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やっと始まる大型船?の建造

 とりあえず、人手の方は九鬼様たちの熊野水軍の吸収交渉いかんによってどうとでも変化しそうなのだが、空が今ここで考えても何も変わらない。


 空は不安な気持ちを抱えながらも心機一転、新造船の方へ心血を注いでいった。


 2本マストの新造船は以前に鹵獲?したキャラベル船を参考にしながらも、あのずんぐりとした形が気に入らない空によって、船型を大きく変えていたので、構想にかなりの時間がかかった。


 船首形状をよりスマートにして、喫水線下の形を少しばかり浅めに、その代わりに悪くなる復元性の確保のために船幅を広く取った。


 大きさはほぼ変わらないが、見た目の受ける印象は大きく変わり、より現代風に近い印象を受ける。

 尤もこの印象を持つのは空だけであるが。


 空はとしてはこの船の船首にバルバス・バウという今の船によく見かける球状の船首を採りたかったのだが、それをやっていては時間がどれほどかかるかわからなかったので、今回は諦めた。


 三蔵村に居るベテラン?の船大工たち全員を集めて、先に作った模型を見せ、これを全員で造ることにした。


 「空さん。

 これは今まで作ったやつよりも大きいな。」

 「大きさなら、関船と同じくらいか。」

 「関船というより、あそこにあるキャラベル船を参考にしているから、作るときに参考にしてね。」

 「あの船と同じか。

 でも俺には同じには見えないが。」

 「見た目が違うからだね。

 大きさや、マストなどの構造は同じにするから、船体構造だけ違うかな。

 いや、ほとんど構造は同じだけれど、その形が違うだけだからね。」


 そんな感じで集まった船大工たちが自由に言いたい事を言っていた。

 これは空が物を作るときに大事にしていたことだが、とにかく意見は大事にしていく習慣がついてきている。

 棟梁が一方的に命令する現場ではないのだ。

 それでも棟梁は皆をまとめていくことが求められる。

 いわゆるリーダーシップってやつだ。


 ここの棟梁もすっかり空のやり方に慣れてきてそのあたりの塩梅を心得ている。

 一通り意見が出たところで、

 「よ~~し。

 いつまでもだべっていては始まらね~。

 とにかく始めようや。

 空さんの希望通り以上の物を造ろう~ぜ。」

 「「「お~~~~」」」


 と大工たちが一斉に浜に散らばりそれぞれの持ち場で仕事を始めた。

 いつの間にか分業している。

 不治の病である『人手不足』はここ造船所では見られていない。

 皆が十分に育ってきている。

 子供たちも勉強を終えたやつが見習いとしてきているが、その子達も先輩大工について仕事を覚えているようだ。


 すべての部署がここのようであればどれだけ楽ができるのだろうと、意味もなく空は考えていた。


 「棟梁、ちょっと相談なんだが、今いいかな。」


 「あんだ、仕事始めたばかりだから、俺は時間があるからいいけど、そんな改まった話しぶりじゃ、この船以上の無理を言ってくるのか。」


 「無理じゃ……ないと思いたい。」


 「で、相談ってなんだ。」


 「その相談なんですが、この船も直ぐに必要なのですが、熱田までを結ぶ連絡船として、最初に作った1号艇と同じ大きさの船が1艘必要になっているのですよ。」


 「それを同時に作れってか。」


 「同時に作っても欲しいのですが、ここの人たちってだいぶ育ってきているじゃないですか。

 その船は新人さんたちだけで作らせてみませんか。

 失敗してもいいですよ。

 十分に確認してから使いますから。

 そうすれば、彼らにも自信と責任感ってやつが身につくかなと思いまして。

 どうでしょうか。

 棟梁が目を光らせていれば早々大事にはならないかと思うのですが。」


 「それはいい考えだな。

 そうしてみるか。

 そいつらの取りまとめを三吉に任せてもいいか。

 あいつもそろそろ一本立ちしてもいい頃だと思っていたのだが、どうだろう。」


 「棟梁がいいと思われるのなら私には反対する理由がありません。

 いいようにやってみてください。

 いつも言っているように、失敗してもいいのです。

 いや、むしろ管理できるところでの失敗はたくさんさせてください。

 人は失敗から多くのことを学びます。

 大事なのは失敗から必ず学ばせることなのです。

 それと怪我などにも十分に注意してください。

 人命に関わる失敗だけはしてはいけないやつですからね。」


 「空さんがいつも言っている奴だろう『安全第一』。

 わかっているよ。

 お~~い三吉、すぐここに来てくれ。」


 三吉さんは棟梁に呼ばれると直ぐにやってきた。

 そこで先ほどの話を棟梁と空の二人から受け、その場で快諾をもらえた。


 「ぜひやらせてください。」

 「新人は好きなだけ連れて行ってもいいけど、そのあたりは棟梁とよく相談してね。

 でないと今の現場に混乱が出てしまうからね。」

 「わかっています。

 棟梁、そのあたりの件ですが…」


 二人はその場で直ぐに相談を始めた。

 空は邪魔になるといけないのでその場を離れ、以前作ってもらった水車小屋に向かった。

 ここは、空の実験施設も兼ねている。


 ここでは既に空のライフワークとも言えるセルロースナノファイバーを作っていた。

 何も難しい話じゃない。

 紙の原料となる繊維質のものを細かくするだけだ。

 具体的には、水車小屋に取り付けてある回転式の石臼で紙の原料を細かくしているだけで、1週間ばかり放っておいている。

 空の経験ではそろそろいい塩梅だ。

 

 石臼から取り出したそれを眺めてうすら笑いをしていたら、

 「何、気持ち悪い笑い顔をしているのよ。」

 と後ろから近づいてきた葵にどつかれた。


 「痛~~。

 何するんだよ。」


 「張さんが寺で呼んでいたよ。

 準備が出来たから連れて行ってくださいとね。」


 「どこに?」


 「熱田だって。」


 「あ~~~、忘れていたよ。

 すぐ行こう。」


 と言って呼びに来た葵を連れて寺に戻った。

 寺の境内では既に引越しの準備まで整えていた幸代さんご夫婦が待っていた。


 「すみません、お待たせしました。

 これから船で熱田まで向かいましょう。

 何、頻繁に船を出しますから、ここにはちょくちょく戻ってこれますから心配しないでください。」


 「空さん、今回は、私は行けませんので葵さんを連れて行ってくださいな。

 これからの連絡役にもなってもらいたいし。

 色々と仕事を覚えて欲しいから、葵さんも先方に紹介しておいてくださいね。」


 空は葵の方を見ると、『ニタ~~』っと人のことを言えないような顔で笑っていた。


 「なんて顔しているんだ。」

 「だって、最近いつも置いていかれてばかりだったから、今回は一緒に出かけられるのが嬉しいんだよ。

 しょうがないじゃないか。」


 「わかったわかった。

 向こうではおとなしくしているんだよ。」


 「私、もう子供じゃないからね。

 そんなこと言われなくともわかってますよ~~だ。」


 やっぱり子供じゃん。

 とは思ったが、最近特に学習したのか空はそれ以上は何も言わなかった。


 みんなを連れて港に待機している船に荷物を載せ、出発した。


 ここから熱田までは本当に近い。

 歩くと1日はかかる距離だが、船だと半日もかからない。

 

 日もまだ高いうちに熱田についた。


 早速幸代さん夫婦と葵を港の傍の清須屋まで連れて行き挨拶を交わした。


 「清須屋さん。

 これから、この幸代さん夫婦が頂いたお屋敷を守ります。

 また、こちらにいる葵と言いますが、これから伝令などのお使いをしますのでお見知り置きください。」


 「これは、空さん。

 わざわざご挨拶を頂き申し訳ありませんね。

 清須屋の主人をしております。

 これからは色々とご相談させていただきますので、よしなにお頼み申します。」


 「それはこちらこそ、よろしくお願いします。

 それでですが、頂いたお屋敷で小商いを始めようかとも思っておりますが、問題はありますか。」


 「いえ、商いですか。

 問題はありません。

第一、あなた方は熱田では既に商人として登録されております。

 船問屋と思っておりましたが、そうですね、せっかく船をお持ちだ。

 私どもも頼らせてもらいます。」


 「すみませんね。

 彼らは今まで長島の門前の市で商いをしておりました関係で、ここでもしっかりとした商いを始めたいのです。

 ここでの大店である清須屋さんから見たら子供の遊びのようなものかもしれませんが、ここで私たちが頼れるのも清須屋さんだけですので、よろしくお願いします。」


 「わかっておりますよ。

 で、空さんは、これからのご予定を伺ってもよろしいでしょうか。」

 

 「これから小牧山に文を出して、丹羽様にお礼の言上に伺おうかと考えております。」

 「では、今晩はうちで歓迎でも。」


 きたきた、宴会は家庭内不和の元だ。

 絶対に勘弁な。


 「お申し出はありがたいのですが、本日は引越ししたばかりなので、頂いたお屋敷での整理にこの者たちを当たらせますし、私は船で一旦帰ります。

 歓迎の件はいずれ日を変えて、今度はうちが挨拶を兼ねてお招きでもしたいですね。」


 「そうですか。

 まあ、これからはもっと深いお付き合いになりますし、またの機会でということで。」


 清須屋さんは非常に残念そうな顔をしていたが、とりあえず挨拶を終え、屋敷に戻っていった。

 屋敷ではついてきてくれた藤林様の配下の一人に張さんから預かった手紙を渡して小牧山に向かってもらった。

 あとは任せればいい。

 「で、葵はどうする。」

 「私は、ここに残って幸代さんたちのお手伝いをしている。

 どうせ明日辺りに戻ってくるんでしょ。

 めんどくさい。」


 「それじゃ~~、お願いね。」

 と空は言葉を残し、船で三蔵村に戻っていった。

 やっぱり連絡用の船は必要だな。

 


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