30話 毒蜂の帝(4)
『他の土地の王級ヴェノムホネットの毒を得るだと?』
「えぇ、それなら問題ないでしょう?」
『お主も妹同様阿呆か?』
「あなた、だいぶ調子ノッてきたわね? どういうことよ?」
『なぜ生きた王級ヴェノムホネットの毒が必要であるかを考えないか?』
「死ぬことで毒の成分が変わるからでしょう?」
「他の毒を持った魔獣や魔蟲にも似たような奴がいるからそれくらいわかる。」
『ならなんでさっきお主、殺して素材にしようとしてたのやら…。まぁいい我らはこの土地で育ち、この土地の物を糧とし、この土地の空気を吸い、この土地の水を啜ってきた。故に我らの毒性は少しばかり変質している』
ユネとセラには覚えがあった。
確かにこの地は巨大な山を割ってできた台地で、もともと迷宮のあった場所。他の土地と比べると遥かに魔力の濃度が高い。
「…(しかもこの場所、ちょうど点在する龍脈の魔力溜まりの1つが真下にあるんだよねぇ…)」
ユネはセラが山を割った事後処理の調査をした際に地図に書き込んだのを思い出していた。
「…(実際来てみるまですっかり忘れてたけど、この魔力の濃度…これじゃあセラにかけた《幻魔》は無駄だったわね。むしろ自体を悪化させたか…)」
ユネは首をコキコキと鳴らし、告げる。
「女王蜂、兵を下げなさい。ご主人様の運搬はセラに任せる。こうなった以上あなた達の手に負えないでしょう? セラ、残り魔力と体力は?」
「消費魔力は最小に控えてるから問題ない。それに足りなくなったらこの森の魔力を闇魔法で吸収するから戦闘にも参加できる。」
ユネは冷めた目でセラを見つめ、ため息を1つこぼす。
「分からなかったようだからもう一度いうね。『ご主人様の運搬』任せた。」
「姉さん1人で戦闘楽しむ気?」
「そんなわけ無いでしょう? ご主人様にはこれ以上動かれては困るの。できることなら私が運搬に回ってご主人様をペロペロしたいけど、今回ばかりはあれの生け捕りとなる。そうなるとあなたでは殺してしまいかねない。」
「手加減はできる」
「無傷で? あれの毒は多分私達すら貫通するわよ?」
「何を根拠に?」
セラの問いにユネは淡々と答える。
「私がご主人様用に組んだ防御術式全部貫通してる。おそらくメインスキル《比例毒》か上位互換の《比例瘴気》、サブスキル《貫通毒》、《瘴気貫通》を持ってると思う。両方持ってたら詰みだし、後者だったら無傷では済まないし、前者でも近接戦闘職にはかなり分が悪いわよ…」
《比例毒》、《比例瘴気》は対象の毒に対する耐性が高ければ高いほど毒の威力を上昇させるスキルで後者の《比例瘴気》は大気中に撒かれた毒にもその効果を発揮する。しかも2つある場合は効果は乗算されるため危険極まりない。
《貫通毒》と《貫通瘴気》は《毒無効》などの無効系の効果に対し、必ず1以上の効果ダメージを発揮する。
そして毒の中には1でも受けた瞬間即死が確率で発動するものがある。
そのためこの2種類は《アンチ毒無効》スキルとしてベテランの冒険者たちの間で忌避されるスキル群である。
なおこの2種類の系譜はどちらか持っていることはよくあるが、両方を持ったものはまれである。
そして両方持っている場合、指定魔獣の中でも最悪の2つ下重要災害指定魔獣とされ冒険者ランクS〜SSが討伐に参加が義務付けられている。
「…(これは私達の起こした人災…なら私たちが片付けるのが筋)」
超がつくほど巨大なヴェノムホネットは、自身の体に起きた変化を確かめているのか、体の各部をキチキチと動かしていた。
そして標的であるトキを見つけると雄叫びを上げ、体の関節から紫色の粒子を噴出し始めた。
紫色の粒子は地面の雑草と巣に使われた木に触れた直後黒く炭化した。
「…(瘴気を確認。瘴気の種別は水分を奪う系の毒。しかもかなり強力…)」
ユネは胸元から短杖を取りだし、術式構築を始めた。
「…(理性は…無さそうね…。こういった手合はあまり好きじゃないけどまぁ好き嫌いは言ってられないわね)」
噴き出した瘴気は広がりを見せる前に導かれるようにユネの手元へと収束されていく。
「…(風魔法の調節で瘴気の無力化…次は…)」
巨大なヴェノムホネットは羽を震わせる。
「…この術式の乗っ取りを試みるわよね…まぁさせないけど」
一瞬濃縮される瘴気の球が乱れたがすぐさま球体へと戻る。
「瘴気がダメなら…まぁ物理的に殺しにかかるわよね?」
トキにセラが合流したと同時にヴェノムホネットは2人に向かって突撃する。
しかしヴェノムホネットはまるで空気に阻まれたかのように何かにぶつかり虚空に亀裂が入る。
「一撃で亀裂? そんなに柔く作った覚えはないんだけど…まぁ貼り直すから問題ないんだけど…」
巨大なヴェノムホネットは亀裂の入った透明な壁を顎を使って砕く。
再度、透明な壁に触れるとヴェノムホネットは鉤爪を立てて砕いた。
「…めんどくさ…」
ユネはこめかみに青筋を浮かべながら短杖を振るう。
するとヴェノムホネットの体は地面に落ちる。
「重力魔法、コスパが悪いからあんまり使いたくないんだけど、あんたが悪いんだからね?」
ユネはさらに短杖を振るい、違う魔法陣を空中に描き出す。
すると今度はヴェノムホネットの周辺の土が盛り上がり、両手両足を包み込む。
魔術の固定化を確認したところで重力魔法を切ってため息を吐く。
「捕縛完了。ざっとこんなもんね。あとは…」
――ビキビキ…バリバリバリ
「…」
ユネは土の枷を平然と砕いたヴェノムホネットを見て口元をヒクヒクと歪ませた。
『言うたであろう? あれはヴェノムホネットの最上位の上に存在するヴェノムホネット。ロンリーカイザーヴェノムホネット。孤独なる毒蜂の帝よ。進化前の部下の数が能力に直結する』
「最後のは聞いてない」
『そんなことよりお主、タゲ移ったぞ。余程煩わしいと感じたらしい。我は巻き込まれとうないから離脱するが問題ないな?』
「別に構わないわ」
『じゃあ我らは失礼するぞ』
そう言ってブラストビーの女王は臣下を伴ってユネから離れていった。
「…(ご主人様との距離は…っとさすがセラ。もうこの森の縁か…ならこれを使っても良さそうね)」
ユネは《魔力感知》を用いてざっくり2人の位置を把握すると短杖をしまい右手を掲げる。
掲げた右手の先に魔法陣が展開され、魔法陣から長杖がゆっくり顕現する。
木の質感は年代を感じさせ、先端の宝珠は持ち手と違い、よく磨かれているのか輝きを放ち、神々しくさえ思わせる。
ユネはその長杖に触れると軽く握りしめた。
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