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知らない天井


 村長の龍造さんに連れられて俺は()()()()に向かった。


 「これですか。」


 「はい、空さんのために作りました。」


 「それにしても大きすぎませんか。

 浜の小屋なんかそれこそ4畳半くらいの大きさでしたがあれで充分に生活できましたよ。」


 「空さんの言う4畳半って小屋の大きさなんでしょうか、よくわかりませんが、確かに浜の小屋は酷かったですね。

 前に住んでいた村からすれば普通の大きさでしたんでしょうが、我らの頭の屋敷としてはあれは酷すぎました。

 村人からかなり言われましたからね。」


 「え?

 俺何にも聞いていなかったけどあれの評判は悪かったんだ。」


 「は~~、評判って…

 はい、私に事あるたびに、あれをどうにかしないと頭の評判に傷がつくからと大勢の方から言われましたよ。

 九鬼の殿様なんか『俺が人も金も出すから作らせろ』とまで言ってきたので、本当にどうにかしなければと思っていましたので、空さんが学校でしたっけ、作ると言い出した時にはこれだって思いましたよ。

 小屋を片付け学校に小屋の中の物を全部集めれば空さんの家を作る大義名分ができるって村人全員が喜んでいたくらいでしたから。

 屋根の瓦なんか九鬼様のところで用意して頂いたくらいでしたからすぐに作ることができました。

 さ、さ、中にどうぞ。」


 中に入ると大きな玄関に続き訪問者の応対に使われるのだろうか手ごろな大きさの部屋がありその奥に廊下が続いていた。


 「なんか昔の役所のようだな。

 こういった造り、以前に武家屋敷などで見たことがある。」


 「空さんが何を言っているのか良く理解できませんが言いたいことはだいたいわかります。

 ここは現在三蔵の衆の取りまとめのために張さん達が日ごろから使われておりますから。

 今では各地に散らばった拠点から毎日のようにここに文が届きます。

 その多くが催促の文だと良く張さんがこぼされておりますよ。」


 干物だな。

 あれは今でも品薄な上に、これからますます需要が出てくる。

 どうしよう。

 俺が京にかかわるようになるとますます必要になるいわば戦略物資になりそうだ。

 ここに続き賢島でも作るようになってきているのに、益々の増産が必要だな。


 奥から見たことのある子供が出てきて俺を俺の部屋に案内してくれた。

 流石に最近色々ありすぎて疲れていたので、休むには早いがここで龍造さんと別れ部屋で休むことにした。


 部屋にはすでに布団が敷かれてあり、いつでもおやすみなさいの状態だ。

 まだ色々と考えなければならないことが沢山あるが今日のところはおやすみなさいだ。


 明朝、俺は目を覚ました。

 「見たこともない天井だ。」

 ごめんなさい、一度は言ってみたかったんだこのセリフ。

 この世界に流されてから言う機会が無かったんだよ。

 やっと言えたので一安心だ…何が安心なのかはわからないがこの際どうでもいい。


 まどろんでいると廊下を複数の足音が聞こえる。

 

 襖を勢いよく開け、葵と幸がうれしそうに俺の寝ている布団に近づいてきた。

 これこれ、嫁入り前の娘がはしたない。

 

 「なんだ、空さん起きていたんだ。

 二人で優しく起こしてあげたかったのに。」


 「悪いな。

 なれない部屋なんだが、疲れていたのか昨日はすぐに寝れたので、早くに目を覚ましたんだよ。

 しばらく布団の中でまどろんでいたんだ。

 それにしても、この部屋俺のためだと聞いたけど、広すぎませんか。」


 部屋を見渡すと昨日は気が付かなかったけど個人の部屋としてはかなり広い。

 八畳から十畳はあるかな。


 寝に帰るだけの部屋でしかもほとんど使わないのにこれは贅沢だ。


 「だってここは空さんの仕事をする部屋でもあるんだよ。

 空さんがここで仕事をしていればいろんな人がここに訪ねてくるからってみんな言っていたよ。

 張さんの部屋だって同じくらいの広さがあるよ。

 張さんの部屋にもよく人が訪ねてくるしね。」


 「それでも張さんはすぐに仕事の資料なんかでいっぱいになるから狭いねとこぼしていたから。」


 俺は布団から出て支度を始めた。

 葵も幸も俺の支度の手伝いを頼まれもしないのに嬉しそうに始めた。


 やめて、俺が偉い人にでもなったと勘違いするから。

 お付きの人に着替えの手伝いをさせるなんてどこの貴族かよって言いたい。

 

 着替えの後、どこに隠していたのかわからないが水の入った桶を俺のところに持ってきた。

 これで顔を洗えって言うのか。

 俺は恐る恐るそれで顔を洗うと手ぬぐいを渡され準備が済んだ。


 俺は二人に案内されるように自宅の広い部屋に通された。


 ここは食堂代わりに使われているようで、幾人かの子供と張さん珊さんの二人もいた。


 「あ、張さんと珊さん。

 おはようございます。」


 「空さん、おはようございます。」


 「空さん、なんか久しぶりだな。」


 「そうですね、珊さん。

 すっかりご沙汰してしまったようで。

 ここも大きくなりましたね。

 最初にあの酷い小屋で珊さんから魚を分けて貰ってからすっかり変わりましたね。

 拠点も多くなって、すれ違うことが増えてきましたが、これからもっと忙しくなりそうなんです。

 またお二人のお力をお借りしたい。

 今やってる仕事をできるだけ周りに引き継いでください。」


 すると食事中の張さんが箸を止めて聞いてきた。


 「結婚の話かな。」


 「そうですね。

 それもありますが、いや、そのためと言った方がいいかな。

 しばらく京都に拠点を置いて、そこでの仕事が主になりそうなんですよ。

 俺一人じゃ何もできないので、以前のようにお二人にもお力をお借りしたいので、お願いします。」


 「すぐに京都に行くことになるの。」


 「いいえ、私はすぐにでも行くことになりそうですが、お二人は京都の拠点ができてからなので、遅くとも一年以内に来てもらうことになります。

 それまでここの引継ぎをしておいてもらえますか。」


 その後俺は運ばれていた朝食をとりながらだいたいのところを話して聞かせた。

 すぐにではないが俺の中できちんと考えがまとまった時点でみんなと相談は必要だが、じっくりと腰を落ち着けて考えさせてもらえるほど時間はもらえていない。

 走りながら進めていくしかない。


 俺がここに流されてきてからずっとこんな感じで、いったい俺はどこに流されていくのか心配にはなるが、今はあの流された時と違って信頼できる仲間が沢山居るのだ。

 どうにかなるさ。


 そろそろ食事も終わろうかと言うときに俺は気が付いた。

 張さんや葵に幸の様子が変だ。

 そわそわしているのが分かった。


 はは~ん、側室のことを俺の口から聞きたいのだろう。

 しかしさすがに食事中にする話じゃないだろう。

 しかも朝っぱらからだ。

 

 ということで、俺の食事が終わった段階で、朝のミーティングは終わりだ。


 何それ、何でそんなにがっかりしているんだよ。

 落ち着いてからきちんと話すよ。

 俺も覚悟を決めたから、3人は迎える。

 それまで少しの間だが待っていてほしい。

 それらしいことを言ったら安心したのか三人の表情が和らいだ。


 「さあ、今日もしっかり仕事をしよう。」

 俺はそういうと自分の部屋に戻っていった。


 部屋は既に布団が片付けられており、中央に文机が置いてある。

 さもここでおとなしく仕事をしろよと言わんばかりだ。


 誰の差し金かはわからないが、ここはおとなしく従っておこう。

 考えなければならないことばかりだ。


 文机の上にきちんと用意されている紙に筆でメモをしていく。


 ~メモ~


 目的????

  ◎京都の治安の回復

 懸念事項

  ・内裏の状況改善

    少なくとも内裏の修繕は急務

  ・他勢力の影響  

    三好、六角、朝倉、一条などの大名からのちょっかいの排除

    有力大名からの嫉妬が怖い

  ・京都の公家からの無心

    貧乏公家からの影響力の排除

     妨害の危険性

  ・義父などの新たに親類縁者になる公家への経済的援助

  ・京の住民の民意と協力

    どこまで住民の協力を得られるか。

    

 こんなところか、今思い浮かぶのは。

 それにしてもどうするかは考えると頭痛い。


 目指すは京都の自立だ。

 経済的に自立して治安を回復していかねばいずれ立ちいかなくなる。

 当面は三蔵の衆からの持ち出しで始めるが、すぐに自立策を講じないとすべてが、そう、ここ三蔵の衆を含むすべてがダメになる。


 考えると問題ばかりだ。

 基本は検非違使などの平安から続く制度を掘り起こして武家でない身分の者の治安対策だ。

 これによって大名からの影響力を最小に抑える。

 

 本当に頭痛い。


 俺が頭を抱えていると部屋の外から声がした。


 「空さん、入ってもいいですか。」


 張さんの声だ。

 俺が許可を出すと襖をあけ、張さん、葵、幸の三人がそれぞれ自分の文机を持って部屋に入ってきた。


 な、何なんだ。


 葵が「せっかく久しぶりに空さんがいるのだから、今日くらいはここで仕事をしてもいいよね。」と言ってきた。


 あ~~~、俺は諦め許可を出す。


 三人はいそいそと机を並べ仕事を始める。

 みんな忙しいのだろう。

 三人が三人とも文を読んだり、書き物を始める。 

 いつもこんな感じで仕事をしていたのだろう。

 俺が好き勝手にほっつき歩けるのも彼女たちのおかげかもしれない。


 急に済まないという気持ちと感謝の念がふつふつと湧いてくる。


 「空さん、どうしましたか。」


 張さんが手を休め俺に聞いてくる。

 「いや、それより、毎日すみませんね。

 ここの仕事を完全に任せきりで。」

 「いいえ、気にしないでください。

 それより空さんこそ、何やら先ほど頭を抱えていたような。」

 流石に年長者、気遣いの張さんだ。

 ごまかせないので、先ほど書いたメモを見せ、簡単に説明した。


 「当分はここから持ち出しで、小さく始めていくしかないな。

 また迷惑をかけるけど大丈夫かな。」


 「大丈夫も何もありませんよ。

 やらなければならないなら、やるしかないでしょ。

 空さんはこちらを気にせずに進めてください。

 この仕事は空さんしかできないのだから。

 私たちは全力で応援していきます。」


 ここまで言われれば感謝の念しか湧かない。

 俺には本当に信頼できる仲間がそれも沢山いるのだ。

 どんな困難にも立ち向かっていける。

 みんなの幸せのためには。


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