8話 《成長加速》
従者の名前が決まった昨夜は冒険者たちが気前よく大宴会を開いていた。
そのため翌朝は珍しく静かだった…。
私は最近始めた日課の筋トレを開始した。
昨日の歩行訓練の甲斐もあり前日より少し早めに5セット+2セットを終える。
『運動後にシャワー浴びられれば良いんだけど…』
そんなことを考えながらお手つきスクワットの体勢から手を離す。
『あ、いけない…』
後ろに2、3歩よろめいたことに気が付き、慌てて重心を前に倒す。
重心が元に戻った。壁に手を付かず…
『…え、立ってるの?コレ…生まれたてでしょ?歩行訓練始めてまだ1週間経ってないよ?成長速度のインフレおかしくないですか?ガブリエルさん説明してくださいよ!』
頭の中でぐるぐる思考が回転する。
そして何周か回った所で冷静になった。
『立てたんなら歩けるはず…さっき重心移動でよろめきが直ったんだから!』
そう考え、ヨロヨロと方向転換をする。
『そう!この感じ!もう少し行けるか?』
最初の位置から5歩、そして10歩歩いたところで後ろにぺたんと座り込む。
座り込む際奇妙な感触を味わった。
『今エアクッションやバランスボールをお尻で潰したかのような…』
ハイハイの要領で4本立ちになって潰した地面を確認する。
『何もない…』
赤ん坊は何の気なしに顔を上げた。顔上げた先には手をかざし、目をキラキラさせるユネと信じられない物を見たという表情のセラがベットで身を起こした状態で居た。
遠くで鐘の音がなる。この世界は6回×4回で区切ってるらしく、1~6回までが終わったら違う音の鐘が1~6回鳴る。早朝を示す「こぉ~ん」って音が6回。大体6時くらいかな?鐘がなり終えると私の身体が白く輝き始めた。
――経験点が経験観測点を大きく超過しています。これより修正を行います。
EXスキル《成長加速》を取得しますか?→Yes/はい
『肯定しかないじゃないか…。』
――EXスキル《成長加速》による肉体の急激な成長が見込まれます装備品の解除を推奨します。
『服脱がないとあかんやつだこれ』
――EXスキル《成長加速》発動まで3・2・1…。
『ちょまカウントはや…』
――0
身体の中からビキビキと骨が軋む音が響く。あまりの出来事に頭痛まで覚える。服が徐々に小さくなっていくような錯覚に陥る。
――ビリビリビリィ
あ、破れた。
徐々に光とともに頭痛が薄まっていく。視界がひらけて来た。先程までとは打って変わるほどではないが少しだけ…。そうホント少しだけ視線が高くなった。それに加えて視界に赤銅色の前髪が入る。髪まで伸びるのか…。
――経験点が次の経験観測点より低い状態になりました。EXスキル《成長加速》の使用を中止します。
――EXスキル《成長加速》が消失しました。
――サブスキル《言語解読》の熟練度がマックスになったので昇華します。
――サブスキル《言語解読》が《言語習得;アルベーン語》と《言語習得;地球語》に昇華しました
そして気がつけば思考がクリアになっていた。何をどう言えばいいかわかる。
多分赤ちゃん語ではないって予想できるだからまずはこう言おう。
前の人生では到底自分の声とは思えない幼くきれいなソプラノボイスで口を半開きにする2人に向けて声をかけた。
「ユネ、セラ、おはよう」
◇◆◇時間はすこし遡る◇◆◇
「…きて。…ぇさん」
誰かが私の揺らして声をかける。もう少し寝かせて…。
「…主様が立ってる」
寝てる場合じゃねぇ!
「起きたよ!ご主人様は?」
ゆっくり身を起こし、我が妹セラに尋ねる。
「あそこで筋トレ中。今7セット目だけどもうすぐ白の5刻半になる」
昨日より早いペースです。昨日練習したかいというものがあります。それより大事な情報がない。
「立った?」
セラは首を振る。おのれ謀ったなセラめ…。
喧嘩か?殴り合いをご所望なのかな?なるほどよし受けて立つ。…肉弾戦で勝てるビジョンが見えないどうしよう。
「終わったみたい」
あとはご主人様が布団に入ってくるのを待つだけ…。
「あ、壁から手を離した」
セラの声にあわてて布団をはねのけて飛び出そうと身を起こしたところで私の目に入ったのは倒れそうになった所を後ろに数歩歩いて重心を持ち直そうとしていたご主人様でした。
思わず目を丸くしてそのまま様子を見守る。さすがご主人様。
その場で立っているだけだと思ったのに更に数歩歩いて方向転換してよたよたとおぼつかない足取りで歩き始めた。さすがは私の…いえ私達のご主人様。本来できないはずのことを平然とやってのける。
いくらか歩いたところで立ち止まった。そろそろかな?
「風よ…彼の者の下に柔らかき祝福を…《空気風船》」
案の定ご主人様はその場でぺたんと座り込みました。今回は私が展開した《空気風船》に座り込むような形でぺたんと座りました。ああやって何度もぺたんと座っていたらせっかくの可愛いおしりがあざだらけになってしまいます。
《空気風船》は無詠唱で発動は可能ですが、詠唱することで魔力の節約にもなる上に熟練度が上がり易く、熟練度が上がればもっと上位の《空気風船》を使えるようになる。そうなれば御主人様が大きくなった際、遊び相手として優遇されるはず。
――こぉ~んこぉ~んこぉ~んこぉ~んこぉ~んこぉ~ん
白の鐘が6回なりました。さて少し早いですがご主人様連れてご飯に…。あれ?ご主人様が光って見えr…
一体何が起きてるのですか!?眩しくって目を開けてられない。
なんかビキビキっていう音と何かが破れる音がした。まさか魔物!?一体どこから!!ご主人様!
気がつけばボロ布をまとった女の子がぺたんと座ってました。
私はおもわずセラの頬をつねります。同時にセラも私の頬をつねります。どうやら夢ではないようです。すごい痛い…。
赤金色の髪、深みのある緑色の瞳。目の前に座ってるこの幼女が先程のご主人様だってことはひと目でわかりました。ならなぜ頬をつねりあったって?これが夢かどうかの確認です。
「ユネ、セラ。おはよう」
とてもかわいい声で挨拶してきたご主人様。やっと交わせる言葉に私はどう返せば良いのかわからなくなってしまいました。
とにかくとても抱きしめたい!というわけでい・た・だ・き・ま~(がしぃ)。
誰かが私の首根っこを掴んだ。
「姉さん?」
どうやらご主人様に飛びかかろうとしていたのがバレたみたいです。
「はい…」
「おはようございます主様。」
妹の眼は語っていた。「飛びかかる前に言うべきことがあるでしょうに」と。
その目を察した私はご主人様を見て元気いっぱいに言った。
「おはようございます♪ご主人様♪」
ユネ「ユネと!」
セラ「セラの…」
2人「「人生補填につきチートで転生!相談室!」」
セラ「…結局続いてるよ…(呆れ)」
ユネ「まぁそう言わないの♪この前の服の下なんかアベシッ(錐揉みしながら宙を舞う)」
セラ「調子に乗るな」
ユネ「グゥ…妹は最近バイオレンス…そんな子に育てた覚えはありません!」
セラ「姉さんが自堕落すぎるからこんな性格になったんです。」
ユネ「返す言葉がない」
セラ「ところでこの箱何?質問BOX?ほぼ空なんだけど…」
ユネ「うん。質問BOX…でもなかなかないんだよねぇ…くだらない質問待ってたんだけど例えばセラのスリーサイズとか…」
セラ「そんなもの聞いて何になる…」
ユネ「結構需要あるよ?一部の人に…」
セラ「…最後のは余計…(抜刀」
ユネ「ちょ、ま。沸点低すぎない?!アベシ(錐揉み回転)」
セラ「はぁ…こんな姉の戯れに付き合ってくれる人募集中です…。ってなんで私が宣伝しなきゃいけないのやら…」
ユネ「次回も質問BOXに何も入ってなかったら<EXスキル>について説明するよ!」
セラ「どこから湧いて出た…」
※あとがきとしてのネタがつきてたから相談室を始めたなんてとてもじゃないが言えない…。




