会議の行方
伊勢の攻略が済んで新たなステージに入っていきます。
今回は現状の確認の意味もあって少々長くなってしまいましたが楽しめていただけたら幸いです。
合流してからというもの葵と幸は俺のそばから離れない。
それを見ている周りの大人たちも温かな目で見ているだけで何も言わない。
よほどほって置かれたのが嫌だったのだな。
葵たちと初日に合流してから2日で全員が揃った。
今回の伊勢の攻略で我々の勢力範囲??はかなり広がったが、それでも3日もあれば全ての拠点から人を集めることができる。
現状で一番時間のかかるのは観音寺城下の伊勢屋からだが、そこだって2日もあれば人は来られる。
距離的に一番遠いのは雑賀崎になるがここは船便があり1日もあれば十分だ。
それに肝心の孫一さんはここにいるので、全員が無事に揃った。
みんなを三蔵寺の本堂に集めてこれからのことを話し合うのだ。
俺の横で感心したような顔で竹中様が話しかけてきた。
「すごいですね。
召集をかけてから3日で全員を揃えるのなんて。
通常の大名家だと最低でも1週間はかかりますよ。
どうしたらそこまで時間を詰めることができるのですか。」
「え、そんなに時間がかかるものなんですか。
時短についてはわかりませんが正直全員を呼んだのは今回が初めてなんですよ。
一番時間のかかりそうなのは観音寺城下ですかね。
それでも2日もあれば往復はできますからね。
1日も余裕があるので大丈夫なのでは。」
「殿、それはないでしょ。
皆それぞれ仕事を持っているはずでしょ。
仕事の都合や配下との話し合いもあるからその調整にも時間は取られますよ。
そういった諸々のものに時間は取られますからね。」
「それなら大丈夫ですよ。
現に観音寺の茂助さんには文句も言われましたが無事に先ほど着きましたしね。」
「やはり不満は出ましたか。」
「いや~、私も文句の一つは覚悟して呼びましたしね。
呼び出しの伝言を頼んだ時に「早く来ないと欠席のまま仕事を追加で割り振りますよ。当然人は減らしますからね。」と付け加えてもらいましたから。
さすがに茂助さんからは勘弁してくださいと真顔で言われましたし、一緒に仕事をしてもらっているお涼さんには怒られましたが、でも効果はありましたから良しとしましょう。
それよりも、三蔵の衆の主だったものを集めたのは初めてですから竹中様も初めての方ばかりでしょ。
いい機会ですから最初に紹介しますよ。
ご一緒に久作さんも紹介しますから連れてきてもらえますか。」
「関や長野の者たちは呼ばないので。」
「彼らは現状九鬼様の配下であって我々三蔵の衆ではありませんし、今後も仲間に入れるつもりはありませんよ。
後で説明しますが我々はお侍さんとは考え方がちょっと変わっておりますからね。」
「わかりました、それでは後ほど。」
俺は竹中様と分かれて先に本堂に入っていった。
すると三蔵村の村長を任せている龍造さんから声がかかった。
「空殿、村のそばにいる連中は何かね。
ここまで来るのにやたらと突っかかってきたがね。」
「あ~、あれね。
伊勢を抑えた時に九鬼様の配下になった人たちなんですよ。
まだよくわかっていないのですね。」
「龍造殿、申し訳ない。
ワシもまだ彼らを十分に把握しているとは言えないので。
それに先の攻略戦では戦らしいことはほとんどしておらんから点数稼ぎで少々空回りしているようですね。
後できちんと説明しておきますから許してください。」
「九鬼殿がそう言ってくださるのなら問題はないね。
あ~そうそう、言い忘れましたが、空殿、九鬼殿この度は伊勢の攻略が無事に済みお祝いを申し上げます。」
「ありがとうございます。
あ~ちょうど竹中様も入ってきたので新たなお仲間を紹介します。
九鬼様を助けて伊勢の攻略から領地の政を担当してもらっています竹中半兵衛様とその弟の久作様です。
竹中様には我々を助けてもらうべく私が美濃までお願いに上がり、快く一族を挙げて合流していただきました。
伊勢を抑えた以上我々は好むと好まざるとに関わらず付近の大名や幕府などからの関わり合いが発生してしまいました。
現状外向きには九鬼様が大名として伊勢志摩を領してもらい、藤林様とそこにいる竹中様を九鬼様のご家老衆として働いてもらっております。
久作様はご家老の半兵衛様の重臣として働いております。」
その後お二人から自己紹介をしてもらい、藤林様から三蔵の衆の方たちを紹介してもらった。
その後俺から志摩を落としたあとに説明した事業部制?について見直しを含め相談を始めた。
前は3事業部(政、物流、商い)を作りたいと説明していたが、それらが始まる前に伊勢の攻略が始まってしまい、正直全く機能していなかった。
それぞれ自分たちの仕事はきちんとしていたので物流も商いも干物や塩、焼き物などの製造業もどれも俺の予想以上にうまくいっていたがそれぞれ事業部の単位でまとまってはいなかった。
当然全体としてどれだけ稼いでいるかとか、どれだけの経費が掛かっているかなどはわからない。
事業規模?が大きくなってきているので正直やばいと感じていたので、もう一度きちんと整理していきたい。
先ほど竹中様の紹介の時にも話したが大名家としての政を始め外交や戦など諸々な仕事も発生してくる、いや、既に発生している。
俺自身も伊勢の攻略からは政にどっぷりハマりそれ以外には目が回らなくなっていた。
ここいらできちんと組織を作ってみたい。
この時代からは完全に異質になるだろうが、幸い我々には旧来のお武家様は竹中様くらいしかいないので、多少?異質だろうが組織化していく。
上人様や玄奘様を交えてみんなで話し合いを持った。
なかなか全体の統制の必要性を理解してもらえなかったが先に失敗?した事業部制を発展させることで話を持っていった。
政治方、商い方、物流方、製造方、監査その他方の5つにまとめることで話は付いた。
政治方はそのまま政治を行う部署で、大名家として九鬼様が伊勢志摩の2国を領有して外交から領民の保護など他の大名とあまり変わらない仕事をしてもらう部署だ。
商い方はそのまま商売を管理する部分で現状は伊勢屋の扱い量が一番多いが伊勢屋と堺との取引と長島門前町への行商がある。
今後は伊勢屋の本店を安濃津に設けそこを中心にもう一度商売を全体から見直してもらうつもりだ。
物流方は現状観音寺に向けての馬借事業と堺への定期航路を持つ。
ここに八風峠の村を含め、その名のとおり物流を担なってもらう。
商い方と物流方にはもう一つ隠れた使命として情報の収集の機能も担なってもらう。
既に同様の仕事をしてもらっているがこれはそれを発展させていきたい。
役割がきちんと決まっているのは上記3つで、悩みが尽きないのが次に上げる製造方だ。
これは現状の生産している干物、塩、焼き物、和紙、甲冑もどき、鍛冶、木材、木炭、墨、それに造船がある。
また、茶を始め芋などの農産物もあり、それらについても決めなければならない。
一般的なコメや麦などについてはどこの村でも作られるのでそれこそ政治方の領分になるのだろうが、特産品に類するものについての扱いには困っている。
まだ、種芋の生産位のレベルで寺で作っているがこれらについても決めていかないといけない。
それに公共工事に当たる道路の整備についても八風峠周辺で細々と行っていた関係で扱いを八風峠の村に任せていた。
今後は領内で行っていくのでこの扱いも政治方に移していくしかない。
最後に監査方だが、これは平成の現在の感覚からは程遠くなるのを覚悟して、各事業部に会計担当者を派遣してそれら会計担当者全員を一律に管理していくつもりだ。
現状あちこちで似たようなことを既に始めている。
延々と仕事の必要性の説明をしながら3日かけてまとめ上げた。
当然三蔵の衆以外には部外秘扱いとして、当然周辺に展開しているお侍の方にも秘密となっている。
以下に3日かけた労作を提示しておく。
我々の組織
・政治方
責任者…九鬼嘉隆 大名
伊勢志摩の守護(予定)、志摩の守(予定)、伊勢の介(予定)
家老…藤林、竹中
仕事内容…伊勢志摩60万石の大名として政を行う
・商い方
責任者…張さん(空もやりたい)
安濃津本店(伊勢屋) 店長…未定
観音寺支店(伊勢屋) 店長…茂助さん お涼さんが仕切っている
行商 責任者…幸代さん 善吉さん
・物流方
責任者…藤林様
馬借及び八風峠の村長…権造さん
海運責任者…豊田五郎右衛門、珊さん
・製造方
責任者…与作さん
海産物(干物、伊勢海老、塩)責任者…お良さん
造船責任者…中谷吉兵衛
その他(焼き物、炭、紙など)責任者…お菊さん
・監査方
責任者…空
子供の教育…張さん
子供の監督責任者…珊さん
寺関係者
三蔵寺住職…霊仙上人(上人様)
願証寺の僧堂長と兼任
副住職…玄奘様
三蔵村 村長…龍造さん
以前あった村方の会合は、今後は三蔵衆寄り合いとして上記に名前の上がったモノたちの集まりで定期的に集まり協議して決めていく
なお、上記に名を挙げたものたちについては九鬼様ひきいる大名家において侍大将格として扱い以後合流する武家たちとの混乱を避けるものとする。
また、道路事業については普請方として六輔さんを九鬼様扱いとして普請奉行とするなどを決めた。
とにかく整理はついて、寄り合い衆は解散させた。
しかし、まだ仕事は終わっていない。
これから最も重要な先の伊勢攻略の論功行賞を行わないといけない。
外で張り切っている連中もこれが最も関心があって、取り扱いには十分に注意を要する。
「でも、彼ら誰ひとりとして活躍はしていないんだよね。」
と俺が竹中様に聞いた。
「正直、今回の攻略戦において戦は行ってはいません。
論功と言えるものは何一つないとは言えませんが、正直微妙です。
武具類はそれぞれの武将が持ち寄りましたが全くと言って使ってはいませんし、一番大切な兵糧については全てこちらからの持ち出しです。
彼らは慣習とされている3日分すら持っていませんでした。
それにこちらが赴いての降伏扱いですので、お取り潰しの放逐でも構わないかもしれません。
どうしましょうか。」
残った俺と上人様と玄奘様に九鬼様を始め竹中様のお二人に藤林様、それに孫一さんで論功を含めた領内の仕置について話し合っていた。
「そうだな、ごねて暴れるようならば俺が叩いてこようか。」
「孫一さん、まだ彼らだって叛旗を翻したわけじゃありませんよ。
彼らだって降伏したことは理解しているのだからね。」
「殿はどうしたいと思いですか。」
九鬼様が俺に聞いてきた。
「正直彼らには政を任せたくないな。
とりあえず領内を見て判断するしかないけど、領民をきちんと食べさせていた人は自身の村くらいは任せようよ。
でないとこちらがパンクしてしまうしね。」
「パンク?
それって何?」
俺の後ろで大人しくしていた葵が聞いてきた。
「ごめん、破裂という意味だよ。
要は俺たちが仕事の多さで倒れてしまうという意味さ。」
「そうですね、直ぐに調べさせますが、多分全員がダメでしょうね。」
「しばらくは村長(仮)として村を見てもらうけど基本は銭雇だね。
今後は基本銭で雇いたい。
土地は全て我々の管理としてこちらから任せる人を送りたいね。
村の管理は今までどおり各村の村長に任せよう。」
「わかりました。
となると残るのは関と長野それに早々と我々に助けを求めてきた細野の3家ですね。」
「細野は銭雇で、そうだな、侍大将格で安濃津の管理を任せようよ。
関については約束通り半分の領地で、長野についても降伏なんでしょ。」
「はい、交渉中ではありましたが、討伐命令が出てから急にこちらについたわけですからあまり気を使う必要はないかと思います。」
「でも、細野さんの顔を潰すわけにも行かないよね。
その辺を言い含めて実質的に支配しているところのみとして安濃津などは我々の直轄で。」
「わかりました。
論功はこれで済みましたが、仕置についてはどうします。」
「当分は現状維持で。
どうせこちら側からの支援がないと立ち行かないところしかないしね。
それはもう少し時間をかけて良くしていきましょう。」
それにしても我々を取り巻く環境が急に変わりすぎだ。
本当は来年の永禄9年までに志摩を攻略してそれから3年かけて伊勢を攻略するつもりだったのに、とにかく1~2年かけて領内を整備していくしかない。
その中でついていけない人たちには退場してもらい、代わりの人材も用意していかないといけないな。
六角氏の蒲生さんの一族でも仲間に引き込めればいいのだけれどもさすがに無理はあるしね。
ま~地道に探していくしかないね。
幸い徐々にではあるが葵たちと一緒に勉強していた子供たちも使えるようになってきているしね。
彼らに期待するか。
本当にどうなるのだろうね。
誰か教えて。
最近になって急に読者の方が増えて驚いております。
コメントで驚いたことを書いたら返事をいただきなんでもあるサイトで紹介されたそうだそうです。
紹介してくださった方には非常に感謝しております。
また本当に多くの方の応援をいただき感謝しております。
当分は週一のペースでの更新となりますが、まだまだ続きますので応援してください。
ありがとうございました。