糖欲同盟、里を往く
華「大変よ!」
『え、華扇ちゃんどうしたの?』
華「里のパン屋が今日ドーナツを売るって」
『おー、いいじゃん』
華「『いょぇ~いいじゃんあひあひうひょほ』じゃないわよ」
『誇張しすぎた俺じゃん。というかパン屋あったんだ』
華「行くわよ早く」
『えっ、全然いいけどなんで俺に?』
華「ひとりでたくさん食べたら恥ずかしいでしょう」
『あー、そうなんだ』
華「早く。ズボンなんて後で履けばいいから」
『パンイチでいいかパン屋だけに。ってズボン履いてるからね』
華「支度できたなら出発しましょう」
『あ、スイーツ好きそうな人誘ってもいい?』
華「え、そうね。貴方と二人なんて気まずいし」
『誘っといて何なんすか』
………
『というわけで、饕餮さんです』
華「えっ」
饕「あ?」
華「ええと……」
『どうかしました?』
華「いえ」
饕「お前……」
『あ、知り合いでした?』
華「うーん」
饕「おい、この男はお前の仲間か?」
華「仲間ではないけど、知人かしら」
饕「私に馴れ馴れしくするなと言い聞かせろ」
華「何したの貴方」
『え、いや、馴れ馴れしくしてませんよ』
饕「何度も旧血の池地獄に来やがって」
華「ほんっとに何してんの。呪われた場所だから行っては駄目よ」
『饕餮さんと仲良くなりたいなと』
華「貴方カトラリー系の妖怪が好きなの?」
『あー、フォークのぬえとスプーンの饕餮さんね』
饕「カトラリーの妖怪じゃねぇぞ~」
『まあまあ、華扇ちゃんも悪気はないので』
饕「お前に怒ってんだよ!」
『お慕いしているだけなのに』
饕「こともあろうに、人間の里で一緒にドーナツ食べませんかだぁ?」
『はい』
饕「行くと思ってんのか!」
華「……地上来てるじゃん」
饕「今回だけだ。ほら行くぞ」
華「待ちなさい」
饕「あ?」
『華扇ちゃんどうしたの?』
華「こんなあからさまな妖怪、里に入れないでしょ」
『確かにスプーンがデカすぎるかも』
華「そこじゃなくて。いや、それもだけど」
饕「この角か」
『あーっ、角ね』
華「あとピエロみたいな服」
饕「ピエ……」
『服は大丈夫だと思う。華扇ちゃんが大丈夫なんだし』
華「まずデカいスプーンは」
『デカいしゃもじに替えよう』
華「別の企画だと思われるでしょ!」
饕「いや、置いていけばいいだろ」
華「そうね、この家に置いていきましょう」
饕「角はどうする」
『うーん、華扇ちゃん、角ってどうやって隠せばいいと思う?』
華「んぅ〜? さぁぁ~? 生まれてこの方考えたこともないわね」
『そうだよねぇ』
華「バランスボールにでも頭突っ込んだらいいんじゃない」
『ブリオンじゃん。里入れなくない?』
華「無理ね」
『サイズ的に、覆うと不自然だよね』
華「すごいアフロとかは?」
饕「お前さっきから真面目に考えてないだろ」
『ファッションでカモフラージュするか』
饕「ファッションだぁ?」
『ちょっとだけ待っててください!』
饕「おい!」
華「ちょっと!」
………
『はぁ……はぁ……ただいま……』
華「どこ行ってたの?」
『香霖堂。ありましたよ帽子』
華「ハンチング帽?」
饕「角が隠れないだろ」
『まあまあ、かぶったらわかりますよ』
饕「あ?」
華「えーと、かぶってもわからないけど」
『めっちゃ似合ってるじゃないですか』
饕「は?」
華「貴方の趣味ってこと?」
『いや、それは理由の八割に過ぎなくて、帽子に角がついてるようにも見えるでしょ?』
華「うーん、そういう言い訳は立つかも」
饕「これで里に入れたらヤバいだろ」
『わかった。さらに俺もテーマパークのカチューシャをしていこう』
饕「何の意味がある」
『三人とも頭に装飾があれば、おしゃれトリオに見えますよね』
華「浮かれポンチと化け物と仙人でしょ」
『俺そんなに仙人っぽい?』
華「貴方は浮かれポンチです」
饕「いつになったら食えるんだ……」
『ですね、行きましょう。ドーナツ食べるだけだし、仙人もついてるし』
華「まあ、そうね。霊夢に会うこともないでしょうし」
饕「やっとか」
『では、甘味美食倶楽部、糖欲同盟しゅっぱーつ!』
華「え?」
饕「は?」
………
『華扇ちゃん、気づいてる?』
華「ええ、もちろん」
饕「おい、めちゃくちゃ見られてるぞ」
『さすがにカモフラージュ厳しかったかぁ』
華「パン屋まで距離があるから気づかぬふりも難しいわね」
饕「引き返すか?」
『華扇ちゃんが見られてる可能性とかはないの?』
華「ないと思うけど。はぁ、聞いてみるわね」
すたすた
『うーん、浅はかだったか』
饕「おい」
『はい』
饕「揚げたてがよかったが、私が入れなかったらお前が買ってこい」
『兄貴……』
饕「兄貴ではねぇよ」
すたすた
華「見られてる理由がわかりました」
饕「言ってみろ」
華「浮かれた男がいると」
『俺かよ!』
華「外しなさい、そのカチューシャ」
『せっかくおしゃれトリオだったのに』
華「単独不審者でしょ」
饕「これでしばらく様子を見るか」
『どう、変わった?』
華「視線が減った気がする」
饕「……人間はもっと妖怪や妖獣について学べ」
『う、耳の痛むお言葉』
饕「お、もしかしてあの列か」
華「そう、並んでるわね」
『おお、人気なんだ』
華「そうよね、幻想郷では珍しいし」
『並ぼう並ぼう。売り切れなきゃいいけど』
華「こんなに集まるなんて。もっと早く来ればよかった」
饕「腹が減る匂いだ」
華「うー、パンも美味しそうね」
『ほんとだー』
華「ドーナツ七千個は食べたいわね」
饕「買い占めてやるか」
『あ、お一人様ふたつまでだって』
華「………………」
饕「………………」
『えっ、泣いてる?』
華「いえ、そうよね、他の者も食べたいわけだし……」
饕「ふたつか……」
『まあまあ。美味しかったらまた来ましょうよ』
華「そうね。六個食べれるだけでもよしとしないと」
『俺らから取り上げる計算してる?』
饕「絶対やらんぞ」
華「私は勝利モーションでも使うから必要なの」
『全体が穴のドーナツにしなよ』
華「霞でしょそれ」
饕「お、順番が来たぞ」
………
華「無事買えたわね」
『売り切れるか心配だったけどよかったね』
饕「よしよし、じゃあ食うか」
華「いただきます」
『いただきまーす』
饕「んぐ」
華「おいしい!」
『おいしい!』
饕「うまい!」
華「サクッ」
『サクサク』
饕「しっとり」
華「サクッ?」
『サクッ!』
饕「しっとり?」
華「しりとり?」
『しっとり!』
饕「砂糖!」
華「バター!」
『小麦!』
饕「もうない……」
華「足りない」
『しょんぼり』
饕「がっかり」
華「もう少し甘味を食べ歩きましょうか」
『えっ、そんなにしゃべっていいの?』
華「え、原始人みたいなしゃべり縛りなの?」
饕「おい、口ばかり動かしてないで口を動かすぞ。甘味だ」
華「そうね。そこに菓子屋があるから」
『わーい』
饕「ほう」
華「何にしようかしら」
『迷うよね』
饕「何があるんだ」
華「いろいろ置いてるわよ」
『俺ね、もなか』
華「もなか……」
『もなか』
華「もなか」
饕「何だよ」
華「もなかだ」
『ね』
華「わかる」
饕「もなかがうまいのか?」
華「もなかだ今日は。参った」
饕「何に参ってんだよ」
『選んだ?』
華「ええ」
饕「じゃあ、もなかにしてみるか」
華「あっ、チーズケーキもある」
『え、ホントだ。しかも半額』
華「試作品かしら」
『じゃあみんなもなかとチーズケーキね』
華「そうね」
饕「ここのもなか食べたことあるのか?」
華「いえ、もなかは初めてね」
饕「そうなのか」
『買いました』
華「では、いただきましょうか」
饕「おう」
『いただきまーす』
華「うん、おいしいわね」
饕「パリパリだ」
『おいしーい』
華「羊羹は食べたことあったんだけどもなかもなかなかなのね」
饕「読みづら」
『洋菓子もいいけど、和菓子もおいしいね』
華「そうね」
『饕餮さんはもなかどうでしたか?』
饕「うまい」
『よかったー』
華「お皿ないしチーズケーキはお土産ね」
『だね』
華「和洋食べたし、次は中華といきたいけど」
『あるかな?』
華「ないかも。ごま団子とかあったかしら」
『お団子ならあるけどねぇ』
華「お団子にしますか」
饕「団子なら今の店にもあったぞ」
『せっかくだからあそこに行きますか』
華「そうね。せっかくだし」
饕「なんだ、何がある?」
『美味しい団子屋です』
饕「ほう、専門店か」
『じゃ、あれやりますか』
華「あれ?」
饕「何だ?」
『甘味美食倶楽部、糖欲同盟しゅっぱーつ!』
華「……おー」
饕「だるいなー」
………
瑚「そこのお姉さん方、お団子いかが」
清「いらっしゃいいらっしゃい、美味しいお団子だよ」
『鈴瑚屋と清蘭屋、どっちで買うかいつも迷うんだよなー』
華「わかるわー」
饕「ほう、たくさんあるな」
瑚「たくさんあるよ。しかも味に自信あり」
清「美味しさなら清蘭屋だよ」
『鈴瑚屋が三色とずんだね』
華「それで、清蘭屋がみたらしと黒胡麻」
饕「全部食えばいいだろ」
『一人何本まで買っていいですか?』
瑚「お好きなだけどうぞ」
清「うちもうちも。全部買ってもいいよ」
華「え、本当?」
饕「よし、じゃあ全部だ」
『ちょっとちょっと。お金あるんですか?』
華「私はあるけど」
饕「私は無いぜ」
『じゃあ饕餮さんの分は華扇ちゃんにお願いするとして』
華「貴方が呼んだんだから貴方がエスコートしなさいよ」
『じゃあ、「半額チーズケーキまでつけてくれてありがとうな」って言ってくれたら』
霊「ちょっとあんた達」
華「げ、霊夢」
饕「おう」
『あ、霊夢。奇遇だね。華扇ちゃんから聞いたんだけどさ、知ってた? パン屋でドーナツ売ってるって。さっそく食べたけど美味しかったよ。外はサクッと中はほろっとした食感で、小麦とバターの香りもしっかりしてさ。でもすごい並んだわ。行列苦手だから、うわってなったけど、食べたらやっぱり並ぶ価値あったなって。霊夢も今度行ってみたら? おすすめだよ。あ、あと一人ふたつまでだから気をつけて。まあ、足りなかったら他のパン買えばいいよね。初めて行ったけどパンも美味しそうだったなぁ。俺あんぱんが好きでさ、こしあんもつぶあんも好きなんだけど、あんぱんってお茶でも牛乳でもコーヒーでも合うよね。霊夢は何パンが好き?』
霊「怖いって!」
『え?』
霊「誤魔化そうとしてるでしょ」
『なんのことやら』
霊「そいつ饕餮でしょ」
『え、どれ、あれ? ロボットダンスする綿月豊姫でしょ?』
霊「何が見えてんのよ!」
『なになに』
霊「あんた里に妖怪連れてきたなら易者みたいにするわよ」
『俺がイージーシューターだから?』
霊「いや、易者はイージーシューターって意味じゃないけど」
『スイーツを食べに来ただけなんです』
霊「そりゃ、悪さしに来たわけじゃないだろうけど」
『さっき言ったドーナツを食べに来ただけ。華扇ちゃんもついてるし』
霊「あんたがいながら何やってんのよ」
華「う、耳が痛い」
『スイーツは人の心を温かくして平和になるんだよ』
華「そう、それ」
霊「はあ。でも」
饕「里なんか興味無い。帰るわ」
『駄目です。里で楽しい思い出を作って、地上進出しにくくする意図があったんです』
霊「見え見えの出まかせでしょ」
『本当。霊夢も団子食べてごらん。美味しくて平和な気持ちになるよ』
華「たしかにたしかに」
霊「平和な気持ちねぇ」
『団子もご馳走するし、今度ドーナツも持ってく。みんなで食べよう』
霊「ふぅん」
『団子とドーナツ仲良く食べて、これがホントの大団円ってね』
霊「あん?」
『とにかく団子奢るから』
霊「まあ、そういう話なら食べてみようかな」
華「現金ねぇ」
『どれにする?』
霊「そうねぇ、それじゃあ」
『それじゃあ?』
霊「店の団子全部」
『買えません』
饕「……強欲だなこいつ」




