したく、基本的には商いの町にしますから、堺のように商人にある程度は任せたいかと。

 当然、年貢は銭で収めてもらいます。

 だいたいこんな感じですが、どうでしょうか。」


 「いつから始めるんや。」


 「皆様の賛同が得られましたから、今から工事は始めようかと。」


 「おい、猿。

 お前はここに残り本田と一緒に空を助けるんだ。」


 「え?

 ダメでしょう。

 丹羽様に私が怒られますよ。」


 「大丈夫だ。

 五郎左には私から言っておく。

 なに、すぐに五郎左もここに来ることになるから、その時にでもお前から今の話を説明すればいい。

 これは決定だ。

 良いな猿。」


 結局信長さんはそれを言ったら、直ぐに尾張に船で戻っていった。

 やっぱり暇じゃなかったんだよね。

 丹羽様大丈夫かな。

 お城では仕事がとんでもないことになっているんだろうな。

 俺が恨まれなければいいが。

 信長さんだけが帰っただけで、残った人たちと早速、工事の手配などをしていった。


 基本、銭を集め、その銭で京から人足を雇い工事を始める。

 これは公共工事の役割もあり、京の町に銭をばらまく効果があるので、この後急速に下京迄もが治安を回復していった。


 本田様に木下様がここにつきっきりとなってくれたので、現場の工事は任せて、俺は京に戻っていった。


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