19話 サラ(2)
「ねぇサラ爺さん。ここってどの辺なの?」
トキは金貨を弄りながらサラに尋ねる。
「レギレンス皇国…今は“竜”皇国だったか…」
「? 憩いの狩場からどれだけ離れてるの?」
「憩いの狩場とやらは分からんな…近くに街や国は有るか?」
「イスタンブルグっていう大きな街ならそこから1週間ほど馬車に乗れば行ける」
サラは頬を自身の爪でカリカリと掻きながら困ったふうな表情を見せる。
「イスタンブルグ? 聞いたことないぞ? 近くにある国や組織はリュグナ教国とノワデリュシナ大国とルメニア協商連合、後はコロッセウムじゃな…ほかのと言われるとリガント村やキュオ村といった小さい農村ばかりじゃ」
サラの言葉にトキは首を傾げる。
『この世界のことまだ全然知らないから知らない街や国の名前ばかり…さて、どうしたものか…』
トキが考え込んでいるとサラが何かを閃いたようにポンと前足を叩き合わせた。
「こういう時こそ使徒の出番じゃな! わからない時は使徒に聞くのが1番じゃ」
『Goog〇e先生みたいな扱いだな…でも“使徒”ってことは召喚魔法か何かかな? すごい興味ある』
「確かこの辺りにそれ用の水晶が…」
『おぉ! 道具を使っての召喚! 本格的だ』
トキが目を輝かせてるのを他所にサラは金貨の山を掻き分ける。
そこにトキの見た事のある魔法が虚空に現れる。細部は違えどそれは疑いようもなく空間魔法の《ゲート》であった。
トキはユネとセラが来ると思い身構えるがその予想は違う形で裏切られる
「サラ! 大変じゃ! ワシの畑が荒らされておったんじゃ!」
《ゲート》をくぐって出てきたのは白い着物を着た老人だった。
「ここ最近でこの扉開けたのは誰じゃ? どんな風貌じゃった? サラ、お主なら見ておるじゃろう? 見ておるはずじゃ!どんな奴じゃった?!」
早口で捲し立てる老人に対し、サラはチラッとトキを見る。
キョトンとした表情でトキはサラを見ている。
老人はサラの視線に気付き、トキを見る。
「何じゃ? この童は…。そもそも何故こんな所に幼い童が居る?」
「さっき言うたんじゃが、その童子が逆走してきたという者じゃ」
「この童が? あの紫玉双頭蛇と紫玉蛇が居る最奥から逆走してきた者? サラお主、冗談が上手くーー」
老人は笑い飛ばそうとした所でトキの腰に下げた物に目が行き、表情が固まる。
「お主の腰のソレ、銃か?」
「あ、ハイ…そうです。」
「見せてもらえんか?」
「『冒険者たる者、武器を自慢するなかれ』です」
「立派な心掛けじゃ…それじゃ、ワシは勝手に調べさせてもらおうかの。どれどれ…ほほぅほぅほぅ…口径は0.5インチ…通常より小さめじゃな。1回転、8発、最大装弾数は16発の変則回転式弾倉採用の拳銃。イタリアのマテバリボルバーをモチーフにした事で発砲時の反動による腕の跳ね上がりを抑えておるのか…。それでも反動はすごかろう…。材質は純ミスリル鉱が主か…。なにか仕込んでおるな…ふむふむ…部品各所に《軽量化》の魔方陣を仕込んで、軽くして取り回ししやすくしておるのじゃな! 威力よりも当てることを前提とした銃か中々面白い。これほど先進的な銃を持つなら逆走したというのも頷ける」
「?!」
トキは老人の鑑定結果に驚きの表情を見せる。
『この老人、瞬時に物体の鑑定を…しかもここまでの精度…いや特筆すべきはそこじゃない!! 地球産の銃、「マテバリボルバー」をモチーフにしたのに当てた?! この老人、何者だ?!』
「何じゃその驚きよう…詳細なことまで見抜かれたことに対して驚いておるのか? なぁに《鑑定遮断》や《鑑定偽装》のかかっていないマジックアイテムの鑑定など造作もないことじゃーー」
「爺さん…あんた何者だ? 地球のマテバリボルバーを知ってるってことは地球からの転移者あるいは転生者と見た。」
トキは後退りながらいつでも抜けるように腰の銃のグリップに触れておく。
老人は目を細めながらトキを見て言う。
「なるほど…お主、転生者か…ならば納得じゃ。すぐに銃を抜かないのも正解じゃ…お主ではワシに傷1つ付けられん。いくら銃の性能が良くても…な。自己紹介がまだじゃったな。ワシはアルb…いやフルネームは不味いな。アルと呼んどくれ。ここで隠居するチート老人と思ってくれれば良い。」
「私は神楽 朱鷺。この世界ではトキ=ヴェルカルトの名を貰ってる」
「ならトキと呼ぶかの。では尋ねるがワシの畑を荒らしたことに心当たりは?」
「身に覚えがないけどどんな作物か分かれば…」
老人はフサフサの白い髭を一撫でし、答えた。
「まず植物ではない。地球で言う冬虫夏草のようなものじゃな。引っこ抜けば2本の足で立って歩く。」
「歩く夢きのこみたいな?」
「歩く夢きのこよりもすごく可愛いと言えるぞ。引っこ抜いた際の身長はお主の腰くらいかそれより頭1つ分おおきいのじゃ。」
「………結構小さいですね…」
「細くて長い尻尾があり、頭に三角耳があるんじゃ」
「……………猫みたいな特徴ですね?」
「毛の色は赤、青、黄色、紫、緑そして白の6種類じゃ」
「……………………………………………………結構なカラバリですね?」
いつの間にかトキはの表情は青く、冷や汗をタラタラと流していた。
「各々がその色にあった属性の魔法を使うのじゃ」
「…………………………………………………………………………もしかしてあそこで覗いてる風な顔でした?」
トキの指さした方向には側溝から顔を出している色とりどりの毛色のユネみん達がいた。
老人は指さした方を見ると一瞬遅れてユネみん達が側溝に隠れる。
「間違いなくアレじゃな…。」
「畑と知らず引っこ抜きすみません…」
「まぁ良い。畑と言うには全く手を加えてなかったからのぅ…で、あれら全部わしの畑からか?」
「……………………………………はい」
「何匹か分かるか?」
「50と1匹です…」
「増えたのぅ…」
アルは再びあごひげに手櫛を入れていった。
そこにトキは疑問を抱いた
「元は幾らだったんです?」
トキの問いになんの気無しにアルは即答する。
「1匹じゃよ」
「え?」
あまりにも意外な答えにトキは思わず呆然とするのだった…。
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