この度、慎んで逆節分を催す運びと相成りました
永き夜を揺蕩う紅き鬼殿
謹啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
この度、慎んで逆節分を催す運びと相成りました。節分とは本来、鬼を祓い福を招く行事で御座いますが、逆節分では鬼の皆様をお招きし、世界各国の豆料理を心ゆくまでご堪能頂きます。
月明かりに照らされた宵の刻、珠玉の佳肴珍味の数々をご用意しております。貴殿の炯眼を愉しましめ、貴殿の舌を喜ばしめることが叶いましたら、之に勝る喜びは御座いません。
日時:二月三日 宵の刻より
場所:寝巻邸 大広間
お飲み物につきましては、貴殿のご嗜好に合わせ、特別な一本をご用意致しました。
貴殿のご来臨を、心よりお待ち申し上げております。
尚、此方の件に関しましては、どうぞ、ご内密に。
謹白
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『レミリアさん、ようこそいらっしゃいました』
レ「貴方の家いつから寝巻邸になったのよ」
『萃香さんと正邪ちゃんはもう寝巻邸来てますよ』
萃「来たか、吸血鬼」
正「よう、吸血鬼」
レ「私が言うのもあれだけど災いの権化みたいなメンツね」
萃「今年は勇儀も呼んでおいたよ」
勇「よぉ、この前は妹と闘わせてもらったよ」
レ「自慢の妹よ」
勇「連れてこなかったのかい?」
『出禁です』
レ「それにしても和風の鬼揃いね。ヴァンパイアの肩身が狭いわ」
『今日は和風も洋風も鬼は肩身狭いですよ』
レ「言えてるわね」
萃「でもここじゃあ気兼ねはいらない」
『パーティーだー!』
正「はしゃぎやがって。家の前に鬼の面まで飾ってさ」
『あそこからもう逆節分は始まってるんだよ』
正「鬼を飾っただけでか?」
『節分には鰯の頭を飾るでしょ?』
正「柊にぶっ刺してな」
『鰯は水揚げするとすぐ弱る「よわし」に由来するから、海で弱い鰯の反対、陸で強いのは』
正「鬼ってわけか」
萃「単純に鬼の集会の目印だと思ったよ」
レ「私もー」
正「だな。やるなら鬼の頭を柊に刺せよ」
『こわ。しかもそれ鬼倒さなきゃできないし』
勇「そんなの飾ったら強火の宣戦布告だね」
『そんな恐ろしいことしません。今日は逆節分、楽しみましょう』
萃「何すんだっけ?」
正「鬼が人間を追い出す」
『じゃなくて、豆食べて酒呑むの』
勇「普通の呑み会じゃない」
『まあ、鬼を迎える気持ちが大事という』
勇「しかしどうしてわざわざ節分に鬼集めてんだい? 人間だろあんた」
『あまのじゃくだからです』
正「人間だろ」
『種族はね。まあ、みんなが鬼追い出すなら貸し切ってやろうと』
萃「あまのじゃくじゃん」
勇「間違いないね」
『ともあれ、早速始めましょう』
正「杯の用意はいいか」
レ「私がまだよ」
『ワインを用意しました』
レ「褒めてつかわす~」
『はい、どうぞ』
勇「ハイカラなもん呑むなぁ」
萃「他は酒だね。お前はこっちの瓶のだ」
『あ、すいません、ありがとうございます』
勇「伊吹瓢じゃないのか」
萃「弱っちいからなぁ。強くなったら呑ませてやるよ」
『精進します』
萃「天邪鬼は強いの?」
正「ふふ。強いは弱い、弱いは強い、だ」
萃「は?」
『準備できたら乾杯しましょうか』
萃「ほいほい」
勇「いつでもいいよ」
レ「私もいいわよ」
正「私はまだだ」
『では、逆節分に乾杯!』
萃「わ~」
レ「うん、悪くないわ、このワイン」
『よかったー』
レ「豆料理も用意してるんだって?」
勇「変わった料理ばかりだね」
『海外の豆料理を用意してみました』
萃「美味いのか?」
『お口に合うか未知数です』
萃「気に入らなかったら追い出すぞ」
『堪忍してくだせぇ』
正「この緑のからいくか」
『赤だよ! 補色で言わないで!』
レ「律儀にツッコむわね」
『これはチリコンカンというアメリカなどで食べられる料理です』
勇「ひき肉と豆か?」
萃「ふーん、食べ応えありそうだね」
『はい、豆とひき肉をトマトと唐辛子で煮込んでます』
勇「ん、結構辛いなあ」
萃「なんかちょっとあれに似てない?」
勇「あれって?」
萃「血の池地獄」
勇「あははははははは」
『こんな感じなんだ……』
萃「豆が人の顔みたいだなぁ」
勇「あははははははは」
『笑えないですよ!』
正「あとこれも気になるな」
勇「これこれ。黒いな」
正「逆シチューか?」
『逆シチューって何!』
正「黒いカレー」
『フェイジョアーダっていうブラジルなどで食べられる料理です』
萃「黒豆?」
『はい、本当は黒インゲンらしいんですが、買えなかったので』
勇「米と食べるんだな」
『そうみたいです。豆と豚肉を煮込んだ料理です』
レ「付け合わせが多くて賑やかね」
萃「これは小松菜か」
正「この果物は青か」
『オレンジ! 補色で言わないで!』
勇「へえ、こっちは肉が大きいな」
正「思ったより甘いな」
『黒豆の味だね。味付けは主に塩くらいなんだって』
レ「けっこう脂があって重めね」
萃「なんかちょっとあれに似てない?」
勇「草生水だろ?」
『石油ですか?』
萃「一つ掘っては金のためー 二つ掘っては国のためー」
『それ饕餮さん!』
勇「あははははははは」
正「あ、あれ言うの忘れてたな」
『あれ?』
正「鬼は内、福は自分で掴み取れ」
勇「あははははははは」
正「笑うところじゃない!」
勇「悪い悪い。鬼は内ね、はいはい」
正「鬼はーうちー、といいながら食べる」
レ「鬼はーうちー」
萃「鬼はーうちー」
『鬼はーうちー』
勇「鬼はーふあははははははは」
正「なにわろとんねん」
勇「あはは、いや、食べながらぶつぶつ言ってるのとか、人間が鬼は内とか言ってるのが」
萃「酔ってんの?」
勇「酔ってないね。一杯くれ」
萃「あいよ」
『あ、レミリアさんも』
レ「ありがとう」
『正邪ちゃんも』
正「くるしゅうない」
萃「お前も」
『ありがとうございます!』
勇「たまにはこうだらだら呑むのもいいねぇ」
萃「だろ。霊夢や魔理沙と呑むのとも違うくだらなさがあるよなぁ」
レ「里で飲んでるんじゃないの」
萃「ああ、あそこもいいな。ゆっくり呑めるし」
『正邪ちゃんは宴会とか行くの?』
正「行くか、気持ち悪い」
『気持ち悪くはないでしょうよ』
萃「呑み過ぎて気持ち悪いのか?」
『ああ、リバースイデオロギー?』
正「おい、汚い使い方するな」
レ「あなたたちの宴会は品がないからいやよ」
勇「まだまだ上品だと思うがねえ」
萃「人間もまだ追い出されてないしね」
『追い出さないでー』
レ「ねえ、煮込み以外の料理はないの?」
『あ、そうですね。これまではしっかりめでしたが』
正「これか?」
『うん、フムスっていう中東あたりの料理』
レ「フムスにしては粗くない?」
『すみません、フードプロセッサーがなくて』
レ「もうちょっと頑張りなさいよ」
萃「栗きんとんみたいなもん?」
『すこし似てますね。ごまやオリーブオイルの入ったペーストです』
萃「へー、食べてみるか」
『パンやブロッコリーにつけて食べてくださいね』
萃「え、嘘?」
勇「どうかした?」
萃「知らないおじさん入れた?」
勇「あはははははは」
『クミンの匂いですね、たぶん』
勇「あー、あはははははは、わかるかもしれん」
『すみません、控えめにしたんだけどな』
正「味は潰した豆だな」
勇「うん、正月みたいな味だ」
レ「なにこれ、だいぶ違う気がする。甘い?」
『あ、すみません、ひよこ豆が手に入らなくて大福豆使いました』
レ「豆も質感も違ったらもう」
『まだありますから』
レ「次のは大丈夫なの?」
『次のはもっと違います』
レ「ズコーッ」
萃「ま、うまけりゃいいさ」
『最後の豆料理はこちら』
レ「なかなかの脂ね」
勇「これも地獄っぽいかもしれん」
萃「あー、脂出るもんな」
『こわいこわい』
萃「怖がれ怖がれ」
レ「料理の説明!」
『こちらフランスのカスレ風の煮込みです』
レ「へー」
『カスレは色んなお肉と豆を土鍋でじっくり煮込む寒い地方の郷土料理です』
レ「なるほど、温まりそうね」
正「豚肉か?」
『ほんとは鴨肉などを使うらしいんですが、今回は豚肉で』
レ「あ、美味しい。豆と味付けがマッチしてる」
『ワインにも合いますよ』
勇「おお、いいね。味がしっかりしてるから米にも合うよ」
萃「肉と豆の煮込みが多いな」
『そうですね、サラダとかもあった方がよかったかもな……』
勇「まあ、でも枝豆もあったろ?」
『はい、そこに。あれ?』
正「もう無いな」
萃「枝豆が一番人気だったな」
『とほほ。まあ、美味しいですもんね』
レ「料理はひととおり紹介したかしら」
『そうですね。以上です』
レ「じゃあ、ここらで私から」
『え、何ですか?』
レ「そりゃ決まってるでしょ」
萃「喧嘩か?」
勇「受けて立つよ」
レ「違うわよ。鬼門巻き」
『前回逆恵方巻って言ってませんでした?』
レ「茨歌仙で同じものが出てたから寄せたわよ」
『出てましたね』
萃「鬼門向いてその太巻きを食うんだっけ」
レ「咲夜が作ってくれたわ。人数分に切って頂戴」
『おお、ありがとうございます』
正「金持ち様のメシなんか食えるかよ」
『じゃあ四等分にするよ?』
正「五等分に切っとけ」
萃「何入ってんの?」
レ「ハムとチーズだって」
萃「ふうん、今日は洋風だな」
勇「私らもワインでもよかったかもね」
『ワインもありますけどどうします?』
勇「よし、たまには呑んでみるか」
『はい。萃香さんはどうします?』
萃「私はいいや。やっぱこれだ」
『わかりました』
正「おい、私にも聞けよ」
『聞いても、いるかどうかわからないし』
レ「たしかに」
『はい、勇儀さんと正邪ちゃん』
勇「悪いね」
レ「じゃ、鬼門巻き食べましょうか」
『はい、鬼門はあっちですね』
レ「いっただっきまーす」
萃「いただきまーす」
勇「いただくよ」
『いただきまーす』
正「ごちそうさまでした」
レ「んー」
萃「うまいな」
勇「うまい」
『うん、おいしい』
勇「あ、恵方巻きは黙って食べるんだっけ」
萃「でも逆だからって喋りながら食べるのはなぁ」
正「ほふぁひっへはひひはほ」
レ「行儀悪いって!」
『これでひととおりやることはやりましたね』
萃「じゃ、あとは呑むか」
勇「そうだね、気に入った豆料理つまみながら呑もう」
『では、乾杯!』
萃「かんぱ〜い」
『はしゃぐぞー』
勇「おっ、いいね」
レ「私カスレおかわり」
正「スカーレットと響き似てるからか?」
レ「え、関係ないけど」
正「あ、ターコイズだった」
『補色はもういいよ!』
………
魔「やっぱりか」
『………………』
魔「ったく、締め出されてるじゃないか」
『………………』
魔「おい、起きろ。風邪引くぜ」
『………………』
魔「気づかなかったのか、逆節分したら人間が追い出されるって」




