9話 御披露目
静かに雪が積もりつつある山猪の月の中頃…
ユネとセラに怒られてからというもの、トキの練習も静かになっていた。
また原因は外での訓練は積雪によって困難を極めていたためでもある。そして室内で出来ることといえば、「武器の製作」、「魔法のレパートリー増加」、「筋トレ」くらいで、生活のリズムも大分落ち着いたものである。
この日トキは武器の製作に励んでいた。
「出〜来た♪」
トキはようやく完成したものを掲げる。
「ようやく出来たんですね?おめでとうございます。」
「でもご主人様?その武器、こちらとは大分違うようですが…」
ユネのもつ本来の武器を模した物を指して言うとトキは頭を振る。
「本来はその武器と同じようにするつもりだったんだけど、よくよく考えたら強度に問題がありそうだったんだ。それに細かい部品の数が多すぎて…今のわたしには手が負えないことがわかったの。連射性と装填性はピカイチだったんだけど…」
そう言って中央の留め具を指で外した。すると上下2段にある2つのシリンダーが回転して上下が入れ替わる。
「連射性ってことは魔術を使うのですか?」
鋼鉄の塊がスムーズに動く様をセラは不思議そうに見ながら尋ねる。
「魔術って言えば魔術だけど…どちらかと言うと弓に近いかな…にしても魔術…か…それもいいなぁ…もう少し魔術のレパートリー増えたら撃てるようにするか…」
トキはにこやかに手をポンと打って言う。
「いったいなんですかソレ?」
「8連装回転式弾倉採用型2段拳銃って行ったところかな?」
「はちれ…なんですそれ?」
ポンポンと長さ30cmオーバーの大きな鋼鉄の塊を叩きながら満足そうに言うとユネは復唱しようとしたユネは途中でわからなくなりトキに尋ねる
「まぁ簡単に言うとリボルバーってやつさ」
「りぼるばぁ?いないいないばぁの亜種ですか?」
「「…」」
「なぜその発想に至る?」と言いたそうな表情でユネを見つめるトキとセラ。
「主様…」
「ん?」
「姉さんで試してみたらよいのでは?」
「ちょ、武器の試しを私にするなんて正気?!」
「そうだよセラ、いくらユネと言えどわたしの大切な従者だよ?」
セラの言葉にユネは慌てふためく。
「ご主人様、『大切な従者』と言っていただけたのは嬉しいのですが…おバカ…と言われたのはちょっと…」
「でも事実だし…」
トキの言葉を聞いた瞬間ユネは頭にスパーンとフライパンでぶっ叩かれたような衝撃を受ける。
「そ、そんな…私は精一杯従者してるのに…」
「夜中にわたしの服を脱がして代替食をつまむ上に、苦手な野菜をわたしの皿にこっそり乗せたりするのが従者のやることなのかな?」
「かはっ」
ユネの反論を倍にして返したところでユネは部屋の隅で体育座りをして床にのの字を書き始める
「主様さすがです…」
セラは満足そうに頷く。
「ユネ、そんなところでいじけてないでこれのホルダーを作ってよ。前からの約束だったでしょ?」
「…はい…」
力無く返事をして思い腰をあげ、空間魔法らしき魔方陣から皮を取り出し、しずしずと裁断を始めた。ぺたんと寝かせた耳と垂れ下がった尻尾、服を作る速度を見てトキは大きなため息ひとつ吐いてついたての裏に姿を消す。しばらくしゅるしゅると衣擦れの音が聞こえたのち出てきたトキの姿は先程とは全く変わっていなかった。
「ゆ〜ね♪」
トキはユネに抱きつく。
「裁縫中なんですから危ないですよ?」
ユネはぶっきらぼうに口をすぼめながら言うがトキは抱きついたまま離れない。
「寝てる最中につまみ食いするのはダメだげどね、言ってくれればシてあげるよ」
そう言って腰に回す手を強める。ユネは裁縫中の手を止めて驚愕する。
「…その柔らかさ…まさか上は…」
「ちょっと先が擦れて痛いけど、想像通りだよ?ちなみに…し・た・も」
ユネの髪に顔を埋めているトキの表情はユネには分からぬが、耳まで真っ赤になっている。
「誘ってるんですか?後で『やっぱりダメ』なんて言ったら泣きますからね?泣いて従者やめますからね?」
ユネの執拗な念押しにトキは胸を張って言った。
「女に二言はない!」
「本来は『男』です。主様」
セラはため息混じりにトキの言葉を訂正する。
◇◆◇10分後◇◆◇
魔術による焼き印を入れた意匠を凝らした見事なホルダーが完成し、その報酬を1時間以上に渡って支払うことになるのだが、支払った本人いわく
「最初の数分から先は覚えていない…後はもう頭が『気持ちいい』で言い表せないくらいの気持ちいいで頭が真っ白に…」
と言って真っ赤になって俯くのだった。
また例に漏れずその時の映像結晶をユネは撮影していたらしいが、セラが容赦無く握り潰したとかどうとか…。
◇◆◇
「お、姫ちゃん!その太もものやつが姫ちゃんの武器なんだな?おっちゃんに見せてくれよ」
麦酒のジョッキを片手にトキを呼ぶ。トキも見せにいこうとすると武骨な手が肩に置かれ、トキを引き留めた。
「姫ちゃん、あいつに構うなよ?酒のんで暗黙の了解を忘れてるんだ。飲んでも呑まれるなってのに…。おいヨハンス!酒の呑みすぎだ」
「暗黙の了解?」
トキは振り返って老練の冒険者に尋ねる。
「『冒険者足る者相棒を自慢するなかれ』と『冒険者足る者相棒をせがむなかれ』さ」
「カルトン爺さん堅いこと言いっこなしだぜ?そんなんだから独身なんだろ」
ヨハンスの声に老練の冒険者カルトンはヨハンスを睨み付ける。
「最近の若ぇ奴は言葉がなってねぇな。ちとお灸を据えてやるか?あ゛ぁ゛?」
「え、ちょ、」
「爺さんは隠居してりゃいいんだよ!」
喧嘩腰になり始める2人に挟まれたトキは右往左往し始める。
「隠居より逝った方が良いな。ほら抜けよ老害。はっそんなボロボロの剣でいいのかよ?」
ヨハンスはカルトンは背中の大剣を抜かず腰の剣を抜くのを見て嘲笑う
「酒でフラフラの奴に相棒は使わん」
「それで負けて吠えるなよ」
ヨハンスは腰のきらびやかな長剣を抜く。
「え、ここではちょ…」
「「いざ!」」
2人が剣を構え、突撃を開始しようとした矢先、2回の破裂音と共に2人の剣は後方に弾き飛ばされた。
何が起きたのかと思って、音の発生源であるトキを見るとトキの両手にはそれぞれの武器が握られ、その先端から紫煙が揺らめいていた。
「もう!こんなところで剣振り回すなんてどうかしてるでしょ!やるからには外でやんないとお店の迷惑!」
「「…スミマセン」」
すごい剣幕で怒るトキに2人はすごすごと外に出る。
直後酒場は大歓声に包まれる
その一方ファリスとハーベナーは両手に魔方陣を出したまま、セラは3階の部屋を出た目の前の手すりに身を乗り出したまま硬直していた。
「セラ…見えた?」
「少しだけ…姉さんは?」
セラの問いにユネは首を振る。
「魔力の流れ的に普通流れかたをしていない。あれは魔術…じゃない」
魔術を斬るのは容易いと思うセラが目を丸くして言う。
「弓矢の類いにしては挙動が少なく速すぎる」
矢を目で避けるくらいは従者のたしなみだと思っていたユネは息を飲む。
従者2人は声を揃えていった。
「「あれはいったい何?」」
見たことの無い武器にユネとセラは戸惑いを隠せないでいた。
◆◇◆
「ねぇユネ、セラ!見て見て!ステータスプレートの職業欄、ランクアップしてたよ」
「「え…」」
あの後何事もなくユネとセラは酒場に降りていくとトキが満面の笑顔で駆け寄ってきた。
2人はトキの言う通りステータスプレートを確認する。
ステータスに変わりはなかったが職業欄には『新人冒険者見習い』ではなく、『銃使い』の文字があった。
『見たことの無い職業…。しかもこんな短時間で自力取得なんて…』
『それに見たことの無い魔道具…』
2人はお互いの顔を見合わせる。
『やはり私達の主は私達同様異常だ…』
2人の従者は楽しそうに笑う主を見て自分達の異常さを再認識した。
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