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西国の神  作者: あすかK
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12/24

11、業火


 収穫祭の夜を焼き付くした炎は、たちまち民の心へと燃え移り、業火となって西国エウリアを炎上させた。

 東ケトロ大聖堂から立ち上がる赤の炎に驚いたのは首都ケトロに住まう人々で、彼らは一体何事かと大聖堂へと駆けつけた。すると大聖堂の傍では収穫祭に参加していた人々の怒り狂う姿があり、首都に住まう人々は彼らから修道院の所業を聞く。そうして一夜のうちに首都ケトロの中へと広まった修道院への怒りは、翌朝には首都から外の町へと徐々に浸透した。

 噂とは炎と同じように燃え移れば燃え移るほどに巨大化していくもので、国の端にそれが伝わる頃には、民の間では一つの観念が共有されていた。——我々を愚弄した修道院を、焼き払え!

 エウリアの民は、修道院へとあからさまな憤怒を向けた。

 後に「参謀の神殺し」と呼ばれ、後世にまで伝えられて伝説と化す収穫祭の夜の話は、当然一夜明けて首都ケトロに君臨する国城の中へも伝わった。収穫祭五日目の夜に参列するはずであった国王の予定は急遽変更となり、政殿の中も宮殿の中もざわついた。——だが、最も事件の影響を受けたのは、修道院を治める立場にある神殿であった。



 西国エウリアの国城が三殿、宮殿、政殿、神殿のうちの一つ、信仰を司る神殿の長は巫女である。そしてその巫女に仕え、巫女と誓約を交わして獣の性を捨て、巫女の護衛として仕える獣人は仗身と呼ばれる。当代の巫女に仕える仗身の名をユタヤといった。本来は「ゆたや」と発音されるその獣人の生まれは西国エウリアではない。東国ヤンムという後進国の生まれであり、獣人であるが故に人間に狩られんとしているところを、現在の主である巫女カグワに拾われた。その巫女カグワも何の偶然か、東国ヤンムの生まれである。ゆえにその名を本来は「かぐわ」と発音する。東国生まれの少女は幼い頃に後進国である生国から豊かな西国エウリアへと移り住み、移り住んだ西国エウリアで巫女見習いとして選別された。そのため、東国の生まれではあるが、東国の記憶はほとんどない。彼女の持つ記憶は西国エウリアの国城の中で巫女見習いとして育てられた日々ばかりだ。そしてその頃から常に横に寄り添っていた仗身ユタヤとの思い出の日々ばかりだ。

 その仗身ユタヤは、神殿の中で、焦っていた。

 とは言え、神殿に務める他の多くの人間のように、「このまま修道院が廃棄され、神殿までもが国城から捨てられてしまうのではないか」と神殿の行く末を案じていたわけではない。この国の信仰の行く末を案じていたわけでも、神の存在を案じていたわけでも、自分の身を案じていたわけでもなかった。——彼を焦らせていた理由は他でもない、主である巫女カグワの不在だ。

 収穫祭における大聖堂炎上の翌朝、いつも通りに目を覚ましたユタヤは、その時点になってようやく神殿の様子がおかしいことに気が付いた。いつになく騒がしい神殿の中、誰も彼もが「参謀が」「大聖堂が」と呟きながら過ぎ去っていく。何かが起きたことは明らかだった。ユタヤは一体何が起きたのかという現状の把握よりも先に、主カグワの眠る部屋へと急いだ。何が起きたのかはこの際彼にとってはあまり大きな問題ではない。何かが起きた際にカグワが他者の指示も仰がずに勝手に行動してしまうことが大きな問題だった。

 そして訪れた主の部屋は、ユタヤの予想した通り、すでにもぬけの空だった。誰もいない部屋、開け放された窓が虚しい。

 しまったやはり遅かったか、と頭を抱える間さえ惜しかった。神殿の中がいつになく騒がしいこの現状を見れば、昨晩のうちに何かが起きたのは明らかだった。そして、「参謀が」という呟きが聞こえたことからして、修道院廃止を訴える参謀が何かをしでかしたに違いない。

 ユタヤはそう理解して、空っぽになった主の部屋から飛び出すと、神殿の外へと向かって走った。参謀が何かをしたのならば——きっと巫女は直接参謀に話を聞きに向かったはずだ。

 すれ違う神殿の使用人たちは、息巻いて全速力で駆け抜けて行くユタヤに驚いたように慌てて道を空ける。ユタヤは彼らにお礼も謝罪さえせずに神殿の外へ駆け出して、まっすぐ参謀のいるであろう政殿を目指した。



 訪れた政殿の中も神殿に負けず劣らず騒がしく、誰も彼もが「これでもう修道院は終わりだ」と口にする。これだけではユタヤにはまだ何が起きたのか、判断することが難しい。だが、より一層気持ちは切迫した。何かが起きている。それは主を巻き込むかもしれない、何かだ。——早く、巫女を探さなくては!


 仗身と呼ばれる巫女の護衛役であるユタヤの巫女に対する献身さには、誰もが目をみはるほどであった。

 代々の巫女には必ず仗身として獣人が護衛につくしきたりとなっている。カグワの前代の巫女にも、前々代の巫女にもそうだ。だが、ユタヤほど主に献身的ではなかったという。彼らは仗身とは言え獣人である自分と巫女との間に一線を引いて、護衛としてできる最低限のことのみを己の役割としていた。——しかし、ユタヤは、誰よりも巫女の傍にいた。本来なら、獣人という立場上、有り得ないほどの至近距離である。だが、そうでもしないと、いざという時に巫女を護れない。いつ彼女の身が危険に晒されるともわからないのだ。だから、いつでも傍にいたい。

 ユタヤは、己がカグワという少女の傍に寄り添う動機をそう理由づけていた。自分は仗身だ。彼女は巫女だ。自分には巫女の身を護る義務がある。だから、彼女の傍に常に寄り添うのだ、と。

 本当は、それ以上に彼女の傍にいたいと思うこの気持ちに理由があることにはとうの昔に気付いていたが、それは決して口にしてはならない想いであった。

 だって、自分は獣人なのだ。そして彼女は巫女だ。自分たちを結ぶのは巫女と仗身としての契約だけであって、それ以上の何もない。この想いは、獣人が巫女に抱くには、あまりにも、恐れ多いから——。



 政殿の中を駆け回ったユタヤが、ようやく主である巫女カグワを見つけ出したのは、それから半刻ほど後のことであった。ただでさえ広い政殿の中が、今日は朝から騒然としている。その中ですれ違う人々に怪しまれることのないように計らいながらも早歩きで主を探すことは容易ではなかった。故に、政殿の一角にてその少女がいつものごとく下女のような服装で何やら俯いている姿を見つけた時には、安堵した反面、若干の苛立も覚えた。

「——かぐわの君!」

 少女は政殿の東部、より軍部に近い棟の一階に立っていた。下女のような服装は彼女が神殿を出る際に必ず身に付けるものである。柱の影にまるで隠れるように立っていた彼女を見つけ出したユタヤはその後ろに立って、渋い顔をした。

「ようやく、見つけましたよ……! 一体いつから此処にいらっしゃったのです? 早く戻らなくては、また神殿の中が大騒ぎに……」

「ゆたや」

 そこに己の仗身の姿を見つけた巫女カグワは、後ろに立った彼をぐいと引き寄せて柱の後ろに隠れた。そして、その腕を掴むようにしてこちらを見上げ、ユタヤの唇に指をあてる。

「しっ、静かに……!」

 その一瞬の動作に、驚きか焦りか、ユタヤの心臓が跳ね上がる。

 彼女の動きが予知できないものであったこともあり、そして何より唇に触れる彼女の指の腹があまりにも柔らかくて、一瞬で苛立も苦言さえ忘れてしまった。

 一方、指一本でユタヤの口を封じた少女の方は少しの動揺もすることなく、静かな面差しで柱の向こう側を見つめている。どうやら柱の向こうで何かが行われているらしい。少女は集中していた。

 逸る鼓動を落ち着けたユタヤがこそりと柱の裏側からその方向を見やると、遥か彼方遠くの方に、数人の役人が群がっているのが見えた。服装からして、政殿の中でも高位の人間だ。だが、此処からでは距離があって、その顔もきちんとは見えず、話している言葉も聞こえるはずがない。しかし、「静かに」と言った巫女は落ち着いた面持ちで耳を済ましているように見えた。——巫女の技の一つだ。少し距離があっても、相手の姿の見える場所にいれば、その人間の話している言葉を聞くことができる。「遠聴の技」と言うのだ。

 しばしその場に沈黙が続く。やがてカグワがようやく緊張の糸を解き、ふうと溜め息混じりにユタヤの唇を解放すると、同時に遠くの役人たちも解散したのかばらばらになって歩き始めた。恐らく、彼らの話が終わったのだろう。そして恐らくそれを「遠聴の技」を利用して聞いていたらしきカグワも、その場から逃げるように歩き出す。遠聴の技はただの盗み聞きだ。聞いていたことがばれてしまっては困るのだろう。

「……かぐわ様」

 慌てて主の後を追ったユタヤは、勝手な振る舞いばかりをする主への苦言も苛立も忘れて、今はただ彼女の言葉を待つのみであった。

 政殿の外に出て、少女はその場から逃げるように歩く。ユタヤは静かにその後を追いながら、唇に手をあてた。

 彼女を護るのだと決めたからには、やむなく過剰な接触をすることもあるし、何よりカグワ自身が接触を厭わないため時折見ている者が呆れるほど触れ合うこともあるのだが、にも関わらず敏感に反応してしまう己が情けない。しかもカグワにとっては何の気もない動作である。こんなことでは彼女を護るという己の役目にさえ支障が出るぞと自分に言い聞かせると同時、前を歩くカグワがようやく口を開いた。

「……どうやら、ワイズが派手に動いたらしいの」

「……は」

 別段、彼女の言葉を聞いていなかったわけではない。だが、彼女の指の感触を思い出して腑抜けていた事実は否めない。

 間抜けな答えを返してしまったユタヤは慌てて姿勢を正して再び主の言葉を待つが、カグワはそんな彼の様子は全く気にしていないらしく、その場に誰もいないことを確認すると、ようやく足を止めた。

「ワイズが、東ケトロ大聖堂を崩壊させた、って」

「……崩壊、ですか?」

 カグワの後ろで足を止め、彼女の言葉を繰り返す。少女は誰もいない政殿の裏側で、だがきちんと声を潜めて政殿の外壁に背中を預けると、ユタヤの傍に寄り添った。

「朝、起きたらね……神殿で神官たちが騒いでいたの。昨晩レヴィン参謀が修道院を攻撃したらしい、って」

「……ええ」

 その騒ぎはユタヤも神殿で何となく耳にしている。ユタヤの場合はきちんと彼らから話を聞くこともなく事態の異常だけを感じ取ってカグワを探す為に神殿を飛び出したのであるが、カグワはそうではあるまい。

「だけど、神官たちに話を聞いても参謀は神殿を潰す気だとか神を殺す気だとか、全然説明が要領を得ないから、それならワイズに直接聞こうと思って政殿に来てみたのよね。でも、参謀は今朝はまだ出殿しておられないって言われて……」

「はあ、珍しいですね。参謀がこの時間までまだ政殿に来ておられないとは」

「今政殿に来たら面倒だから自宅で出来る仕事を片付けておられるのだろう、って言われたわ。それでワイズの他に事態を正確に把握してるだろう人物を探してて……修道院と密接に繋がってるっていう内大臣一派の話を聞こうと思ったの」

「なるほど。ですが、参謀と異なり、内大臣の一派はそうそう簡単に派閥以外の人間に詳細を教えますまい」

「そうね。だから、さっきみたいにああやって『遠聴の技』を使うしかなかったのよ。本当なら『遠聴の技』って特定の人間の言葉を遠くから盗み聞きできるっていう技なんだけど、私はあんまり得意じゃないから……話してる人間が自分の視界に入る場所にいなきゃ結局聞き取れないのよね。得意な人なら、会ったことがある人間なら誰の言葉でもその人がどこにいても聞き取れるっていうけど」

「人には得手不得手がございましょう。かぐわの君の得意とする技はどれも逸品です」

 思わず反射的にカグワの言葉を補うが、当然カグワとてそんな慰めが欲しいと思って言ったわけではない。カグワはくすと苦笑して首を竦めると、話を続けた。

「それで、今聞いた話によると、どうやらワイズは昨日東ケトロ大聖堂で行われてたっていう収穫祭に参加したらしいの。東ケトロ大聖堂って修道院の金庫にされてたらしくて、ワイズはその事実を暴くためにわざわざそこまで行ったらしいわ。それで、たくさんの人々が見ている中で大聖堂に隠された金の正体を暴いて、人々がそれを見て憤慨して、大聖堂は崩壊したとかなんとか……」

「崩壊? いくら憤慨したとは言え、神の祭られている大聖堂を民が崩壊させるとは……」

「ええ、だから多分、手段はわからないけど、大聖堂を崩壊させたのは民ではないわ。きっと、ワイズがやったのよ……。でも人々は、大聖堂を崩壊させたワイズには反感を抱かなかった。むしろ修道院への不満を募らせていて、その不満が今首都ケトロから国中にじわじわと広がっている最中なんだって」

「……うまく人々の心理を誘導したのでしょうね」

「そうね。……ワイズらしい」

 そう呟いたカグワは腕組みをして俯く。ユタヤは黙ってその横顔を見つめた。

 幼い頃から仗身として仕え、何年も何年も傍にいて、それでも彼女の思惑は掴めない。単純なことならば、例えばつまらないと思っているのだろうなとか、楽しんでいるのだろうなとか、その程度の感情の起伏ならば予想も付くものの、彼女の思考それ自体はいつもユタヤの予想を遥かに凌駕していく。

 今だって、そうだ。普通、「参謀の計画によって、民が修道院への疑念を抱き始めている」というその事実だけを耳にすれば、参謀は修道院をこの国から廃し、それを統べる神殿をも廃棄してしまうのではないか、あるいは神の信仰そのものを取り払うつもりではないか、と考えるはずだ。神殿の神官たちは実際にそんな未来に怯えて神殿の中で騒いでいる。参謀はあまりにも粗暴だと事情も知らずにただ彼を非難する声も多かった。だが、良くも悪くもカグワはワイズ・レヴィンという一個の人間を、よく知っていた。故に、彼女の思うことは、読めない。

 ユタヤは読めない少女の横顔を、見つめた。——物事を思案するように伏せられた黒い瞳、絹のように流れる美しい髪、肌は白く輝いて降り注ぐ朝日を反射して、愛らしい面差しで虚空を睨む。

 十六歳という若さで巫女の役目を全うするカグワ。政殿では三十五歳であるワイズでさえ若年の参謀と言われる中で、まだたった十六の娘が大人たちに対峙する。少女はそれに対して怯えなどおくびにも出さなかったし、尻込みさえせず、引けを取ることなどなかった。凛として、存在する。その姿はまさに神の使い、否、神そのもののよう——。

「——城の中じゃ、何もわからないわ」

 いつのまに、彼女の言葉を待っているだけのつもりがその姿に見とれていたらしい。

 突如発されたカグワの言葉に、ユタヤははっと我に返った。何を惚けているのだ、と自分を戒める。この緊急事態下で、ぼんやりしている暇などない。

 巫女は相も変わらず凛として、ぼんやりとするわけもない。少女は自分の頬を手のひらで撫でるように思案して、呟いた。

「城の外の様子が知りたいわ。町がどうなっているのか、民が何を思っているのか——どうにかして町に下りる方法はないかしら」

 我に返ったユタヤはその台詞を聞いて、目を丸くする。少女の思惑はいつも読めない。ユタヤの予想を凌駕する。巫女でありながら神殿の外へ出てしまうだけでも型破りだというのに、よもや国城の敷地から外へ出たいだなんて——破天荒にもほどがある。

「それは……さすがに。今此処に貴女がいること自体、巫女としては禁忌です。この上城下にくだるなど……」

 ユタヤが良い顔をしないことなど当然予想済みだったのであろう。カグワは彼の苦言になど耳を貸さず、ゆっくり政殿の外壁から離れて歩き出した。

「でも国城から出るとして、使える出口は限られているわね……正門にはたくさんの門番が立っているから当然そこから出られるわけもないし、裏門にも正門ほどではないにしろ、兵士が立っているわ……他に使える出口はあるかしら……」

「かぐわ様っ! 巫女君が城下に下るなど前代未聞です! 何かあったらどうなさるのですか!」

「あ、そうだ! 前、エリックが連絡用通路の前に厩があって、そこでよく仕事をさぼってるんだって言ってたわ。その連絡用通路はどうかしら。普段は開かないらしいけど、密偵とか小間使いの出入り口として使うんだって! 今私下女の格好をしてるし、小間使いとして外に出してもらえるんじゃないかしら!」

「かぐわの君!」

「もーうるさいなぁ。まだ外に出るって決まったわけじゃないんだし」

 カグワはようやくユタヤの方を振り向いて、口を尖らせる。そんな顔をされたところで、主の我侭を許可するわけにはいかない。ユタヤはぶすっと仏頂面で答えた。

「ですがもしも外に出られる方法が見つかれば、貴女は迷わず出るでしょう」

「そうかもね。でも大丈夫よ、遠出するわけじゃないんだし。ちょこっと見に行くだけだから」

「それが駄目だと言っているんです! 城下では何が起こるかわかりません」

「何が起こるかわからないから見に行くんじゃない。なにもわからないのに城なんかに閉じこもってたって、何にも解決策にならないわ」

「もしも危険があったら……」

「もしも? わからないものを恐れる必要なんてないでしょう」

 カグワがあまりにも当然のようにあっけらかんと言うので、ユタヤは一瞬言葉を失った。

 わからないものを恐れる必要なんてない? 未知だからこそ恐れるのが普通ではないのか? 未知に恐怖するのは生物としての本能だ。その真逆を言う彼女は時折常人離れしている。

 閉口したユタヤを見上げて、カグワはにこりと笑った。その屈託のない微笑みは、ユタヤの心を奪うものである。ただでさえ愛らしい顔立ちをしているが、微笑みを浮かべると同時に逆らえないほどの甘さを醸し出す。

「それに、もし危険があったとしても、ゆたやがいるから平気よ。ね?」

 小首を傾げて同意を求めるように促されては、もはや「いいえ」と首を振ることもできない。ユタヤはう、と言葉に詰まった。

 確かに何かがあるというのなら、仗身として彼女の護衛をする自分は必ず彼女を護るだろう。獣人であるユタヤは凡人とはかけ離れた潜在能力でもって大概の危険からは彼女を護ることができる。だが、だからと言ってそれは彼女が外に出ていい理由にはならないはずであり、それを許可することはできない——。

 ぐるぐると一人頭の中で葛藤するユタヤは放置して、カグワはくるりと踵を返した。目指す方向は城の東、連絡用通路とやらがあると言われた厩の方角である。

「とにかく、別にまだ外に出るわけじゃないんだし……連絡用通路の様子だけ見に行ってみるわ」

 ユタヤの心の内など知らないカグワはそう言うなり東の方へと駆け出した。ユタヤも慌ててその後を追う。葛藤などしている場合ではない。放っておけばカグワは一人でも外へ行きかねない。ユタヤは何としてでも彼女に付いていかなくてはならなかった。


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