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26、妹、出来ました

俺達は王宮に入ってしばらく進むと、アルベルト王子が歩いてきた。

ハル君は俺を盾にし後ろに隠れる。


「フンッ、お前がデュラハンを倒した者か、デュラハン何て僕がやろうと思えば余裕だけどな!」


あれってデュラハンの本体じゃないからな…倒したとは言い切れないけど、訂正するのが面倒だしいいか。


「む?お前はたしか…」


アルベルト王子はジルの顔を見て「うーむ」と唸る。

やべ、ジルの事知ってるのか…そりゃそうだよな、元はここに居た訳だし…


「誰だったか、まぁ忘れるぐらいだしどうでもいいか…」


あれー、ジルって影薄いのかな…一ヶ月前に出たって聞いたけど…

あ、なんかジルが悲しそうな顔をしてる。


「ん?後ろに居るのは誰だ?出てこい」


ハル君の事か。


「ひゃい!」


ハル君…そんなに驚かなくても大丈夫なのに…そのせいで嚙んでるし…高い声だから普通に可愛いと思ってしまった…


「えっと…何でしょう」


ハル君はモジモジ俺を盾に少し顔を覗かせながら聞く、恐怖心からか声が強張っている。やっぱりトラウマってのはあるんだな…


「……」


アルベルト王子が黙り込んでハル君(女体化)を見る。数秒の間じーっと見ているとアルベルト王子は口を開く。


「この子は誰が連れ込んだ」


アルベルト王子の問いに俺はあらかじめ二人に言っていた設定を言う。


「俺の妹だよ、名前はシロ」


とりあえず簡単に俺の妹という設定だ。

ジルの妹だと絶対にバレると思ったからだ。分かりにくいのでハル君の時はハル君と呼んでシロの時はシロと言っておこう。


「えと、シロです。よろしくお願いします…」

「シロさん、突然ですがこの後食事はいかがでしょう?」


うわっ!スゲー突然、コイツの下心しか見えない。

シロは…普通に怯えてるな。

まぁ、木刀で叩かれたぐらいだしそんぐらいの恐怖はあるだろう、女の子の体という事で力も落ちているだろうし抵抗出来るかも怪しいところだ。


「え…その、あの」


シロは俺の顔を見上げ助けを乞うような視線で見てくる。


「お言葉ですが王子様、予定は空いているのですか?」

「ふん!その程度お前に言われなくとも大丈「アルベルト王子!訓練のお時間です!」夫」


ちょうど兵士が駆け寄ってくる。予定有るじゃないか…


「訓練だと!?あとにしろ!」

「その言葉はこの一週間で十九回目です、今度はダメです」


うん、コイツ、サボり魔だ。ってか一週間で十九回って…


「じゃあ俺達もご一緒しましょうか?シロ、いいか?」


シロは頷く、するとアルベルト王子は顔を明るくした。

おそらく訓練を見てもらうのが嬉しいのだろう。いや、いいところを見せたいだけかな?


「先生!行きましょう!」

「え!?は、はい」


この様子だとアルベルト王子はシロに一目惚れしたようだが…

計画は順調ですな!ちなみに計画とはハル君の為の復讐の計画だ。この後も計画通りに進んでくれることを期待しよう―――


カキンッ!カン!カン!


「王子、今日は何故そんなにやる気があるのですか?」

「何を言っている!俺はいつもこうだろ!」


自分はやる気があってカッコいい所を見せたいのだろう。

しかし打ち込みが下手すぎて絶対に毎回練習してないだろ…とすぐに分かる。打ち合いながら会話している所様子を見学する。

先生は準備運動でいうと深呼吸ぐらいのものなので息を切らしていないがアルベルト王子は息を切らしながら平然を装っている。

お、打ち合いが終わったみたいだ。


「あ、すいませ~ん、俺王子と打ち合いしていいですか~?」

「ん?君は?」

「あ、クロって言います。先程アルベルト王子がデュラハンも余裕と言っていたので実力が見たくて…」


俺が言うと剣の先生は驚きながら王子を見る。この人もわかっているのだろう…この王子じゃ、Fランクの魔物にも勝てないという事を…


「王子!そんな事言ったのですか!?」

「えっと…あぁ!そうだよ!僕の実力見せてやるよ!」


シロをちらっと見てそういった所を見ると良いところを見せようと必死だと分かる…

俺は練習用の木の剣を受けとった。


「あーあ、あの顔はやる気だな…」


ジルも気付いたようだ、俺のやることに。

そう、俺はこうやって格好つけようとしている奴の鼻をへし折るのが大好きなんだ…大丈夫、シロの分は残しとくから…


「では…始め!!」

「うおおおおお!!」


アルベルト王子は普通に遅かったので避けた。


「ちょっとお手洗いに…」


シロが練習場を出るとアルベルト王子は動くのを止めた。剣をその辺に置いて、座り始めた。

すごい変わりようだ。


「王子?どうしました?」

「おいクロ」

「呼び捨てか?」

「シロちゃんに彼氏っているか?」


はい!その質問を待っていました!


「いるよ、ハルっていう奴」


俺がハルという名を告げるとアルベルト王子はすぐに思い出したようだ。

ジルは覚えてなくともハル君は覚えているということか、まぁ、覚えていなくては困る。

すると明らかに怒っているのが表情に出るアルベルト王子、やばい、すげぇ楽しい。


「そのハルって奴は何処にいるかわかるか」


アルベルト王子が怒っているようで泣きかけの声で聞いてくる。

そこにちょうどマジックアイテム【マジックプリセット】で、姿を戻したハル君がきた。マジックプリセットとは、魔法をコピーしてそれと全く同じ魔法を使うというものだ。今回はハル君を変えた魔法を反転させたものをコピーさせた。


ハル君の姿を見たアルベルト王子は何故かガチギレ。

そこから凄い事を言い出した。


「ハル!王宮を出たお前が何故いるかは今はどうでもいい!俺と決闘しろ!」


…それはシロを賭けてか?ってかさっき会ったばかりの女の子を欲しがるとかヤバいなコイツ。


「・・・は?」


ハル君は状況を理解出来ていない。まぁそうだよね

俺はハル君にアイコンタクトで「やれ」と合図を送る。

ハル君も理解したのか話に合わせる。俺があげた復讐のチャンスだぞ…


「えっと、何で僕と王子様が戦うのでしょう?」

「決まっているだろう!シロちゃんに頼まれたんだ!お前が彼氏なのは嫌だって!」


ヤバい、この王子とんでもなく危険な奴だよ…笑いそうになってしまった…

でもダメだ、笑うな。堪えろ…堪えろ…そんなジルが俺に近付いて、耳打ちしてきた。


「ヤバいぞ!さっきの稽古見てたけどあの王子Fランクの魔物にも勝てるかわからないぞ!」


ハル君は王宮に来る前に聞いたがCランク冒険者らしい。あと少しでBランクにもなれると噂されてるらしい。戦う前に勝敗は見えてるな…


「良いだろう、じゃあシロを賭けて戦おうじゃないか…」


ハル君空気読みすぎだろ!

ってかもし負けたらハル君がシロになって付き合う事になるのか?そんなことは有り得ないと思うけど―――



訓練用の木剣をハル君が取り出すとアルベルト王子は再び怒声を上げる。


「おい!何で二刀流なんだ!」


そう、ハル君二本の木剣を持っているのだ。


「じゃあ王子も二刀流でいいですよ」

「良いだろう、一瞬で倒してやる」


アルベルト王子も二刀流になるように木の剣をもう一本取る。

あ、それトラップだぞ。

ハル君は二刀流で長らく戦っているから使い方がもう熟練者だ。

だけどアルベルト王子は二刀流の戦い方なんて知らないはずだ…

それならまだ片手剣の方がやりやすいのに…


「それでは・・・始め!!」


審判は剣の先生。

アルベルト王子がやる気になったので喜んで引き受けてくれた。


「うおおおおお!!」


アルベルト王子が突進する。相変わらず遅い…


「おそっ!」


ハル君も驚いているようだ。

初めは出方を見ようとしていたが、これだけ遅いので意味もないだろう。

ハル君は二刀流で剣撃を流す。


そのあとに後ろから蹴り飛ばし、アルベルト王子は二回転ほどして地面とキスをした。


「あ、すいません大丈夫ですか?」


ハル君半笑い状態。


「おいクロ!ヤバいぞ!王子が半ケツ状態に!」


アルベルト王子は二回転の時に半ケツ状態になっていたようだ。

どうしよう、王子にこんな事していいのかな?と思い、剣の先生をみると「たまにはこれぐらいは必要ですな」と感心していた。おい先生。

アルベルト王子にやり過ぎたか心配していると半ケツ状態で起き上がりとんでもない事を言ってきたのだ。


「三回勝負だったよな?」


なんと!アルベルト王子がルール変更しようとした!


―――三回勝負後―――


「…本当は十回勝負だったんだよ知ってた?」


―――十回勝負後―――


「フーフー、五十回勝負で一回でも俺が勝てばそれでいいんだよなフーフー」


王子が半泣き、半ケツ状態で顔の血管が浮き出るほどのガチギレで言ってきた。


―――五十回勝負後―――


「…百―――」

「いい加減にしろ」


ハル君が王子を転ばし顔を踏み付け殺気を放った。


「お前!誰の顔に足をおいている!」

「誰って…自分の悪い噂を流した半ケツ王子ですが?」


ハル君は踏む力を強くして、アルベルト王子の顔が地面に食い込む。


「お、おい。そこまで!やめろ!」


剣術の先生も流石にヤバイと思ったのか止めに入るがハル君は木の剣で先生を突き、倒した。

溝を打ったので、しばらく起きれないはずだ。


「お前、僕が王宮を出てしばらくの間何をしてたか分かるか?王宮を出て、ギルド登録をしたが出来るのは地味な仕事ばかりで、毎日毎日空き時間に川に行ってザリガニを捕まえて焼いては食う、焼いては食うの繰り返しだ。」


そんな事があったのか…


「僕にとってご馳走は、稼いだ僅かな金で買った料理セットと油で揚げたカエルだよ…毎日が辛かった。ジル兄さんにもこんな事を話したら変に心配されるからね」


ジルを頼らなかった理由はそれか、でも一番はハル君の為に出て行ったジルへの罪悪感だろうな…


「安定していったのはつい最近だよ。今まで寝る場所が捨ててある段ボールだったのがやっと一日銅貨三枚のボロ宿だからね。あぁ、段ボールの時は雨が来るたび怯えてたなぁ!!」


ハル君はアルベルト王子を蹴った。再び一回転ほどすると仰向けになり顔から鼻血が出ているのがわかる。


「王子もカエル食べる?美味しかったよ?」

「ハ、ハルすまなかった…」


アルベルト王子が謝る…が。


「そうか・・・笑いながら俺出て行くのを見ていたお前が今更謝るのか・・・」


今更謝っても余計悪化するだけだろう。ハル君は足を離す。

そして腰から剣を抜き言い放つ、普段から使っている剣だろう…


「お前は死ぬか?それとも俺に誓うか?もう二度と僕に…」

「ち、誓う!だから…許してくれ!!」


アルベルト王子はハル君に土下座する。するとハル君は呟く。

その顔を憎しみに染まって…るのではなく、この上なく爽快感に満ち溢れている。


「消えろ…」

「へ?」

「俺の前から消えろって言っているんだ!!失せろ!この半ケツ王子が!」

「ひぃ!!」


半ケツ王子は半ケツ状態で逃げた。それ、一応王子なんだが…

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