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大した事ないですけど、血とか死体とか注意です。

 父親の死体が目の前にあった。仕事に行く直前だったのかスーツ姿。背中と(うなじ)からは包丁の柄が生えている。服には血がこびりついている。血溜まり。そして包丁を持った母親が、俺に向かって駆けて来ている。


 殺人症。


 重いだけのスクールバックを投げ捨て、人気の多い道を選んで近所の本屋まで走った。腕時計を見る。現在、十八時三十四分。


本屋に到着。母親は大分前から居なくなっていた。誰かを何処かで殺している最中かもしれない。息を整える為に休憩。本を取る。本のタイトルは『コレで分かる! MRS!』というまあ胡散臭いものである。何が胡散臭いって、あの病気、未だに『症状を和らげる』薬はあるが、『病気を治す』薬はないんだから分かる訳ねェだろという事実である。

 

『コレで分かる! MRS!』の第一章から抜粋。

 MRS。和名は『殺人症候群』。Murder Syndrome を略してMRSである。

 複数のウイルス感染が原因である。

 血液検査で発見出来る。

 MRSの人は人間全てを殺したくなる訳ではなく、自分の『条件』に合う人を殺したがる。

 条件は『十歳以上の女』や『三十歳から五十歳までの人』等で、個人差がある。

 条件の範囲は自分にしか分からない。検査で判別出来ない。

 条件の範囲の広さで、青、黄、赤、黒に分けられる。青が一番範囲が狭く、黒が一番広い。赤と黒のMRSの割合は全MRSの三割程度である。

 赤、黒の人は十九時から七時まで、眠り続ける。

 個人差があるが、身体能力が上がる。


 既知の情報しかなかった。本を戻す。

 これからどうするか。どうすべきかは明らかで、警察に連絡すべきである。でもそれは折角のチャンスを捨てるようなモノだ。大体、保護されたらされたで俺はどうなるのだろう。まあ幸い、財布はスクールバックではなく今も背中にあるリュックサックに入れてあるので一夜明かすくらいは金銭的には問題ない。問題は制服だ。外見年齢は二十歳超えてそうな俺だが、制服は明らかに地元の高校のモノだ。コスプレと言い張るしかない。

 店の時計を見る。十九時三分。

 父を殺して、俺にも殺意を抱いたんなら、結構いい賭けではないか。

 腹括って、家に戻る事にした。


 母は庭に座り込んで眠っていた。普通は庭で眠ったりしないから、腹括った甲斐はあった。おそらく俺が逃げた時に諦めてさっさと引き返したのだろう。被害が出るように誘導しておいて言う事ではないが、被害がないなら良い事だ。家に入り、風呂を沸かす。服と金の用意をする。父の財布と、母の財布と、俺の全財産。合わせて十三万ちょい。それを三つの財布に分けておく。『お風呂が沸きました』というアナウンスを聞いて、風呂に入る。六時半くらいまで家で休もうかと思ったが、玄関付近に父親の死体ある家で眠るのは御免だ。庭に殺人症の人間まで居るし。

 近所のネットカフェにでも行こうか、とリュックに手を伸ばしたがその前に思いっきり前に跳ぶ。背後に人間が居たからだ。そういや鍵かけてなかったな。

「チャイムは聞こえなかったんですけど。丁度風呂と被ってたんですかね」

「いや、押してないだけだよ」

 若い男の声。振り向いて男を見る。身長は百七十くらい。俺と同じくらいの体格。右手にナイフを持っている事を除けばまあ普通である。

「じゃあ警察呼んでいいですか。不法侵入だって」

「出来れば止めて欲しいな。君だってそうだろ?」

 まあね。

「てか君凄いね、見ないでさらっと回避するんだもんなぁ。視力低いらしいから、もしかしてそのお陰で気配が分かる、みたいな?」

「なんで人の視力が低い事知ってんですか。気配は知らないですけど、足音が聴こえたんで」

「成程。耳がいい訳だ。……コンタクト?」

「基本的には眼鏡ですけど、今は裸眼です」

「……危なくない? 0.1ないんだろ?」

 そこまで知られてんのか。

「別に、そこまでないですよ。車運転する訳じゃないんですし。そして何の用ですか」

 真っ先に訊くべきだった質問をする。男は特になんでもない事のように話す。

「俺は殺し屋なんだけど。とある人から君等一家を殺してくれって頼まれてね。でも父親は既にやられてるし、子供は強そうだし、母親は行方不明だし困ってんのさ」

「母は庭で寝てますよ」

「……マジで? 何で庭?」

「今日から殺人症になったっぽいです」

 マジかよ、と男は頭を抱えた。気付けよ。

「……さっきから和やかに話してますけど、俺の事殺さないんですか?」

「殺さないよ。一発目避けられたら諦めるって俺ルールあるから」

「はあ、じゃあ母を殺します?」

「後でね。一応クライアントから幾らか貰えるなら貰いたいし」

 へぇ、と呟く。

「止めるかい? それなら俺ルールを超えて君に手ェ出すけど」

「それは困るから、止めませんけど。出来れば俺が出て行ってからにしてくれません?」

「勿論。ところで君、今日からどうするの?」

「ネカフェでも行こうかなと」

「お金は?」

「貯金はありますよ」

「君さ、バイトしない? 俺の所で」

「殺し屋の家で?」

「実際に誰か殺してってのはないよ。殆ど雑用。給料はそこそこ。どう?」

「……考えて置きます」

「どうも。じゃあコレ。名刺じゃないけど、俺の住所とケー番とメアド。落とさないでね」

 名刺みたいなものを渡される。コレを警察に持ってったら愉快だが止めておこう。

 軽く手を振って、近所のネットカフェに向かった。


 朝の五時半に目が覚めた。やるべき事を終わらせて、暫くはネットカフェに引き籠ろう。今日は大雨だ。会計を済ませて、持ってきていたレインコートを着て傘を差す。

 近くの川まで散歩しよう。


 川の水は澄んでいない。尤も、それはいつもの事という訳ではなく大雨だからである。リュックの中から畳んでおいたショルダーバッグを取り出し、中に財布を入れる。金額は三つの財布の中で一番少なく、二千三百円が入っている。他にもカラオケの会員カードとか色々。それから生徒手帳と携帯電話をバッグに入れる。次にリュックから傘と靴を取り出し、川に放り込む。コレは割とどうでもいい。いい感じになりますようにと祈りながら、ショルダーバッグを川に放った。

 不法投棄終了。後は暫く、ネットカフェで引き籠ろう。


 漫画呼んでパソコンして寝て、一日経ったので会計を済ます。今日は昨日とは対照的に、晴れている。なので殺し屋さんの家に行こう。駅へ向かった。

 

 電車に揺られ、バスと徒歩を駆使して彼の家に辿り着いた。安っぽいアパートの二〇一号室。呼び鈴を鳴らすと開いているから入って、と叫ばれた。出不精なのかもしれない。遠慮なく入ると、テレビ観ていた。

「丁度良かった。いくつか訊きたい事があったからね……眼鏡あるとやっぱ印象違うね」

「そうです?」

「うん。じゃあ、質問していい?」

「その前に。お名前は?」

「吉沢裕也。適当に呼んでいいよ」

「じゃあ吉沢さん。俺の事、どれくらい知ってます?」

 視力低い事とか知られてたし。結構気になる。

「坂井真。十七歳。高校二年生。理系。家族構成は父、母、自分。誕生日は五月六日。元陸上部の短距離走者。多分こんなモンかな。他に何かある?」

「いえ、特には」

「じゃあこっちからの質問、の前に報告が一つ。君が家から出てって五分くらいしてさ、君の母親殺そうとしたんだけど庭に居なかったよ。世間的にも行方不明扱いだし」

「へェ。誰かが攫ったんですかね」

「さぁ。じゃあ質問ね。君今までさぁ、何処で寝泊まりしてた?」

「近所のネットカフェで」

「ああいうとこってさ、二十四時間営業でも高校生は八時か十時くらいまでしか駄目なんじゃない?」

「高校生に見えます?」

 吉沢さんは苦笑し、ノーと暗に答えた。

「でもさ、ああいうとこって会員登録しなきゃ駄目なんじゃない? それなら外見じゃなくて会員カード的なのでバレるんじゃない?」

「まあお客様にそういうのは言いづらいんじゃないですかね。現に言われませんでしたし」

「まあ俺は学生時代に夜遅くまで遊んだりしない人間だったからそこらへんは分からないけど。母親は行方不明扱いって言ったけど、君も行方不明扱いなんだよね。言われなかった?」

「割と適当なんじゃないですかね。そう珍しい名前でもないですし」

「どっかの川で君の荷物が見つかったらしいけど」

「邪魔だったんで不法投棄しまして」

 両手を挙げて、降参、と彼は言った。まあ財布が邪魔な訳ないしな。

 家出なら見つかる事前提だが、川に流されたと思われたら、見つからない事が前提の行方不明だ。

「金勿体無いんで今日泊めてくれません? 住み込みのバイトですよ」

「女の子にンな事させる勇気ないな、俺」

 しょうがない。今日もネットカフェで我慢するか。

後半台詞多いとか、落ちが弱いとか反省する事は結構あります、はい。

一話なんで説明多いのはしょうがない、と割り切ってみる。

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